背中合わせの正義―交わらない最適解   作:深見

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今更ですが、リバーは長官に厳しめです。
苦手な方はご注意ください。
配慮が至らず申し訳ありません。


第十一話 正義の言い訳

 

 ニコ・ロビンとフランキーが、執務室に通された。

 

 フランキーは鎖で縛られたまま、不貞腐れたように顎を上げていた。目をつむり、わざと相手にしない態度を取っているようにも見えた。

 

 一方で、ロビンは前を向き、まっすぐに立っていた。

 

 二十年間、政府から逃れ続けた女の最後にしては、落ち着きすぎているくらいだ。

 諦めなのか、覚悟なのか。

 リバーには、まだ判別がつかなかった。

 

「最高の気分だ……!!!」

 

 静かな部屋に、スパンダムの笑い声が響く。

 

 上機嫌なのは見れば分かる。

 ペラペラと喋る口が止まらない。

 

 全人類の平和。

 大きな平和のための犠牲。

 世界政府に逆らう者は、正義への謀反者。

 

 並べられる言葉は大きい。

 その分、空っぽに聞こえる。

 

「おれ達がよこせと言う物すら大人しくよこさねェ魚人も、正義への謀反者として殺されて当然だァ!!!!」

 

 フランキーが目を開いた。

 

 その瞳に、激しい怒りが浮かぶ。

 

「トムさんが命を懸けて設計図を守ったのは、てめェみたいなバカがいるからだろうがァ!!!!!」

 

 やはり、と思った。

 

 トムの事件は、記録だけ見ても筋が悪かった。

 司法船の事故は、その材料に使われた可能性が高い。

 

 その薄さに、今ようやく名前がついた。

 

 この男の名だ。

 

 火の置き方が雑すぎる。

 

 あれほどの技術を持つ男を潰して、得をした者がどれだけいたのか。

 少なくとも、政府全体で見れば損失の方が大きい。

 

 フランキーが、スパンダムの頭に噛み付いた。

 

 拘束されていても、足なら動かせそうに見える。

 だが、そうしない気持ちも何となく分かる。

 

 足では少し、物足りないのだろう。

 

「た……!!! 助けろお前らァー!!!!」

 

「よよいっ!!! 了解!!!」

 

 スパンダムの喚きに、唯一クマドリが大仰に反応した。

 

 今度こそ、フランキーは鎖で雁字搦めにされる。

 床に転がされ、身動きが取れないフランキーの頭を、スパンダムは踏みつけた。

 

 そこから先も、スパンダムの口は止まらなかった。

 

 アイスバーグがいかに厄介だったか。

 青キジからニコ・ロビンの情報が届いたこと。

 バスターコールの許可を含む、すべての状況を作戦に組み込んだこと。

 そして今、古代兵器復活の引き金が二つとも自分の手元にあること。

 

「分かるか!!? 世界中の風は今おれに向かって吹いているんだ!!」

「望めばどんな大国も支配できるほどの力が、今おれの手中にあるんだ!!!」

 

 悦に浸るスパンダムへ、ロビンが静かに問いを投げた。

 

「青キジは、なぜあなたにバスターコールの権限を……?」

 

 スパンダムは一瞬、間の抜けた顔をした。

 

 次の瞬間、ロビンを力いっぱい殴りつける。

 

「このおれに質問をするなァ!!!! 無礼者めがァ!!!」

 

 ロビンの顔が横へ弾かれる。

 

 それでも、彼女は声を上げなかった。

 

 そこから先は、言葉というより、踏みつけるための音だった。

 彼女の存在そのものを否定し、価値を踏みにじり、自分が利用してやるのだから感謝しろと喚く。

 

「覚悟しておけ……痛めつけて……!! 利用して……!! 海へ捨ててやる!!!!」

「お前の存在はそれ程罪深い!!!」

 

 スパンダムは、拘束された相手を前にしている時だけよく喋る。

 

 殴り返されない相手にだけ強い人間は、声が大きくなる。

 

 リバーは表情を変えなかった。

 

 ロビンはまだ、まっすぐ立っている。

 フランキーは床に押さえつけられたまま、怒りで歯を食いしばっている。

 

「ワハハハ……ああそういえば、さっきそんなくだらねェお前を取り返しに来たバカがいたなァ」

 

 ロビンの表情が、そこで初めてはっきり変わった。

 

