リストラ社会人&TS銀髪少女のダンジョン探索、コラボ配信で実力者に一目置かれる 作:SIS
立ち込める日差しの熱に目が覚める。
むわっとした湿度に顔を顰めながらベッドから身を起こす。寝る前にタイマーセットしたクーラーの冷気は、一晩のうちにどこかへ行ってしまっていた。
あるいは、珍妙な同居人のせいか。
ベッドの下を見下ろすと、敷布団の上、大の字になって寝コケている銀髪美少女の姿がある。だらしなく口を開いて涎を垂らし、余りの寝相の悪さに布団は蹴っ飛ばされてどこかにいっている。寝間着にしているTシャツがずれて、艶めかしい肩どころか乳房まで見えそうになっていた。
「……」
俺は一つ溜息をついて、目を逸らしながら掛布団をかけ直す。目に毒な物が見えなくなったところでベッドから降り、リビングへ。
カーテンをジャッと開くと、差し込んでくる強烈な朝の陽ざし。
あれから一月。
季節は、すっかり灼熱の夏になっていた。
迷宮統合事変。
あの事件は、一般的にはそう呼ばれている。
紆余曲折を経て、首謀者であるアイリーン・ラタトスクの身柄は確保され、事件は収束に向かうかと思われたが、残念ながらそうはいかなかった。
彼女が独自に関与していたのは迷宮拡大のみ。そもそも統合迷宮は、野党が中心になって行った、つまり非公式とはいえ公式事業だ。勿論、彼ら政治家だけで行われた案件ではなく、多数の企業や警察官僚、与党の一部議員なんかも関与している。おまけに中心人物は迷宮に呑まれて消息不明という訳で、真相究明もままならない。
しかも彼らはこの案件を通すにあたってとんでもない量の横紙破りや専横、権限逸脱、公金転用に手を染めており、常であれば保身の為に隠蔽されるそれらが当人不在の為にフルオープンになっており……まあ、なんていうか、とてつもなく酷い事になった。
ゴタゴタが落ち着くまでは半年以上かかりそうだと、目の下に濃い隈を作った御堂さんに散々に愚痴られた。合掌である。
んでもって統合迷宮そのものだが、これもまたアイリーンさんを押さえてもどうにもならなかった。なんせ、統合迷宮の核となった黄金竜の亡骸、これはもう当人からすらも独立して動いており、勝手に迷宮を維持しているのだという。政府の公的なプロジェクトなんだから制御系ぐらい確率しておけよと思わなくもないが、アイリーンさんの目的としては保障していたのは迷宮統合までであり、そっから先は首謀者たちが自力で用意したもので……まあ、うん、よくわかってないものをわからないままに制御する事なんて不可能だったという事である。制御装置そのものはあったんだが全く機能していないという事だった。
ついでに言えば、迷宮内の実況システムもそちらに紐付けられており、仮にアイリーンさんが死んでも勝手に動き続けるとの事だった。あちらの世界から数えれば一度ならずとも二度にわたってガンドレイクに野望を阻止された事で、自分が死んでも目的は達成できる、という方向性で話を進めていたらしい。
神様のくせに用意周到すぎて手に負えないとはこのことである。
結果、収監されたアイリーンさんは協力的なもののどうにもならない、というのが現状で、つまりは冒険者による迷宮最深部到達を待つしかない、というのが結論という事だ。
つまりは、今まで通り、という訳である。
「ほら、ガンドレイク。出発するぞ」
「ちょ、ちょっと待つのだトモキ!」
車のクーラーを回しながら待っていると、家からガンドレイクが荷物を抱えて飛び出してくる。と思ったら一度引き返して、家に鍵をかけてくる。よし。流石に学んだな。
「お待たせしたのだ!」
扉をバタンコと乱暴に開け閉めして助手席に飛び乗ってくるガンドレイク。夏という事もあってその恰好はラフだ。ショートパンツに、水着みてーな幅のタンクトップ、その上からファーのついた毛皮のジャケットを羽織っている。
それだけならまだいいのだが、飛び乗った拍子に彼女の胸がゆっさゆっさ流体的に揺れるのを目の当たりにして、俺は思わず目元を押さえた。
「馬鹿、また下着つけてないな!? 待っててやるからスポーツブラでもなんでも付けなおしてこい!」
