リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる   作:SIS

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第七十八話 天雷怒号

 

 そう、三度目。

 

 少なくとも過去二度にわたり、ガンドレイクはこの黄金竜と戦い、勝利してきた。

 

 一度目は、彼らの故郷たる異世界において。そこで黄金竜はガンドレイクに破れ、一度は完全に滅びた。だがその角の一部が次元を越えて俺達の世界に流れ着き、迷宮を生み出しその内部で復活。

 

 そして、世界を越えて派遣されたガンドレイクとの再びの戦いに敗れた。

 

 故にガンドレイクと黄金竜が雌雄を決するのは三度目である。

 

 であるならば、此度の戦いもガンドレイクの勝利に終わるのか。二度破れた黄金竜は、三度勇者の前に膝を屈するのか。

 

 答えは、否である。

 

 少なくともガンドレイクは言っていた。過去の戦いいずれも楽なものではなく、趨勢は常に黄金竜の側にあった。彼女が勝利する事が出来たのは、ほんの僅かな勝機を引き寄せる事が出来た、奇跡に過ぎないと。

 

 ましてや、此度の黄金竜は人の姿を取り、そのスタンスも大きく違う。

 

 戦い方もまるで違うものであり……それが示す意味が、今まさに目の前で如実に現れていた。

 

「どうなさいましたか、そうやってちょろちょろ逃げまわるばかりですか?」

 

「ええい、くそっ、この……っ」

 

 アイリーンさんの挑発に毒づくガンドレイクが、咄嗟に人間離れした跳躍でその場を離れる。一瞬遅れて、大気を焦がす雷撃が彼女の立っていた地面を穿った。黒く煤を上げる床面……直撃すれば、人間など一溜まりもない大電圧。

 

 それをアイリーンさんは矢継ぎ早に繰り出して、ガンドレイクを寄せ付けない。黄金竜お得意の電撃による面制圧。

 

 

 

『な、なにこれ、魔法!?』

 

『っていうかなんで人間と戦ってんの?!』

 

『馬鹿言うなあれのどこが人間だよ!』

 

 

 

 繰り広げられる大決戦に、コメントもそこまで鈍くはなかった。明らかに人ならざる存在であるアイリーンさんと、本気の戦いを繰り広げられるガンドレイクに圧倒されているのか口数は少ない。

 

 そして、アイリーンさんの力は雷だけではない。

 

「来ないのならば、こちらから行きましょうか」

 

「ち……っ!」

 

 彼女の退路を塞ぐように雷撃を落とし、自ら突進するアイリーンさん。その白い指先が鉤爪のように鋭くとがり、ガンドレイク目掛けてひっかきを見舞う。それを籠手で受けるガンドレイク、金属製の防具が火花を散らす。

 

「なんのぉ!」

 

「ふっ」

 

 そしてカウンター。反撃で繰り出される斧の一閃を、華麗にバク転して回避するアイリーンさん。下がり際に繰り出されるサマーソルトキックを避けたガンドレイクだが、髪が数本巻き込まれて引き千切れる。仰け反るようにしてバランスを崩すガンドレイクに対し、アイリーンさんはすっくと立ちあがると余裕しゃくしゃくに髪の毛を直した。

 

「ふふ。人の体というのも悪くはないものですね。力こそ弱いが、創意工夫のし甲斐がある。気になる殿方を誘惑する事もできますし、ね? ああ、でも貴方はてんで駄目だったようですが。戦場での英雄も、夜の床ではからきし、という事でしょうか?」

 

「ほざけぇー!」

 

 

 

『なんか突然争いのスケールが下がったんだけど』

 

『おお、煽る煽る』

 

『というか文脈的にこの二人が争ってる男って……まさか……』

 

 

 

 容赦なく逆鱗を突かれてガンドレイク怒髪天。

 

 肩を怒らせて突撃していく彼女の猛攻を、アイリーンさんは涼し気な顔でいなしていく。ま、まあ、ガンドレイクもああ見えて冷静さを失っている訳ではないようだから、多分大丈夫だろうけど。

 

 それはそれとして、き、気まずい……。

 

「……ねえ、トモキン。流石に私も状況見えてきたんだけど……どうかと思うよ……?」

 

「不潔です……」

 

「うっ。そ、それより、ほら、早く倒れてる人を安全地帯へ……! このままだとガンドレイクが本気で戦えない」

 

 それは女性陣からの冷たい視線から逃れる為でもあったが、同時に本心でもある。

 

 先ほどからガンドレイクは明らかに、倒れている他の冒険者が雷の射線上に来ないように立ち回っている。そのせいで、自然と行動範囲も限定されてしまっているのだ。

 

 ただでさえ強敵相手に、そんなハンデを背負っていては勝ち目はない。

 

 重たい装備に身を包んだ冒険者達を、ひーこら言いながら通路まで引きずっていく。気を失ってる人間って、本当に重い……!

 

「よ、よし、これで全員だな!」

 

「……まぁいっか、ここは流されてあげましょう。ほいほい、取りこぼしはもうないね」

 

「殿方の多少のやんちゃに目を瞑るのも良い女というものですからね。はい、これで全員です」

 

 うむ。な、なんかこう、ちゃくちゃくと首に鎖が回されてる気もするけどその事を考えるのは後だ、後。

 

 今はガンドレイクを助けないと!

