『TOGⅡで戦車道を……?』   作:きのこ大三元

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6/2追記
ルーキー総合日間ランキングで19位
ルーキー二次創作で13位に入ることができました!
読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!

とても励みになりますし、今後のモチベーションにも繋がります。
これからもよろしくお願いいたします!


※本話は、戦車道の白旗判定について独自解釈を含みます。
※TOGⅡの基本設定は既存資料準拠です。


第7.5話「白旗判定と長すぎる弱点」

 その日の夜。

 

 戸郷灯里は、自宅の机に向かっていた。

 机の上には、戦車道の教習資料、車両登録関係の書類、大洗女子学園の戦車道授業予定表。そして、灯里が自分で作ったノートが開かれている。

 

 表紙には、手書きでこう書かれていた。

 

『TOGⅡ運用覚え書き』

 

 その下に、小さく。

 

『長いことは良いことです』

 

 灯里はペンを持ったまま、じっと資料を見つめていた。

「……明日、いよいよ教習なんですよね」

 

 戦車道が始まる。

 戦車に乗る。

 TOGⅡに乗る。

 

 それはもちろん、とても嬉しい。

 嬉しいのだが、ふと灯里は疑問に思った。

 

「……戦車道って、どうやって白旗が出るんでしょう」

 

 灯里は首を傾げた。

 戦車道では、砲弾を受けても中の人間は基本的に安全。特殊な安全装置があり、車内は守られている。カーボンのおかげで大丈夫。

 そんな説明は受けた。それは分かる。

 

 いや、分かると言っていいのかは微妙だが、ガルパン世界ではそういうものだ。

 

 だが、問題はその先だった。

 

「弾は……貫通していないんでしょうか」

 

 灯里はノートに書く。

 

『疑問:白旗判定の仕組み』

 

 その下に、箇条書きで続けた。

 

・砲弾は戦車道用の特殊弾

・車内はカーボンで保護

・乗員は安全

・でも撃破判定は出る

・白旗が上がる

・つまり、どこかでダメージ判定をしている?

 

 灯里はペン先で、こつこつとノートを叩いた。

 

「ゲームなら、分かりやすいんですけどね」

 

 HPがある。装甲厚がある。貫通力がある。貫通したらダメージ。非貫通ならノーダメージ、もしくは履帯切り。弱点に入れば大ダメージ。弾薬庫が飛べば一撃爆散。エンジンに入れば炎上。

 

 見えないところから自走砲。

 

 許されない。

 

 そこまで考えて、灯里は一度ペンを止めた。

「……自走砲の話はやめましょう」

 

 心に良くない。

 特にTOGⅡ乗りには。

 

 灯里は深呼吸してから、改めてノートに向かった。

 

「戦車道では、実際に車内を破壊しているわけではない。けれど、撃破判定は必要」

 

 つまり、実際の損傷ではなく、競技上の戦闘継続不能判定。

 灯里はそう書いた。

 

『仮説:白旗判定=安全装置による戦闘継続不能判定』

 

 その下に、さらに書き足す。

 

・致命部位への命中

・一定以上の被弾判定

・履帯、エンジン、砲塔、主砲などの機能停止判定

・乗員の安全確保が必要と判断された場合

・これらを総合して白旗

 

 灯里はしばらく眺めた。

 

「つまり、HP制に近いけれど、完全なHP制ではない……?」

 

 見えないHP。

 見えないモジュール判定。

 見えないクリティカル。

 

 かなり怖い。

 特に、TOGⅡには怖い。

 

* * *

 

 灯里はノートをめくり、次のページに大きく書いた。

 

『TOGⅡの白旗判定リスク』

 

 書いてから、少しだけ眉を寄せる。

 嫌な見出しだった。だが、必要な見出しでもある。

 

「まず、TOGⅡは大きい」

 

 灯里は書く。

 

・大きい

・長い

・遅い

・目立つ

・隠れにくい

・横を取られやすい

 

 書けば書くほど、胸が痛くなる。

 だが、灯里はTOGⅡの欠点を知らないわけではない。むしろ、知っている。

 知っていて好きなのだ。

 

「欠点を見ない愛は、愛ではありません」

 

