リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる 作:SIS
「こっちだ、トモキ」
「おいおい、ちょっと待ってくれって」
タタタタ、と軽快に走るガンドレイクの背を追いかけて、首都高を走る。
当然ながら歩行者進入禁止のエリアだが、今は車の影一つ見当たらない。まあ言うまでもなく、でかでかと光の柱が東京ドームから聳え立っている状況では当然自主的な戒厳令状態だ。その前から、政治的な動きはあったみたいだしな。それを画策した当人達は今頃あの世に旅立っているんだが。
とはいえ、世の中に無関心な東京人にしては(偏見)迅速な対応だ。多分、今向かっている先で待機している人達の働きかけもあったんだろう。
「おっ、あれか」
向かう先、道路の横に黒いトレーラーが止めてあるのを見て、俺は意気揚々と近づいた。ガンドレイクがコンコン、とコンテナの後ろにあるドアをノックすると、ガチャリと扉が開かれる。
中は真っ暗だ。
「へー、成程……っておわああ!?」
無警戒に覗き込むと、暗闇の中から伸びてくる無数の手。それらにがっしりと捕縛されて引きずり込まれる。後ろで、ガチャリ、とドアが閉ざされる音がした。
目をぱちぱち、と何度か瞬かせると、暗闇に慣れてきた視界に輪郭が付く。
そこにいたのは……。
「春日井さん!」
「よかった、無事?!」
「巴さん、獅子川ちゃん!」
暗闇の中で待機していたのは、毎度おなじみの美女二人。俺の肩とか襟とかホールドしていた彼女達の手を優しく振りほどいて、改めてトレーラーの中を見渡す。
トレーラーの内部は、なんていうか特撮とかで見る特殊部隊の臨時指令所みたいになっていた。真っ暗なな中に、光度を落としたモニターがいくつも配備されており、各所の監視カメラらしきものの映像が流れている。他にも用途の分からないグラフが表示されていたり、高速でプログラムらしき記号がスクロールしていく画面だったり。そのモニターの光を受けて、黒尽くめのガスマスクの人物が振り返る。
個人的な記号、特徴はゼロ。だがその所作からすぐにそれがだれか俺は気が付いた。
「あ、御堂さん、ちーす」
「はい、こんにちは、春日井さん。ご無事で何より」
すっかり顔なじみの役員さんに挨拶をして、俺はこの暗闇の中でもキラキラ輝く銀髪に振り返った。
「なるほど。御堂さんと連絡とって保護してもらってたのか」
「うむ! まあ実際の所は向こうからコンタクトを取ってきたのだがな」
「どうやって? お前携帯も持たずに逃げたらしいけど」
それ自体はまあ悪くない判断だ。政治的権力者を敵に回した以上、携帯を持っていたらGPSやらなんやらで追跡される。だがそれでは向こうからも連絡が出来ないはずだ。
単純な疑問に首を傾げると、ガスマスクの御堂さんが苦笑する気配があった。
「あれだけ大立ち回りしていたら嫌でも居場所が分かりますよ。凄かったんですから」
「……器物損壊とかで全部終わった後あらためてしょっぴかれたりしません?」
「ええと、そのあたりははい。なんとかしますので……」
成程。そのレベルで大暴れしたのか。
頭痛を覚えて頭を抱える。当の本人は、隣でドヤ顔しながら胸を張っていたが。
「ふふーん、頑張ったのだ!」
「そ、そうか……まあ、何にせよよく獅子川ちゃんと巴さんを守ってくれたガンドレイク。ありがとう」
「ふふーん!」
でもまあこういう時は感謝を示すのが一番大事だ。素直に礼を言うと、暗い中でも彼女が胸を張ってすぴすぴ小鼻を膨らませている様子がよく分かった。まあ分かりやすくて助かる。
くしゃくしゃその頭を撫でていると、御堂さんが何ごとかをインカムに呟き、どるん、とトレーラーが動き出すのが分かった。軽く揺れるコンテナに、おっとっと、と俺は床に座り込む。
「大丈夫ですか、春日井さん?」
「ああ、ちょっと色々あったからな。大丈夫」
獅子川ちゃんに軽く手を振るが、実際の所結構つらい。
安心した途端にどっと襲ってくる疲労感。まあ色々あったからなあ。
ふいー、とスーツの襟元を緩めていると、御堂さんがしゃがみ込むようにして視線を合わせてくる。
「さて。再会を喜んでいる所申し訳ないですが、移動しながら色々話を聞かせてもらいますか」
「うぃっす、じゃあどこから説明したもんかな……」
「こちらでは一応、ホテルの一室に春日井さんが監禁されていた事までは掴んでいます。……まあ監禁というより歓待というべきですかね? なかなか手厚い待遇だったようで」
うげ。
御堂さんの含みのある言葉に、コンテナの中の空気がビリッ、とする。
これは、あー。もしかして、色々バレてる……?
