リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる 作:SIS
突発的に発生した怒られタイムは、俺がメタメタに言い負かされた所で終了した。
ぐったりしょんぼりする俺をよそに、女性陣は心なしかすっきりした様子で意見を交えている。
「やっぱり、急いでるからって闇雲に進むのも危険だね」
「それよりも、いつまでたっても次の区域に辿り着けないのが気になります。コンパスの向きはあってるんですか?」
「ううむ。問題ないとは思うが……」
ガンドレイクが取り出したコンパスは、今も目的地をちゃんと指し示している。俺達はこの針の指す方向へ向かって、迷路の中を進んでいるのだが……。
「おかしいですね。出来るだけ近い角を曲がって向かっているはずなんですが、もう随分歩きましたよ」
「というより、マッピング見る限りだとどんどん遠ざかってない、これ」
「ううむ……確かに……」
地図を片手に思い悩んでいる女性陣。
俺もびくびく、空気を伺いつつ、横からマップを確認する。
確かに、最短距離を選んで進んでいるはずなのに、どんどん目的地から逸れていっているような気がする。とはいえ、この階層は迷路のような構造だ。上から俯瞰して見られない以上、間違っているとしてもマップを埋めていくしかない。
「しかし他の道はないだろう? とにかく急ぐしか方法はないと思うが……」
「それもそうだね……」
「ふん。トモキは頭はいいが、ちょっとお行儀が良すぎるな」
と、そこで話に割って入ってきたのはガンドレイクだ。とんとん、と斧で肩を叩く彼女は、どうやら何か考えがあるらしい。
「こう言う時はもっと簡単な答えがあるものだ」
「ほーう? どんな方法があるんだ?」
「くっくっく。それはだな……こうだ!」
言って、ガンドレイクは斧を両手で握りしめると壁へと向き直った。
そっちには隠し通路も罠も何もない、本当にただの壁だが……いやまさか。
「ちょ、巴さんと蘭ちゃんは俺の後ろに……」
「いっせーのーで……とおりゃあーー!!」
女性二人を背中に庇った直後、斧をフルスイングしたガンドレイクの一撃が壁へと炸裂した。
いくら分厚いとはいえ、ただの石くれ。人間離れした怪力を誇るガンドレイクの全身全霊の一撃を食らって、耐えられるはずもない。
ただの一撃で壁に亀裂が入り、放射線状に広がっていく。
「もういっちょぉ!」
さらにそこにもう一撃。今度こそ崩壊した壁が、向こう側にがらがらと崩れていく。
あとはもうドミノ倒しだ。倒れた壁が背後の壁を突き崩し、その背後の壁もまた……。
連鎖的に発生した局所的な大破壊に、視界を埋めるほどの砂埃が舞い上がる。マスクつけててよかった。
「えほっ、げほっ!? ちょ、ザバニャン!?」
「けほけほっ、服が砂まみれです……」
「にゃっはっはっは、悪い悪い。だが道は開けたぞ! 私に続けえ!」
意気軒昂と斧を振り回して飛び出していくガンドレイク。まだ消えぬ砂埃の向こうで、再び派手な粉砕音が鳴り響いた。
『ば……蛮族……』
『壁抜きってそういうのじゃねーから!』
『冒険者っていつもそうですよね! 私達迷宮の事なんだと思ってるんですか!』
『他にあんなのできる冒険者なんていねーよ!!』
コメント欄もドン引きである。ごめんね蛮族で。
まあでも、今回ばかりは確かにこれが最適解かもしれない。こっちには時間も余裕もないんだ、迷宮のいじわるな仕掛けにつきあってやる理由もない、か。
「まあ今回ばかりはしゃーない。ほら、二人とも。ガスマスクだけどこれでもつけて」
「あ、助かります」
「ほんとに準備万端だねトモキン……」
そりゃあね。毒ガスじゃないけど悪臭のするガスが充満している迷宮とかあるし、あとはほら、石油とかの戦略物資の代替品が湧いてる階層とかに踏み込んだら一発アウトだからさ。知ってるかい、原油の油田って何の準備も無しに近づいたら普通に命に係わるらしいよ。
「よし、とにかくガンドレイクの後をつけて……うん?」
「なんか戻ってきましたよ?」
「うおおおおおおああああわああああ」
晴れ始めた埃の向こうから、血相を変えたガンドレイクが走って戻ってくる。その背後には……ゴロゴロ転がる巨大な鉄球!?
