リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる 作:SIS
女神モルガンとの会話を終え、個室から出ると待っていた御堂さん達がぎょっとして振り返るのが見えた。
「か、春日井さん? 話はどうしたんですか?」
「え?」
妙な事を言われて一瞬考え込むもすぐに納得する。
そういえば時間の流れをいじくった、といってたな。もしかして外から見たら、俺達が扉を閉ざした直後に出てきたように見えてるのか。
実に便利な力である。ちょっと欲しい。
「そちらは大丈夫です。それより、これをどうぞ。女神モルガンからの贈り物……迷宮に潜む黄金竜の場所を示すコンパス、との話です。こちらの技術でもコピーできる、と伺いました」
「! ちょ、ちょっと失礼……」
俺が差し出したコンパスを受け取り、御堂さんは色々な角度から確認する。一方、その上司である室長さんは、俺達の様子……とくにげっそりと憔悴している様子のガンドレイクに目を向けて、何か一しきり頷いているようだった。
「……なるほど。そういう事か」
「?」
「いや何、神様というのはおっかないものだなと思ってな」
よくわからないが、何か勝手に納得されたらしい。説明の手間が省けて助かるが。
その間に、御堂さんはどうやらコンパスの検分が済んだらしい。北でも南でもない、しかし光の柱に向かって一定の角度を維持するコンパスに小さく頷き、それを胸に抱く。
「ありがとうございます、春日井さん。急遽、このコンパスを量産体制に入り、同時に協力者の募集をかける事にします。他に何か、連絡事項はありますか?」
「女神様の話によると、あまり猶予はないそうです。光の柱……迷宮のゲートの拡大に注意してください」
「……了解しました。各地に派遣している監視員に警戒を呼びかけます、彼らまで巻き込まれる二次災害になったらたまりませんからね」
小さく頷き、御堂さんはコンパスを手に走り去る。
さて。これで俺達の役割は大体終わりだ。これ以上はどうしたものか。指示を求めて室長さんに目を向けると、彼は重々しく頷いて口を開いた。
「申し訳ないが、しばらく春日井さん達には我々に協力してほしい。部屋を用意するので、そちらで待機していただきたい。状況の変化があったらまた連絡する」
「わかりました。皆も異論はないよね?」
「流石にねー。この状況でおうち帰りたーいとは言えないにゃー」
「私もです。家に戻った所で、建設的な責任の達成は難しいでしょう」
どうやら、女性二人も納得いただけた様である。俺のせいで巻き込まれたようなものなのに、本当につきあいの良い方々である。涙でちゃう。
ガンドレイク? こいつこそこの事態の関係者である、俺はどっちかというとそれに巻き込まれた側だ。配慮なぞ要らん。
「えぶぶ……」
「ほら、しゃんとしろガンドレイク。女神様がお前にクソ厳しいのは今日にはじまったこっちゃないだろ、その分俺が甘やかしてやるからしっかりしろ」
「ほ、本当か……? 本当に甘やかしてくれるのか……?」
おいおい。これはちょっと重症だな……。
頭を抱えてちょっと溜息をつき、俺はガンドレイクの手を取った。
「ほれ。いくぞ」
「う、うむ。……うむ!」
「…………ぬぬぅ」
「ふむ、なるほど……?」
そのまま、彼女の手を引いて指示された個室に向かう。
背後から二組の視線がぶすぶす背中に刺さるが、うん、気にしない気にしない。
そんなこんなで、ビルの一室に案内される俺達。
本来はオフィス用と思われる部屋だが、今は家具の類は壁際に寄せられて、いくつか毛布が積み上げられていた。その傍らに、見覚えのある装備一式を見つけて思わず俺の声が明るく跳ねる。
「お、おおっ。こいつは……」
「なんです、それ。……冒険者の装備?」
「そうそう。ちょっとアッチで依頼を受けた時に使ってた装備。ホテルの中から回収しといてくれたのかな」
そう、それは何を隠そう俺がアイリーンさんの依頼を受けて迷宮に潜った時に与えられた装備一式だ。いい感じのボディアーマーやスーツに、ナイフ、マスク付きのバイザー。これさえあれば俺だってお荷物にならずに戦える、はず。
ニコニコしながら検品していると、ふーん、と巴さんが横にやってきて装備を眺める。
「へえ。結構いい装備じゃん。……それ、新しい女からの貢ぎ物?」
「え? あ、いや、そういうもんじゃ……その、依頼を受けて迷宮に潜った時に与えられた装備っていうか……」
「ふーん。その割には随分嬉しそうな反応だったけど」
え、どうしたの巴さん。やけにつっかかってくるじゃん?
