リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第六十一話 知恵と勇気の勝利

 

 薄暗い横穴の中、そっと気取られないようにリザードマンの死角に回り込む。

 

 相手はまだこちらに気が付いていないようだが、油断は禁物だ。この薄暗い闇の中、あちらも元々視覚など当てにはしていまい。嗅覚か、振動か。とにかく気取られないために、ある程度の距離を取る。

 

 さて。こちらの得物は大振りなナイフ一振り。これで相手を仕留めるには、急所を的確に仕留める必要がある。そして経験上、あのリザードマンの急所と呼べるのは首筋、脇、内股に通る大きな血管。まあだいたい人間と同じ、と言えばわかりやすいか……気分はあまりよくないが。

 

 鱗で刃が滑る、弾かれるといった心配はしなくていいだろう。死んで脱力した状態とはいえ何度か解体した覚えがあるし、今手にしているナイフの切れ味も十分だ。

 

 あとは、俺がどれだけ覚悟を決めて踏み込めるかどうかである。

 

「…………!」

 

 ええい、ままよ。

 

 決意を決めて、俺はナイフを握りしめて仕掛けた。

 

 背後から強襲し、ナイフを滑らせる。思った以上に軽い、水を切るような手応えと共に暗闇の中にリザードマンの苦悶の声が響いた。

 

『シギャッ!? フシュルル!』

 

「おっと」

 

 されど敵もたいしたもの。完全に不意をうたれたにも関わらず雷鳴のように反応し、手にした武器を背後目掛けて振りぬいてくる。それをしゃがんでかわし、さらにもう一撃。脇の下をナイフが切り裂き、暗闇でもはっきりとわかるほどの血が噴き出した。

 

『ナイスアサシン! やはりやれば出来る人です、智樹様は!』

 

「見様見真似だけどね」

 

 さて、二撃上手い事はいったが油断は禁物。これ以上の不意打ちは避けて、一旦後退する。

 

 対するリザードマンは思わぬ反撃にたじろいでいるものの、まだまだやる気十分だ。脱力した右手から武器を左手に持ち替えて、まだまだ戦意は盛んな模様。一応、首筋と脇から大量出血しているが、即座に弱ったりはしないようだ。

 

 人間と違って流石にタフだ。

 

 ガンドレイクぐらい打撃力に自信があれば、これぐらい弱らせればあとはゴリ押しでいけるがそんなに俺は強くない。例の薬で強化されているとはいえ、そこまで思い上がるほど落ちぶれちゃいない。

 

 となると、俺らしいやり方で戦うべきだろう。

 

『シュルアア!』

 

「おっと」

 

 武器を振りかざして突撃してくるリザードマンからさっと身を翻す。空振りの一撃は、しかし洞窟の内壁に容易く罅を入れた。

 

 大したパワーだ。やはり、出血多量で弱るのを待つのは良い手段ではないな。そのうちラッキーヒットを食らうかもしれないし、何より血の臭いに誘われて他の怪物が集まってくる危険性がある。

 

 となると。

 

「これでも喰らえっ」

 

『フッ、シャアア!?』

 

 ポーチから取り出したカラーボールをアンダースローで投擲。シュルルル、と回転しながらリザードマンの顔面にぶちあたったそれは、ぱあんと弾けると赤い粉末をぶちまけた。

 

 途端、武器を取り落として顔をかきむしるようにして悶え苦しむリザードマン。

 

『智樹様、あれは?』

 

「激臭と激辛に特化した目つぶしボール。暗闇の中だと、嗅覚を潰すのが大事だと思ってね」

 

『……うわあ……』

 

 ちょっとドン引きしてる雰囲気のアイリーンさん。失敬な、こういうのも立派な弱者の武器さ。

 

 さて、効き目のほどはどうだろうか。見た所、顔をくしゃくしゃにして涙ぼろぼろ、といった様子のリザードマンだが、戦意そのものは衰えてない様子。だが嗅覚に加え、おそらく刺激物の激痛にピット器官的なものも上手く機能していないのだろう、そこら中にやったらめったら腕を振り回すだけに終わっている。

 

 これなら距離を取れば安全だ。とはいえ、時間経過で回復するとなると今の内に決めたい。

 

