いつか夢見たあの世界   作:Kataparuto

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ってことでようやく温めてたオリジナル作品の投稿を始めていきます

どうぞよしなに

なお、ハーメルンは古巣なので先行公開です


第1話 唯逸

 ゴトリゴトリ。

 

 山岳鉄道特有の重たい列車の音が続く。

 東の国を離れ飛行機を乗り継ぎ、ようやくハンブルゲンの街へ向かう列車に乗れたのは今日の早朝のことだった。

 飛行場が整備されていない山の中にある街だからこそ手間がかかる。

 先ほどから目に留まる景色は休火山らしい山や、未だに現役の鉱山、見下ろせば寒気がするほど深い渓谷などだ。

 開けた場所に差しかかると、街のさらに向こうに、湖面の輝きがちらりと見えることもあった。

 そんな険しい山間を走る山岳鉄道に速水海都は朝からずっと揺られている。

 湖側から行くともう少し楽らしいのだが、あいにく現地の魔力管理機関が指定したのはこちらの山岳鉄道コースだった。

 まぁ湖側より国境が一つか二つ減るので書類上の手続きが楽といえば楽なのかもしれない。

 トルクを利かせ、低速で山肌を登っていく列車旅。

 彼の目的がもっと違うものであれば雄大な景色は心から楽しめたのかもしれない。

 だが、海都にとってこの旅は、後ろ暗い決意に満ちたものだった。

 

 そんな後ろ暗い思いを抱えた海都とは対照的に、同じ車両には、妙に明るい声があった。

 

「おばーちゃん、次の駅だったよね。よっと……こりゃ、お土産いっぱいだね」

「あぁ、ありがとうね」

「車掌さん、この人が降りるとき手伝ってあげて。私、一応任務中でさ」

 

 通路の向こうに、赤みがかった髪の少女がいた。

 年は海都とそう変わらない。

 明るく、快活で、よく動く。

 乗客の荷物を持ち上げ、子供に笑いかけ、車掌に短く声をかける。

 そのたびに、彼女と関わった者たちは自然と礼を口にしていた。

 

 今の海都にとっては、できれば関わりたくない類の人間だった。

 

――ああいうタイプは苦手だ。

――こちらの事情も知らず、明るさだけで懐へ踏み込んでくる。

 

 そう決めつけた海都は、巻き込まれないように、窓の外へ視線を戻した。

 ふと、視界の端を、黒い影が横切ったように見えた。

 

 外は晴天そのものだ。

 山岳鉄道らしく、岩肌と木々が視界の端を流れていく。

 ただの見間違いか。

 そう思った瞬間――。

 

「全員伏せて!」

 

 先ほどの少女の声が、車両中に響いた。

 声を聞いた海都はとっさに近くにいた乗客を引っ張り込むように床へと伏せる。

 次の瞬間、窓ガラスが一斉に砕け、荷棚がひしゃげ、背もたれより上の空間を、黒い何かが薙ぎ払っていく。

 伏せ遅れていれば、首から上を持っていかれていただろう。

 悲鳴が上がる。

 列車が、軋むように揺れた。

 

「全員先頭車両方向へ避難して!!車掌さんは連結扉を施錠と汎用防壁の展開!  ここは魔力管理機関ハンブルゲン支部、第三戦闘小隊〈シリトン〉のステラが引き受けます!」

 

 よく通る声で一息に言い放った少女はサッと視線を車内に巡らせた。

 

 誰よりも速く少女の声に反応して近くにいた乗客ごと伏せていた海都に先ほどまで手に持っていたバットが入りそうな細長い黒いケースを足で蹴り海都のほうへと滑らせるように移動させた。

 思わず海都もそのケースを受け取ってしまう。

 ちらりと視線を後ろへ向けて海都がケースに手を添えたことを確認した少女。

そのまま背中を向け、ステラと名乗った少女は何らかの格闘技の構えをする。

 同時にその両手が炎に包まれた。

 

 

――魔術師。

 

 

「それ前へ持っていって!ものすごーーく貴重なものなんだからなくさないでよ!」

「そんなもの他人に預けるなよ!」

 

 吹き込む風で声が聞き取りづらくなっていた海都は思わず声を大きくしていた。

 列車は止まる様子を見せなかった。

 むしろスピードを上げていた。

 緊急事態なら停車するはず、その逆を行う理由が先ほど裂けた天井の穴から現れる。

 犬のような形をした影の塊がヌルリと穴から車内へと落ちる。

 ぐちゃりという音が聞こえそうな輪郭の曖昧さだが着地してすぐに犬の形へと戻った。

 

「マモノ……!」

 

 海都は低くうめいた。

 そう、速水海都がハンブルゲンに向かう理由の一つ、10年前、自分の家族や街を消し去ったこの世界最大の脅威。

 人間を襲う異形。

 一度出現するとその地点ではまるで湧き出るように数が出てくる。

 だからこそ列車はその場にとどまらず逃げることを選んだのだ。

 

