銀では腹は膨らまない ~ゴメス暴走記録~   作:ヒツジ(ラム肉

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第九話 中編 木材が足りない

航海日誌

帝国暦一七三年 雨季 第十週 四日目 昼

 

船を作るには木がいるらしい。

 

当たり前だった。

 

だが思ったより大量だった。

 

ペペに教えたら

 

「森を買えばいい」

 

と言った。

 

馬鹿は幸せそうだった。

 

――ゴメス

 

「木材が足りん!!」

 

造船所中に響く怒声。

 

職人達が動く。

 

走る。

 

怒鳴る。

 

指差す。

 

大騒ぎだった。

 

俺は少し驚く。

 

船が壊れた訳ではない。

 

火事でもない。

 

海賊でもない。

 

木材が無いだけだ。

 

だが。

 

皆真剣だった。

 

「そんなにか」

 

俺。

 

腕の太い職人は頷く。

 

「そんなにだ」

 

即答だった。

 

「一本足りんだけで止まる」

 

「一本で?」

 

「一本で」

 

沈黙。

 

船を見る。

 

巨大。

 

本当に巨大。

 

なのに。

 

一本足りないだけで止まる。

 

妙な話だった。

 

職人は木組みを指差す。

 

骨組み。

 

肋骨みたいだった。

 

何本も並んでいる。

 

「これが無いと駄目だ」

 

なるほど。

 

一本抜いてみる。

 

怒られた。

 

当然だった。

 

「触るな!」

 

「すまん」

 

全員笑った。

 

昼。

 

職人達と飯を食う。

 

黒パン。

 

干し肉。

 

玉葱。

 

船乗りと大差無い。

 

少し安心した。

 

職人も人間らしい。

 

「木はどこから来る」

 

俺。

 

職人はパンを齧る。

 

そして港の外を指差した。

 

「森」

 

当然だった。

 

少し恥ずかしかった。

 

「切る」

 

「うむ」

 

「運ぶ」

 

「うむ」

 

「乾かす」

 

「うむ」

 

「削る」

 

「うむ」

 

「やっと船になる」

 

長い。

 

思ったより長い。

 

魚みたいに獲って終わりではない。

 

かなり面倒だった。

 

「高そうだな」

 

俺。

 

職人は笑う。

 

「高い」

 

即答。

 

「非常に高い」

 

さらに即答。

 

「だから船長は太る」

 

全員笑った。

 

船長は世界共通らしい。

 

その時。

 

荷車が来る。

 

木材。

 

大量。

 

丸太。

 

板。

 

加工済みの材木。

 

全部だ。

 

職人達の顔が変わる。

 

明るくなる。

 

本当に。

 

麦船が来た時の市場と同じ顔だった。

 

「来たぞ!」

 

歓声。

 

走る。

 

運ぶ。

 

笑う。

 

忙しい。

 

だが嬉しそうだった。

 

「飯みたいだな」

 

思わず呟く。

 

職人が笑う。

 

「飯だ」

 

「木が?」

 

「船の飯だ」

 

沈黙。

 

なるほど。

 

少し分かる。

 

魚が人の飯。

 

木は船の飯。

 

無ければ育たない。

 

そういう事か。

 

俺は荷車を見る。

 

一本の木。

 

ただの木だ。

 

だが。

 

船になる。

 

港を支える。

 

飯を運ぶ。

 

不思議だった。

 

その時。

 

向こうで怒鳴り声。

 

また喧嘩かと思った。

 

違った。

 

商人だった。

 

顔色が悪い。

 

本当に悪い。

 

「まだ来ないのか!?」

 

必死だった。

 

「何が」

 

俺。

 

職人が答える。

 

「鉄」

 

なるほど。

 

木が来た。

 

今度は鉄が足りない。

 

終わらない。

 

本当に終わらない。

 

船とは面倒な生き物らしい。

 

「船作るの大変だな」

 

俺。

 

職人は笑う。

 

「だから儲かる」

 

妙に納得した。

 

簡単なら誰でもやる。

 

難しいから金になる。

 

港も同じかもしれない。

 

そんな事を考えていると。

 

職人が聞いた。

 

「お前船乗りだろ」

 

「そうだ」

 

「船欲しいか」

 

少し考える。

 

そして。

 

頷いた。

 

「欲しい」

 

本音だった。

 

職人は笑う。

 

「なら金貯めろ」

 

正論だった。

 

非常に正論だった。

 

だが。

 

銀貨三枚の水兵には。

 

あまりにも遠い話だった。

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