「えー? あれは嫌なのだ。蒸れるし、かゆいし。無くても私は困らないのだ」
「後で困るっつってんだよ! いいから付けてこい、どっちにしろ巴さんや蘭ちゃんに合流したら付けさせられるぞ」
最近一緒に冒険してる仲間の事を話題にだすと、ガンドレイクは口をへの字に曲げながらもしぶしぶ従った。ブチブチ、「この国の夏の湿度と気温は異常なのだ……これも黄金竜の策略……?」とかいいながら戻っていくガンドレイクだが、残念。こないだ面会にいったら、その黄金竜本人もクーラー温度控えめの留置所で暑さにへばってたぞ。
神様も大自然の猛威には勝てないらしい。無常だね。
「全く……巴さん達にちょっと遅れる、って連絡しておくか」
そんでもって、目的地に到着。
駐車場に一足先に到着していた巴さん達が手を振るのに合わせて、近くのスペースに駐車する。
今日も迷宮は大繁盛だ。凌ぎ口を求めて、多数の無職が今日も迷宮に集まってきている。正直、とても不健全な光景のような気もするが、これからそれも少しずつ意味合いが変わっていくのかもしれない。
「もー、トモキンおっそーい」
「悪い悪い、文句ならガンドレイクにいってくれ」
「ふん。トモキが細かい事を気にするのが悪いのだ」
腕を組んでぶーたれるガンドレイクを見て悟ったのか、女性陣は顔を見合わせて苦笑いだ。
車から降りて視線を巡らせると、かつて建物があった場所に出来た大きなクレーターと、そこから伸びる光の柱が見えた。
迷宮統合によって全ての迷宮入り口はああいった光の柱になってしまった。周囲のクレーターは、あれが広がった時に飲み込まれた地形である。アイリーンさんの捕縛によって拡大は停止、元の大きさに戻ったものの、飲み込まれてしまった地形は戻ってこない。あの時何とか出来なかったら、日本全体がああなっていた訳である。いやー、どうにかなってよかったよ。
まあ大変なのは管理する側であるけども。建物も消し飛んだので、迷宮管理課の皆さんは周囲にフェンス張ってプレハブ小屋で出入りを管理している。周囲のクレーターの御蔭で、勝手に出入りできないようになっているのが救いと言えば救いか? まあ光の柱に出入するための唯一の道であるの鉄梯子も、何か地震があったら崩れそうで怖いっちゃ怖いが。
「ささ、お喋りしてないでさっさと手続きしにいくぞ」
「うむ!」
「最近勢い出てきたしねー。登録人数一万人、越えちゃうかなー?」
「が、頑張ります……」
大事件が終わっても、神様の野望を挫いても、人生は続く。
相も変わらず、迷宮はそこにあり。そして俺達は冒険者だ。であるならば、やる事は何も変わらない。
さあて。
今日も頑張って稼ぎますか!
◆◆
「ところで、決行は今晩なんだな?」
「うん。探索帰り、疲れてる所をホテルに誘って……だね。大丈夫、見た目は普通のビジネスホテルだからバレないバレない」
「ふ、不健全ですけど、も、もう手段は選んでられませんしね……!」
◆◆
●序盤のどっかで差し込もうと思って準備していたものの、差し込むタイミングを見失った登場人物紹介
春日井智樹(かすがい ともき)
設定:日本に住むごく普通のサラリーマン。屋外で震えていたガンドレイクに情けをかけたのがきっかけで、色々あってダンジョン配信をする事になる。
基本的にはお節介好きの善人なのだが、そういう人間は現代社会では食い物にされるばかりであるため、今はすっかりひねくれている。
男として、戦士としてのガンドレイクの益荒男な生き様をなんだかんだいいつつ尊敬していた(過去形)。
今は精神的EDに悩まされている。
ガンドレイク・ザバーニャス
設定:異世界オールドバースからやってきた大戦士。実際は遥か過去の人物ではあるが、女神によって蘇生させられた。ダンジョンを利用して復活しようとしていた、黄金竜ウシパチャカスナを討伐する為に、女神モルガンによって送り込まれる。が、アフターフォローがいい加減であった為に路頭に迷い、寒空の下で震えていた所を春日井に助けられた。その後なんやかんやあって黄金竜の討伐に成功し、春日井への報酬として女神の体を与えられて女になった。
今現在は最低限の目標は達成したので、追加目標としてダンジョンの攻略と調査を行っている。
