リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

63 / 64
第六十二話 迷宮統合

 

 瞼を貫く光が穏やかに消え、浮遊感も消失する。

 

 恐る恐る目を開くと、そこはよく見慣れた風景だった。

 

「……駐車場……」

 

 迷宮のある建物の駐車場。いつもは半分ぐらいは埋まっているが、今日に限っては関係者しか居ないガラガラのアスファルト広場。そこに俺は戻ってきていた。

 

 マスクを外して新鮮な空気を貪り、ふと背後へ振り返ると、そこには太陽の下で黄金の鱗を輝かせる竜の躯。その傍らで、転送装置が黒い煙を吹いて転がっていた。

 

「上手くいった……のか?」

 

「ええ。お疲れ様です、智樹様」

 

 独り言に返事が返ってきてぎょっと肩を跳ねさせる。振り向いた先で、アイリーンさんがにこやかに笑っている。その背後では、作業員らしき人達が顔を青くしながら竜の躯を取り囲むようにしていた。

 

「あの……これが? 本当に? これを?」

 

「ええ。手筈どおりに」

 

「りょ、了解しました……」

 

 アイリーンさんの指示を受けて作業を開始する皆さん。恐る恐るワイヤーを竜の躯に回して、玉掛作業を進めていく。その作業はおっかなびっくり、びくびくしながらで遅々として進んでいないが……まあ気持ちは分かる。

 

 俺も同じ立場だったらああなるね。

 

 その様子をぼんやり眺めていると、アイリーンさんが傍らにやってきて俺の手を取った。

 

「依頼達成、ありがとうございます、智樹様。お疲れでしょう? ホテルを手配しているので、ごゆっくりお休みください」

 

「あ、ああ……」

 

 手を引かれると足元がふらつく。思ったよりも疲弊していたらしい。

 

 いや……当たり前か。なんだかんだでこれまでずっとガンドレイクで頼り切りだったのが、一人で迷宮に潜った訳だからな。改めて、アイツがどれだけ凄かったかを実感する。

 

 ……一連のごたごたが落ち着いたらもうちょっと優しく接してあげないとな。いや、あんまり甘やかすと調子に乗るからやめておいた方がいいか……?

 

 ごちゃごちゃ考えても思考は纏まらない。連れられるがままに車の後部座席に乗り込んだ俺は、クッションに身を預けて目を閉じた。

 

 ああ……なんか、疲れた。

 

 

 

◆◆

 

 

 

 それから数日後。

 

 迷宮探索……というかよく考えたら薬の副作用的なアレだったのではないかと思われる疲労から回復した俺は、アイリーンさんと一緒に飛行機で東京に向かった。

 

 空港から高級車に乗りついで案内されたのは、誰もが知ってる巨大なドーム。最近は試合が行われる事も少なくなったというその巨大遊戯場の特別観覧室に案内された俺は、やたらと高級そうなクッションや調度にビクビクしながら時間を潰していた。

 

「ふふ、もう少し鷹揚に構えられたらいかがですか? 本日の功労者でいらっしゃいますのよ、智樹様は」

 

「ああ、いや、性分なので……」

 

 そういって笑うアイリーンさんは、いつものスーツ姿ではなく外国の芸能人がパーティーで着るようなドレス姿である。大胆に露出した染み一つない白い肌が目に眩しくて目を逸らす。

 

 ちなみに俺の方はというと、やすっぽいスーツ姿である。場違い感が半端ない。

 

「ところで、いい加減説明してくれません? 一体、何をする気なんです、これ? あとガンドレイク達と連絡まだつかないんですか?」

 

 特別観覧室の窓からは、ライトアップされた広場がよく見える。その中央には四角いステージが設けられており……その上に、黄金に輝く竜の躯が転がされている。その骸はステージに金具で固定され、あちこちに電極がぶっ刺さり、そのケーブルはドームのバックグラウンドに繋がっている。まあ考えてみればドーム全体を照らすだけの電力が裏にあるんだから、何かこう電気でやらかすには十分な動力があるんだろうけど……。

 

 何をする気だ?

 

 あとステージの前に集まっているお偉いさんの集まりとカメラマンの集団も何? あのお偉いさん達の真ん中に居るの、最大野党のトップの人だ。アイリーンさんの雇い主でもあるはず。

 

「大体、あそこに居なくていいんです、アイリーンさん?」

 

「まあまあ、そう焦らずに。一つずつご説明しますわ。まず、私は智樹様の歓待をおおせつかっておりますので、あそこに居なくても問題ないのです。大体ご理解いただいていると思いますが、私は先生からすると智樹様を引き込むためのハニートラップ要因、という事になりますので。幸い、釣った魚に餌をやるぐらいの事は考えられるお人で助かりましたわ」

 

「はっきり言うね……」

 

 まあ大体そんなもんじゃないかとは分かっていた。思い切りひっかかった人間が言う事じゃないけど。うーん、巴さんと獅子川ちゃんに知られたら不潔呼ばわりされてしまいそう……しょんぼり……。

 

 あとさらっと自分の雇い主に毒はいたねこの人。

 