「ちょ、おま、馬鹿、だから考えなしに……!」
「わあああああああトモキ助けてくれぇえええええ」
「バカバカこっちにくんな右に曲がれうぉおおーー!」
パニックになってくるのか飛びつきからのしがみつきをしてくるガンドレイクに押し倒されそうになりつつ、俺は女性陣の手を引いて慌てて通路に逃げ込んだ。
間一髪、背後で壁に激突した巨大な鉄球が半分ぐらいめり込み、そこで停止した。
「せ、セーフ……」
「う、うむ、助かった……」
「助かったじゃねえよ仲間も纏めて全滅させる気か! 地雷を踏み抜くなら一人でやってくれ!」
「ひぃん」
『やっぱ羨ましくないハーレムだわこれ』
『俺は嫌だな。頑張ってくれ』
『有能な問題児しかいねーぞこのパーティー』
あ、コメントの皆さん分かってくれます? 苦労してるんですよ俺も。
セミか何かのように胴体にしがみついてくるガンドレイクの頭を押しのけて引きはがしつつ、深ーい溜息をつく。
「まあいい、とにかくせっかくの最短ルートだ、つっきって先に向かうぞ」
「あ、あいさー」
「ザバニャン、次からはこういう短気やめてね?」
さしもの巴さんも苦言を呈する始末である。とりあえず気を取り直して切り開いた道を進む。
幸いなことに、あの鉄球のおかげで道は慣らされている。念のため他のトラップが存在しないか注意しながら先に進むと、その先に地下へ続く階段のようなものが姿を現した。
コンパスの向きを確認すると、どうやらこの先が次の階層に繋がっているらしい。
「よーし、いくぞ。なんだかんだで結果オーライだ、道なりにいってたらどれだけ時間を喰わされたかわかったもんじゃなかったな
「こういう迷宮もあるんだねえ」
「迷宮、っていう言葉の定義を考えると、ここが一番語源に近いんですけどね……」
まあクリアできればそれでいいよ。各々、この階層への感想を口にしながら、地下に向かって伸びる階段へと足をかける。
途端、ぐにゃりと再び視界が歪む。
気が付くと、俺達はうっすらと暗い、どこかの地下通路に立っていた。
雰囲気はさっきまでの迷宮と似ているが、もっと暗く、古びていて、黴臭い。あとほんのり寒い気がする。
「あら。隔離区域っぽいけど……」
「同じ迷宮で、隔離区域が変わる事ってあるんだ」
「まあ、統合迷宮なんてもんをこれまでと同じに考えていいのかちょっとわからんしな。……それに、あるいは別の可能性もある」
カツカツ、と歩き出す。進む方向からは、何やら光が差し込んできている。
日の光? いや、違う。この光り方は……。
「? 別の可能性って、例えば?」
「俺達の目的を思い出せよ。……例えば、黄金竜の元に近づいたからだ、とか」
通路の左右は、大きな棚になっていた。そこに積み上げられた無数の金銀財宝。キラキラと輝く金貨や宝石、金細工といったお宝に、女性陣が黄色い声を上げた。
「きゃ、きゃあー! お宝、お宝だよ蘭ちゃん!」
「す、すごい……本物……?」
「おおう。こいつはまた……」
さしものガンドレイクも、これだけの財宝を前にしては平静では居られないらしい。こいつにもそういう所があるんだな、ちょっと意外。
「お前、お金に興味あったのか?」
「う、うむ。なあトモキ、これだけあったらビール何缶買えるかな?」
「そっちの興味かよ……いや一般的な貨幣感覚に近づいてきたのは有難いんだが……」
結局飲んだくれのおっさんなんだよなコイツの中身。軽く頭痛を覚えつつも、俺は念のために女性陣に釘を刺した。
「手を出すなよ。普通の迷宮ならとびつく所だが、俺達は今黄金竜の寝床に向かっている最中だ。竜の財宝なんて、拾った奴を不幸にする呪いみたいなもんだ」
「ニーベルングの指輪、でしたっけ?」
「お、蘭ちゃん、そういうの分かるクチ? まあそんな感じ」
俺も詳しい訳じゃないがな。どっちにしろ、キラキラ輝く眩い財宝だが、どうにも不吉な気配がぬぐえない。呪いの財宝、って言われた方がしっくりくる。
それは皆も同じ意見のようで、これだけのお宝を前にして反対意見は飛んでこなかった。
「うーん、確かに。なんだろね、綺麗は綺麗なんだけど、ウランが光ってるみたいな不気味さがあるね……」
「うむ。さっきはああ言ったが、黄金竜の財宝なんて奴の祝福そのものだ。未来永劫、終わる事のない戦いで身を立てたい、などと考えでもしない限り手を出さない事をお勧めする」
「異世界でも過ぎたお金はろくでもない事を招くんですねえ……」
この中で多分一番のお金持ちの蘭ちゃんの呟きは実感がこもっていた。実家で多分、色々あるんだろうなあ。若いのに大変だね。
それはともかく。ガンドレイクの言葉はちょっと引っかかった。
「黄金竜の祝福、か。となると奴は近いのか?」
「恐らく。女神モルガンは、このコンパスは奴の場所を指し示すだけでなく、距離を狭めるとも言っていた。奴がどのぐらいの深さの階層に陣取っているかは知らないが、我々はかなりショートカットしてその場所に向かってるはずだ。次の階層が、奴の根城、という可能性も十分にありうる」
「オッケ、分かった。……次が決戦のつもりで気を引き締めておこう。……休憩はいるか?」
念のための確認に、仲間達は首を横に振る。
「いえ、ここは休んだ方がよくないでしょう」
「うん。正直、この財宝の山の前で足を止めたくない、変な気が湧いてきそう」
「……確かにな」
あるいは、それすらも黄金竜の狙いなのかもしれない。
俺達は気を引き締めつつ、隔離区域の先に進む。
どこまでも続くかと思われた長い回廊。だがその終わりは突然やってくる。
脚を踏み出した途端、目の前がぐにゃり、と歪む。
果たして、その先に広がっていた光景は……。