リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる 作:SIS
お役所からの仕出し弁当はなかなか美味しかった。
量はちょっと物足りなかったが、場合によってはすぐに動く事も考えると腹八分目にとどめておくべきだろう。
さらにいえば、お腹がみたされた事で女性陣の雰囲気もちょっと落ち着いた。ちょっと安心。やはり人間、お腹がすいているとイライラしてくるものである。
「すこし、外に出てくる」
「あ、いってらっしゃい」
一言断って廊下に出る。
周囲は物静かだ。他にこの階層を利用している人間はいないようだ。だが迷宮管理課の人達は休む暇もなく動き回っているようで、階下に集中すると人が動き回っている気配が分厚いコンクリート越しでも感じられる。
そして、外の景色。
オフィスビルだけあって、廊下は見晴らしがよく町の様子が一望できる。ごちゃごちゃと立ち並ぶ高層ビルのジャングル……その向こうに、天を貫いて伸びる光の柱が一望出来た。空は暗雲が立ち込め昼か夜かもわからず、途絶える事のない光が世界に極端なコントラストを落としている。見上げると、光の柱の周囲で暗雲が渦巻いているのがよく見えた。まるで底なし沼に溶かした黄金を注いでいるかのような有様をずっと見ていると、天地や重力の感覚があやふやになってくる。
「…………」
魅入られたようにじっとその輝きを見つめていると、気が付けば隣に人の気配があった。
振り返ると、そこには煌めく銀色の髪。
ガンドレイク。
異世界からやってきた戦士は、じっと俺と同じ物を見つめていた。
「気にするなよ、トモキ」
「……それは」
「状況は大体把握している。おぬしに他の選択肢はなかった。仮にトモキが断っていたとしても、他の誰かか、あるいは黄金竜本人が骸の回収に向かっていただろう。あれは単なる奴の余興だ、責任を感じる必要はない」
……参ったな、お見通しか。
「ありがとう、ガンドレイク。でもそこまでわかってるなら、それで割り切れない、っていうのも理解してほしいな」
「理解などするものか。トモキには何一つ咎はない。黄金竜とただ一人真正面から向き合い、取り込まれてないだけでも大したものだ。相手は神だぞ?」
「ガンドレイクは平気だったじゃんか」
「私は女神モルガンの加護がある。話が違う」
そうか? まあ、ガンドレイクがそう言い張るならそういう事にしておこう。
「だとしても、ほかならぬ俺が自分を許せない。まあ、この状況を俺一人の力で解決できるだなんて思い上がるつもりはないけどさ……」
「いいや、思い上がりにも程がある。神の成した事に、自分の責任だなどと言い出すのは増上慢も甚だしい。少しは身の程を弁えるがいい」
「おおぅ……」
滅茶苦茶駄目出しされてしまった。ガンドレイクにここまで言われるのは初めてかもしれない、ちょっと新鮮。
でも、まあ、そうなのかな。思い上がりかな。……思い上がりだな。
ふぅ、と胸の内の熱を吐き出す。柄にもなく熱くなりすぎていたのを自覚する。そうだな、人間一人が、世界の責任を背負おうだなんて烏滸がましいにも程があるな。
確かに俺は世界を終わらせるかもしれないスイッチを押したかもしれないが、そのスイッチや世界を終わらせる仕組みを作りその判断をしたのは別の存在だ。いくばくかの責任はあるかもしれないが、勘違いしちゃいけない。
「ありがとう。ちょっと落ち着いた。……でもやっぱり、関わった人間として最低限の責任は取りたい。……付き合ってくれるか?」
「ええい、頑固者め。一度決めたらテコでも考えを変えぬのだから。……まあいい、頼ってくれるならまあやぶさかではない。友人の頼み事だからな」
「はは。お前も大概いい奴だよ、ガンドレイク」
くしゃくしゃと、ガンドレイクの頭の髪を撫でまわす。大人しく彼女はそれを受け入れている……いやそうでもないな。ちょっと片眉が上がってる。
「おっと悪い、ちょうどいい高さに頭があったから、つい」
「んぎー! 今の私がチビというか!?」
「可愛らしくていいんじゃない?」