 

「よし、俺達はガンドレイクの支援に回る。巴さん、いけそう?」

 

「……うーん、なんとか、ギリギリ? ザバニャンへの攻撃を散らす的ぐらいには、なんとか」

 

「私は……あの雷撃は流石に回避できる自信がありません」

 

「オッケ。じゃあ巴さんは、俺と一緒に前に出て攪乱を。蘭ちゃんは、無理せず行けそうだったら支援をお願い」

 

 ナイフを片手にすっくと立ちあがる俺を見て、巴さんが目を丸くする。

 

「え、ちょ、トモキンもやる気? やめた方が……」

 

「流石に、催涙ガスとかで目つぶしされてくれるような相手じゃないだろうしな、一度食らわしたし。ガンドレイクが俺達の為に体を張ってるんだ、当の俺達が体を張らないでどうする」

 

「そ、そりゃそうだけど……え? 一度食らわした? え?」

 

 そりゃもう、盛大に。あの時はアイリーンさんはでかい竜体だったけど、おかげで狙いやすかった。激辛激渋激苦ボールを口と目元にぽぽぽーいと。いや、ドラゴンって火を噴くけど辛いの大丈夫って訳じゃなかったんだねえ。

 

 

 

『逆にその発想に吃驚するわ』

 

『そりゃあバフデバフはボス戦における必須要素だけど……』

 

『だからって美女にからし玉投げつけるのは……』

 

 

 

「……それ食らわせてあんな態度取る辺り、神様の器ってはんぱないね……」

 

「むしろ一周回って変な何かに目覚めたからじゃ……」

 

 過去の武勇伝を聞いた二人の反応は何故かドン引きだった。しょうがないでしょ、あの時の俺は正真正銘へぼへぼだったんだから! せいぜいが護身用のカラーボールを投げつけるのが精いっぱいだったんだよ!

 

 文句なら製造元に……ああいや、自家製だったか、これ。

 

「とにかく、いくぞ! 覚悟を決めろ!」

 

「ええい、仕方ないわね! この埋め合わせは後で必ずして貰うんだから!」

 

「ご、ご武運を!」

 

 ナイフ片手に飛び出すと、巴さんは何も言わずとも俺の反対側、ガンドレイクの左翼へと展開してくれた。俺自身は右翼に展開して、戦場に立つ彼女の隣に立つ。

 

「遅いぞ、トモキ!」

 

「悪い悪い!」

 

「ふ、役者が揃った、という所ですか。いいでしょう、束になってかかってくるがいい、勇者たちよ!」

 

 アイリーンさんは、ガンドレイクとの一対一の決闘に水を差された事に怒るでもなく、むしろ意気揚々と俺達を挑発した。誘うように手招きするその指の動きに合わせて、三人一斉に駆け出していく。

 

 それに対して、再び雷を頭上に展開するアイリーンさん。

 

 どくん、と心臓が跳ねる。何度も見たあの攻撃だが、いざ自分で対面するのはこれが初めてだ。

 

 果たして俺にあれが回避できるか?

 

 恐らく天然自然の落雷よりは遅いのだろうが、それでも雷速と呼ぶにふさわしい攻撃。見てから回避は不可能だ。脈動するように増大する雷のパルス、その増幅幅を読み切って……今!

 

「うおおおおあああ!?」

 

 恥も外聞もなく横っ飛びに回避する俺の足元で、のたうつ雷鳴が弾け飛ぶ。ぎ、ギリギリなんとか回避できた……その喜びに浸る暇もなく、受け身も取れずに床に転がる。

 

「うべし」

 

 呻きを上げて、つやつやの大理石にずるべしゃーとなる俺。横倒しになった視界に、アイリーンさんに躍りかかるガンドレイクと巴さんの姿が映った。

 

「黄金竜、覚悟!」

 

「現代人だからって馬鹿にしないでよねっ!」

 

 大斧による一撃を狙うガンドレイクと、手数によって攪乱に回る巴さん。二人が組んで戦ったのはごく短い時間だったにもかかわらず、その呼吸はぴったり重なっている。

 

 アイリーンさんも果敢に反撃を狙っているようだが、踊るように連撃を繰り出す巴さんの攻撃速度は、両手の爪を振りかざすアイリーンさんのそれと匹敵している。別にナイフのような短刀って訳でもないのに、ほぼ素手の攻撃と張り合うなんてやっぱり彼女はとんでもない冒険者だ。

 

 そして巴さんに隙潰しを任せて、ガンドレイクは溜めからの大振りの一撃。一対一ではとても当たらないテレフォンパンチだが、舞い踊るように右に左に責め立てる巴さんの相手で精一杯だったアイリーンさんはそれに対応できない。

 

 ズガア、という空気を震わす振動と共に、その躰が大きく後方へとフッ飛ばされた。

 

「よっし!」

 

 思わずガッツポーズ。

 

 アイリーンさんと言えば、空中で咄嗟に体勢を立て直し、反撃の雷撃を放つが二人はそれを散開して回避。大きく左右から回り込み、狙いを絞らせないままに再び彼女との距離を詰める。

 

「俺も……!」

 

 こっちもいつまでも床に這いつくばっていられない。膝の埃を払い、俺もナイフ片手に前線に飛び込んだ。

 

 足元で弾ける雷撃を踏み越えて、アイリーンさんに向けてナイフを振るう。

 

「アイリーンさん!」

 

「智樹様……っ」

 

 ナイフと爪が交錯して火花を散らす。

 

 至近距離でその麗しい紫水晶のような瞳を見返して、俺は知らず口元に笑みを浮かべていた。

 

「今度は、こっちから来たぞ……!」

 

「……っ!」

 

 

 

 

 

 

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