リストラ社会人、相棒の銀髪青眼色白美少女(元おっさん)とダンジョン配信に挑戦す! 作:SIS
突如として始まった有名配信者とのコラボイベント。あちら側の視聴者はさぞ混乱している事だろうが、俺も大分混乱している。
カメラを抱えて必死に追いかける目の前では、二人の女性が砂原を気分よさそうに駆け抜けていた。どっちも速度が人間離れしている。
「ふふーん、なかなかやるねえザバニャーン! この私が引き離せないとはね!」
「はははは、そちらもなかなかの健脚! とはいえまだまだ譲るつもりはなーい!」
どっちも息一つ切らさずにおしゃべりなんかしている。まだまだ全然余裕って感じだ。息堰切らせている俺とは大違いだ。
これでも、結構、鍛えたつもり、なんだけどなっ。
必至に追いかけるが、その距離は離れていくばかりだ。
「おっと、そういえば大事な事忘れてた」
と思ったら急ブレーキ。ずざざざ、と砂原を滑りながら停止したレインボー巴が、とぅ、と着地ポーズみたいなのを決めながら振り返る。
「つい楽しくなって走っちゃったけど、必要な事は聞いておかないとねー。このあたり、どんな魔物が出るの?」
「おっと、そうだな。このあたりのは大して強くないが、油断は禁物だな。トモキー、アレを頼むー」
「ぜぃ、ぜぃ、あのな、ぜぃ、ぜぃ、好き勝手に、ぜぃ、ぜぃ、ふりまわさないでくれるか、ぜぃ、ぜぃ……」
息を切らせながら追いつき、呼吸に喘ぎながらも俺は鞄から小さな音叉を取り出した。それをベルトの金具に軽く当てて鳴らすと、ぽいっと遠くに投げる。
砂に突き刺さった音叉が、ブルブルと震える……するとそれに釣られたように、周囲からもこもこと地面が盛り上がる。それらはもぞもぞと音叉にむかって近づいていき、そして。
ばざああ! と激しく砂煙を巻き上げながら、地上に出現する大きな何か。煙の向こうにゆらゆら揺らめくシルエットは、太さは1mほど、高さは3mほどにもなる巨大な柱状のそれである。
「ほへー! でっか!」
「サンドワーム。この2層で一番の強敵だな。物音に反応して地上に上がってくるが、あんまり感度がよろしくないのだ。ちなみにああやって音叉で引き寄せるのはトモキのアイディアだぞ、凄いだろ」
いえーい、ピースピース、とこっちに向かって笑顔を浮かべるガンドレイク。何でか知らんがコイツ、俺を褒める時やたらと嬉しそうにするよな。まあ同じぐらい自分の事も自慢するんだが。
砂煙が晴れてようやく詳細が確認できるようになったサンドワームは、牙のあるミミズって感じの見た目をしている。それが今回は3匹。今日はちょっと数が多いな。
2層にきたばかりの冒険者であれば、即断で撤退を決断する戦力だが……。
「よーし、じゃあ私の実力みせちゃうよーっと!」
「おっと、トモエーンだけに良い恰好はさせんぞ!」
俺が何かを言う前に駆け出すバーサーカー二人。ガンドレイクはコートを棚引かせて極端な前傾姿勢で砂原をかけ、それに遅れて続くレインボー巴が、腰に交差して指していた剣をずらりと引き抜く。
彼女は双剣使いだ。通常、双剣は防御を重視した立ち回りをするものだが、彼女は違う。
「レインボー、スラーッシュ!」
大きく両手を広げて、回転しながら刃を振りかざして突っ込んでいく巴。二匹のサンドワームの間をすり抜けるように彼女が駆け抜けた後、遅れて思い出したように怪物の肌が裂け、虹色の液体が噴出する。振りぬいた刃から七色の液体を振り払い、砂原に即席のペイントアートのような痕跡を残し、急旋回する彼女。
「今日もアゲアゲでいっちゃうよー!」
そして今度は跳躍。足場の悪い砂地をものともせず、大きく跳躍した彼女は一匹のサンドワームの真上から強襲すると、螺旋状にその体を上から下まで切り刻んだ。七色のペンキのような液体を噴出しながら三度ワームが砂地に崩れ落ち、巴は双剣を振りかざして液体を払うと、亡骸を背後にポーズを決める。
「チェキ!」
その様子を、頭上から撮影するドローンカメラ。上空から見れば、彼女が描いた虹色のペイントが華か何かのように広がっているのが見えるはずだ。
これが、レインボー巴がのし上がってきた特異のアピールである。
彼女の剣は、血を虹色に変える効果をもっている。戦術的には何の意味もないそれを、彼女は最大限利用した。血生臭い戦いの様相を色鮮やかに彩る事で、視聴においての心理的ハードルを下げる工夫に使ったのである。さらに、常人離れした空間把握能力で、戦いながらその痕跡をアートのように描く事で、凄惨な死闘を自分だけの芸術に昇華してしまった。
一見何も考えずに突撃しているように見えて、全てが緻密に計算された剣裁き、体裁き。さすが配信者の上位に位置する冒険者だけの事はある。
一方で、我らがガンドレイクは、というと。
「私も負けてられないなあー、とぅ!」
