リストラ社会人、相棒の銀髪青眼色白美少女(元おっさん)とダンジョン配信に挑戦す!   作:SIS

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第七話 人助けはためにならない

 

 

 そして気が付けば、いつものようにどこかへ続く回廊に立っている。

 

 振り返ってみても果ては無く、前を向いても果てはない。

 

 ただただ、非現実的なまでにどこまでも続く道があるばかりだ。

 

「よーし、いくぞトモキ」

 

「へいへい」

 

 大股であゆみだすガンドレイクの後に俺も続き、歩きながら撮影機材をチェックする。

 

 相棒は肩に担ぐような、バズーカみたいな大型カメラ。マスコミ何かが使っているのと同じようなもので……正直、特別スポーツをしている訳でも鍛えた訳でもない元サラリーマンには重たい代物。

 

 とはいえ、デジカメみたいな玩具では迷宮内の撮影に耐えられない事もあるし、何より画質がよろしくない。配信するならまず撮影機材から、冒険者の鉄則だ。

 

 まあ、貸し出されてる撮影機材の中で一番安かったというのもあるのだが。旧型なので。

 

 と、ある程度進んだところでガンドレイクが足を止めて振り返って尋ねてくる。

 

「ところで、1層、2層の撮影はどうするのだ? 今日は3層の続きを撮るんだろう、とばすのか?」

 

「そうしたいのはやまやまだが、いつ撮れ高シーンがあるかわからないからな。今日もいつも通り、1層に入った所から撮影開始だ」

 

「りょーかい。じゃあ、ここからもう撮影を始めるか?」

 

 言うが早いか、ぱぱっとコートやドレスの裾を直すガンドレイク。その仕草も大分慣れを感じる。

 

「そうだな、そうするか。つー訳で、今日もガンドレイク先生、よろしくお願いします」

 

「むふふふふ! よろしくまかされた」

 

「そんじゃま撮影はじめますよー。せーの、3、2、1、アクション!」

 

 そんな感じで撮影開始。

 

 決めポーズと共にお決まりのセリフを口にして、ガンドレイクが背中を見せる。

 

 撮影が始まったので、さっきまでみたいな大股開いて闊歩するではなく、小さく歩幅を制限しての女の子歩きだ。

 

 そんでもって俺はその後をおっかけるカメラ役。コメントに時々「女の尻を追っかけてる」みたいな事を言われるけど、俺からすると誰が悲しくてお尻ふりふりしながら歩くおっさんの撮影をせねばならんのだ。

 

 さて、そうやってたどり着いた迷宮第一層の競合区域は、広々と広がる青い草原だ。1mほどの背丈の青草が生い茂り、その中に馬車が通りそうな道が網目のように広がる、一見するとのどかな光景。見上げると頭上には青空が広がっているが、太陽はどこにもない。

 

 そんな草原は見通しがよいので、ちょこちょこ他の冒険者がすでに探索を始めている様子が確認できる。

 

 中にはすでに怪物と遭遇し、戦闘状態に入っている者の姿も。

 

「おお、やっておるやっておる」

 

「朝早くからご苦労さんだな、まったく」

 

 この階層に出現するのは、現実の野生動物によく似た怪物達だ。

 

 青い毛の狼に、灰色の猪。数は少ないが、赤いリスなんかも出る。いずれも、狂暴化した野生動物、という感じでさほどの脅威ではない。

 

 が、そもそも猟師でもない元一般人が、殺意を剥き出しにしてくる野生動物相手にするのはかなりの覚悟が必要である。

 

 今3匹の狼と対面している冒険者達もそうだ。年の頃は20代ぐらいか? それなりにお金を用意したのだろう、装備は鉄の鎧に鉄兜とご立派だが、牙を剝いて唸る狼に明らかに腰が引けている。

 

 そして狂暴な怪物は、そんな怯えを見逃さない。

 

 ガウガウ、と前進しながら仕切りに吠えかける怪物の圧に押されて、冒険者達が後退する。

 

「ありゃ不味そうだな」

 

「うむ。ちょっと手助けしてくる!」

 

 だっと駆け出すガンドレイク。彼女は草原を瞬く間に駆け抜けると、今にも隊列を崩されそうな冒険者と怪物の間に割って入った。

 

「手助けつかまつる!」

 

「わ、わあ?!」

 

 文字通り飛び入った銀色の戦士、その斧が翻ると忽ち狼一匹の首が飛ぶ。

 

