リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第六十三話 リアルの映像

 

 展開されたスクリーン。

 

 それに映し出される、いくつもの分割された映像。そこには、スーツ姿の人々が、森の中や砂漠、荒地、草原、はては遺跡のような場所でおろおろと困惑している有様だった。

 

 そしてそれぞれの画面には、いくつかのコメントが次々と流れている。

 

 

 

『ん、なんだこれ?』

 

『実況配信? でもなんか様子が変だな』

 

『というか勝手に画面が切り替わったぞ、なんだこれ。電波ジャック??』

 

 

 

 流れていくコメントも負けず劣らず困惑しているようだ。

 

 勿論俺も困惑している。

 

「なんだ、これ……」

 

 ただ、嫌な予感だけはビリビリ感じる。

 

 茫然としながら動画を見ていた俺は、ふとその中の何人かに見覚えがある事に気が付いた。

 

 あのふとっちょの、ふてぶてしい恥知らずな顔……あれは確か、最大野党の……だが、彼はグランドで報道陣に演説をしていて……。

 

 そこでようやく理解する。

 

「まさか……ステージの前に居た政治家と報道陣が……迷宮に!?」

 

「ええ。言ったでしょう? 迷宮を統合すると。それはもちろん成功しました。あの光の柱は、統合した迷宮へ入る入口です。今、日本全国の迷宮があった場所に同じ物が展開されているはずです。まあ、そちらは事前にスタッフや冒険者を一時退避させていましたので、まきこまれた人間は居ないはずですが。いたとしても自業自得でしょう」

 

 しれっと告げるアイリーンさん。だが、それが本当だとしたら……非戦闘員が、迷宮の中に? それも統合迷宮だなんて、何がどうなっているか分からない場所にだなんて……。

 

 駄目だ。危険すぎる。

 

「た……助けにいかないと!!」

 

「あらお優しい。でも、手遅れのようですよ」

 

「っ!!」

 

 画面の中、政治家やマスコミの人達に近づく黒い影。

 

 迷宮の怪物達。強いのも弱いのも、場所によって玉石混合だが、一つ言えるのは戦闘訓練もその手の装備もない者達が、いきなり遭遇して戦えるものではない。

 

 ここでうつべきは、逃げの一手。

 

 野生の熊に遭遇したようなものである。慎重に対応して、生存を最優先するべきだ。

 

 なのに、一体何を考えていたのか。

 

 怪物に遭遇した議員達は、何か怒鳴りながら自分から怪物に向かっていったのだ。

 

「あ……アホ! 馬鹿! 逃げろ、逃げてくれ! 何考えてるんだ!?」

 

 

 

『え、何。こいつらアホなの?』

 

『ちょっとまて、え、マジで!?』

 

『何何? ドッキリじゃないの?』

 

 

 

 そして……。

 

「あ……あああ!?」

 

 画面の中で、ふとっちょの男が、カエルみたいな怪物に頭から丸呑みにされた。

 

 別の画面では、四方から群がってくる小鬼に、人間が生きたまま小さく千切られている。

 

 それぞれの画面で繰り広げられる凄惨な末路。ごく一部はなんとかその場を逃げおおせたが、大半は無防備なままに怪物の前に身を晒した結果、当然の結果を迎えていた。

 

 そして、それがそのまま放送されている。

 

 ……規制されていない!?

 

 

 

『ざまあ』

 

『うわあああ、なんだこれ!? 規制はどうした!?』

 

『え、これ流していいの?』

 

 

 

「実はこれが一番苦労したんですよ」

 

 絶句する俺に、アイリーンさんはまるで企業のシステムエンジニアのように所感を口にする。

 

「人間達に介入されて映像を編集されないように、独自のシステムを組んだんです。これがなかなか大変でしてね。ぷろぐらむ、というのですか。なかなか、この世界の人間も面白い事を考えるのですね。貴重で有意義な経験でした」

 

「な……なな……」

 

「そういう訳で、統合迷宮内で起きた事は、特別なチャンネルで無修正配信されています。今は宣伝のために既存の配信動画をジャックしていますが、後でアドレスも公開しますよ。日本中、タイムラグも制限もなしに見放題です。本当なら全世界と行きたかったのですが、まだ統合できているのは日本の迷宮だけですので。目指せワールドワイド、ですね」

 

 にこやかに語るアイリーンさんから思わず距離を取る。

 

 自分でもわかるほど、動悸が乱れている。

 

 凄惨な映像を前に、彼女の横顔は全くいつもと変わらない。優し気で、思慮深く……そして穏やかなままだ。キラキラと光る碧眼が、横目で俺を見返した。

 

「ふふ。智樹様の良い所であり、悪い所でもありますね。一度懐に入れた相手にはどこまでも甘い。……いえ、悪い所、というのは間違いでした。貴方様の美点であり、長所ですね」

 

「アイリーン、さん……貴方は……一体……?」

 

「あら? 概ね、もう理解しているのではないですか? ああ、でもこういうのは、けじめが大切といいますしね」

 

 すっと、アイリーンさんが立ち上がり、スクリーンの前に出る。

 

