リストラ社会人、相棒の銀髪青眼色白美少女(元おっさん)とダンジョン配信に挑戦す!   作:SIS

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第六話 本日の御勤めです

 

「よし、忘れ物はないか?」

 

「うむ、ばっちりだぞ!」

 

 迷宮探索に向かう日の朝。俺が車に荷物を積み込む傍らで、ガンドレイクは早速助手席に座ってシートベルトを締めていた。気が早すぎる。

 

「おい、お前が車に先にのっても意味がないだろうが」

 

「トモキは気にしすぎなのだ。昨日のうちに万全の用意をしているんだから、今更気にしてもしょうがなかろう?」

 

「それはそうだがな……」

 

 バン、と荷台の扉を閉めると、愛車の運転席に戻りエンジンをかける。

 

『ETCカードが挿入されていません』

 

「うむ、毎度の呪文もばっちりだな!」

 

「呪文じゃないって……」

 

 残念ながらクレジットカードは更新時の審査に落ちてしまった。というか、今の世の中、あんなもんを維持できるのはよっぽどの金持ちか何かでなければ無理である。

 

「ほれ、さっさといくぞ」

 

「うむ!」

 

 愛車を走らせ、迷宮へと向かう。ガソリンが高くなりすぎたのもあって、道路の車は少ない。それでも、迷宮管理課の棟がある所まで装備品を担いでいったらそれだけで疲れてしまう。途中で警察の目についても厄介だ。

 

 許可を取っているとはいえ、冒険者の装備は銃刀法違反に該当する。この期に及んで、市民が武装する事をよく思わない警察がケチをつけてくる事例は後を絶たないのだ。

 

 不愉快な事を思い返しながらハンドルを握っていると、隣からは機嫌のよさそうな調子っぱずれの鼻歌が聞こえてくる。何の曲だろう、どこかで聞いた事があるようなないような。

 

「~~♪」

 

「ご機嫌だな。何の曲だ?」

 

「知らん! 配信動画で使われていた曲を適当に思い返しながら、だな」

 

 そういう事らしい。気にして損した。

 

「てっきりお前の故郷の民謡とかだと思ったよ」

 

「ん? 私の故郷の歌は、大体喉を枯らして謳い上げるようなものだぞ。こんな虫の音のような響きを歌というのは、こちらに来て初めて知ったな」

 

「そうかい」

 

 まあ概念が無かったというだけで嫌いではないのは、上機嫌な様子からも見て取れる。こいつも少しはこっちの生活に慣れてきたと思うと少しばかり微笑ましくはある。

 

 運転していた車が、十字路に差し掛かる。信号はないが、こちらが明らかに優先道路なので少し速度を落としながらもそのまま走り抜ける、が。

 

「うぉ!?」

 

「わぁ!?」

 

 左右、と確認して左を向くと、そこにいつの間にか真っ黒な車体があった。この田舎道で一体どれだけ速度を出していたのか、慌てて急ブレーキを踏むこちらの鼻先を掠めて、猛スピードで走り去っていく相手の車。

 

 びっくりした。まだたまに居るんだよなああいう手合い。

 

「ふぅ、ぶつからなくてよかった。ガンドレイク、無事か……ってお前何で降りようとしてるんだよ!?」

 

「決まってるだろう、あの不届きものをとっちめる!」

 

「今から追いかけて追いつける訳ねーだろ!? って斧を取り出すな警察に捕まる!!」

 

 停止したまま道路の真ん中で、降りる降りないでぎゃーぎゃー揉める俺達。最終的に、ナンバープレートを認識していたガンドレイクの証言で通報するという事にして、ようやく彼女は納得してくれた。

 

 やれやれ。周囲に他の車が無くてよかった。

 

 

 

 

 

 朝から多少トラブりつつも、俺達は無事迷宮管理棟にやってきた。

 

 迷宮管理番号XA-253ー74の入口は、山の上にある建物の内部にある。元は免許管理センターだったらしい。

 

 見れば駐車場や出入口には他の冒険者がたむろしている。

 

 俺達と同じように今から迷宮に挑むのか、あるいはこれから帰るのか。……まあどうでもいい事だ。

 

 厳重に封をした武器ケースや荷物をかついで正面玄関に向かうと、その隣で立っている警察官がぎろりとこちらをねめつけた。

 

「おはようございます。お勤めご苦労様です」

 

「……ああ」

 

 感じ悪っ。まあこの人からすると俺達冒険者は全員銃刀法違反に見えてるんだろうが。

 

 にらみつけるような視線を避けて、さっさと玄関の自動ドアを潜る。途端に、ガヤガヤとにぎやかな雰囲気が伝わってきた。

 

「04番でお待ちの方、奥のゲートへどうぞ」

 

「冒険者講習会は10時からでーす」

 

「07番でお待ちの方、いらっしゃいませんかー?」

 

 中は係員の呼び出し声と、受付前で待っている冒険者達の雑談が混じり合って実に騒々しい。ある意味活気のある空気に頬を緩ませながら、俺達も受付に進む。

 

「どうも、春日井です。迷宮探索の申請に来ました」

 

「春日井様ですね、了解しました。探索者照明カードと、お荷物を一旦預からせてもらいます」

 

