リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる 作:SIS
訳が分からなかった。
思わず、口を開いて唖然とする。
「……はい?」
今のは。俺の勘違いでなければ。その。
……愛の告白という奴では、なかったか?
困惑したまま硬直していると、アイリーンさんは聊か挙動不審に視線を逸らし、髪をくるくると弄びはじめた。その白い頬が心なしか紅潮している。
「さ、流石にあらたまっていうと照れますね……」
どうやら勘違いではないらしい。
いや、でも。
「なんで???」
俺の感想はそれに尽きる。いやだって相手は神様である。破壊神だか何だか知らないが、あっちでは何百何千という信徒がいたような存在だ。男が欲しいならそれこそ選り取り見取りだったはずである。
それがなんで、ちょっと迷宮に潜ってるだけの、俺みたいな冴えないおじさんが欲しいというのか?
「もっとマシな相手いくらでもいると思うけど……」
「む。もしかしなくても回りの女性からの誉め言葉、社交辞令だと思って無視するタイプですね貴方。そういうのよくないですよ」
そしてお決まりのお小言を神様にまで貰う。なんでよ。
「とはいえ貴方様の困惑もわかります。なので順を追って説明しますと、あれです。結局私は戦いの神なので、この世界の人間の感覚がやっぱりよくわからないんですよね。なので、我々にも理解がありこの世界の事をよく知っている貴方を配下に加える事で、世界運営を効率的に行いたいのですよ。その条件を満たしているのはこの世界で貴方様ただ一人。これはわかりますね」
「あ、ああ……」
それならわかりやすい。
この世界でも宗教はあるが、本気でそれを信じてる奴は……居ない事はないが日本には少ないだろう。そしてそれらは、自らの信じる宗教を信じているのであって、神、という概念をグローバルに信じている訳ではない。というか宗教家にとって多くの場合、他の宗教は敵だ。相容れない。
が、俺はガンドレイクを通して他の世界が存在する事、そしてそちらに本物の神が居る、という事を嫌という程思い知らされている。そんでもって小市民の一人であり、一般人の感覚は分かる方だ。
「でも政治家に取り入ってたんだから、そいつらを利用すればいいんじゃないのか。俺はあくまでただの市民だぞ? 視野も思考も狭い訳で、世界運営だなんて大きな話についていけるような助言はできやしないぞ」
「いや私も最初はそう思って近づいたんですけどね……彼らは駄目です。ダメダメです。いやマシなのも居るんですが、だからこそ簡単には入り込めなくてですね……」
「あ、そう……」
まあ実際黄金竜がやろうとしているのは独裁オブ独裁だから、そりゃあ政治家とは相性が悪いか。
「あと単純に気に入りました、貴方の事。いやあ私がこんなに惚れっぽいとは思いませんでした、人間の女に化けたのは初めての事だっていうのもあるんですが、うん」
「えぇ……」
「だって貴方様、本当の意味で私の事を嫌ってないでしょう? 黄金竜という破壊神が自分達と相いれない事を知りながら、それはそれとして異界の掟には敬意を払う。私達の世界には無かった考えです、その柔軟性は。平和ボケだなんだと言う者もいるでしょうが、それは黄金よりも希少な価値観だと私は感じました。故に欲しい。私を危険な炎と知りながら、それを悪戯に消そうとはしない貴方様の有り様が」
語るアイリーンさんの紫色の瞳は、病的な熱にキラキラと輝いていた。
ええいガンドレイクといい、どうしてこう厄介なのに好かれるんだ俺は? 別に珍しい考え方ではあるまいし!
