リストラ社会人、相棒の銀髪青眼色白美少女(元おっさん)とダンジョン配信に挑戦す! 作:SIS
第一層に広がる青い草原。それをひたすら進むと、突然視界が切り替わる。
目の前に広がるのは、どこまでも続く回廊。振り返るが当然、そこに青い草原の風景は見えない。
「競合区域を出たか」
「迷宮というものはこちらに来てから初めて入ったが、今更ながら誠に面妖なものだな」
「それには同意」
再び広がる殺風景な回廊を行く。
専門家に聞けば色々と説明が出てくるのだろうが、残念ながら一般市民からするとちんぷんかんぷんだ。ただ、噛み砕いて言うと迷宮というのは決まった形を持っているのではなく、人間の目にそのように見えている現象のようなものらしい。
実体のない虚像、という意味では蜃気楼と似ているのかもしれない。問題は、それが物理的に相互干渉が可能という事だ。
迷宮に出現する怪物や罠、それらは現実の脅威として人間を傷つけるし、逆にまた、人間がそれらを資源として外に持ち帰る事も出来る。
色々あってグローバルな貿易経路を寸断された状態から立て直しが進んでいない現代日本においては、これら迷宮から産出する資源は文字通りの生命線だ。だからこそ、冒険者、なんていう血生臭い商売が成立するのである。
そして競合区域というのは、ある種の集団幻覚のようなものだ。多くの冒険者が共通して見る、同じ幻……それに対して、個々の幻覚が閉鎖区画だ。この二つの不可思議な世界を行き来する事で、迷宮の奥へ進んでいく事が出来る。
そして、当然ながら幻覚が人間に優しいはずがない。奥に進めば進む程、幻覚は不可思議で致命的なものになる。
「そろそろかな」
経験で予測した矢先に、ぐんにゃりと視界が歪む。
その先に広がっているのは、赤い空に輝く砂丘。二層、砂漠地帯だ。
暑さに耐えられない俺はさっさと鞄から冷却コートを取り出して頭からかぶる。一方、ガンドレイクの奴は涼しげな顔だ。
「前から思ってたけどその恰好で汗一つかかないの違和感がすごいな」
「がははは、トモキ達は鍛え方が足りんのだ、鍛え方が」
斧をぶんぶん左右に振り回してから肩に担ぐガンドレイク。いや、お前と比べたらプロレスラーやボディビルダーだって鍛錬不足になっちまうよ。
「貧乏暇なしってな。お金がないと体を鍛える事もできんのだよ」
「なあに、そうやってカメラとやらを担いで歩くのも立派な鍛錬。そう遠からず、トモキもこの程度の暑さなら平気になる」
「そうかあー?」
本当にそうなれば助かるっちゃ助かるんだが。今から夏場のクーラーの電気使用量を考えると憂鬱で憂鬱で。
まあ、それはまだ先の話だし置いておこう。今は考えたくない。
「うし、カメラ回すぞー」
「おうともさー」
軽く答えて肩を回すガンドレイクが、不意に視線を逸らす。
なんだ、怪物が近くに居たのか?
つられて視線を向けると、そこでは……。
「はーい、じゃあ撮影はじめるよーん。ちょりーす!!」
そこでは一人の女性冒険者が、宙に浮かぶドローンカメラ相手にポーズを決めていた所だった。
なんていうか、随分と個性的な格好の冒険者である。
若い女性なのは間違いないのだが、化粧キメキメ、アイシャドウバチバチ、さらにその上から青いサンバイザーのようなものをかけている。
ツインテールの黒い髪にはインナーカラーっていうのか、内側を青く染めており、衣装も冒険者というよりは繁華街を歩いていそうな、黒いインナーに白と蛍光色のジャケットを組み合わせたゴチャゴチャしたファッションだ。指先も色んな色のネイルで彩っていてなんていうかこれからファッションショーにでも出るのか? といった佇まいである。
それでいて冒険者らしく、腰からは二振りの刃を下げているが、ぱっと見なんか強そうにはとても見えない。
だが、そんな彼女を見るガンドレイクの視線は、変わり者に対するそれではなく、実力を認めた戦士に向ける敬意と対抗心の入り混じった熱い視線だった。
「レインボー巴……だと……?!」
そう、彼女は今を煌めく、ダンジョン配信動画再生数トップ10に入る超人気配信者である。個性的で華々しい恰好と言動で賑やかに彩る動画の人気は高く、小学校の子供に将来どんな風になりたいか聞けば、憧れのダンジョン配信者として彼女の名前が上がらぬ事はない。
そして同時に、凄まじい実力者である。伊達や酔狂でダンジョン配信トップランキングに入ってはいない。ドローンカメラという貴重品と、何より“リアルタイム動画配信”を許可されているというのがそれを物語っている。それはつまり、政府から信用されるほどの実力者にして人格者、という事だからだ。
当然、俺も目指すべき動画配信者の頂点の一人として動画は参考にさせてもらっているし、ガンドレイクもまた敬意を払うべきこの世界の戦士の一人として認識済みだ。
そのレインボー巴が、しかしこんな場末の迷宮にやってきているとは。
とんだサプライズである。
そんな彼女は、浮遊するドローンカメラ相手に、パタパタ指を振りながら配信の真っ最中だ。
「ハロー、オーディエンス! 今日もレインボー巴のダンジョン配信、はっじめっるよー! 今日は迷宮管理番号XA-253ー74、その2層を訪れていまーす! これから私が、このスナスナ広場、攻略していっちゃうよーん……って、おっと! 早速第一村人発見!」
と、そこで何故かレインボー巴が、こっちに視線を向けた。
「え?」
「よほ?」
勘違い……ではない。間違いなくこっちを目視して、何やらせっせか歩いてくる。
慌てて横に歩いてずれると、それにあわせて彼女も進路を変えて、まっすぐこっちに。
え、なんで。あんな有名人がなんで俺達なんかに用事が!?