 その姿を見た他の乗客が我先にと先頭車両へと逃げ始める、乗客とマモノとの間に立ちふさがるようにしてステラが立つ。

 犬型のマモノがステラへと飛び掛かった、だが炎を纏ったその左拳が裏拳の要領で犬型のマモノを払いのけた。

 ゴゥと炎が舞い踊る音と共に払いのけられた犬型のマモノは炎の力によって両断され霧散する。

 ただ、多勢に無勢、次から次へと現れるマモノを徒手空拳で排除していくステラだが、その背後、窓から飛び込むようにして今度は鳥型のマモノがステラへと襲い掛かる。

 

「くそっ!」

 

 速水海都はとっさに動いていた。

 故郷の道場で鍛え上げられた実戦の勘がそうさせたのかはわからない。

 だが飛び込んできた鳥型のマモノに向かって海都はケースを盾にするようにステラとの間に割って入った。

 ケースに施されていた何らかの魔術が発動したのだろう、軽い衝撃と共に突撃してきた鳥型のマモノが弾き飛ばされる。

 だが、ステラの攻撃とは違い霧散しない。

 

――どうする!?

 

 海都は目の前の滞空する鳥型のマモノをにらみながら自問する。

 背中にも腰にも何もない、手元にあるのはステラから押し付けられたケースだけだ。

 だが、その時ケースから小さな電子音が鳴り、ケースの表面に深い紫色に光る文字が走った。

 

『夜桜黒羽より緊急解放が承認。使用者を臨時登録、固有魔力波形、速水海都と確認。登録修正、正規登録へ。防御術式を解除、ケースを解放します』

 

 目にも止まらない速度で走ったその文字が消えるとケースが霧のように消えていく。

 その内側にあったものを見た海都は、考えるよりも速くその白木で出来た柄を握った。

 柄を握った瞬間、身体が迷わなかった。

 鯉口を切る。

 踏み込む。

 刃筋を通す。

 

 飛び込んできた鳥型のマモノを……。

 

 切り裂いた。

 

 煌めく白い刃が左から右へと閃く。

海都へ突撃してきた鳥型のマモノはその軌跡ごと両断され黒い霧となって消えた。

 黒いケースに収められていたのは、白鞘に収められた刀だった。

 

「そこの……えっと、ステラだったか……? 背後は任せろ! 俺は速水海都だ!」

「んぇ!?なんでケース開いてんの!?……いや後でいいか!海都、できるの!?」

「任せておけ……!」

 

 正眼に構え犬型のマモノと連携して死角から飛び込んでくる鳥型のマモノを次々と切り落としていく。

 その手際の良さを目の端で追っていたステラは背中を預けるに値するとすぐに判断した。

 後ろへの警戒を最低限でいい。

 ステラは目の前へ意識を集中し、次から次へと襲い掛かるマモノを相手取った。

 

 ステラは数が多い犬型を次々と薙ぎ払い、奇襲を仕掛けてくる高速な鳥型を海都が正確に迎撃する。

 即席のコンビネーションとしては悪くない。

 しかし、数が減らない、移動し続けているためマモノの増援は断っているはずなのだが……。

 と、マモノの動きが止まった、犬型のマモノが車両の端へと移動し、鳥型は車外へ逃げる。

 

「……海都!」

 

 ステラが叫ぶとともにその場から後方車両側へ飛ぶ。

 意図を察した海都も先頭車両側へ即座に身をひるがえした。

 とたん、金属でできた車両の天井が悲鳴を上げた

 強い衝撃と共に巨大な爪が1本、2本と突き刺さる。

 3本ほど突き刺さったところで、天井がはぎ取られ、高度が高い山間の冷えた空気が車両内へと一気に吹き込んでくる。

 そしてその引っぺがされた天井の穴から今まで相手していた犬型よりずっと大きい鋭い牙や爪をたたえた狼のようなマモノが車両内へと降り立った。

 

「中型……!」

 

 ステラの声から余裕が消え、速水海都はほかの乗客が逃げた先頭車両への扉を背に、白鞘の刀を正眼に構え、対峙した。

 ギシリと握っている柄が嫌な音を立てる。

 元々保管用のこしらえなのだ、海都の剣術にここまで耐えているだけ奇跡のようなものだった。

 だが、武器の心配はどうでもいい。海都としても、ステラが中型と呼んだ狼型のマモノと対峙し、先ほどまでのマモノとは格が違うことを感じ取っていた。

 そしてその狙いも。

 

 目線があるかはわからないが中型である狼型のマモノは明らかに海都に興味がない。

 あるのはその後方、先頭車両のほうであった。

 

 仕掛けるかどうか、間合いをはかっていた海都とは違い、先に動いたのは狼型のマモノだった。

 その狙いは……。

 

「こいつっ……!?」

 

 連結扉のそばにある緊急停止用の操作弁。

 赤いレバーが目立つそれを狼型のマモノは迷わず狙ってきた。

 明らかに犬型より大きい体が突っ込んできて伸ばされる腕と爪。

 

 アレを破壊されれば列車が止まる。

 そうなればこの列車はマモノに呑まれる。

 

「やらせるか……!」

 

 相手の狙いを看破した海都は身を挺してその攻撃に立ち向かう。

 まともに受ければ柄が耐えられないし、腕だって折れるだろう。

 

――だから、逸らす!