「……春日井さん?」
「歓待って、どういうことかにゃー?」
「いやあ、あくまで保護みたいな扱いだったってだけで、うん。お菓子とか食べ放題だったとかそういう感じで……ああそうそう、御堂さん! 警察のアレ一体何だったんです? いつから日本の警察はあんな言いがかりが許されるようになったんですか」
じとりとした女性陣の視線に、あわてて話題転換を図る。そもそも、警察が無茶苦茶してきたのが事の始まりだった訳で。
冷静になってから思い返したけど、多少独裁管理の色が強くなった現代日本だって、警察にあそこまでの横暴は許されてなかったと思うけど?
あらためて抗議すると、御堂さんは小さく肩を竦めて首を振った。
「それに関しては同じ公僕として謝罪します。元々、警察内部で冒険者の武装許可に対して酷く不満を抱いていた過激な派閥があったのですが、どうやら彼らに文字通りの鼻薬が嗅がされていたようですね。裁判所からの書類もなく、独自に決めつけで行動を起こしたようです。彼らからすれば、対象は黒であり捜査すれば証拠が出てくるのだから、書類など後回しで結構、という判断だったようですね」
「……うちは真っ白ですけど?」
「そんなものどうとでもなりますよ、適当に持ち込んだ証拠品をその場にぶちまけておけばいいんですから。警察だって人間ですからね、平気で間違った事もやります。本来ならそんなのいくらでも突っ込みどころがあるんですが、今回はもっと上までトチ狂ってたおかげで後手後手に回らざるをえませんでした、申し訳ない……」
「おうふ……」
どうやら話を聞くに、黄金竜ことアイリーンさんはかなり手広くやっていたようだ。行動自体はガサツで稚拙だが、有無を言わせぬ行動力で目的達成まで持って行った辺り、戦略は遅巧より拙速を尊ぶを地でいっている。そのあたりは流石、戦の神という所か。
平和ボケした政治家どもなんぞ、手の上で胡桃を転がすようなものだったろう。
「それより状況について詳しく教えてください。あの光の柱はなんなんです?」
「あーっと。……気を確かにもって聞いてくださいね?」
ようやく本題に入り、俺はアイリーンさんから聞かされた事実について御堂さん達に説明した。話が進むにつれて、暗闇でもはっきりとわかるほど巴さんと獅子川ちゃんが顔を青くする。
御堂さんはガスマスクごしなのでその表情は分からないが、手が小さくぷるぷる震えていた。
「……迷宮を、統合?」
「しかもそれが広がって、日本を飲み込む……? ははは、かすがっち、流石に今冗談を言うのは空気を読めてないニャー?」
「冗談だったらよかったんだけどねえ……」
俺も苦笑いするしかない。状況は正直いって、最悪を三歩ぐらい上回っている。
正直、今から挽回できるのかすら怪しい所だが、何とかするしかない。とはいえ、俺のような一般人、何や役に立てるのかも怪しいというか、でしゃばっても仕方がない。
あとは御堂さん達、プロにお任せするとしよう。
「まあ、俺から話せる事はこのぐらいです。何か役に立てればいいのですが……」
「役に立つというか……ええと、ちょっと待ってください。本部と情報を共有します……」
頭を抱えるようにして、モニター類の前に戻る御堂さん。たちまち小声で何ごとかを呟き始めた彼女から視線を戻すと、目の前にこちらを覗き込むガンドレイクの顔のドアップがあった。
「おわ! ……ど、どうした?」
「……ところでだな。後回しにしていたのだが、トモキ。……随分と、あの女……黄金竜と仲がよかったようだな?」
「え、ええと……」
しまった。
どうやらあの場でも意味深なやり取りを忘れてなかったらしい。