 誰に言うでもなく、灯里は真顔で呟いた。

 そして、すぐに表情を引き締める。

 

「ただし、問題は装甲です」

 

 TOGⅡは大きい。

 しかし、装甲が何でも弾くわけではない。見た目は立派でも、重装甲無敵車両ではない。

 大きいということは、それだけ当たりやすい。長いということは、それだけ側面を晒しやすい。

 

 そして、装甲が薄い場所に当たれば、たぶん判定は重い。

 

 灯里はノートに書く。

 

・HPは多い可能性あり

・ただし装甲は万能ではない

・被弾面積が大きい

・側面が長すぎる

・弱点に当たりやすい

・一撃で大きな判定が入る可能性あり

 

 さらに、赤ペンで囲む。

 

『エンジン周り注意』

 

 もう一つ。

 

『弾薬庫周り注意』

 

 さらに。

 

『履帯切り注意』

 

 灯里はそこで、うっと顔をしかめた。

 

「履帯切り……」

 

 TOGⅡで履帯を切られる。

 それはかなりまずい。

 

 ただでさえ遅い。

 もともと遅いのに、止まったらどうなるか。

 

 ただの長い壁である。

 

 いや、長い壁としての仕事はできる。できるが、撃たれ続ける。

 白旗判定がHP制に近いなら、足を止められて弱点を撃たれ続けるのは最悪だ。

 

「TOGⅡは、止まっても強い。でも、止められると弱い」

 

 灯里は、自分で言って少し考え込んだ。

 矛盾しているようで、矛盾していない。

 

 自分で止まるならいい。

 場所を選んで、角度を作って、味方を守るために壁になるなら、それは戦術だ。

 

 しかし、敵に止められるのは駄目だ。

 場所も角度も選べない。長い側面を晒したまま履帯を切られれば、ただの的になる。

 

 灯里は大きく書いた。

 

『自分で止まるのは可。敵に止められるのは不可』

 

 その下に、少し迷ってから書き足す。

 

『止まるなら、自分で止まる』

 

 灯里は頷いた。

 

「良い言葉です」

 

 さらにページの端に、小さく書く。

 

『ただし、曲がれない時は止まるしかない』

 

 現実も忘れない。

 

* * *

 

 机の上で、携帯端末が震えた。

 

 灯里は画面を見る。

 生徒会からの連絡だった。

 

『明日の教習について』

『Fチームは、TOGⅡの仮搭乗員として船舶経営科・給食部専攻の五名が参加予定』

 

 灯里は数秒、画面を見つめた。

 予感はしていた。していたが、実際に文字で見るとやはり重い。

 

 火野まどか。

 小走すず。

 呼子かなえ。

 米倉ちとせ。

 早見りん。

 

 昨日、TOGドッグの試食会を手伝ってくれた五人。

 段取りが良く、手際がよく、連携も取れていた。

 

 確かに適性はある。

 

 だが。

 

「……仮搭乗員」

 

 灯里は静かに呟いた。

 戦車に乗るのは、ホットドッグを作るのとは違う。

 ましてやTOGⅡである。

 

 長い。

 遅い。

 広い。

 揺れる。

 曲がりにくい。

 撃たれる。

 

 灯里は、返信欄に短く打った。

 

『了解しました。安全確認資料を作ります』

 

 送信。

 すぐに、別の通知が来た。

 

 新しいグループが作成されていた。

 

『Fチーム仮連絡』

 

 参加者は、灯里と五人。

 

 最初に送ってきたのは、呼子かなえだった。

 

『明日はよろしくお願いします。注文整理と呼び込みの経験はありますが、無線は初めてです』

 

 灯里は返信する。

 

『よろしくお願いします。最初は聞こえた情報をそのまま教えてくれれば大丈夫です』

 

 次に、小走すず。

 

『TOGⅡって、曲がれますか?』

 

 灯里は数秒考えた。

 

『曲がれます』

 

 少し間を置いて、さらに送る。

 

『早くは曲がれません』

 

 すずからすぐ返事が来た。

 

『分かりました。配膳ワゴンより難しそうです』

 

『配膳ワゴンより長いです』

 

『それは見れば分かります』

 