「そしてガンドレイク様達とは……申し訳ありません。連絡はついておりません。ただ、どうやら智樹様を追って東京入りしたという報告が入っておりますわ、検問を突破したという連絡が入っております。どうやらここに貴方様がいらっしゃることを把握して、奪還に向かっているようですね。愛されていて何よりです」

 

「ああああああぁ……」

 

 検問を突破、という言葉に頭を抱える。何やってんだよガンドレイク……。

 

 どう考えても穏やかな展開ではない。ぐしゃぐしゃに粉砕されたゲートを想像して俺は顔を青くした。

 

「だ、大丈夫なんですか。公務執行妨害とかで捕まったりは……」

 

「ふふふ、その心配はいらないかと。まあすぐにややこしい状況になりますので、なあなあに出来ると思いますよ」

 

「そ、そうなんです? 信じちゃいますからね?」

 

「ええ、ご安心を。保証しますわ」

 

 アイリーンさんの言葉に、ふぅ、と安堵する。いや、ハニートラップを自称する怪しげな美人の言う事を信じるのもどうかと思うが、黙って薬を盛ったりするし。でも基本的にこの人、本格的に俺の害になるような事だけはしないしな……いやこれも篭絡されてるからそう思うだけか……?

 

 俺は果たして客観的な思考を維持できているのか? 自信が無い。

 

 あとさらっとなんか変な事言わなかったか?

 

「あれ、まって。ややこしい状況って……?」

 

「……それで、今から何をするかと言いますと、迷宮の統合を野党連合独断で試みる所ですね」

 

「なんて?????」

 

 しれっと爆弾発言をぶちかますアイリーンさん。

 

 迷宮の……統合???

 

「ええ。全ての迷宮は黄金竜から生まれた物……であるならば、その黄金竜の肉体を核にする事で、今現在日本に発生している迷宮を全て統合できるはず。そうする事で、全ての迷宮資源を政府が一括で管理できるようにする……それが今回の試みですわ」

 

「そんな事が……いやでも、それが出来れば大分やりやすく……まって、独断っていってなかった?」

 

 もし本当にそんな事ができれば願ったりかなったりだ。が、どうにも不穏なワードがくっついているのが不安になる。

 

 俺の確認に、アイリーンさんはにこやかに微笑みながら頷いた。

 

「ええ。与党の皆さま方は不確定要素が多すぎる、危険性を無視できない、と反対されておられましたわ、当然ですね。ですが先生方は独断でこれを強行するおつもりのようです。どうやら、これを成果に政権を奪取するおつもりのようで……」

 

「無謀が過ぎる!! ただでさえ迷宮なんて訳が分からないものを、人間の理屈でこねくり回すなんて……失敗するに決まっている! やめさせないと!」

 

 慌ててソファから身を起こす。こんなところでぼさっとしている場合じゃねえ!!

 

 が、隣に座るアイリーンさんは至ってのんきな様子で、そんな俺の行動を咎めた。

 

「今更止められませんよ。それに、失敗はしません。何故なら、“神そのもののお墨付き”なのですから」

 

「…………え?」

 

「ほら、始まりますよ」

 

 呆気にとられたのも一瞬。指摘に弾かれたように俺は視線をフィールドに戻す。

 

 ステージの前では議員達が大仰に手を振り、竜の躯を指し示す所だった。その示す先で、黄金竜の体に膨大な電流が流し込まれる。同時にあちこちに埋め込まれた機械が怪しく動き出し、まるで自ら光を放っているように黄金の鱗が煌めき始める。

 

 見ている前で、骸が貌を変えていく。

 

 まるで炉の中で溶けていく黄金の彫像のように、そのシルエットが崩れていく。やがてそれは、シンプルな丸い球体となって、ひとりでに宙に浮き始めた。

 

 ぶちぶち、とケーブルが千切れ、取り付けられていた機械が脱落する。

 

 今や黄金のオーブとなった黄金竜はドームの天井近くまで浮き上がると、強烈な光を放った。

 

 立ち昇った光の柱が、ドームを貫いて天に伸びていく。広がるその光に、ステージ前にいた議員や、居合わせたマスコミの集団が呑み込まれて姿を消す。

 

 そして光が、どんどん特別観覧室にも迫りくる。俺は思わず腕で顔を庇った。

 

「うわああ!?」

 

「大丈夫。光はここまで来ませんよ」

 

 慌てる俺に対し、アイリーンさんはどこまでも平常心。見ればワイングラスなんかをのんびり傾けている。まるでこの光に一切の危険がないと知っているかのように。

 

 ……流石に、ここまでくると俺がどれだけ鈍くても違和感を覚える。

 

 なんだ。

 

 この人、一体……?!

 

「……アイリーン、さん?」

 

「ふふ。それよりほら、智樹様。面白い見世物が始まりますよ」

 

 そういって、アイリーンさんは手元のリモコンをカチカチと操作する。

 

 光に包まれた窓が、自動的にカーテンで閉ざされる。代わりに天井からスクリーンが降りてきて、そこに何かの映像が投影され始めた。

 

 それは……。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。