 先制攻撃で仲間を失った狼は、しかし戦意も高く二匹で挟み込むようにガンドレイクを迎え撃った。一匹が正面に回って吠えかける間に、もう一匹が無言で横に回り込み、一度草原に身を隠してからのアンブッシュ。なかなかの知性とコンビネーションだ。

 

 最も、その程度の小細工があの大戦士に通じるはずもないんだが。

 

『ガウゥウ!』

 

「ふん、よく見ていろ!」

 

 飛び掛かってきた狼の噛みつきを、敢えて左の籠手で受け止めるガンドレイク。ギリギリと食い縛られる牙を前に、彼女は背後で成り行きを見守っている冒険者達に視線を向けた。

 

「いいか、聞け。怪物といってもこの程度ならば獣も同然。そして獣は、ひっかくか噛みつくかしかできはしない。防具がちゃんとしているならば、一度敢えて受ける事で相手の動きを封じるのだ!」

 

「え、あ、おう」

 

「そして動きを封じたら、こう!」

 

 言うが早いか、彼女は手にした斧の峰? 軸? とにかく棒状の部分を狼の頭蓋に振り下ろすと、籠手との間に挟んで割砕いた。目と鼻から血を噴き出して崩れ落ちる狼。

 

 その死体には目もくれず、彼女は最後の怪物に向き直った。

 

「どうする? まだやるというなら、貴様も戦士の園に迎え入れられるだろう」

 

『グルル……』

 

 睨み合う事数秒。やがて格の違いを悟ったのだろう、狼は尻尾をさげてくるりと踵を返した。そのまま草原に飛び込み、姿を消す。

 

 しばらく警戒するが、再度襲撃してくる様子はなさそうだ。

 

 警戒を解き、斧を肩に担ぎ直す彼女の元に合流する。

 

「お疲れ、良い絵が取れたよ」

 

「ふんふふーん、だろう? 角度にも気を使ったのだ」

 

 自慢げなガンドレイク。ま、彼女の実力ならば、割り込んだ瞬間に狼達を鏖にするのも簡単だ。敢えてそうしなかったのは……。

 

「へいへい。それで、お前ら大丈夫か?」

 

「しゃ、謝礼は出ないぞ! 助けてなんて頼んでないからな!」

 

「そ、そうだそうだ。余計な事しやがって!」

 

 声をかけると、さっきまで固まっていた冒険者達が我に返り……口をついて出てくるのは、まあ身勝手な言い分ばかり。

 

 危ない所を助けられた自覚がないのだろうか? いや、流石にそれはないか。

 

 これもまた現代社会の闇、かな。

 

「別にそんなものは要求しないよ。ちょっといい感じの映像が取れたから、こっちは満足だ。安心しな、お前さん達の顔は出さない」

 

「し、信じられるもんかっ。何かあったら訴えてやるからな」

 

「それより、さっさと狼の毛皮を剥いじまったらどうだ。放っておいたら、他の怪物が寄ってくるぞ」

 

 俺の指摘に、冒険者達は顔を見合わせるといそいそと毛皮を剥ぎにかかった。

 

 その手つきはたどたどしい。やれやれ、それじゃ高くは買ってもらえないぞ。

 

「……ふん」

 

 まあ、これ以上お節介を焼く理由もない。俺はガンドレイクを促して、その場を離れた。

 

「残念だったな、せっかく仏心を出したのにあんな連中で」

 

「ん? いや何、気にはしてないぞ?」

 

 彼女の健闘を労うと、予想に反してガンドレイクは何やらやたらとご機嫌そうだった。意外だな、ああいう情けない手合いはコイツは嫌いだったと思ったが。

 

「ふふ、あらためてトモキはいい奴だなと再確認できたからな! 今は気分がいい!」

 

「???」

 

 なんでそこで俺の名前が出てくるんだ? よくわからん。

 

 ……まあいいか、コイツの思考回路が変なのはいつもの事だし。お互いそれなりに一緒にいるが、別に相手の事を全部理解する必要もなければ理解してもらう必要もない。

 

「機嫌がいいなら、まあそれでいいか。ちゃっちゃと2層に向かうとしよう」

 

「うむ!」

 

 それっきり、彼女は助けた冒険者に振り返る事もなく道を行く。

 

 今更一層にこだわる理由もない、さっさと次の階層に向かうとしよう。

 

 

 

◆◆

 

 

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