「まァどうせ監獄への船を出すとこだ。手土産にちょうどいい」

「このままインペルダウンへ連行するつもりだ」

 

 ロビンが、弾かれたように叫ぶ。

 

「待って……約束が違うじゃない!!!!」

「私があなた達に協力する条件は、彼らを無事に逃がすことだった筈よ!!!!」

 

「何を必死にイキリ立ちやがって……」

「ルッチ、我々が出した条件を正しく言ってみろ」

 

 ルッチが淡々と答える。

 

「ニコ・ロビンを除く麦わらの一味の六名が、無事ウォーターセブンを出航する事」

 

「ああ……そうだな」

「あいつらはウォーターセブンを無事に出航して、ここへ来たんじゃねェのか!?」

 

 ロビンの顔色が、見る間に青ざめていく。

 

「なんですって……!!? まさか、そんなこじつけで協定を破る気じゃ……!!」

 

「……どうしようもねェクソだなこいつら」

「仁義の欠片も持っちゃいねェ」

 

 床に押さえつけられたフランキーが、思わずといった調子で吐き捨てた。

 

「黙れコノクズ共ォ!!! そもそもてめェら罪人との約束なんざ守る必要すらねェんだ!!!!」

「海賊をダマしてとっ捕まえる事くらい、海軍ですら公然とやっていることだ!!!!」

 

 スパンダムは、フランキーとロビンを何度も踏みつけた。

 

 協定の件は、引っかかった。

 

 麦わら達はもう、ここまで来ている。

 この先で捕らえるなら、記録にも処理にも筋が要る。

 

 だが、スパンダムはそれを屁理屈で踏み抜いた。

 

 破るつもりがあるなら、最初から協定などと呼ぶな。

 約束を文言で壊すなら、その文言を後で誰かが繕うことになる。

 

 火をつける奴は、いつも燃えた後の帳尻を考えない。

 

 *****

 

「麦わら達が現れたのか?」

 

 ブルーノが、フクロウに耳打ちしていた。

 

「ああ、さっき通信が入ってしまったチャパパパ」

「でも被害はさっきの時点で五人だった」

 

 ブルーノは、でんでん虫を見る。

 受話器は外れていた。

 

 リバーも一度だけ、そちらへ視線を向けた。

 

 麦わらの一味。

 もうここまで来ている。

 

 スパンダムがそれを正しく把握している様子はない。

 あるいは、把握する気がない。

 

「では衛兵!! そこの二人を鎖で繋いでおけ!」

「護送船の準備が出来次第、“正義の門”をくぐり出航する!!」

 

 スパンダムが指示を飛ばす。

 

「CP9は各々の部屋へ一旦戻り、一息入れておけ」

 

 それから、くるりとこちらを向いた。

 

「この一件で我々CP9に与えられる地位がとんでもねェものになる事を祝して、船で一杯やろうじゃねェか!!」

 

 酒の前に処理することがあるだろ。

 

 リバーは立ち上がりながら、そう思った。

 口には出さない。

 

「祝杯という気分でもないですね。地位や権力に興味がないので……」

 

 ルッチは興味なさげに切った。

 

「我々の正義は政府に既存する。政府があなたをCP9の司令官と認める限り、その任務を完璧に全うするまで!!」

「何もあなたの思想に賛同する必要もない」

 

 珍しく、そこまでは同意できた。

 

 政府が命じる。

 だから遂行する。

 スパンダム個人への敬意など、必要ない。

 

 スパンダムは眉をひくつかせた。

 

「正論だが……じゃあお前らの求めるものは何だ!!?」

 

 ルッチは、わずかに口元を歪める。

 

「“血”ですかね」

「ここにいると……“殺し”さえ正当化される」

 

 その次で、すぐに外れた。

 

 やはり合わない。

 リバーが欲しいのは、血ではない。

 少なくとも、血そのものではない。

 

 スパンダムは、まだ何か言いたげだった。

 だがルッチは、もう聞いていない。

 

 彼らは皆執務室を出ていった。

 

 背後では、ロビンとフランキーを繋ぐ鎖の音がした。

 スパンダムの浮ついた声も、まだ続いている。

 

 祝杯は断った。

 

 だが、処理すべきものはもういくつも転がっている。

 麦わらの一味。ロビンとの協定。フランキーの設計図。スパンダムの不用意な言葉。

 

 スパンダムには、それが成果に見えているらしい。

 

 リバーには、後始末の山にしか見えなかった。

 

 

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