リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第五十八話 金色の夢

 

 それからしばらく、俺は軟禁部屋で大人しく過ごした。

 

 少なくとも扱いが悪い訳ではないし、一応相手は公的権力だ。無理に脱走してまた捕まって、今度こそタコ部屋に放り込まれたらたまったものではない、という考えもあった。漫画とか雑誌とか、頼めば持ってきてもらえるし。ちなみに初日に冗談で頼んだら全部出てきたお菓子、全部アイリーンさんの手作りだったらしい。びっくらぽんである。

 

 だが多分一番の理由は、定期的に訪れては会話していくアイリーンさんとの会話が楽しかったからかもしれない。

 

「それでまあ、ガンドレイクの奴はどうしたと思う? なんとね……」

 

「まあ。そんな事が……」

 

 彼女はとんでもない聞き上手で、気が付けば俺は冒険の話を武勇伝のように語り明かしていた。まあ内容の大半はガンドレイクがやらかす無理無茶滅茶なんだけど、彼女は相槌を打ちながら本当に楽しそうに俺の話に聞き入ってくれたから、つい。

 

 そんな訳で、彼女に話をせがまれて俺は今回も過去の話を語って聞かせていた。

 

 気が付けば、アイリーンさんがベッドのすぐ横に座っているのも気にならなくなっている。まあ流石に、10回以上話をしていればね。

 

 しかし大分話のネタも底をついてきた。これ以上となると、例のステルス陸ワニ以降になるから、最近の話だなあ。

 

 思い返せばあれから数か月もたってないのか。その間に、獅子川ちゃん、巴さん、御堂さんと知り合い、今度はアイリーンさんである。どこぞと知れないホテルの一室に軟禁されている事も合わせて、人生変わる時は激流だなとしみじみ実感。

 

「まあ、そんな訳で。ガンドレイクの御蔭でまたしても窮地を脱したという訳さ」

 

「ふふふ、本当にザバーニャス様とは仲がよろしいのですね」

 

「ええと、まあ。仲がいいというか、腐れ縁?」

 

 改めて指摘されるとちょっと気恥しくなる。まあ実際、ガンドレイクの奴とはマブダチというか、なんだろうな? あいつが女になってなくても、多分今も変わらず同じ部屋で暮らしてたと思う。いやどっちかというとそっちのほうがよかったな……。

 

「ま、実際の所、俺ってばアイツの世話になってばかりではあるんだよね、情けないながら。なんだかんだで食っていけてるのもアイツの活躍が大きいし……」

 

「……あら? 私はそうは思いませんよ?」

 

「え?」

 

 そっとアイリーンさんが肩を寄せてくる。薄いスーツの生地越しに、やわらかい肌を感じ取ってドキリと胸が跳ねる。

 

「確かに迷宮ではザバーニャス様がご活躍されているようですが、それを動画に編集し、収益を得ているのは春日井様の御仕事では? 迷宮探索に必要な書類手続きもほぼ全て貴方様がやっておられる訳ですし……」

 

「い、いや、いっても動画の収益は大したことないから……。収入の殆どは、迷宮で取得した物品の売買だし……」

 

「だとしても。ザバーニャス様は出自は不明瞭ながらも、元々荒事で生業を成していた様子。それに対して、春日井様はそうではありませんよね」

 

 す、とアイリーンさんが俺の腕をとる。ガサガサ、ゴツゴツした武骨な男の手。されど、鍛えている訳でもなく、また過酷な業務に骨ばっている訳でもない、半端者を象徴するような人生の見えてこない掌。それを彼女は、愛おし気に指先で擽った。

 

「慣れぬ、望まぬ戦場に身を置く艱難辛苦、至らぬこの身でも想像する事はできます。人には人の在るべき場所があり……それを越えて自らの意思で戦場に立つならば、貴方は立派な戦士です。何を成したかで人はその偉業を評価するものですが、何を成そうとしたかも、私は評価されるべきだと思います。……この世界の偉人は良い事を言いました、“偉大であろうとしたならば既に偉大なのだ”と」

 

