リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる 作:SIS
女神モルガン。違う世界の女神故、こっちの世界の人間には礼儀を見せるが……その反面、自分の世界の存在にはこの通り、冷酷無比、慇懃無礼、暴虐にして暴君。あの黄金竜が白夜の化身であるならば、彼女は氷と夜の女神。絶対なる法の化身であり、恐怖によって民草を律する者。
彼女にとって勇者ガンドレイクとは自分の意思を代行する存在であると同時に下僕に過ぎないのだ。
早い話が超怖い女上司である。くわばらくわばら。
「こ、此度は我が無力によりこのような事態を招いてしまい、申し開きようもなく……」
『無力? それは力を尽くした者に許される言い訳だ。貴様がこの世界でどのように過ごしていたか、私が把握していないとでも侮ったか、馬鹿ものめ。異世界の暮らしに現を抜かし、日々遊び惚けていたではないか?』
「あわわわわ……」
蛙のように這いつくばったまま、ぷるぷる震えるガンドレイク。一方女神様は、人目が無ければそのまま下僕の後頭部を踏み抜きそうな怒髪天である。怖い。
とはいえ、状況が状況である。ここでガンドレイクの鼻っ柱を粉微塵にされて戦力外にされてしまうのは困る、俺はおっかなびっくり仲裁に入る事にした。
「あの、女神様。状況が状況なので、そういうのはまた今度ゆっくり……」
『それは心配ご無用です。この部屋の時空間は通常のそれから切り離されています。ここで多少時間を潰しても影響はありません』
「えっ」
『一刻の猶予もないと言ったでしょう。その状況で個人的な所要に時間を潰すほど私は愚かではありませんよ?』
あっさりとんでもない事を言われて言葉に詰まる。いやでもまあ、黄金竜が迷宮生み出すんだから別の神様は時間ぐらい操ってもおかしくはないかあ。
とはいえ、女神様の気勢を削ぐ事には成功したらしい。彼女ははあ、と小さくため息をついて、少しだけ怒気を収めた。
『まあよい。百歩譲って、此度の一件、黄金竜が上手だったと認めなくもない。流石は戦いの化身、刃を交えるだけが争いではない、か。悔しいが、手段を択ばぬのならばあちらに一日の長がある』
「は、ははー……ご慈悲、有難く……」
『……何を、勘違い、している? 私が機嫌を損ねているのはこの一件だけではない』
ビキビキビキ、と女神の足元に霜が広がり、俺達はそろって部屋の隅に下がった。
気のせいじゃなくてマジで部屋の気温が低下している……?! 思わず後退る俺の背後に、巴さんと獅子川ちゃんが身を縮こまらせる。まって、盾にしないで。
そんなこちらを他所に、女神の怒りはますますヒートアップする一方である。
『ガンドレイク。貴様、まだ処女だな?』
「ぴっ」
えっここでその話に飛び火するの?
『この世界で復活した黄金竜ウシパチャカスナ、その神体を一度討伐した時。それに多大なる貢献をした勇者春日井への報償として、貴様には我を原形としたその体を与え仕えるように命じた筈だな? それがどうして今だに褥(しとね)の一つも供にしておらぬ? まさか、我の体に女性としての魅力が足りていない、そのように申すつもりか?』
「そ、そのような事は毛頭なく……!」
なんか妙な話になってきたぞ……。
困惑していると、背後でひそひそと女性二人が囁き合っているのが聞こえてきた。
「……え、もしかしてあの女体化したって設定、マジだったん……?」
「というか……報酬として女性を……? 春日井さん……?」
「ちょ、ち、違うんだって、勘違いだ!」
なんだかとんでもない冤罪をかけられそうになっていたので慌てて弁明する。
「さ、最初は金銀財宝をやろうって話だったんだよ! でも今時、出所のよくわからない財産なんて下手したら没収されかねないどころか、最悪両手に縄が回るし! かといって異世界の神様に地位も名誉も与えられないだろう? だから報酬は辞退したんだけど、そしたらあっちが勝手に……」
『然り。戦士の財産とくれば酒池肉林、金銀財宝、そして優秀な子を産む見目麗しい女。我が神体の模写であれば孕み腹として申し分はなく、その内面が我が戦士とあらばさらに申し分はない。黄金竜の痕跡を追跡させる使命と、勇者への報酬を兼ねる素晴らしいアイディアでしょう? ガンドレイクも乗り気でありましたし、何よりこれまで戦士の権利として女を孕ませてきた側です、孕まされる側になった所でそれを拒否はしないでしょう』
