リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる 作:SIS
銀色の閃光が、目の前を奔る。
体を戒めていた圧力が消え去り、俺は茫然としながら身を起こした。
その眼前に煌めく、絹糸のような銀色の髪。
「がん、どれいく……」
「無事か、トモキ!?」
久方ぶりに見るガンドレイクの顔。肩越しに振り返るその静観で美しい横顔に、らしくもなく心臓が跳ねる。
何を考えてるんだ、俺。相手はガンドレイクだぞ? でも……。
混乱する感情をなんとか押さえつけて、俺はコクコクと頷き返した。
「あ、ああ。多分無事だ。洗脳とかはされてない」
「よしっ」
「…………大勇者ガンドレイク。まさか、貴方の到来を鬱陶しく思う日が来るとは思いませんでしたよ」
そこに割って入る、地の底から響き渡るような怨嗟の声。
アイリーンさん……否、黄金竜ウシパチャカスナ。
彼女は顔を押さえるようにして床に片膝をついた状態で、俯いたまま言葉を紡ぐ。先ほどまでの柔らかい雰囲気はどこへやら、今はまるで空がのしかかってくるような圧力さえ感じた。
ひぃ、と身をすくませる俺の前に、ガンドレイクが割って入る。
彼女はチャキ、と大斧を構えて圧力に怯む事なく黄金竜に言い返した。
「そういうそちらこそ、人の男を横から掠めとるような真似をするとは、落ちぶれたものだな!」
「……ふ。お前のものではあるまい? そういう事は寝てから言え、寝てから」
「ううううううううるさい! だ、大体そういうそっちはどうなのだ! 振り向いてもらえないからって洗脳するとは情けない奴め!」
ぶわー、と毛を逆立てて斧をぶんぶん振るガンドレイク。勇ましいのはいいけど完全に言い負けてる側の反論では、それ?
あとその論調でいくと俺はとてつもなく居心地が悪いというか分が悪いんだが?
案の定、すっくと立ちあがった黄金竜はすっかり威勢を取り戻したようで、落ち着いた様子ですっと髪を梳く。紫色の瞳が、余裕綽々の流し目でガンドレイクと、そして俺を見る。
「それならばこちらは問題ない。ええ、全くもって」
「………………トモキ?」
「いやいやいや今はそんな話してる場合じゃないだろ????」
肩越しに振り返るガンドレイクの顔にはおよそ感情というものが抜け落ちていた。このままではたまらない、と慌てて話の軌道修正を図る。
幸いそれには両者ともに異存はなかったようなので、おかしな方向にはしり始めていた雰囲気は再び緊張感を取り戻した。
「む、それもそうか。それにしてもまさか、人に紛れてこのような事を目論んでいたとは……」
「ふ、何故このような事を? という事を聞かれなくて助かる。私の事はよく理解して頂けているようだ」
「だが貴様の野望もここまでだ! ここで貴様を討ち、この世界の混迷を終わらせる……覚悟!」
言うが早いか、ガンドレイクの姿が銀色の暴風と化して吹き荒れる。一瞬で間合いを詰めた彼女が大斧を振りかぶり、ドレス姿の黄金竜に叩き込んだ。
一瞬後の惨事を想像し、思わず目を閉じる俺。
だが。
「全く、嘗められたものだな?」
「ち……」
耳を劈く金属的な高音。つられて目を見開くと、信じがたい光景が目の前で繰り広げられていた。
体格差を埋めるべく、恐らく天井を蹴って空中から切りかかったのであろうガンドレイク。その大斧が、素手の黄金竜によって受け止められていた。
いや、ただの素手ではない。ドレスから露出した繊手、白く艶やかなその肌が、今は黄金色の鱗と純白の鉤爪によって武装されている……!