これまでは緊急事態故に棚上げにしていたけど、然るべき人物に情報を伝えた事でとりあえず義理は果たした、と判断したのか。
そのあたりは流石の判断力だけど、正直忘れていて欲しかった。
「あの女ぁ……?」
「え、どういう事ですか? 春日井さん、悪い人達に捕まってたんですよね……?」
知り合いのお二人にもなんかヤバ気な空気が立ち込める。
え、えと。どうしてそんなにお怒りになっているので……? いやまあ自分達を庇って捕まった知り合いが、どんな酷い目にあってるのかと思ってたらお楽しみだったらしいと聞かされたらそりゃ不機嫌にもなるだろうけど……。
「え、ええと、それはその……ほら! 俺も騙されたっていうか! 綺麗な美人のガワを被ったトカゲに言いくるめられたというか……!」
「ほほう? 綺麗な美人のガワ……ね? 私もそうなのだが?」
ずずい、とガンドレイクがより一層距離を詰めてくる。
うげげげ。
いやでも、なんか近くで見ると、やっぱコイツの顔立ち美人だよな……。香水もつけてないのにいい匂いするし……。確かにガワは滅茶苦茶美人で……でも中身はガンドレイクだし……いやでも可愛いのは事実だし……。
……あれ?
おかしいな? 前はこの距離まで近づかれると生理的なサブイボが……うん?
「? トモキ、どうした?」
「ななななななんでもないぞ、いやいやいや、うん! あははは、そうだな、お前見た目は美女だしな! はははははは!」
「?? おい、どうした? なんか変だぞ? 体温も高いし、おかしいぞおぬし。もしかして、何か薬でも盛られたか? それとも体調不良?」
ぐい、っとガンドレイクがおでこをくっつけてくる。
体温高めな少女の存在を間近に感じて、鼓動が跳ねあがる。
こ、これは。
俺は一体どうしちまったんだ!?
が、ガンドレイクにまさか……トキメキを感じている!?
だってガンドレイクだぞ!? あんなムキムキマッスルメンで……いやでも今のコイツはまごう事なき絶世の美少女だし……って、ぬああああ!
煩悩退散!!! 色是空!! なむあみほうれんげーきょー!!
ぐぐぐい、とガンドレイクの柔らかな肩を押して距離を遠ざける。
「お、俺は大丈夫だから、な? な?」
「む、そ、そうか? とてもそうには見えないんだが……」
「……かすがっち? なんか変だよ?」
横から、巴さん達の突き刺さる視線をビシバシ感じる。俺はだらだら冷や汗を流しながら、コンテナの壁際に這って後退り、愛想笑いを浮かべて手を振った。
「い、いやー、ちょっと走ってきたから熱くてね。汗臭いのもなんだから、うん、ちょっと距離をおかせてね?」
「そ、そうですか……?」
「そう、そうなの!」
とりあえず、なんとかこの場は誤魔化せたようだ。明らかに納得してないけど、うん。そういう事で。
そんな遣り取りをしていると、ふいに「えっ」という高い声がコンテナに響いた。
目を丸くして、皆で声の主に振り返る。
俺達の視線を一身に受ける声の主。モニターの前に屈みこんでいた彼女は、ゆっくりとこちらに振り返りながら、困ったように頭をかいていた。
「どうしました?」
「え、ええと……」
御堂さん。
迷宮管理課の役員……というかエージェントである事をもはや隠していない彼女は、困惑したようにもごもごと言葉を選びながら、ややあってその事実を俺達に伝えた。
「あの、ですね。対策本部に、関係者を自称する方が訪れてまして……」
「彼女は自分を“女神モルガン”と名乗り、春日井さん達への面談を求めている、と……」
「え」
「ぬ」
思わず、俺とガンドレイクは顔を見合わせた。