 指示通りに、俺とガンドレイクの冒険者カードと、梱包した荷物を受け付けに預けて、今度は申込書に記載する。ここに書いた内容と預けた武器防具の登録を照らし合わせて、問題がないと判断しないと迷宮に装備を持ち込めないのだ。効率が悪いが、これでもまあ既存の銃刀法を大きく書き変えずに冒険者の合法的な武装を可能とする為のやむを得ない処置という奴である。

 

 お役所仕事というのは何事も手間がかかるのだ。

 

「ほれ。ガンドレイク、いい加減自分の名前ぐらいは自分でかけ」

 

「う、うむ。だがコチラの文字はまだ慣れなくてなあ……」

 

「聞き取りが出来るだけマシだけどな。流石は女神の加護」

 

 本音を言うと、聞き取りにしか対応できてないってのはちょっとしょぼいと思うのだが、信仰対象をけなされたらさしものガンドレイクも愉快ではないだろうから黙っておく。

 

 横から見てるといい加減なサポートで無茶ぶりしてくるクソ女神なんだがな。そのせいで俺がこうして巻き込まれてるんだし。

 

「しかしいつも思うんだが半端な事をするものだなあ」

 

「ん、そうか?」

 

「そうだとも。ある程度迷宮に潜れるようになった者は、その時点でそうでない者と身体能力的には一線を画しているだろう? 武器などもたなくとも鉄を曲げ、骨を砕き、内臓を破裂させる事など容易い。武器を制限した所で、本質的な部分では全く首輪をつけておらんではないか」

 

 まあ確かに。

 

 ちまたではレベルアップなんて言われているが、迷宮に潜り怪物と戦う冒険者は身体能力が大きく強化される。それは筋力だけではない、反射神経や思考能力にも影響する。

 

 武器など必要ない。優れた冒険者はそのまま、その存在が凶器そのものだ。

 

「まあ、そうはいっても個人差があるしな。大体それを言い出したら、俺達冒険者は全員囚人みたいに建物に押し込めて管理される羽目になっちまう。それは流石に勘弁してほしい所だ」

 

「んむ。まあ、妙な事をいってすまん。別に仕組みを批判したい訳ではないのだ。悪いのは全部あのクソトカゲであるし」

 

 クソトカゲ。すなわち、黄金竜ウシパチャカスナ。

 

 この世界に迷宮が発生するようになったのは、そいつのせいだという話だが……。

 

「ほれ、口より手を動かせ。さっさと提出できないと、その分順番が遅れるだけだぞ」

 

「むむむ。トモキのいけずぅ」

 

 わざと話題を逸らして、ガンドレイクを急かす。

 

 その手の話はあまり往来でしたくない。何でって、秘密が漏れるとかそうじゃなくて、単純に頭のおかしい奴だと思われるからだよ。

 

「よし、書けたぞ」

 

「よくできました」

 

 手続きが終わり、戻って来た荷物を受け取るとロッカーで探索の準備にかかる。

 

 俺は大した装備はしないのですぐに終わる。時間がかかるのはガンドレイクだ。

 

 今時男女共用のロッカールームで彼女が着替えている間、外で見張りをするのは俺の仕事である。いや別に俺もガンドレイクも見られるのは別にどうでもいいんだが、通りがかった第三者にとっちゃそうじゃないだろう?

 

「まだかー?」

 

「んむむ、あとちょっとだ」

 

 返事を聞いてロッカールームに戻ると、既にいつもの服に着替えた彼女が、重たそうな籠手をパチンと腕にとどめている所だった。見ている前で瞬く間に装着を終えると、トントン、とつま先で床を蹴って具合を確かめている。

 

「よし! 問題ないな」

 

 仁王立ちしてぺかっと笑うガンドレイク。しかしなんていうか、あのごつい籠手とブーツに加え、重たい斧までもってよくもまあ迷宮内を歩き回れるものだ。やっぱ根本的に体の造りが違うんだろうなあ。

 

 流石、異世界の蛮族。

 

「ん、なんだ? 何か含みのある視線だな」

 

「いや、その重装備で歩き回れるのは流石大戦士様だなと思ってな」

 

「ふふーん! 流石はトモキだな、よい目の付け所だ!」

 

 ちょっと褒めるとすぐこれである。小鼻をぷくーっと膨らませて悦に浸る大戦士様にハイハイと適当に相槌を打って、俺は出発を促した。

 

「それよりさっさと出るぞ。もたもたしていると他の奴らが増える、何の為に朝早くから来たと思ってるんだ」

 

「おっと、そうだったな。では早速出発しよう!」

 

 後からやって来た冒険者と入れ替わるようにしてロッカーを出て、地下に向かう。

 

 階段を下った先、管理棟の地下2階にそれはある。

 

 立派な扉。どこかに繋がっている訳でもない、高さ2m半、厚さ10cmほどの分厚い石の扉。

 

 それが、部屋の真ん中にぽつんと立っている。物々しく周囲をしめ縄で囲まれたそれは、どこからみてもただの扉、板で……後ろに回って覗き込んでも、やっぱりただの扉だった。

 

 その前に立ち、ドアノブに手をかける。

 

「それじゃいくぞ」

 

「ふっふーん」

 

 ガンドレイクは気楽なものだ。俺はちょっと手に汗がにじんでいるというのに。

 

 ぐ、と扉を押し開く。ちょっと力を込めただけで重たそうな扉はスムーズに開き、その向こうに広がっているのは部屋の光景ではなく、真っ黒な宇宙のような何か。

 

 その奥に何があるかを認識する前に、俺の意識はブラックアウトした。

 

 

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