なお、オールドバースには衆道文化がある。
女神モルガン
設定:ガンドレイクを蘇らせ、現代日本に送り込んだ張本人。氷と夜の女神。オールドバースを管理する冷酷な支配者ではあるが、横暴に振舞うのはあくまで自分の世界に対してのみであり、他の世界の存在であればただの人間相手であっても礼節を尽くす。なので自分の下僕であるガンドレイクにはかなり雑な扱いをするが、それを助けた春日井には感謝の念を忘れない。黄金竜討伐の報酬として提案した金銀財宝や名誉を春日井が断った為、ならばと自分の肉体をコピーしたものにガンドレイクの精神をぶち込み、嫁として差し向けた。人間には理解しがたい感覚かもしれないが、本人は200%善意のつもりである。
黄金竜ウシパチャカスナ
設定:女神の敵たる黄金の獣。オールドバースを荒らした白夜の化身。永劫の争いを招く者であり、その翼の下では安寧が訪れる事はなく、全ての命は永遠に苦しむ事になる。しかし同時に、争わずには居られぬ者達の庇護者でもある。かつては自らの戦士団を率いて女神モルガンとオールドバースの支配権をめぐって争うものの、幾度目かの戦いの末に大戦士ガンドレイクによって首を断たれ、滅び去ったかに思われた。だがその折れた角の欠片が現代日本に迷い込み、特異点としてダンジョンを発生させ、世界を混乱に堕としつつ密かに復活の機を伺っていた。
すでに復活したウシパチャカスナは倒されたが、ダンジョンは消える所か今も増え続けている。
あとがき
という訳で、『リストラ社会人、TS銀髪少女を引き連れてダンジョン配信。違いの分かる実力者たちに一目置かれる』略して『リストラ社会人』これにて完結です。
いかがでしたか? 本作は大分実験作でした。当初はおっさんとTS少女の日常、みたいな感じで話を進めていく予定でしたが、途中からはもう思い切ってラブコメ方向に完全に舵を切った感じです。終盤、黄金竜ことアイリーンさんが登場してからは作者なりの悪の美学、神の威厳みたいなのを好き放題ぶちこんでみました。大物感は出ていましたでしょうか?
少なくとも作者は書いてて楽しかったです。いえい。
主人公の末路に関しては……まあ察してください、としか。少なくともガンドレイクの艶姿に劣情を覚えるようになってしまっていたので、そう長い余命ではなかったと思われます。合掌。
まあ黄金竜の干渉で理性が下がんなきゃそんな事にはなかったのですがね! 主人公にとってはまさに疫病神でした。なおヒロインはヒロインで冬の女神のせいで理性が大幅に下がっている模様。神様って怖いね。
ぶっちゃけ黄金竜も迷惑な神でしたが冬の女神も相当に現代から見ると厄ネタです。どっちも来ないで。現代に神様が出てこないのは、「神様が居なくても回る世界だから」という事ですね。実情、内面はどうあれ、それなりに成熟した世界であると、まあそういう事です。
さて、今後の予定ですが。
とりあえずはビルドロボオンラインを書きつつ、次回作の準備も進めております。ここしばらくはアマチュアイベント絡みで売れ筋を模索した作品を書いておりましたが、ここで一度初心に戻って性癖に素直な作品を書こうと思ってます。というか書いています。ジャンルとしてはあれです、マイルドなTSエイリアン的な。
滅茶滅茶好き放題に書いてるのでまあこれも伸びない可能性が高いのですが、それはそれで。まあ。はい。でも伸びたら嬉しいな……。一作者としては、伸びれば無限に続きが書けます、ネタが続く限り。逆に言うと……はい、出来るだけエタらないようには頑張りますが。
私もたまにはカッコいい主人公が日本刀とかのカッコいい武器で悪をズバッとやっつける単純明快な俺ツエーものを書いてみたいんですが。読む分にはそんなに嫌いではないのですが。
まあでもそういう作品はそういうのが得意な人にお任せして、私は私の色を追及していくのもまあ一つの道かと思ってます。え、だから書籍化できないんだって? そうですね……(しょんぼり。
では、無駄話もこの辺にしておいて。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
ではでは!