 灯里は少しだけ笑った。

 

 火野まどかからもメッセージが来る。

 

『砲手は、照準と射撃で合っていますか』

 

『はい。火加減に近いかもしれません』

 

 少し間があった。

 

『火加減より危険そうです』

 

『はい』

 

『承知しました』

 

 冷静だった。

 

 米倉ちとせは、短く聞いてきた。

 

『砲弾は重いですか?』

 

『重いです』

 

『米袋より重いですか?』

 

 灯里は資料を確認してから返す。

 

『種類によりますが、持ち方は米袋と違います』

 

『持ち方、教えてください』

 

『明日、一緒に確認しましょう』

 

 最後に、早見りん。

 

『装填って、流れ作業ですか?』

 

 灯里は少し考えた。

 

『かなり近いです。ただし安全確認が最優先です』

 

『焼き上がり、みたいに声を出していいですか?』

 

『装填完了、でお願いします』

 

『分かりました。焼き上がりは我慢します』

 

 そこで、かなえが追加で送ってきた。

 

『TOGⅡは、転覆しますか?』

 

 灯里の手が止まった。

 

 転覆。

 

 嫌な単語である。

 

 TOGⅡが転覆する。長い車体が横倒しになる。そこから白旗が出る。

 かなりつらい。

 

 灯里は真顔で打った。

 

『転覆は禁止です』

 

 すず。

 

『できればしたくないです』

 

 りん。

 

『横になったら、ちょっとかわいいかも』

 

 灯里は慌てて打つ。

 

『かわいくても転覆は禁止です』

 

 まどか。

 

『当然です』

 

 その一言で、グループは少し落ち着いた。

 灯里は端末を置く。

 

 そして、ノートの最後に明日の目標を書いた。

 

『明日の教習目標』

 

・白旗判定の感覚を知る

・安全装置の説明を聞く

・TOGⅡの弱点位置を確認する

・履帯を守る

・エンジン周りを晒さない

・側面を不用意に見せない

・撃たれる角度を選ぶ

・転覆しない

・底から白旗を出さない

 

 最後の一行だけ、妙に切実だった。

 

* * *

 

 灯里はペンを置いた。

 

 窓の外は暗い。

 大洗の夜は、転生前の街とは違う静けさがある。遠くで、船の低い音が聞こえた気がした。

 

 明日になれば、いよいよ教習が始まる。

 座学ではなく、実際に戦車に触れる。

 

 安全装置。

 砲撃判定。

 白旗。

 履帯。

 エンジン。

 弱点。

 

 そして、TOGⅡ。

 

 灯里はノートを閉じ、表紙を軽く撫でた。

 

「大丈夫です」

 

 誰に言うでもなく、静かに言う。

 

「TOGⅡは、撃たれる戦車です」

 

 けれど。

 

「撃たれ方を選べば、きっと戦えます」

 

 その言葉は、言い聞かせるようでもあり、誓うようでもあった。

 

* * *

 

 机の上で、携帯端末がまた震えた。

 

 今度は秋山優花里からだった。

 

『戸郷殿! 明日の教習、とても楽しみです! 白旗判定についても、ぜひ一緒に考察させてください!』

 

 灯里は少し笑って、短く返した。

 

『ぜひ。TOGⅡの弱点も一緒に見てください』

 

 すぐに返事が来る。

 

『もちろんです! 全力で確認します!』

 

 頼もしい。

 とても頼もしい。

 

 だが、次の一文で灯里は固まった。

 

『特に長い側面は観察しがいがありますね!』

 

 灯里は、しばらく画面を見つめた。

 

 そして、静かに呟いた。

「秋山さん」

 

 間を置いて。

 

「そこは、少し手加減してください」

 

 TOGⅡの長さは誇りである。

 同時に、弱点でもある。

 

 その事実を、灯里は明日、実車の前で改めて思い知ることになる。

 

* * *

 

 翌日。

 

 教習場に並んだ戦車たちの前で、西住みほが静かに言った。

 

「まずは、白旗判定と安全装置の説明から始めます」

 

 灯里は、ノートを握りしめた。

 

 来た。

 

 見えないHPの答え合わせが、始まろうとしていた。

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