銀では腹は膨らまない ~ゴメス暴走記録~   作:ヒツジ(ラム肉

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第四話 前編 燃えた港と働く男達

航海日誌

帝国暦一七三年 雨季 第八週 五日目

 

倉庫が燃えた。

 

翌日には修理が始まった。

 

人間は思ったよりしぶとい。

 

ペペは朝からパンを五個食った。

 

あいつは化け物かもしれない。

 

――ゴメス

 

朝。

 

港は動いていた。

 

昨日。

 

大火事があった。

 

倉庫が燃えた。

 

銀貨箱が埋まった。

 

人が騒いだ。

 

酒も飲んだ。

 

だから今日は静かだと思っていた。

 

甘かった。

 

「運べぇぇぇ!!」

 

「縄持ってこい!」

 

「板が足りねぇ!」

 

「釘だ!」

 

「朝飯はまだか!」

 

最後のはペペだった。

 

港は相変わらず騒がしい。

 

燃えた倉庫の周囲には人が集まっていた。

 

大工。

 

荷役人夫。

 

鍛冶屋。

 

縄職人。

 

樽職人。

 

皆働いている。

 

「昨日燃えたんだよな?」

 

ペペ。

 

「昨日だな」

 

ディエゴ。

 

「元気だな」

 

俺。

 

本当に元気だった。

 

屋根は半分無い。

 

壁も黒い。

 

だが。

 

もう修理している。

 

木材を運び。

 

柱を立て。

 

縄を引き。

 

声を張り上げる。

 

誰も止まらない。

 

「急げ!」

 

監督役が怒鳴る。

 

「船が来るぞ!」

 

それを聞いて皆動く。

 

足が速くなる。

 

声も大きくなる。

 

「何でそんな急いでるんだ?」

 

ペペが聞く。

 

近くの荷役人夫が笑った。

 

「止まると飯が止まるからだ」

 

全員納得した。

 

飯は重要だ。

 

非常に重要だ。

 

「それは急ぐな」

 

ペペ。

 

「急ぐな」

 

俺。

 

即座に意見が一致した。

 

市場へ向かう。

 

相変わらず賑やかだった。

 

魚。

 

肉。

 

パン。

 

野菜。

 

酒。

 

全部売っている。

 

全部人が群がっている。

 

「いい港だな」

 

ディエゴ。

 

「飯が多い」

 

ペペ。

 

「お前本当にそれしか見てないな」

 

だが。

 

俺も大体同意見だった。

 

飯がある港は良い港だ。

 

飯がない港は悪い港だ。

 

単純な話だった。

 

市場の奥。

 

大量の樽。

 

積み上がっている。

 

本当に大量だった。

 

「何だあれ」

 

俺が指差す。

 

酒かと思った。

 

違った。

 

塩だった。

 

白い。

 

山のように積まれている。

 

「塩だ」

 

商人が言う。

 

「見れば分かる」

 

ペペ。

 

「じゃあ聞くな」

 

商人。

 

周囲が笑った。

 

港は笑いが多い。

 

海の上よりずっと。

 

「そんなに必要か?」

 

俺。

 

商人は頷いた。

 

「魚」

 

一言だった。

 

それだけで十分だった。

 

魚を干す。

 

塩漬けにする。

 

運ぶ。

 

売る。

 

飯になる。

 

つまり。

 

塩は飯だった。

 

「なるほど」

 

俺は樽を見る。

 

魚を見ていた時と同じ目だったかもしれない。

 

商人が笑う。

 

「欲しいか?」

 

「少し」

 

「高いぞ」

 

「だろうな」

 

世の中そんなに甘くない。

 

その時だった。

 

市場の外れ。

 

張り紙が目に入る。

 

木の板。

 

大きな字。

 

荷役人夫募集

 

日当銀貨二枚

 

沈黙。

 

全員見る。

 

もう一度見る。

 

銀貨二枚。

 

「おい」

 

ペペ。

 

「何だ」

 

「船乗りやめるか?」

 

全員爆笑した。

 

「一日で二枚かよ!」

 

「俺達七週間で三枚だぞ!」

 

「船長ぶん殴ろうぜ!」

 

「それは後だ!」

 

非常に説得力のある提案だった。

 

俺は張り紙を見る。

 

荷役。

 

倉庫。

 

船。

 

市場。

 

全部繋がっている。

 

何かが見えそうだった。

 

まだ上手く言葉にならない。

 

だが。

 

この港は。

 

船だけで動いている訳じゃない。

 

そんな気がしていた。

 

「どうする?」

 

ディエゴが聞く。

 

ペペは即答した。

 

「働く」

 

「即答か」

 

「銀貨二枚だぞ」

 

正論だった。

 

俺達は顔を見合わせる。

 

そして。

 

張り紙の下に立つ監督役の男の元へ歩いていった。

 

飯代は多い方が良い。

 

非常に良い。

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