 俺はちらっと彼我の位置関係を確認すると、リザードマンに小石をひょいっと投げつけた。

 

「ほいほい。鬼さんこちら、手の鳴る方へ」

 

『フシュルアアア!!』

 

 ついでにおちょくる感じで声もかける。こちらの位置を把握したリザードマンが、怒りに唸り声をあげながらがむしゃらに突っかかってきた。

 

 それをひょい、とかわして洞窟の壁に身を寄せる。標的を見失ったリザードマンが、洞窟の奥につっぱしっていく。

 

 さて。

 

 そっちは俺が歩いてきた道だ。そんでもって、暗視装置パワーで俺は怪物の待ち伏せとかをスルーして歩いてきた訳で、それはつまり……。

 

『キシャアア!』

 

『フシャルア!?』

 

 闇の中から二種類の怪物の叫びが聞こえる。どうやら、獲物を待ち構えていたカマキリにリザードマンがひっかかったらしい。

 

 御存じの通り、迷宮の怪物は別に仲良しこよしという訳ではなく喰う喰われるの関係でもある。冒険者に対しては明確に自分達のテリトリーを荒らす部外者という事で共同戦線を張る傾向があるが、そうでなければ怪物同士でも殺し合う。

 

 本来ならばリザードマンとカマキリだと前者の方が強いが、今は手負いだ。いい感じに潰し合ってくれるだろう。

 

 背後から聞こえる争いの音を尻目に、俺は意気揚々と道の先に進む。

 

『え、えげつないですね……』

 

「スマートなやり方と言ってほしいね。無駄な争いは避けるに限る」

 

『それは、まあ。そうなのですが……』

 

 なんだか納得いってない様子のアイリーンさんだ、俺に一体何を期待していたんだか。大暴れ無双ならガンドレイクの奴に頼んでくれ。

 

 さて、これで道は開けた。さっさと黄金竜の躯の元に辿り着いて仕事を終わらせるか。

 

 

 

 

 

 そして2、3度ほどの交戦を経て、たどり着いた最奥。

 

 相変わらずの圧倒的な存在感。見て見た所、前に俺とガンドレイク、御堂さんで来た時と何も変わりないようだ。上座につっぷしたままの躯は、尾だけが邪魔といわんばかりに押しのけられたまま。

 

「それじゃあ、始めるぞ」

 

『お願いします』

 

 ポーチの中から、円筒形の装置を取り出す。サイズ的にも形状的にも車に積んである非常灯によく似ている。勿論こんな迷宮の只中で煙を出して異変を知らせる訳ではない。

 

 全部で四つ手渡されたそれを、黄金竜の躯を取り囲むようにして立てていく。全部立て終わると、同調するようにそれぞれの装置がLEDを光らせた。

 

 最初はバラバラに赤い光が点滅していたそれが、一拍置いて同時に緑色に光る。

 

 そして各部が展開。単なる筒が何やら複雑な形状のアンテナのようなものに変形し、青い光を放ち始めた。それと共に、黄金竜の周囲の空間が歪んでいく。

 

『智樹様、フィールドの中に』

 

「わかった」

 

 指示に従って光の中に入るが、正直心臓はドキドキだ。

 

 アイリーンさんの話だと、この装置は迷宮を一時的に正常な空間に戻す事でその反発力を利用し、一気に外部に脱出する装置らしい。ゲームでいうと帰還石とか、そういう感じの代物か。

 

 そんな便利なものがあるとは知らなかったが、つい最近開発されたばかりの新製品らしい。ぶっちゃけ、体のいい実験という訳である。

 

 確かに、数トンはあるであろう黄金竜の躯をかかえて、えっちらおっちら横穴を脱出する訳にはいかないが……薬の件といい、私は都合よくつかわれすぎでは?

 

 まあ今更の事か。会社を辞めても社畜(社会の家畜という意味で)とはこれいかに。

 

『転移します。目を閉じてください』

 

「お、おう」

 

 言われた通りに目をつぶる。

 

 直後、閉ざした瞼越しでも視界が真っ白になるほどの光と共に、奇妙な浮遊感が全身を包んだ。

 

 

 

◆◆

 

 

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