クソボケ英雄と置いてけぼりの仲間たち   作:宇後筍

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3.掠れ声のラージル・ウェンドリクス

 

 何合打ち合っただろうか。

 

 無尽の体力を誇るガリアンではあるが、魔力は無限ではない。魔力を通わせる女神の武装を控え、腰に差した業物のロングソードを抜いて斧槍をいなしていく。

 

(千日手だな)

 

 ガリアンはこの門兵に対し、命の危険を感じてはいない。確かに斧槍の一撃は恐ろしい威力を誇ってはいるし、その技の冴は流麗である。加護を持たない人間であったなら、今頃無様に死体を晒している頃だ。

 

 だが、ガリアンに与えられた加護。「後ろに味方を背負う限り死なない」というとびきりの神秘は今でも効いている。

 

 日常から遠く離れた『宮殿』にあっても、己の死が背後のヒト種族の滅亡を招くとガリアンは知っている。故に効力は多少落ちはしても健在である。

 

——なら、仲間を連れてきたらもっと楽に勝てたんじゃないのか?そんな考えが脳裏をチラつく。

 

(だから()()は捨てただろ!)

 

 もう人が死ぬところを見たくはないのだ。加護があれば身体はいつでも全盛に保たれる。傷が治る。手足など、捥がれてもすぐ生える。痛みなんかとっくに超越した。しかし、死んだ仲間は二度と戻らない。

 

 眠れないのだ。もう一年は寝ていない。ガリアンはその神秘により睡眠が必要ないが、しかしその精神を保つために眠るべきであった。しかし、そうするには彼は優しすぎた。

 

「俺が——俺が全部終わらせる——!!」

 

 稲妻斬り——上段から唐竹、逆袈裟、左一文字、袈裟斬りをゼロコンマ数秒の間に繰り出す、ガリアンの剣を鍛え、そして死んでいった男の技である。

 

 尋常ならざる冴えと膂力で繰り出されたその技を見事受け切った門兵だったが、その斧槍は耐えきれず折れる。

 

 稲妻斬りの後の僅かな硬直を生まれたガリアンがそれを視認するよりも早く門兵は前蹴りを放ち、それを受けたガリアンのロングソードもまたへしゃげて使い物にならなくなる。

 

 互いに動揺はない。技を交わし合えば力量はわかる。力でも、技でも門兵が優れている。巨躯ゆえにリーチも長く、おまけに速さも上である。まさしく大悪魔というべき残酷なまでの性能差がそこには存在している。

 

(それでも『太陽の槍』なら倒せる)

 

 こうして剣戟に応じる間もガリアンの魔力は回復している。体力は尽きることなく湧き出し、一呼吸ごとに満ちていく。『泉の女神』に寵愛された騎士であるガリアンにとって、本来長期戦は望むところである。

 

 しかし、敵の戦力がこの門兵で全てとは限らない。相手方に増援でも来られれば拮抗した戦力が傾く。

 

 故に。使うならここだ。相手の斧槍が折れ、使い物にならないこの場面。徒手で来るか、別の武器でも出すか、どちらにせよ相手の動き出し——ここにぶつける。

 

 門兵も気配でそれを読んでいる。見合う形で静寂が訪れる。じり、じりと鎧が土を捲り上げ、ガリアンも瞬きひとつせず隙を窺っている。

 

 まだ。

 

 まだだ。

 

 じり、じり。

 

 土が、はらりと数粒落ちる。

 

————今、ここ。

 

 必中の気配。溜めていた魔力が金色に噴き上がる。右腕を差し出すようにして突き出したガリアンに対し、今までの武人然とした動きをかなぐり捨て門兵が獣のように迫る。四足で地を蹴るその動きに対してもガリアンに動揺はない。狩人の師の教えが脳内にこだまする。

 

『放つんじゃないぜ、置くんだ』

 

 当る。

 

「『聖レノ記(BIBLE)』——」

 

「そう来ると思ったぞ!!!騎士ィ!!!」

 

 閃光が放たれる直前、門兵が跳躍する。それは人間には不可能な動き。その身が骨のみとなったがゆえの無謀な行動。全身の骨を自ら砕くことで制動し、全くの見当違いの方向へと飛び跳ねる。不可解であるがゆえに、それは予想がつかない。

 

「な……!!?」

 

 このままでは外れる——。そう考えた瞬間。

 

 

「——『拘束せよ(バインド)』」

 

 

 がくん、と門兵の体が不自然に宙空で停止する。

 

 薔薇のつるを人の胴ほどに太くしたような茨が幾筋も直下の地面から現れ、門兵の体を拘束したのだ。

 

「なんだこれは……ッ!」

「嘘だろう!?」

 

 

 驚愕。太陽の槍を放ったガリアンと、それを避けるべく決死の行動に出た門兵。奇しくもそれに対する反応は全く同じものだった。

 

「だ、が……まだ、負けんッ!!」

 

 光の濁流が黒い鎧を飲み込み、消し飛ばす。しかしそれに抗うように一歩、また一歩と歩みを進め『太陽の槍』の発射元であるガリアンへと歩み寄っていく。

 

「それを喰らっテ喋ってる者なぞ初めて見たナ」

 

 小さいがよく通る、ざらついた声。ところどころに擦過音の混じる種族特有の話し方。

 

 間違えるわけもない。ガリアンの()仲間にして、手酷い裏切りを与えた相手。

 

 己を恨んでいるはずの、蜥蜴人(リザリア)

 

 魔術師ラージル・ウェンドリクス。

 

「久しぶりだナ、ガリアン。積もる話は後にしテ、死にぞこないには退場してもらおウ——『早贄(ピアス)』」

 

 茨が門兵の腹を突き破り、その歩みを止める。

 

 

「がァああああッ、ぐああああ!!!!儂はッ!!儂は、まだ死ぬわけにはッッ!!!!」

 

 

「——喧しイ犬だ、館の主人も程度が知レる」

 

 

 

 

 

 それでも門兵はその名に恥じることなくその身をもって門を守り続けたが、やがて太陽の槍に消し飛ばされ、そして跡形もなく消え去った。




リメイク前のものを放置するにも忍びないのでそっちは裏設定の要素だけ匂わせて打ち切りのようにしようと思っていたのですが、流石に以前追ってくれていた人に失礼だなと思い直し当該部分を削除しました。

なんとかそちらも完結までやろうと思います。

エタってた分際で言うのもなんだけど、面白かったら反応もらえると嬉しいのでよろしくお願いします!!!!!
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