笑いながら踵を返す。とりあえず部屋に戻って準備をしよう。御堂さん達だって手が足りないはずだ、必ずこっちにもお声がかかる。なんせ俺はともかく巴さんは上位冒険者だからな、声をかけない理由をむしろ教えて欲しい。だったら、無理でもなんでも言って、彼女にくっついていこう。
罪悪感も責任感もなく、やるべき事をただ定めるのは気分がいい。頭を押さえてついてくるガンドレイクと歩幅を合わせながら、俺はさっきまでと違って晴れやかな気持ちで部屋に戻った。
「……しかし、むぅ。可愛らしい、か……ふむ」
「どした、ガンドレイク?」
「いや、何でも。…………くっくっく、奴もたまには良い事をするな」
まあなんかちょっと彼女の様子は可笑しかったが。そんなに背丈を気にしてたのは知らなかった、今後は気をつけよう。
事態の変化というのは、数時間も立たない内に訪れた。
与えられた部屋で寝っ転がって休んでいると、どんどん、というノックの音。アイマスクを取り払って身を起こすと、返事をするや否や御堂さんが部屋に飛び込んできた。
「春日井さん、皆さん、下に集まってきてください。緊急事態です、迷宮の拡大が始まりました!」
「え、もう?」
「はい! それで、申し訳ありませんが皆さんにも協力して頂きたく……すぐに下に!」
切羽詰まった様子の御堂さんに、仲間達と顔を見合わせて立ち上がる。
こっちに参加の意思を問わない所を見ると、状況はよほどに悪いようだ。
急いで下の対策本部指揮所に向かうと、戦場もかくやと言わんばかりに怒号が飛び交っている。
「監視班からの報告によれば、光の柱は分速2mmでなおも拡大中!」
「マスコミの馬鹿どもを下がらせろ、監視員の配置を迷宮からもっと下げるべきだ!」
「っ、冒険者らしき不審人物を拘束したとの事! しかし抵抗によって怪我人が……」
わあわあ、矢継ぎ早に飛び交う怒鳴り声の報告。これを果たして指揮者は正しく聞き取れてるんだろうか? 邪魔にならないように頭を下げて御堂さんに続いて室長さんの所に向かうと、彼は無数のモニターの前でむっつりと押し黙って映像を眺めていた。
こそこそと隣に向かうと、視線だけでこちらに振り返る室長さん。頭を下げると、あらためて彼もこちらに向き直った。俺達を連れてきた事で用事は終えたのか、小さく敬礼して御堂さんは背後に下がった。
「ど、どうも。……その、大変そうですね」
「ええ、はい。警告された通りに迷宮の拡大が始まりました。現状では一分間に数ミリという速度ですが、これが今後加速度的に増大するのか、拡大範囲に限度はあるのか、何もわかりません。ただそれでも、放置すればかなりの面積が迷宮に呑まれるのは間違いないでしょう」
分速2ミリ。ぱっと見大したことはないように聞こえるが、時速でいうと120ミリ。一日で2880ミリ……およそ3m。一週間もすれば21m、一月で90mだ。ちょっと放置できるような勢いではない。
「……申し訳ないが、すぐにでも動く必要がありそうです。現在協力者を募っていますが、集まりが悪い。貴方達にも協力して頂きたい。……勿論、拒否する権限はございますが……」
「いえ、むしろこちらからお願いしたい所でした。是非、俺も協力させてください」
「助かります」
小さく頭を下げて、室長さんが俺の背後を見る。
「私はモチロン、オッケーだよー。こんな特ダネ、逃せないからね!」
「わ、私も。微力ながら……!」
「私はトモキが行くならどこにでもついていくからな。問題ない」
どうやら巴さんも快く引き受けてくれるようだ。獅子川ちゃんに関しては、正直なところ残っていて欲しいけど……俺が我が儘いってるのに、彼女は駄目、というのは道理が通らないな。年上の責任として、しっかり彼女を守らないと。
やれやれ。考えるまでもなく、悲劇のヒーローなんて気取っていられないか。
「参加を取り付けた協力者が、あと30分ほどで本部に到着します。皆さまも、それまでにどうかご準備を。……一体いかなる環境が待ち受けているのか想像もつきません、あらゆる事態を想定して、最大限の配慮をお願いします」
「了解しました」
ガンドレイクと顔を見合わせ、互いに頷く。
さて。ここはカメラ役としてサポートに徹してきたおじさんの面目躍如かな。
湿地帯、密林、砂漠、氷雪地帯。どこに行っても大丈夫な品揃えを用意しないと! ふふん、楽しくなってきじゃないか。