 スクリーンに投影される分割された映像が、撮影対象の消失により次々とブラックアウトしていく。黒く染まるスクリーンの前に立ったアイリーンさんが、す、と一度瞳を閉じて、再び開く。

 

 その双眸には、怪しく輝く紫色の瞳が、プロジェクターの光を受けて爛々と輝いていた。

 

 

 

「私はアイリーン・ラタトスク。またの名を、黄金竜ウシパチャカスナ。勇者よ、こうして再び名乗る機会を得られた事を光栄に思います」

 

 

 

 そう告げて、彼女は小さく微笑んだのだ。

 

 

 

◆◆

 

 

 

「おうごん、りゅう……」

 

 微笑むアイリーンさん……否、黄金竜ウシパチャカスナを前に、俺は絶句したまま立ち尽くしていた。

 

 背中に夥しい脂汗を感じる。あの紫色の瞳に見つめられている、ただそれだけで心臓が竦み上がるような思いだ。

 

 確かに。確かに、黄金竜が人の姿を取り、社会に紛れ込んでいるであろう事は可能性として考えていた。

 

 だがそれが、よりによって政治家に取り入り、積極的に人間社会を利用して動いていたなんて想像だにしていなかった。

 

「いったい、いつから……」

 

「概ね、事情は把握していたのでしょう? 貴方様が巴様を救出した迷宮事故、それを利用して私は人間社会に進出しました。後はあの貴族達に取り入り、理想の状況を作り出す為に暗躍していたという訳です」

 

「馬鹿な……いくらなんでも行動が早すぎる。あれから数か月もたってないぞ!?」

 

 掛け値なしの本音を叫ぶと、黄金竜は、さもありなん、と小さく頷き、やれやれと首を振った。

 

「それはまあ、正直私も色々想定外でした。実際の所、迷宮統合計画も、私の遺骸を利用した強化薬も、全く私の意図せぬ所で人間達が独自に話を進めていたので……。私はそれらを後から乗っ取って効率的に運用しただけですね。いやあ、欲望ばかりが肥大化した愚か者たちで助かりました。彼らの目には己の利益しか見えておらず、不都合な事実は無いものとして扱われていましたので。そういう者達はほんの少し耳に囁いてやるだけで何も疑問を抱かないので扱いが楽です。まあ、手勢としては全く欲しくないですが」

 

「催眠術か何かで、しれっと混ざり込んだって事か……!」

 

「まあ酷い言われよう。私を求めたのは、貴方達人間の方なのに。これでも私、神ですので」

 

 さも傷つきました、心外です、とでも言いたげな口調と素振りの黄金竜。その立ち振る舞いは、俺のよく知るアイリーンさんそのものであり、その事が余計に俺の肝を竦み上がらせた。

 

「なんで、そんな事を……」

 

「それは勿論。この世界に尽きぬ黄金を、終わらぬ黄昏を、明ける事なき白夜を齎す為です」

 

 優しく、そう、本当に優しく、全ての民草を愛おしむように優しく語る黄金竜。

 

「統合迷宮は尽きる事なき財宝の坩堝。私はそこに挑む者を区別も差別もしない、望む人間全ては自由に挑む事が出来る。戦えば戦うほど財宝は彼らの手に齎され、その栄誉と奮戦は誰に阻まれる事なく万人の目につく所となる。そう、全ての戦い、全ての戦士に等しく祝福を与える! それこそが、戦いの神としての私の使命、私の宿願! ただそれだけですよ」

 

「その為に……迷宮を統合し、あんな配信サイトを作ったっていうのか!?」

 

「だからそう言ってるじゃないですか」

 

 穏やかに告げる黄金竜に戦慄する。

 

 一見すると、彼女の言う事はそんなに悪い事ではないように聞こえなくもない。だが先ほどのデモンストレーションが、そうではない事を如実に物語っている。

 

 彼女は全てに平等だ。それは力無き者、覚悟の足らぬ者、戦う力を持たない者にも同じ。力及ばず惨殺される光景すら、彼女は一切の容赦なく衆目に晒す。そこにあるものは力こそが絶対、弱者はただ死ぬべきという、現代社会とは相いれない前時代の価値観だ。

 

 黄金竜は、この世界を石器時代に戻そうとしている。

 

「その目……正しく私の考えを理解して頂けているようで嬉しく思います。ええ、本当に。そうですね、確かに貴方の言う通り、私のやり方は、愛は、この時代の人間には受け入れられないものかもしれません」

 

 心を見透かした黄金竜は、されど、相容れぬ事実を愛おしむように心からの笑みを浮かべる。

 

 それは……さきほどまでの万人に対する慈悲ではなく、俺個人に対する慕情が込められているように、俺は感じた。

 

「黄金竜……いや、アイリーンさん……。貴方は……」

 

 

 

 

 

「ですから。一つだけ、お願いがあります。智樹様……私の、臣下になっていただけませんか? 私は、貴方様が欲しい。春日井智樹という一人の人間を、この黄金竜ウシパチャカスナは欲しています」

 

 

 

 

 

 

 

 

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