リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる 作:SIS
二人の上位冒険者の必殺技ともいえる一撃。
それに対して、アイリーンさん……黄金竜の取った選択肢は回避でも迎撃でもなかった。
「……はっ!」
防御。
並大抵の怪物など一撃で絶命させる挟撃を、麗しき化身は小さく哂ってその場で受け止めた。
振り下ろされる斧を片手で受け止め、挟み込む刃に手を入れて押しとどめる。黄金の鱗と銀色の爪に覆われたその剛腕に、確かに赤い血が滲み滴った。
「やる。流石は大勇者ガンドレイク。そこの小娘も、なかなかに……だが!」
「ぐぅ!?」
「きゃあっ!」
膠着は一瞬。全身から雷撃を放つアイリーンさんに、二人纏めて吹き飛ばされる。軽い体が床をバウンドして転がり、遅れて落ちてきた得物がドズン、と重たい音を立てて地に突き刺さった。
嘘だろ。ガンドレイクの渾身の一撃が……通じていない!?
「いえ。なかなかに手痛い一撃でした。しかし、同じ技に三度も首を狩られたとあっては、神として名折れ、というものです」
「ぐ、ぐぅ……も、もう少し、他の武器も覚えておくべきだったか……」
「どっちにしろ貴方の場合、全力でフルスイングするのは変わらないのでは?」
地に這いつくばりながらちょっとずれた後悔を口にするガンドレイクに、アイリーンさんはちょっと呆れ顔だ。一方、巴さんは完全に気絶しているようでピクリとも動かない。肩が上下している所を見ると、生きているようだが……。
しかし、駆け寄って介抱する余裕はなさそうだ。
アイリーンさんの紫色の瞳が、じっとこちらを見つめている。
「さて。これで戦えるのは貴方様ただ一人。どうなさいますか?」
「……」
『お、おい、これやばいって』
『色々言ったけど、流石にこの状況は冗談にならない。逃げろ!』
『命大事に! お前はよくやったよ!』
コメント達も、ぴりついた雰囲気に口々に撤退を促している。
……確かに。ガンドレイクや巴さんですら敗れ去ったこの状況、俺なんかに出来る事はたかが知れている。ここは一度引くのも、決して道理に反した判断ではない、むしろ合理的な考えと言える。
迷宮の拡大速度が今どうなっているかは分からないが、少なくともあと一日やそこらで日本が呑み込まれる、というアニメの終盤展開みたいな切羽詰まった状態ではないだろう。一度引いて態勢を整え直して、再度挑戦する、というのも悪い判断ではない。
だがきっと、それこそが黄金竜の罠だ。
圧倒的な神の力に捻じ伏せられ、心を折られ。その足で逃げ帰って、再びこの神に挑めるか? これはゲームや遊びではない、現実の命を懸けた戦いなのだ。スポーツの大会じゃない、今回上手くいかなかったから次は上手くやる、とは訳が違うのだ。折れた剣は、溶接して繋いでも元の強度は保てない。
逃げ帰る道を残している、それそのものが奴の策。少なくともここで逃げれば、俺はもう二度と、この輝ける神に立ち向かう事はできやしない。
そして。こうも思うのだ。
出来ることがたかが知れているのと、何もできないというのは、違う。
固定バンドを外して、マスクを取り外す。バイザーにちらりと『馬鹿よせ』『やめとけ』というコメントが流れていくのを見ながら、外したそれを床に投げ捨てる。
そして、深呼吸を一つ。
すっとナイフを構えて姿勢を低くする俺を見て、アイリーンさんが満足気に目を細めた。
「それもまた、良し。ならば戦士の輝き、この黄金竜に魅せて逝くがいい」
「悪いがまだ死んでやるつもりはないんでね……!」
ジリジリ、と間合いを図りながら、必死に頭を回転させる。
破れかぶれの突撃は最後の手段だ。何か、何かないか。この状況を少しでも俺に傾けうる、何かが……!
視線をアイリーンさんから外さず、腰のポーチや懐のポケットを弄る。
と、何かがビリッと手の下で弾ける手応えがあった。
「?」
そんな物を懐に入れた覚えがなかったので、取り出して確認する。
……懐に入れていた事でちょっとへしゃげたプラスチックの容器。中では錠剤みたいなものがジャラジャラしていて、それが何やらパリパリ、と電気を放っている。
これって……。
「もしかして」
頭の片隅に閃いた荒唐無稽な発想。だが、筋は通っている。
何より、もう他に方法がない。これに賭けるしかない!
