リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる 作:SIS
視界が開けるよりも先に感じたのは冷気だった。
光のゲートを越えると、そこは一面の雪景色。切り裂くような風が、体を吹き抜ける。
「さ、さぶぶぶ……」
「い、いきなりきついですね……」
「大丈夫、こんな事もあろうかと防寒具もある!」
両肩を押さえて震える女性陣に、急いでバックパックから毛布を出して肩にかける。二人に続いてガンドレイクに被せかけようとすると、それは彼女の手で拒絶された。
「まて。私は大丈夫だ。もとよりこちらは雪国育ちだからな」
「ああ、そっか。そういやお前、北欧みてーな所で育ったんだったな」
「うむ」
まあ価値観とか装備とかもろバイキングだしな……。納得して、取り出した毛布を自分で羽織る。
落ち着いたところで、周囲を見渡して確認する。
どうやらこの区画はコキュートスとでも呼ぶべき極寒地獄のようだ。テレビ越しでしか見た事のないような、見事なまでの永久凍土がどこまでも広がっている。
周囲に他の冒険者の姿はない。大体予想はしていたが、グループごとにバラバラに飛ばされたか。
「巴さん、ここ、どこの迷宮の区画だったか分かる?」
「ごめん、流石に知らない。ただ環境の厳しさと怪物の強さってある種の相関関係があるはずだから、油断はしない方がいいかも」
「そうか」
となると完全に未知の領域か。
マスクについてる各種センサーが役に立つかもしれない。俺は取り出したそれを装着し、カチカチと視界を切り替える。
と……。
『お、新しい冒険者が来た』
『政府発表があった攻略組かな』
『しねしねしねしね』
視界の片隅に、コメント文字が流れる。これは……アイリーンさんが用意したという配信サイトに書き込まれたコメントか。
どうやら大変な事になってるのに暇な奴らが多いらしい。突入してすぐに視聴者が付くとか、普段の過疎っぷりを考えると実に反応が早い。
流石は神様謹製の配信サイト、といった所か?
「ん、どした、トモキ」
「ああ……早速だが、俺達の様子が配信されてるらしい。コメントが流れてきた」
「なんと」
それを聞いて、ガンドレイクはちょっと身だしなみを整えると俺の前に出てきて、いつものポーズを取った。
「うむ、皆の衆、私はガンドレイク・ザバーニャス! よろしく頼む! 今日は皆は新しい伝説の目撃者になる! 光栄に思うがいい!」
『かわいこちゃんが出てきた』
『尊大口調の銀髪デカパイロリ、巨大武器添え……だと……?』
『現実に存在するのか、そんな美少女!?』
盛り上がるコメント欄。
まあ見た目だけいえば男の好きな要素特盛だからなガンドレイクの奴……需要がちょっとオタク向けだけど……。
いつものようにベタベタしてるところ見られたら刺されそうだな俺。
げんなりしつつ、コンパスを取り出して方角を確認する。
「よし。とにかく、指し示す方に向かおう。ここだって迷宮だ、ある程度進めば閉鎖区域に入る筈だ。一気に駆け抜けてしまおう」
「賛成です。不意打ちにだけは注意しましょう」
「ふふん、それについては私に任せてもらおう。だだっぴろい雪原など私のホームのようなものだ」
鼻を得意げにならし、ガンドレイクが斧を肩に担ぎ直して前に出る。
大股で歩くその様子からは、ずいぶんな自信が見て取れる。ここはコイツを頼りにさせてもらおう。
振り返り、巴さんと獅子川ちゃんの様子を確認する。……巴さんは行けそうだが、獅子川ちゃんはちょっときつそうだ。彼女の得物は弓、かじかんで感覚がマヒした指先では巧みに狙いはつけられないだろう、どうしようか。
『え、さらに美少女二人? って、一人はソロ冒険者のレインボー巴じゃねえか!? いつパーティー組むようになったんだ!?』
『視点の主は男っぽいけど……え、まさか美少女三人に男一人のハーレムパーティーなの?』
『うらやまけしからん。前世でどんな得を積んだんだ?』
いや本当に前世の得の御蔭だったらそもそもこんな修羅場に放り込まれてないからね?
