『TOGⅡで戦車道を……?』   作:きのこ大三元

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6/13日本日も更新です。

日間ランキング233位、ルーキー総合日間ランキング19位、ルーキー二次創作日間ランキング12位に入ることができました!

読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!

まさか日間ランキングに入れる日が来るとは思っていなかったので、とても驚いています……!
感想、評価、お気に入りなど、本当に励みになっています。

次の目標は大きく、日間ランキング100位以内を目指して頑張りたいと思います。
今後ともよろしくお願いいたします!


第17話「実戦経験が足りません」

 生徒会室の机の上には、聖グロリアーナ女学院との練習試合に関する資料が並べられていた。

 

 試合結果。

 各車両の行動記録。

 撃破された順番。

 判定内容。

 

 そして、大洗女子学園の戦力評価。

 

 河嶋桃は、その資料を前に腕を組んでいた。

 

「先日、我々は戦車道全国大会優勝候補とも言われる、聖グロリアーナ女学院と戦ったわけだが……」

「負けちゃったけどねー」

 

 角谷杏が干し芋をかじりながら、あっさりと言った。

 

 桃の眉がぴくりと動く。

 

「会長、そこを最初に言われると話が進みません」

「だって事実だし」

「それはそうですが!」

 

 小山柚子が苦笑しながら、資料を手に取った。

 

「でも、戦車道を始めたばかりで、練習量も不足している中では、かなり良い試合だったと思うよ」

 

 柚子の声は柔らかい。

 

 けれど、次の言葉は少しだけ重かった。

 

「ただし、大会本番では、一度でも負けたらおしまいです」

 

 生徒会室に、少しだけ沈黙が落ちた。

 

 練習試合なら、負けても次がある。

 

 けれど、全国大会は違う。

 

 一度負ければ、そこで終わる。

 

 杏は椅子にもたれながら、天井を見た。

 

「大会までに、もう一回くらい練習試合できるといいけどねー」

 

 桃は別の資料をめくる。

 

「目下、相手を探し中です。しかし、大会目前ということもあり、各校とも手の内を見せたがらないのか、あまり手応えは……」

「良い試合相手、見つけてくれよっ」

「努力します!」

 

 桃は大きく返事をした。

 

 柚子はその横で、少しだけ不安そうに笑う。

 

「でも、本当に見つかるかな……」

「なんとしてでも、見つけるのだ」

 

 桃は資料を握りしめた。

 

「我々が勝つためには、実戦経験が必要だからな」

 

* * *

 

 その頃、戦車道倉庫では、各チームがそれぞれの車両の整備や自主練習をしていた。

 

 聖グロ戦の前とは、少し雰囲気が違う。

 

 あの時は、戦車を動かせるようになったばかりだった。

 塗装も派手で、どこかお祭りのような空気があった。

 

 けれど、今は違う。

 

 大洗女子学園は、聖グロリアーナに負けた。

 

 負けたからこそ、次に何が必要なのかが少しだけ見えてきた。

 

 そして、もうひとつ大きな変化があった。

 

 戦車たちの塗装が、元に戻されていた。

 

 赤く塗られていたCチームのIII号突撃砲F型は、落ち着いた色へ。

 ピンクだったDチームのM3リー中戦車も、戦車らしい色へ。

 金色に輝いていたEチームの38(t)戦車も、さすがに目立ちすぎるということで通常塗装に戻されている。

 

 Bチームの八九式中戦車甲型に書かれていた「バレー部復活!」の文字も、少し控えめになっていた。

 

 公式戦に向けて、見た目も引き締める。

 

 それが生徒会と自動車部の判断だったらしい。

 

 そして、TOGⅡも例外ではなかった。

 

 戸郷灯里は、通常塗装へ戻された長い車体を見上げ、静かに目を閉じた。

 

「さらば、ダックストグ……」

 

 その声を聞いた小走すずが、操縦席の確認をしながら顔を出す。

 

「戸郷さん、何か言いました?」

「いえ。ひとつの時代が終わっただけです」

「そんな大げさな」

 

 火野まどかが砲手席の点検をしながら、冷静に言う。

 

「でも、ダックスフンド風の全体塗装は確かに可愛かったですね」

「はい」

 

 灯里は深く頷いた。

 

「可愛かったです。とても」

 

 呼子かなえは車体側面を見て、少し笑った。

 

「でも、エンブレムは残っていますよ」

 

 TOGⅡの側面。

 

 そこには、長いダックスフンドがホットドッグのようにパンに挟まれた、Fチームのエンブレムがそのまま残っていた。

 

 大きすぎない。

 

 けれど、しっかり目立つ。

 

 全体塗装は戻った。

 

 けれど、チームの印は消えていない。

 

 灯里は少しだけ口元を緩めた。

 

「大丈夫です。いぬさんチーム候補は、ここにいます」

「候補なんですね」

「正式呼称はFチームですので」

 

 米倉ちとせが頷く。

 