 

 突き出される腕と爪の正面から少しずらし刃の腹で受ける。

 押し込まれる力を刃の上で滑らせてそのベクトルを横へと逃がした。

 どうも硬質らしい爪と刃が接触し火花が散るが、身を挺した甲斐があり、その爪は停止弁とは関係ない場所へと突き刺さる。

 

 そんな海都をうっとおしく思ったのか突き出した腕とは反対側で薙ぎ払ってくるが、この一撃も何とか避けた。

 体中が痛い。

 軽く受け流したように見えるがその衝撃はとんでもないもので手放すまいと握り締めた柄には血がにじんでいるほどだ。

 満身創痍に近づきながらも海都は声を張り上げた。

 

「ステラ!こいつの狙いは緊急停止弁だ!この列車を止める気だ!」

「やら……せないっ!!」

 

 残っていた小型のマモノをまとめて相手取っていたステラのほうから炎があふれ、 なめるように今いる車両の床を走りそこにいた小型のマモノすべてを焼き払った。

 

 一瞬の空白、車両内にいるのは海都とステラ、そして狼型。

 それでもなお、狼型は止まらない。

 再び停止弁を容赦なく狙ってくる。

 障害を排除するつもりはない、いや海都はもう止められないと思っているのだろう。

 事実、彼は限界だった。

 だが、ここで引き下がるわけにはいかない。

 自分と同じような目に合う人を作りたくなかった。

 

「ステラ!!左前脚!!」

「うぉりゃぁぁぁぁ!!!」

 

 最後の気力を振り絞る。

 瞬間的に魔力を消費し疲労しているであろうステラも気合を吐く。

 そして、狼型が右前脚を突き出すために起点になっている左前脚へと炎を纏った左のローキックを叩き込んだ。

 体の内側へ折れ込むように左前脚がひしゃげる。

 とたん体勢を崩した狼型だが、まだあきらめていない。

 ならばと海都は倒れてくる右前脚に上段からの渾身の一撃を叩きつけた。

 ミシリミシリと柄の白木が悲鳴を上げている。

 体重、遠心力、ありとあらゆる力を流れに変えて、立てた刃へと乗せる。

 小型よりも圧倒的な密度を感じるがそれでもと渾身の力で振りぬいた。

 切り飛ばされ宙を舞う狼型の右前脚、しかし、それでもまだあきらめていない。

 最後に後ろ脚を蹴りだし、牙を突き立てようと突撃してくる。

 

「とどめぇ!!任せる!!」

 

 海都の前に戻ってきていたステラが飛び掛かってくる狼型の顎を正確にとらえたアッパーを繰り出した。

 炎を纏ったその拳が登り、狼型の首が目の前に晒される。

 

――耐えてくれ……!

 

 名前も知らない刀を鞘に納め、祈る。

 抜刀術の構え。

 アッパーを繰り出したステラが横へ逃れる。

 倒れてくる狼型の首。

 ふと、彼の周りにあったステラの生み出した炎が刀へと集まる。

 踏み込むと同時にその炎が爆発的な推進力を刀に与える。

 海都の正確な剣筋に速度が乗った一撃。

 

 バキンと、大きな音を立てて海都が握っていた白木の柄が割れる。

 同時に、狼型のマモノの首も……両断された。

 

 バラバラと崩れ落ちた白木のかけらの上に持ち手を失った刀が落ちる。

 そこに刻まれている銘は……

 

「唯逸《ゆいいつ》……か、ありがとう」

 

 首を両断された狼型のマモノはこれまでのマモノと同様に霧となって消えた。

 

「……とりあえず、ありがと、一人だとちょっとやばかったかも」

「いや……」

 

 腰に手を当てステラが警戒を解かずに先ほどまで戦っていた車両を見る。

 窓は全部割れ屋根は穴だらけ。散々な状態だ。

 これがマモノと戦うということで、こちらのことなど何も考えてくれない。

 これがもし街の中なら同様な状態にされる。

 

「それで?どうやってケースを開けたの?」

「こっちが聞きたいぐらいだ」

 

 詰め寄ってくるステラを若干鬱陶しく思いながら海都はこのケースが開いた時の文字を思い出していた。

 その中に人の名前があったように思える。

 

『夜桜黒羽より緊急解放が承認』

 

 夜桜黒羽。

 

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