恵まれてるのは分かるけど、現状の地獄と比べると差し引きマイナス気味だと思うんだようん。あとそんな色っぽい話じゃないから……。
「獅子川ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫……いえ、ちょっとあまり。手がかじかんで……そうだ。ちょっと暖を取らせてもらってもいいです?」
「え? いや、まあ、別にいいけど。ちょっとまって、カバンにホッカイロもあったような……」
がさごそ、と鞄を漁っていると、いつの間にか獅子川ちゃんが距離を詰めてくる。
そして彼女は俺に抱き着いて、って……。
「ち、ちべたっ!? ちょ、獅子川ちゃん!? 服の中に手が……っ」
「わー、あったかーい」
「あ、ずるーい、私も私も」
氷のような手が襟元から胸に潜り込んでくる。おまけに今俺が着ているのは体に合わせたぴっちりスーツだから、触れる物の感触がダイレクトに伝わってくる訳で……。慌てていると、何を思ったのか巴さんまで指をワキワキさせながらにじり寄ってくる。え、ちょ。
『は?????????』
『ちょ』
『放送事故!!』
「ず、ずるいぞ二人とも!! 私も、私も!」
「やめろガンドレイクてめーの金属製の籠手なんぞ突っ込まれたら凍傷になる! ええい、二人もふざけてないで離れて! はいホッカイロ!!」
「「ちえー」」
ゆ、油断も隙もあったもんじゃない! この緊急事態に何考えてるの三人とも! 全部見られてるの知ってるでしょ、恥ずかしくないの!?
『よーし死んでいいぞこの三股最低男』
『死刑執行』
『頑張ってくれ迷宮の怪物達。このクソ男を処刑してくれ』
ほらコメント欄も完全に敵に回っちゃったじゃん! やめてよねこういう時に悪ふざけするの!
「をほん、ほら、ふざけてないで先にいくよ! ガンドレイク、しょげてないでさっさと先導する、お前がここは頼りなんだからな!」
「む、わ、分かった……」
「巴さんはガンドレイクのフォローを頼む。獅子川ちゃんは弓で援護! 俺は状況に応じて適宜遊撃に回る……ほら、しゃきっと! ここはすでに死地なんだからな!」
どうにも緊張感の足りないメンバーに活を入れて、先に進む。
足元は雪が積もり真っ白に染まって、その下に何があるかもわからない。見上げても降りしきる粉雪で遠くは見渡せず、視界は常に薄暗い。
この環境だと、機動力のある怪物に強襲を受けると対応が遅れそうだ。足元にも注意が必要、巨大なクレバスが大きく口を開いていてもわからない。ちょっとした油断が命取りだ。
「なあに、このガンドレイク様にまかせるがいい。トモキは浅瀬を渡るつもりでどっしりかま」
発言の途中で、ふっ、とガンドレイクの姿が消える。
慌てて駆け寄ると、彼女の立っていた場所に大穴が空いていた。
「ああもう、言った端から! ガンドレイク、無事か!?」
「……だ、大丈夫だー。と、途中でしがみついた……」
こちらまで落ちないように慎重に覗き込むと、穴の途中で手足をつっぱってひっかかってる彼女の姿が見えた。慌ててロープを取り出し、救出にかかる。
「ほれ、ガンドレイク、縄に掴まれ……!」
「春日井さん! 敵襲です、狼っぽい奴らに囲まれてます!」
「ええいくそこの忙しい時に! 御免、巴さん、獅子川ちゃん、俺がガンドレイクの奴を引っ張り上げるまで時間を守ってくれ!」
『いきなり修羅場』
『かわい子ちゃんは死なないでくれー。男はどうでもいいよ』
『むしろ出来るだけ惨たらしく死んでほしい』
ええい画面の向こうに俺の味方は居ないのか!
聞こえてくる狼の唸り声に背筋を震わせつつ、俺はガンドレイクをクレバスから引っ張り上げるべく縄を握りしめた。
あ、ちょ、強化された体でも重いってこれ! 斧と籠手と脚甲が重い! でもいきなり装備を捨てさせるわけにはいかないし……うおお引っ張り上げるしかない!
ふんぐぬぬぬぬ……!
ああくそ、しょっぱなからこんなのばっかりかー!!