「あ、あわわ。が、ガンドレイク、どうする?」
「ふふん。成程、なかなか目の付け所がいいじゃないか。よかろう」
「なんでそんな上から目線!?」
わたわたと冷却コートを被りなおして顔を隠す。一方、ガンドレイクは炎天下の下、汗一つかかず仁王立ちで腕組したままやってくるレインボー巴に向かい合っていた。
とうとうこちらにやってきた彼女が、軽い調子で声をかけてくる。
「はいはい、ちゃおー! 貴方達、ここを探索している冒険者かなー? あ、私はレインボー巴、お見知りおきだったら嬉しいかなー? よろしければそちらもお名前どうぞ!」
「私はガンドレイク・ザバーニャス。こっちは相棒のトモキだ。お初にお目にかかる、レインボー巴。ご活躍は、かねがね」
「ど、どうも。春日井です……」
堂々とした態度で小動もしないガンドレイクに対し、俺の方は平々凡々な返しになってしまう。有名人な上に目に突き刺さってくるような美人、気後れしてしまって舌が回らない。
はえー。動画でも美人だったが、本物はそれに輪をかけて美人だ。化粧はめっちゃ濃いのにそれに全く負けてない。なんていうかオーラを感じる。
って、いやいやいや。
相手は恐らく今もリアルタイム配信してるんだ、迂闊に鼻の下を伸ばしたらその情けない顔を彼女のファンに覚えられてしまう。そしたら明日はないぞ、しっかりしろ春日井智樹。
「ふんふん、ザバニャンとかすがっちだね! 巴覚えたー! 私の事も気軽にトモエーンと呼んでね?」
「うむ、心得た、トモエーン」
「あははははは、ザバニャンおもしろーい!」
独特のノリにいっさい怯む事無くドヤ顔で応じるガンドレイクに、巴さんはなかなかご機嫌な対応。いや、そいつノリがいいんじゃなくて、イマイチこっちの文化圏分かってないからそういうもんだと思って対応してるんだよ。多分戦士としての別名とかだと思ってるよ。
「いやしかし、なあに、ザバニャンめちゃ美少女じゃん? ウヌー、これほどの逸材が潜んでいたとは、迷宮管理番号XA-253ー74、侮りがたし!」
悔しがる巴さん。何に悔しがってるかはわからんが。多分ノリだ。
それはそれとして、黒を基調にまとめてある彼女と、銀髪青目で全体的に白っぽいガンドレイクが並ぶと、なんていうかコントラストの映え具合がなかなか悪くない。
実際は隣にたっているのがむくつき大男だったとしても、だ。
というかそっちはそっちで悪くないよね、美女と野獣って感じで。まあ野獣というにはガンドレイクは紳士なほうだが……。
ごほん。考えが逸れた。
今はとにかく、なんで有名人がこんなとこにいるかの方が大事だろう。言動はあれだが、政府から信頼されてるって事はそちらかの依頼も受ける、という事だ。この迷宮には封鎖されたが黄金竜の潜んでいた洞窟もある、もしかするとガンドレイクの故郷絡みかもしれない。素直に教えてもらえるかは分からないが、まずはそれを確認しよう。
そう思って考えを纏め、問いかけようとするが……。
「よーし、今日は突発コラボだ! いくぜぇザバニャン! 私と一緒に配信動画のてっぺんもぎとりに逝こうゼーット!」
「がははは、なんだかわからんが任せておけ! いくぞトモエーン!!」
なんかいつの間にか意気投合してるぅー!?
二人そろって砂原に駆け出す冒険者二人。その背中を追って、俺は慌ててカメラを抱えたまま走りだした。隣を飛ぶドローンカメラと一緒に。
ああもう、ちょっと画角変えないとドローンのそれとダブる! あとこの配信動画後で使えるよね、政府の皆さんに没収されたりしないだろうな!?