「貴方様にとっても悪い話ではないはずです。上手く私を乗りこなせば、この世界の人民に対する被害は大幅に抑えられるし、それは私にとっても望ましい事。なんなら、私の元で崩壊した秩序を貴方の好むように再構成したってよい」
「…………」
「この世界の不完全さ、歪さ、至らなさによって苦しんできたのでしょう? その怒りを、失望を、憎悪を、剣として私の元で存分に振るってもらいたい。さあ、ほら。どうか、私の手を取って……」
俺に向かって差し伸べられるアイリーンさんの手を見る。
……確かに悪くはない提案だ。黄金竜は誰に対しても平等に振舞う。平等に、冷酷に、酷薄に……だけどその間に俺が入れば、人間よりの考えに修正できるかもしれない。俺の価値観、俺の道徳で、世界を運営する立場になれる。
早い話がこの世界の王だ。魅力的な誘いである事は間違いない。彼女にその能力があるかないかで言えば、それも疑う余地はない。
一人の人間として、男として、この申し出を断る理論的な理由はない。
ない、が。
「悪いが、その手は取れない」
「……え?」
俺の拒絶に、なんだろう、アイリーンさんは酷く傷ついたような顔をした。
断られるとは思っていなかったのだろう、震える声で問い返してくる。
「どうして?」
「結局それは、切り捨てられる側が変わるだけだからだ」
俺は、彼女の背後、真っ暗になったスクリーンを見る。
黄金竜に劣悪、劣等と断じられ、迷宮に葬られた政治家や報道陣。黄金竜がああも侮蔑を露にするのだから、まあありていにいって悪徳政治家だったのだろう。正直、俺の価値観でもロクでもない人間達ばかりであり、彼らがのうのうと大手を振ってやりたい放題している現実に歯噛みした事だって一度や二度でもない。
だからって、殺されていいはずがない。
「俺は、弱い者や失敗した者でも救われる世界が欲しいだけだ。黄金竜の側にたったとして、ただ視点を変えて、立場が変わった者達を切り捨てるだけじゃこれまでと何も変わらない」
「それは……ですが……っ」
「例えこの世界が俺を苦しめてきたのだとしても。俺はその中で、こうありたい自分を目指して生きてきた。それまでの全てを、裏切る事はできない」
そうだ。
巴さんにはかっこつけていったけど、俺は結局、遠くに見えた光を目指して、辿り着けないと知りながら地面を這いつくばる蟻にすぎない。
だけど、蟻には蟻の矜持がある。
それがどれだけ愚かな選択だと分かっていても、道を変えれば幸せになれると知っていても。
きっと俺は、変えた道の先で後悔をするんだろう。
「ありがとう、すまない。俺は多分、馬鹿野郎だ」
「…………」
アイリーンさんは、俺の拒絶に俯いたまま、差し出した手を引いた。
いや本当に、我ながら馬鹿な事をしているというか……その、うん。
破壊神の告白を断るとか、その場でバッラバラにされても文句を言えないよなぁ……あは、あはは、あはははは………………どうしよ。
今更ながら、冷や汗がどばっと噴き出してきた。
「ふ、ふふふ、ふふふ……」
「ひっ」
小さく哂いだしたアイリーンさんに、ぎょっと肩が跳ねる。
どうやらとんでもなくお怒りの様子。ブチキレすぎて笑いしか出てこないって、あるよね。
死ぬ。確実に死ぬ。殺される。
あ、あわわわわ。
「あ、いや、その、えと、あーと……」
「ふ、ふふふ、ふふ。いえ、こんなに愉快な気分になったのは存在してから初めての事です。ええ、本当に。……ええ」
ものすごく不穏な事を言いながら顔を上げるアイリーンさん。その瞳は、内側から漏れる光にギラギラと輝いている。
笑みとは本来攻撃的なものである、という言葉が頭をよぎった。
「まさか、神直々の愛の言葉を断られるとは。流石です、智樹様。ますます貴方の事が欲しくなりましたわ。なので、手段はもう選ばない事にします」
「え……わ!?」
突如、視界がスライドする。
気が付けば俺は天井を見上げていて……その間に、ぬっとアイリーンさんの顔が割って入った。天井の照明に逆光になった彼女の顔は影になってよく見えてないけど、その目が眩く光っているのがよく見える。
「私も神ですので。人間一人の心を縛り付けるぐらい、訳はないのですよ?」
「え、ちょ、ま、それって洗脳……」
「ええ。私としても不本意です、出来れば智樹様には智樹様のまま、私の傍にいて欲しかった。……でも仕方ありませんの。神直々の勧誘を断る、貴方様が悪いのですからね?」
ぺろり、と唇をなめる仕草。そして彼女が、そっと俺に顔を寄せてくる。逃げ出そうとするも、肩にとんでもない激痛が走って身動きできない。彼女の指が万力のように肩を押さえつけ、腰の上に馬乗りになった細い脚は鋼鉄のボルトのようにびくともしなかった。
「さあ、智樹様。永遠の誓いの口づけを……」
寄せられる顔から必死に遠ざかろうとするが、床に押し倒されているのではそれも限界がある。
どんどん、視界一杯に彼女の顔が近づいてきて……。
だ、駄目だ、これも年貢の納め時……?!
「ええい、トモキから離れんか、このアバズレがぁーーーー!!」
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