「「…………」」
女神様の言い分に唖然とする女性二人。そうだよね……異文化コミュニケーション難しいよね……。ちょっと価値観が違いすぎる。理解はできなくもないんだけど、理解と納得はまた別のものなんだよなあ。
黄金竜よりかはマシだけど結局、こっちの世界から見ると蛮神の類であるのは変わらないんだよね。あとついでにいえば、ガンドレイクをサポート無しでこっちの世界に放り込んだ張本人でもあるし、色々とやる事なす事が雑で豪快なのよねこの女神……。
「まあそういう訳で分かってくれるかな……? 俺の気持ち……。先日まで一緒に組んで仲良くやってたムキムキマッチョメンがぷにぷに美少女になってた衝撃……」
「ああ……うん……」
「それは……その……ええと……」
俺の心からの訴えに、女性二人はめちゃめちゃドン引きしながらも納得の意を示してくれた。良かった、これで俺の社会的立場は守られた。
最も、女神様は納得していただけなかったようですが。
『……? 内面はともかく、ガワは至上の玉体のはずです。一体何が不満なのですか?』
「その内面が問題なんです……ええと、とにかく。それについてはガンドレイクが悪い訳ではないので、どうかお怒りをおおさめいただきたく……」
「と、トモキ……!」
なんとか女神様の説得を試みる。そんな俺を、ガンドレイクは涙で潤んだ瞳ですがるように見上げていた。ええい、やめんか。ちょっとかわいく見えてくるだろうが……いや、おかしいな。気持ち悪く思うのが普通では?
どうにも精神と情動の間にズレを感じて、思わず額を押さえる。なんだ、さっきからおかしく……いや随分前からおかしいか。アイリーンさんにまんまと騙されていたのにそれに違和感が無かった訳だし……。
「……?」
『ふむ。まあ、善いでしょう。それと勇者春日井、どうやら貴方には黄金竜の毒が回っているようです。神の言葉は、人の理性を蕩かせる。しばらくは立ち振る舞いの脇に気をつけるように』
「怖すぎる!? ちゅ、忠告感謝します……」
やっぱそういう能力があったか……。しかし理性が低下しているといわれても、簡単には自覚できないのがいくらなんでも厄介すぎる。気をつけよう。
『周りの者達も、“気を使ってやる”べきでしょう。……言いたい事は分かりますね?』
そういって、チラチラと女性陣に目くばせする女神様。神妙に頷くガンドレイク達……いやあ、俺もよい仲間を持ったね。うん。助かる。
『……さて、猶予は作ったと言え無駄話に興じるものでもない。此度こちらに来た目的を果たす事としましょう』
そういうと女神様は右の手のひらを掲げると、ぼぅ、と光を生じさせる。一瞬後、彼女の繊手には小さなコンパスが握られていた。
「それは?」
『黄金竜は迷宮の中で、空間の拡大に専念しています。この状況を打開するには、奴を探し出し無力化する必要がありますが……複雑で奇怪な構造となった今の迷宮を踏破するのはほぼ不可能。このコンパスは、迷宮に潜む奴の場所を指し示すものです。ただ方角を示すだけではなく、概念的にも奴との距離を縮めてくれるでしょう。これを用いて、奴を追うのです。この世界の守護者に渡しなさい、そちらの技術でも複製できるように作っています』
「ありがたい、助かります……!」
恭しくコンパスを拝領する。これでなんとかなるかもしれない……!
跪いて見上げるこちらに鷹揚に頷き返す女神。その姿が、まるでノイズの入った映像のようにざざっと乱れる。
これは……。
『どうやら、これ以上こちらに留まる事は難しいようです。私が手助けできるのはここまで……後は、貴方達に任せます。再び巡り合えた時、吉報を聞かせていただけることを期待しております』
「はい! どうもありがとうございました、モルガン様!」
『では。ご武運を……』
その言葉を最後に、女神モルガンの姿は完全に消え去る。
後には彼女から託されたコンパスだけが残った。
「……よし! 御堂さんと早速打ち合わせだ!」
「あいさー!」
「なんか大変な事になってきましたね……」
それは今更の話だよ獅子川ちゃーん。