「看板としても使えますね」

「包み紙のデザインにも残します」

「ミニTOGドッグにも入れたいです」

 

 早見りん、かなえが続く。

 

 まどかが静かに提案した。

 

「焼き印を作りましょう」

 

 灯里は真剣な顔で振り向いた。

 

「採用です」

「即答ですね」

「重要案件ですので」

 

 そんなやり取りをしていると、倉庫の入り口から声が響いた。

 

「西住隊長ー! 補佐ー!」

 

 杏ののんびりした声だった。

 

 その横で桃が胸を張っている。

 

 みほはⅣ号の近くで点検をしていたが、隊長と呼ばれて少し肩を揺らした。

 

「な、なんでしょうか……?」

 

 まだ、隊長呼びには慣れていないらしい。

 

 一方、灯里はTOGⅡの横で普通に振り返った。

 

「補佐、ここにいます」

 

 沙織が小さく笑った。

 

「戸郷さんは慣れるの早いね」

「補佐なので」

「理由になってるような、なってないような」

 

 桃は咳払いをした。

 

「全国大会に向けての会議を行う。西住、戸郷、二人とも生徒会室へ来てもらう」

 

 その言葉に、倉庫前の空気が少し変わった。

 

「全国大会……」

 

 Dチームの一年生たちが顔を見合わせる。

 

「本当に出るんだよね?」

「出るだけでも記念になるかも」

「すごいよね、全国大会って」

 

 そのどこか楽観的な声に、桃が鋭く反応した。

 

「良いか、貴様ら!」

 

 全員がびくっとする。

 

「我々の全国大会出場は、既に決定事項だ!」

 

 杏が干し芋をかじりながら続ける。

 

「もちろん、目指すは優勝だからねー」

 

 今度こそ、倉庫前が固まった。

 

「優勝!?」

 

 沙織が声を上げる。

 

 華は少し目を丸くした。

 

「かなり大きな目標ですね」

「全国大会……燃えてきたであります!」

「朝じゃなければいい」

「たぶん朝もあるよ、麻子」

「辞める」

「辞めない!」

 

 優花里が拳を握り、麻子は眠そうに呟く。

 沙織が即座に止めた。

 

 桃はさらに声を張った。

 

「したがって、今後はさらに練習を厳しくしていく! 各自、気を引き締めろ!」

 

 柚子が一歩前に出て、紙の束を配り始める。

 

「今日は、交代で二対二の模擬戦をしてもらいます」

「二対二?」

 

 Bチームの磯辺典子が反応する。

 

「根性が試されますね!」

「少数戦は、戦術眼が問われる」

 

 Cチームのエルヴィンも頷く。

 

 柚子は少し困ったように笑った。

 

「それで、AチームとFチームは……西住さんと戸郷さんが会議で抜けるから、臨時で別の人に車長役をやってもらうね」

 

 Aチームの面々が顔を見合わせた。

 

 みほが抜ける。

 

 つまり、隊長不在でⅣ号を動かすことになる。

 

 沙織が自分を指差した。

 

「え、もしかして……私?」

 

 柚子が頷く。

 

「うん。武部さんは通信手で、普段から全体の声を一番聞いているから」

「えええ!?」

 

 沙織は慌てた。

 

「無理無理無理! 戦車にはもう乗ったけど、車長役は初めてだよ!? みほみたいに指示出せないって!」

「沙織さんなら、大丈夫です」

「武部殿なら、きっとできます!」

「迷うな。迷うと遅れる」

「もうプレッシャーかけてる!」

 

 華が穏やかに声をかけ、優花里も力強く頷く。

 麻子は短く言った。

 

 一方、Fチームでは、灯里がいないTOGⅡを誰が見るかで、一瞬だけ沈黙が流れた。

 

 まどかが、静かに手を挙げた。

 

「私がやります」

 

 灯里はまどかを見た。

 

「火野さんが車長ですか」

「はい。砲手として前を見ていますし、戸郷さんの指示も一番近くで聞いていました」

 

 かなえが頷く。

 

「無線は私が拾います。まどかは判断してください」

 

 すずは少し不安そうに操縦席を見る。

 

「戸郷さんなしでTOGⅡ、曲がれますかね」

「曲がる前に相談しましょう」

「相談してから曲がれば、間に合うかもしれません」

「TOGⅡだと、相談している間に通り過ぎる可能性があります」

 

 ちとせ、りんの声に、すずが真顔で返す。

 

 まどかは少し考えてから言った。

 

「では、今日は“焦らないTOGⅡ”でいきます」

 

 灯里は、感動したように頷いた。

 

「素晴らしい方針です。TOGⅡは焦りません」

「焦っても速くならないだけでは」

「それもあります」

 

 すずが小さく呟く。

 

 まどかは灯里を見る。

 

「戸郷さん、行ってきてください。TOGⅡは預かります」

 

 灯里は少しだけ表情を引き締めた。

 

「お願いします」

 

 そして、TOGⅡの長い車体に手を添える。

 