砂原を駆け上がったガンドレイクが、巨大な斧を片手で構えてギラリと輝かせる。反応して頭から突撃してきた三度ワームをひらりとかわし、すれ違いざま、その刃をひらめかせる。
バヅン、という音ともに、太いサンドワームの胴体が半ばで両断される。
いくら巨大な斧とはいえ、直径1m近くあるそれを一振りで両断は出来ない。常人には見えない速度で、恐らくは三回ほど一瞬で切り込んだのだ。大抵の視聴者には、小柄な少女が一振りで丸太のような三度ワームを両断したように見えただろう。
こちらも、普通の人間ではとうてい成せない絶技である。だが……。
「あ」
「お」
「あちゃあ」
切断面から噴き出す鮮血。赤黒い血が噴水のように噴出して砂地に血だまりを作る。その脇には痙攣する肉塊と、頬やら髪やらコートやらにべったりと返り血をつけたガンドレイクの姿。
華々しさでは天と地というか、到底お茶の間に流せるはずもないショッキング映像である。さっとレインボー巴がドローンカメラのレンズを手で隠すのが見えた。
「あーのさー、ザバニャン? うちの動画はさー、華々しくて可憐なの売りにしてるから、ちょーっちそういうリアルでバイオレンスでスプラッタな奴は勘弁してほしいかなって……」
「う、うむ……済まぬ……」
「まあ、次から気を付けてくれればいいから……ネッ、トサーフィン!」
言葉尻を奇妙に言い換えながら、ばっと巴が背後に飛び上がる。一瞬遅れて、最後のサンドワームの突撃が彼女の居た場所に襲い掛かるが、それは空振りに終わる。空中で身を捻った巴の双剣が煌めき、すれ違いざまにワームの頭から尻尾までを切り刻み……。
「ちょちょいのちょい、とな!」
背後でずずうん、と地面に崩れ落ちるワームを背後に、V字のポーズを極めながら着地。ニッコリ笑顔で立ち上がりしゅいん、しゅいん、とかっこよく剣の地を払い、腰に戻す。
「いえーい、オーディエンスの皆、ちょっと吃驚しちゃったかな?」
ドローンカメラ相手に語り掛ける彼女が、ちらっと眼でアイコンタクト。なんとなくその意図を組んだ俺は、ガンドレイクの元にはしっていくとハンカチでその頬についた返り血を拭ってやる。
「お、おい、自分でやれるって」
「だーめだ、有名配信者に迷惑かけたらこの世界で生きていけねーぞ」
「うぐぐ……」
子供みたいにむずがるガンドレイクに溜息をつきながら、とりあえず拭き取れるだけ返り血を拭き取る。髪に絡んだのは……駄目だな、戻ってからぬるま湯で落とすか……。
根本的に蛮族だから、普通は避ける返り血とか気にしねーからなコイツ。それでも戦いのプロではあるから、目とか口とか、浴びると不味い所はちゃんと避けるんだけど。
とりあえず人目に出せる状態になったのを確認して、レインボー巴に小さく合図。彼女は頷いて、再びドローンカメラの画角に俺達を入れてくれた。勿論、傍らでブツ切りになっているワームの死体は避けて、だ。
「そっちもなかなかやるじゃーん! やっぱり、2層3層で足踏みしてるような実力じゃ、ないねー!」
「うむ。あくまで私達は最近、迷宮に潜り始めたばかりだからな。とはいえ、基本を疎かにしてはいけない」
「それには同意ー! 実力伯仲ギリギリバトルより、キメ可愛お洒落な戦いのほーが、バエるってもんだよねー!」
語り合う二人の実力者。が、なんていうか横に並ぶと全く正反対のスタンスだなあ。
ガンドレイクは見た目だけなら世間一般で美少女に入るし実力も確かなんだがとにかく画面映えを気にしない。平気で怪物を頭から輪切りにするんでグロ画像頻発、おかげで動画編集時間の4割ぐらいはモザイクの張り付け作業である。
それに対してレインボー巴は流石というか、衣装には返り血どころか乱れもほとんどなく、魔剣の力を最大限いかして凄惨な修羅場を前衛芸術的なアートに変えてしまう。さっきから奇妙なポーズをしているのも、あくまでカメラに自分を御洒落に見せる為のもの。安全に勝てる相手に余裕をもってお洒落プレイ、というと舐めプに聞こえるが、実際はそこに微塵の手抜きもない。彼女は彼女で、動画配信を戦い抜くために常に全力全開なのだ。
……うん。戦士としてはともかく、配信者としては天と地ほどの実力差があると言わざるを得ないな。
それを自分もわかっているのだろう、ガンドレイクもちょっと悔しそう……ではないな。むしろなんか嬉しそうというか、敬意に満ちた視線をレインボー巴に向けている。
「うむ! 成程、わかっていたつもりだったがやはり本物は違うな! そちらの戦いは私はまだまださっぱりだな……勉強になる!」
「ウェーイ! だいじょぶだいじょぶ、ザバニャンならすぐにイケイケになれるって、ニャハハ!」
「がははは! うむ、今回は是非とも、先人の戦いぶりを勉強させて頂こう!」
あーら、もう。すっかり打ち解けちゃって……。
やっぱ武人同士、通じ合う者があるんだろうか。俺みたいな一般人にはぜんぜんわからん……。
……むぅ。