「ははは、そんな大仰に言われるような事でもないですよ、照れちゃいますね」

 

 耳元で擽るように響く甘い声。高鳴る心拍を誤魔化すように、俺はことさらおどけて見せた。

 

 だけどアイリーンさんの碧色の瞳は、そんな欺瞞をまるで見透かしているように俺を見ている。

 

「よろしければ。私はもっと、春日井様ご自身のお話を聞きたいと思いますわ」

 

「そんなの、聞いても何の価値も……」

 

「いいえ。私にとっては、価値がある事なのです。経済とはそういうものでしょう? 自分にとって価値が低いものでも、他の誰かにとっては大きな意味があるからこそ、商売が成り立つ。私は是非とも聞かせてほしいですわ。春日井様ご自身の、貴方のオリジナルを……」

 

 囁きながら、そっとアイリーンさんがより間合いを詰めてくる。もうほとんど抱き着いてきているような彼女の体温にドキドキしながら、俺は舌を縺れさせながら言葉を探した。

 

「そ、それじゃあ……。迷宮でガンドレイクと逸れて半日過ごした時の話、とか……」

 

「まあ。それは是非とも、お聞きしたいですわ」

 

 

 

◆◆

 

 

 

◆◆

 

 

 

◆◆

 

 

 

 さら、とシーツと肌が擦れる、衣擦れの音がする。

 

 傍らの体温を感じながら、俺はぼーっと天井を見上げていた。

 

 甘やかで気だるげな脱力感。そう嫌なものではなかった。

 

「……実は、春日井様……智樹さんに、お願いしたい事があるのです」

 

「ん、何?」

 

 振り返らずに、アイリーンさんに続きを促す。

 

 内心ちょっと安心した。あまりにもトントン拍子に話が進んだというか、蛇に絡めとられたというか、そういう感じだったから、そこに打算があったとするなら分かりやすくていい。

 

 そんな事を考えていると、それを見透かしたように彼女は小さく笑う。

 

「いえ、その為にこうした訳ではない……と言っても、貴方には都合が悪いのですかね。ふふ、不器用な人」

 

「……俺、そんなに分かりやすい?」

 

「ええ、とても。生き辛そうだとは思いますけど、それが貴方の形なのですよね。仕方ありません、私はそれを否定しませんわ」

 

 ちゅ、と頬に軽く触れるような軽いキス。先ほどまでもっと深い情交をかわしていたというのに、その細やかな感触に思わず俺の胸は高鳴った。

 

 ずるいなあ。

 

「実は、貴方様の討伐した黄金竜の躯。それを回収しよう、という計画があるのですが、どうにも実動員が確保できなくて困っているのです。迷宮管理課は今少々ゴタついておりますし、警察は暴走しがちで言う事を聞かない、自衛隊の投入などもってのほかです。かといって、下手な冒険者に依頼しても屍を積み上げる事になりかねません。それで、是非、勝手がわかっている貴方様にお願いしたいのです」

 

「いや、流石に無理だよ。ガンドレイクがいなきゃ……」

 

「私は、そうは思いませんよ」

 

 全幅の信頼を寄せた囁き。これまでの人生で、それほどの判断を寄せられたのは、それこそガンドレイク以来の事だ。

 

「貴方様に足りないのは、力と武器。それさえあれば、貴方はきっと誰にも負けない。それを、僭越ながら私が用意させて頂きますわ。どうでしょう? 上手くいかなくてもそれはそれで構わないのです。私のお願い、引き受けてくださいませんか?」

 

「……ガンドレイク達の行方は、まだわからないの?」

 

「ええ。依然として、行方不明です。上手く隠れているといいますか……私どもとしても、本当に困っているのです」

 

 ふぅむ。

 

 そういう事なら、まあ、仕方ない……のか?

 

「わかった。……でも期待しないでくれよ」

 

「まあ、嬉しい。千人の味方を得た気分ですわ」

 

「おおげさだなあ」

 

 そんな訳で。

 

 俺は初めて、ガンドレイク抜きで迷宮に潜る決心をしたのだった。……うーん。軽率だったかも、知れない……?

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

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