リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第七十一話 サーガの始まり

 

 ビルのエントランスに、複数の冒険者が集まっている。

 

 いずれも名と顔を知られた実力者揃い。その中に交じっている俺達は場違いもいい所だ、正直あっちも訝し気にこっちを見ている気がするし。

 

 その中にあって胸を張って堂々としているガンドレイクは大したものだ。やっぱ肝に毛とか脚とか生えてるんだろう。

 

 そう思っていたら、後ろ歩きで距離を詰めてきた彼女がひそひそと語り掛けてきた。

 

「……トモキ、トモキ。あれ見ろ、リアル健次郎だぞ。さ、サインとか……貰えるだろうか?」

 

「お前な……」

 

 訂正。すっかり現世に染まってミーハーになってやがる。お前女神に怒られたばっかりだろうが。

 

 あとこの大一番に健次郎呼ぶのは流石にやめてくんないですかね。あの人毎回想定外のトラブルに遭遇してヤバイ事になってるじゃないですか、巻き込まれるのは流石に勘弁なんですけど。それともよっぽど人手が集まらなかったのか?

 

 ……集まらなかったんだろうなあ。

 

 集まっているのは実力者といえど、5パーティー程度。日本の命運をかけた戦いに招集をかけたにしてはあまりにも少ない。距離的に来れない人もいるだろうけど……多分、理由はそれだけじゃない。

 

 黄金竜の作り出した統合迷宮と、規制のかかっていない迷宮配信。はっきりいって、冒険者からすればこれ以上ない理想の環境だ。迷宮に世界が飲まれれば、全ての人間が生き残るために武器を手にして、戦わねばならない。その状況では、力ある者こそが正義だ。

 

 必要とされながらも、警察には因縁をつけられ、世間からは後ろ指をさされ、政府からは良いように使われ、冒険者達はこれまでずっと苦渋を飲んできた。命を懸けて戦う事への対価は少なく、貴重な物を手に入れてもなんだかんだ理由をつけて没収される事もしばしば。

 

 それが一転して、黄金竜の支配する世界では戦える冒険者こそが一番偉い事になる。どれだけ政府のお偉いさんが理屈をこねても、投資家がお金を積み上げても、マスコミが情報をねつ造しても、迫りくる怪物と迷宮という現実的脅威の前にはあまりにも無力だ。

 

 冒険者が大手を振ってふんぞりかえれる、そんな世界の到来を善しとする人が大多数である事は、正直否定できないし、していいものでもない。

 

 逆に言えば、5パーティーも現代秩序の継続に賛同してくれたことをこそ、歓迎するべきだろう。

 

「皆さん、お集まりいただきありがとうございます」

 

 と、いつの間にか室長の挨拶が始まっていた。慌てて意識を引き締めて傾聴する。

 

「状況についてはお伝えした通りです。政府の一部が画策した迷宮統合計画は暴走し、今現在も迷宮のゲートは拡大を続けています。このままでは、この国に安全地帯は存在しなくなり、経済活動どころか国家そのものが崩壊します。それを阻止する為に、皆さんの力をお借りしたい」

 

 室長の言葉に、沈黙で応える冒険者達。下手な野次が飛ばないあたり、皆覚悟完了という訳か。

 

「その為に皆さんには迷宮に突入し、首謀者であるアイリーン・ラタトスクを確保して頂きたい。彼女さえ拘束すれば、少なくとも迷宮の拡大は止められます。またその為に協力者から、彼女の場所を示す為のコンパスを提供して頂いております。お受け取り下さい」

 

 言葉と共に横から出てきた役員たちが、例のコンパスをパーティーに一個ずつ配っていく。……現代の技術で量産可能という話だったが、一体どうやったんだろう? 疑問に思いながらも、俺も代表して一つを受け取る。

 

 確認すると、コンパスの赤い針が迷宮ゲートに向いて止まっている。あとはこれがどれだけ精度があるのか、という話だがもう信じるしか方法はない。

 

「注意事項として、アイリーン・ラタトスクは人知を超えた力を振るっていたという報告があります。人間なのは外見だけで、本質は別の存在と推測されます。ご注意ください」

 

 どうやら黄金竜だの異界の女神だの、そういった話は伏せておくつもりらしい。いやまあ説明されても困るがなそんなの。これに関しては全面的に正しい。

 

 主犯は人間ではない、という話に少しだけ冒険者が騒めくが、すぐに静まった。まあこれだけの事態を引き起こしたんだ、そういう事もあるかも、で各々納得したのだろう。依然から迷宮の怪物が外に出てくる事は懸念されていたし。

 

「説明は以上です。他に確認事項は?」

 

「ある。迷宮管理課の実働部隊は動かないのか?」

 

 早速パーティーの一つから質問が上がる。あれは……斑鳩朱雀の率いる一党か。配信はあんまり積極的ではないが圧倒的実力で迷宮探索で稼いでいるパーティーだ。あとイケメンぞろい。羨ましい。

 

「勿論、こちらも動きます。最低限の人員を残して、実働部隊は全員迷宮に投入しますがこちらはこちらのドクトリンがありますので、下手に皆さんと一緒に行動しない方がいいかと考えています。どの道、迷宮内の様子は全て配信されている様子なので、ここで嘘をつく理由もありませんしね」

 

「……そうか。しかし、あの配信は止められないのか? 流石に生き死にを娯楽にされるのは勘弁願いたいが」

 