「私がいない間も、長くあってください」

「短くはなりませんよ」

「それなら安心です」

 

 かなえが小さく笑った。

 

* * *

 

 生徒会室に移動すると、杏、桃、柚子が待っていた。

 

 机の上には、聖グロ戦の資料が並んでいる。

 

 みほは少し緊張した様子で椅子に座った。

 

 灯里はその隣に座る。

 

 杏が干し芋を置き、二人を見る。

 

「で、前回の聖グロ戦を振り返って、今の大洗の実力ってどう?」

 

 みほは少し言いづらそうに視線を落とした。

 

 それから、ゆっくり言葉を選ぶ。

 

「初心者にしては、みんなとても頑張っていると思います」

 

 桃は腕を組んだ。

 

「ふむ」

「でも……試合では、瞬時の判断力や粘り強さが必要になります」

 

 みほは続ける。

 

「撃たれた時、囲まれた時、味方が減った時。そういう時に、すぐ判断して動く力は、普段の練習だけでは身につきづらいと思います」

 

 灯里も頷いた。

 

「私も同じ意見です」

 

 杏が灯里を見る。

 

「戸郷ちゃんも?」

「はい。練習で、車両の動かし方は覚えられます。装填も、通信も、射撃も、繰り返せば形になります」

 

 灯里は聖グロ戦の市街地を思い出す。

 

 迫ってくるマチルダII。

 崩れない隊列。

 次々に減っていく味方。

 TOGⅡで道を塞いだ瞬間。

 

「あの状況でどうするかは、実際に撃たれて、追われて、逃げ道を失いかけないと見えづらいです」

 

 杏は軽く頷いた。

 

「まー、実戦の経験が足りないってことかな?」

 

 みほは小さく頷く。

 

「はい。実戦を何度か経験できれば、次の課題も見えてくると思います」

 

 言い終えてから、みほは少し慌てたように頭を下げた。

 

「すみません。偉そうに……」

「ううん。正直に言ってくれた方が助かるよ」

 

 柚子がすぐに首を横に振る。

 

 桃も少しだけ目を伏せた。

 

「確かに、聖グロ戦では想定外の事態に弱かった。待ち伏せも、撤退も、市街地戦も……」

 

 杏が干し芋を手に取りながら言う。

 

「家で飼われてる猫より、野良猫の方が強いしね」

 

 室内が少し沈黙した。

 

 灯里は真面目に考えた。

 

「分かるような、分からないような例えですね」

 

 杏はにっと笑う。

 

「つまり、経験だよ経験」

「なるほど」

 

 みほも少しだけ笑った。

 

 桃は勢いよく立ち上がる。

 

「やはり、なんとか練習試合の相手を探すしかないな」

 

 柚子が資料を手渡す。

 

「桃ちゃん、候補校のリスト」

「うむ。片っ端から当たってみる」

「良い相手、見つけてねー」

「はい!」

 

 杏がのんびり言い、桃は力強く返事をした。

 

* * *

 

 その頃、倉庫前では、二対二の模擬戦準備が進んでいた。

 

 みほと灯里がいない。

 

 それだけで、AチームとFチームの空気は少し違っていた。

 

 AチームのⅣ号では、沙織が車長席に座っていた。

 

「えっと……Aチーム、発進……でいいんだよね?」

「車長が迷うな」

「だって車長役は初めてなんだもん!」

 

 麻子が操縦席で言い、沙織は慌てる。

 

 華が穏やかに声をかけた。

 

「沙織さん、落ち着いてください」

「武部殿、まずは周囲確認であります!」

「周囲確認、周囲確認……!」

 

 沙織は慌てながらも、ハッチから顔を出して周りを見る。

 

 そして深呼吸した。

 

「よし。Aチーム、発進します!」

 

 一方、TOGⅡ。

 

 Fチームでは、まどかが臨時車長席に座っていた。

 

「Fチーム、発進準備」

 

 その声は落ち着いていた。

 

 すずが操縦席で言う。

 

「戸郷さんより声が落ち着いてますね」

「でも、TOGⅡ愛は足りないかもしれません」

 

 かなえが無線機を確認しながら笑う。

 

 まどかは少し考えた。

 

「そこは補えません」

 

 ちとせが砲弾の位置を確認する。

 

「装填はいつでもいけます」

「流れ、作ります」

 

 りんも頷く。

 

 まどかはゆっくり息を吸った。

 

「今日は、焦らないTOGⅡです。無理に追いません。来る場所で待ちます」

 

 かなえが無線に向かって復唱する。

 

「Fチーム、発進準備完了」

 

 すずが操縦桿を握る。

 

「TOGⅡ、ゆっくり行きます」

 

 その頃、生徒会室では、みほと灯里が大洗に足りないものを言葉にしていた。

 

 そして倉庫前では、隊長と補佐がいないまま、AチームとFチームが初めて自分たちだけで戦車を動かそうとしていた。

 

 それは、大洗女子学園に足りないものを見つけるための、小さな模擬戦の始まりだった。

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