「……いくぞ」
容器を片手に握りしめたまま、縋るようにナイフを強く握りしめる。そのまま、俺はアイリーンさん向けて真っすぐに駆け出した。
「だ、駄目だ、トモキ……!」
「やけっぱちの神風特攻のつもりですか? 残念ですが通せませんね」
ガンドレイクの苦しそうな警告、対してアイリーンさんは失望も油断も見せずにただ、腕を水平に掲げた。その動きに合わせて彼女の周囲の空気が渦巻き、雷鳴が生じる。
黄金竜の権能。輝ける雷撃。
まともに食らえば、俺なんかはひとたまりもない。それが分かっていて、俺はなおも真っすぐに彼女へ向けて直走った。
どうだ。ただ真っすぐ走っているだけだ、外すなよ!
それ以上に……神様ともあろうものが、ちっぽけな人間の策に乗らないつもりか!?
「……どうやら何か策があるようですね。では、真正面から……その策を踏みにじっていくとしましょう!」
雷撃が放たれる。降り注ぐ三筋の電流……ふふ、本物の落雷に比べれば随分と遅い。だからこうして、左手を振りかぶる余裕がある。
「……いけえ!」
アンダースローで投げつけた、小さなプラスチックの瓶。まるで盾にするように投げ込んだそれに、落雷が落ちる。
無意味な、とアイリーンさんが目を細める。そんなちっぽけな小瓶で、私の雷撃を止められる筈がない、とその視線が訴えている。
ああ、それは俺もそう思うよ。
だけど……その中身の方は、どうかな!?
「……何っ!?」
アイリーンさんの動揺する声。
収束した雷鳴が、まるで吸い込まれるように消えていく。容器など圧倒的な力によって分子も残さず消滅した。残されるのは、黄金に輝く数粒の錠剤。
そう。
黄金竜の鱗から作られた、バーサークドラッグ。
それはつまり、彼女の、戦いの神の肉体の一部という事だ。
自らの力で傷つく神は居ない。そして……本人ならぬ本神の鱗であるなら、一部といえどその力を受けるに十分なはず!
「悪いけど……貴方の力を借り受ける!」
走り込みながら俺は空中でその錠剤を一つつかみ取り、口に放り込んで奥歯でそれを噛み砕いた。
電気ショックを受けたような衝撃と共に、俺の全身に凄まじい力がみなぎっていく。以前服用した時とはくらべものにならない効果。膨れ上がる筋肉を、スーツが押さえ込んで制御する。ギチギチと、骨と肉がせめぎ合う強烈な違和感と激痛。
その全てを飲み込んで、俺は強く一歩を踏み出した。
瞬間、彼女と俺の間の距離がゼロになる。
「くらえ……!」
「ちぃ……!!」
交錯する刃と爪。
花火のような火花が、広いステージに咲き誇った。
衝撃に、アイリーンさんの腕が後退する。この戦いにおいて、彼女が明確に力負けしたのは初めての事だ。
「まだまだぁ……!」
「くぅっ! 智樹様……!」
その隙を逃さず、やったらめったらラッシュを繰り出す。ナイフの扱いは素人だが、それでも直接神の力を取り込んだブーストは凄い物だった。まさに一撃一撃がガンドレイクのそれに匹敵する勢い、なんだか自分で自分の体だと信じられない。副作用とか反動がきつそうだが、それは後で考える!
バチィン、と音を立てて小さな欠片が飛んでいく。爪の切っ先を欠いて、アイリーンさんが苦痛にか目を細めた。
「まさか……このような手で抗ってくるとは!」
「自分の力に手を焼かされる気分はどうだい、神様よぉ!」
「なかなか爽快な気分です、もっと早く試してみればよかったですね!」
ええいこの期に及んでこの言い分! これだから戦いの神は!
そんでもって、この短い間で急激にこっちの勢いが衰えていく。ブーストはまだ聞いてる、付け焼刃にすぎない俺の単純なナイフ裁きが、早くも彼女に学習されてる……!
次第に、攻勢が防戦に切り替わっていく。嵐のように繰り出される彼女の指から、いつしか俺は身を護るのに精いっぱいになっていた。
「そこ! 貰いました!」
「ぐうっ!」
そしてついに、彼女の指が俺の手首を捕らえる。そのままの勢いで、ゴキリ、とへし折られる俺の手首。
「ぐあああ!」
激痛に悲鳴を上げながらも、それでも俺は不適ににやりと笑って見せた。
俺の手首をつかむアイリーンさんが、その手の中を見て目を見開く。そう、空のままの、指の中を。
「ナイフが、無い!?」
紫色の視線が、得物を探して虚空を彷徨う。
その一瞬の隙をついて。
俺は左手に持ち替えたナイフを、全力で彼女の脇腹に突き出した。
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