「申し訳ありません。どうやら普通の方法ではないようで……こちらでも遮断を試みておりますが、どうにも。そもそも存在しないはずのアドレスにどうして接続できるのか……」

 

 ちょっと困り果てた様子の室長さん。いやまあ、神様の作った不可思議配信チャンネルとかもうどうしようもないよな……。下手したら最悪迷宮そのものがサーバーになってる可能性もあるし、そんなん止めようがない。

 

「そうか……分かった。こちらはこれ以上の異論はない」

 

「他に質問はございますか……無いようですね。それでは、15分後に作戦を開始します。各々、どうか後悔の無いようにお願いします」

 

 

 

 

 

 そして15分の猶予はあっという間に過ぎ去り。

 

 いよいよ、運命の時がやってきた。

 

 他のパーティーや、迷宮管理課の実働部隊達と共に光の柱の前に立つ。グランドの中心に立っている光は、成程以前に見た時より直径を増しているように見える。数日後にはこのドームより外に広がり、町を蝕み始めるだろう。

 

 ……そうはさせない。

 

 俺の犯した罪ともども、黄金竜の思惑はここで断つ。

 

「よし、いくぞ!」

 

「ご武運を!」

 

 他のパーティーも次々に光の柱に飛び込んでいく。装備の最終点検をする俺の前に、ガンドレイクが進み出た。

 

「さて。妙な事になったが、トモキの武勇伝もいよいよスタートという事だな」

 

「最終局面じゃないのか?」

 

「それだとおぬしがここで死ぬようじゃないか。人生はこれからだろう。ここから始まるのだ、ここから。ふふん、先の事を言うと妻がため息をつくというが、戻ってからがお楽しみだぞ。覚悟しておけ」

 

 ふんす、と鼻を鳴らすガンドレイク。その悲壮感の欠片もない自信満々な様子に、こちらも何とかなりそうな気がしてきた。

 

 そう、いつだって彼女はその背中で、人々に勇気を与えてきたのだから。

 

「そうだな。これが終わったら、とびきりご馳走を食べに行こうか」

 

「ふふーん、言質取ったぞ、忘れるなよ!」

 

「はいはい、わかった、わかった。……巴さんも、獅子川ちゃんも、頑張ろう」

 

 振り返って、仲間二人にも呼びかける。なんだか二人はなし崩し的に巻き込んでしまったので、正直ちょっと悪く思うが……。

 

「なーに、いいってことよ、かすがっち! 私と君の仲じゃなーい」

 

「わ、私も、不束者ですが頑張ります……!!」

 

 女性陣もやる気十分のようだ。正直ガンドレイクと二人だけだとちょっと不安なので助かる。戦力的にも、巴さんは上位冒険者だし、獅子川ちゃんの弓も支援射撃として頼りにできる、何よりも勝手がわかってる相手というのが有難い。

 

「ああ。遠慮なく当てにさせてもらうよ」

 

 四人並んで、光の柱の前に立つ。

 

 目の前に広がる超常的な光景に、ごくりと唾を飲み込む。これそのものに危険性はないとはいえ、ちょっと怖いな……あっ、いい考えを思いついた。

 

「……手、繋いでいくのはどうかな。万が一にも向こうで逸れたら困るし」

 

「! そ、それはいいアイディアですね! じゃあその、右手を」

 

「あっ、蘭ちゃんずるい、じゃあ私は左手を」

 

「なぬっ!?」

 

 瞬く間に両手をホールドされる俺。そして意気揚々と先頭に立っていたガンドレイクは、出遅れてガビーンという顔をする。

 

「ぬ、ぬぬぬ……トモキ! 今から三本目の手を生やすのだ! 早く!」

 

「無茶苦茶言うな!!」

 

「むぐぐぐ……あ、そうだ、この手があったか!」

 

 ぐぬぬぬ顔をしていたガンドレイクがぽん、と手を叩いて俺に駆け寄ってくると背後に回り……おま、ちょ、人の体によじ登ってくんな!? というか重っ! 斧と籠手とブーツが重すぎる、ちょ、やめ、つぶれる……!

 

「ふふーん、絶景かな絶景かな」

 

「あ、ザバニャンずるーい」

 

「わ、私はちょっと、それは……ごにょごにょ」

 

 人に強制肩車し、上機嫌なガンドレイク。一方俺は早くも装備の重量に潰されそうである。

 

 早く迷宮に飛び込まないと……。

 

「んぎぎぎ、しゅ、出発するぞ……」

 

「ゴーゴー!」

 

 後ろから突き刺さる苦笑交じりの視線を感じながら、俺はよろよろと光の柱に向かう。

 

「せーので……いくぞ!」

 

「はいっ!」

 

「れっつらごぅ!」

 

 寸前で足を止めて、一息に光の中へ突っ込んでいく。

 

 視界が光に包まれる。何かに触れた感触はない……ただ、空気の感触、地面の感触、ついには重力……感覚そのものが、徐々に絶たれていくような奇妙な感覚。

 

 ついには白い光という視覚すらも断たれ、俺の意識は虚無の中へと暗転する。

 

 

 

 その闇の奥で、金色に輝く光が見えた気がした。

 

 

 

 

 

『ようこそいらっしゃいました、勇者の皆様方。せいぜい、この黄金竜を魅せてみるがいい』

 

 

 

 

 

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