困惑しながら支援を求めて首を巡らせると、しかし帰って来たのはこちらを非難するような二対の視線。落ち込んでいたガンドレイクに、獅子川ちゃんまで冷たい視線を俺によこす。
「そういえば、黄金竜……いや、あの女との関係について聞いていなかったな、トモキ」
「へえ……やっぱり女ですか。だと思いました」
「いや、あの、その。……えぇ……?」
急に冷え込んでいく部屋の空気。俺は思わず傍らの毛布の山に抱き着いた。
「ちょ、ちょっとどうしたのさ皆、急に……俺は騙されただけだよ? 政府要人の秘書ですー、って近づいてきたアイリーンさんに、この事態に関わる仕事をさせられただけで……」
「アイリーン、さん、ね……?」
「その割には随分親し気だったが?」
弁解を試みるがどうにも皆が疑り深い。特にガンドレイク、お前はその現場を見てただろう? あの絶体絶命のピンチをどう解釈したらそんな色っぽい話になるというのだ。
「力づくで押し倒されて拘束されるのは親し気とは言わんだろうが。お前の目は節穴か?!」
「へえ……押し倒されて、ふーん」
「しかも唇を奪われそうになっていたな。……私達が過激派から逃げ回ってる間、そもそもおぬしはどこでどう過ごしていたのだ? 概ね、あの女に甲斐甲斐しく世話を尽くされていたのではないか?」
ジリ、と三人が俺を取り囲んで距離を詰めてくる。
あ、あれ。これはちょっと……不味いのでは?
「トモキ……」
「カスガッチ……?」
「春日井さん?」
すわった目の女性陣。俺は一体何が悪かったのか理解できずに縮こまるしかない。
虎穴を脱したと思ったらまた別の虎穴。おお神よ、俺が何か悪い事をしましたか? いや、クソヤバイ陰謀に手を貸しはしましたが、それ以外で……。
『その神の告白をぶった切っておいてよく言いますね?』
『どうしてそこで日和るのですか。全員逆に押し倒してしまいなさい』
……なんか聞こえてきた。電波が混線したかな。
ええい、神様が駄目なら仏様ご先祖様スパゲッティモンスター様! 何でもいいからこの窮地を助けてください!
果たしてその願いがどこかに通じたのか。
がちゃり、と個室の扉が音を立てて開いた。
「ちーっす、お弁当持ってきました。……あれ、何かお取込み中?」
「あ、いえ……」
「なんでも……」
ビニール袋を片手に首を傾げる若い男性に、気まずそうに顔を逸らして包囲陣形を解除する女性陣。なあなあの内に、とりあえず集団でぼころうという空気が霧散した様子。
兄ちゃんナイス!
俺は喜び勇んでお弁当を受け取りに行く。
「いやーちょうどいい所に来てくれたよ、気が利くね!」
「は、はあ?」
「そういう訳でご飯にしよう、お腹すいただろう?」
その呼びかけにもまたしてもタイミングよく、ぐぅー、と響く腹の音色。
発信源を目で追うと、とっさにガンドレイクがお腹を押さえた。
「い、今のは腹の音ではないぞ? 腹筋に力を入れすぎてこう、だな……?」
「はいはい。大戦士様は腹の虫なんか飼ってないもんな。ほいほい、わかってる」
「うぎぎぎぎぐ」
そんなこんなで理不尽な尋問はお流れになり、食事の時間とあいなったのであった。