「私は、戦いの神だぞ?」
一言告げて、彼女は力任せにガンドレイクを突き飛ばした。吹き飛ばされたガンドレイクは空中でくるりと一回転して着地するが、その後を追う様に雷撃が走り、さらに彼女は回避するべく退避を余儀なくされる。
何もない周囲の空間からバリバリと電撃を放ってみせた黄金竜は、十分な間合いを稼いだと見るや矛を収めた。
その間、俺は何もできずに状況を見守るしかできない。
くそ、結局パワーアップしても凡人は凡人、という事かよ……。
歯噛みしていると、ちらり、と黄金竜が紫色の瞳で俺を見た。
「それでよい。そこで思わずガンドレイクを助けに駆け寄るようであれば、失望して黒焦げにしていた所だ。正しい選択をしたな、勇者よ。褒めて遣わす」
「は、はあ……」
「はん、物は良いようだな。自分の思い人が他の女に靡く様を見せられたら嫉妬で何をするかわからない、と素直にいったらどうだ……にぎゃああ!?」
バリバリバリー。
先ほどの数倍の電撃を放ってガンドレイクを追い散らす黄金竜。図星だったか……。
雷撃を放ち、ふぅふぅ、と息を乱れさせる彼女は、んっ、と息を整えて澄ました顔を取り繕う。
「をほん。まあ、こうして大勇者ガンドレイクに駆け付けられたという事は、余興もここまで、という事だな。名残惜しいが、本来の目的に専念させて貰う」
「黄金竜……アイリーンさん! この世界を一体、どうするつもりだ!?」
「…………迷宮を統合し、日本各地にゲートを開いても、このままでは私の望む時代はやってこない。この地の為政者達は思いのほか有能だ。じきに混乱を収め、危険なゲートを管理し、迷宮を制御下に置くだろう。それでは駄目だ、私の望む混沌は、もっと切羽詰まったもので、もっと身近なものでなければならない。故に。迷宮を広げる」
……なんだって?
「これより私は、内部から迷宮を制御し、光の範囲を拡大します。住まう大地が呑み込まれれば、否応にでも人は戦わざるを得ないでしょう。最初は嫌々でも、手にした黄金に魅入られれば、人は望んで戦うようになる……」
「日本を……迷宮に飲み込むつもりか!? そんな事したら……!」
「ええ。貴方様の望む平穏は二度と戻らないでしょう。それが嫌ならば、迷宮の中にまで追ってくるがいい。この黄金竜を止める事を望むならば……!」
す、と黄金竜が窓に手を向けると、ひとりでにスクリーンが燃え上がって消滅し、窓ガラスが粉微塵に割れ砕ける。その向こうには、白く輝く光の柱。
ドレス姿の彼女は窓枠に足を駆けると、ひらりと外に身を投げ出した。その姿が、光に包まれていく。
「ま……っ」
「迷宮の中で待っていますよ、智樹様」
伸ばした手は遅すぎて。
俺の目の前で、彼女の姿は完全に迷宮の中へと消えていった。
「……アイリーンさん……」
「トモキ。何やら色々あったようだが、ここは一旦引こう。奴の言葉が正しければ、この場所は非常に危険だ。一旦、皆と合流しよう」
「皆?」
「うむ。トモエーンや蘭、御堂さんも一緒だ。こちらもまあ、色々あったのでな」
そうか、みんな無事か。それは良かった。
ちょっとした懸念事項が解消されて安堵する。
「わかった。案内してくれ」
「うむ、ついてこい」
斧を肩に担ぎなおして、観覧室を出ていくガンドレイク。その後ろ姿に続きながら、俺はもう一度だけ、外に広がる光の柱へ振り返った。
黄金竜……アイリーンさん。
彼女は確かに俺達と相いれない存在だった。だけど、それを理由に彼女の思慕を断った俺は、果たして正しかったのだろうか? 少なくとも彼女は、間違いなく本気だった。
勿論、間違った事をしたとは思っていない。だけど、現実は正しいか間違いかで振り分けられるほど、単純じゃない。
俺は……俺個人という人として、彼女を……。
「いや。それこそ、今考える事じゃないか」
俺の至らなさ故に、そのような迷いを抱いてしまっているだけだ。後悔を振り切って、俺はただ、ガンドレイクを追いかけた。
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