『TOGⅡで戦車道を……?』   作:きのこ大三元

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2026年6月16日 本日も更新です
※本話のマジノ女学院、および戦術解釈には、史実のマジノ線を元にした独自解釈を含みます。


第20話「試合までの練習」

 マジノ線――それは、かつてフランスが築いた巨大な防衛線である。

 

 第一次世界大戦で、フランスは国土に大きな被害を受けた。

 

 塹壕。

 砲撃。

 長期戦。

 

 次にドイツと戦うことになった時、同じように国境を突破され、国内へ戦火を広げられるわけにはいかなかった。

 そこでフランスは、ドイツ国境方面に大規模な防衛線を築いた。

 

 厚いコンクリート。

 地下に広がる施設。

 砲台、機関銃陣地、弾薬庫、兵員通路。

 

 敵を正面から受け止め、押し返し、味方が反撃準備を整える時間を稼ぐための、守りの象徴。

 それが、マジノ線だった。

 

 ただし、その名前が歴史に残った理由は、単に強固だったからだけではない。

 

 正面から攻めれば、確かに厄介だった。

 

 硬い。

 抜きにくい。

 真正面からぶつかれば、大きな損害が出る。

 

 だからこそ、敵は別の道を選んだ。

 

 真正面から破るのではなく、迂回する。

 固定された防御線に付き合わず、動ける部隊で横を抜く。

 

 守りのために作られた壁は、回り込まれた時、壁であるがゆえにすぐには動けない。

 

 マジノ線は、弱い防御ではなかった。

 むしろ、強固だった。

 

 けれど、強固な守りは、それだけで勝利を保証するものではない。

 

 どれほど硬くても、相手がそこに来なければ意味がない。

 どれほど立派な壁でも、戦場そのものが動いてしまえば、置き去りにされることがある。

 

 マジノ女学院。

 

 その名を聞いた時、戸郷灯里の頭に浮かんだのは、まさにその言葉だった。

 

 守りは堅い。

 正面は危険。

 撃ち合えば、こちらが削られる。

 

 相手の得意な場所で戦えば、大洗はきっと苦しくなる。

 

 ならば、どうするか。

 

 灯里は、ノートの端に小さく書いた。

 

『正面から付き合わない』

 

 真正面から押し込まない。

 固い場所を無理に抜かない。

 

 相手が守りたい場所ではなく、相手が動かざるを得ない場所を作る。

 

 戦車道は、ただ強い場所に居座るだけでは勝てない。

 

 動く。

 誘う。

 ずらす。

 隠れる。

 抜ける。

 

 そして、必要な場所で受け止める。

 

 戸郷灯里は、ペン先を止めた。

「……TOGⅡみたいですね」

 

 長くて、重くて、遅い。

 

 その場に構えれば、邪魔になるほど存在感がある。

 けれど、動く戦場に置いていかれれば、ただの長い的になる。

 

 灯里は少し考え、すぐに書き足した。

 

『TOGⅡは、置く場所を間違えるとマジノ線になる』

 

 それは、あまりにも不名誉なようで。

 けれど、あまりにも的確な自己分析だった。

 

 大洗女子学園とマジノ女学院の練習試合。

 

 その戦いは、硬い守りをどう壊すかではなく。

 

 硬い守りを、どう動かすかの戦いになるはずだった。

 

* * *

 

 マジノ女学院との練習試合が決まった。

 

 その知らせが戦車道倉庫前で発表された時、大洗女子学園の戦車道チームは、少しだけざわついた。

 

「マジノ女学院?」

 

 武部沙織が首を傾げる。

「どんなとこー?」

 

 河嶋桃は腕を組み、胸を張った。

「フランス戦車を主力とする学校だ。伝統的に、防御を主体とした戦い方で知られている」

「防御……」

 

 西住みほは、その言葉に少しだけ考え込むような顔をした。

 

 隣では、秋山優花里が資料を抱えて目を輝かせている。

「マジノ女学院は、フランス戦車を中心に編成された学校であります! 過去の資料や確認されている情報では、ルノーR35、ルノーFT-17、ソミュアS35、Char B1 bisなどが運用されているようです!」

 

 五十鈴華が穏やかに問いかける。

「フランス戦車というのは、どのような特徴があるのでしょう?」

「車両によってかなり違いますが、全体的には防御寄りの車両も多いであります。ただし、古い車両や火力不足の車両も含まれているため、運用がとても重要になります!」

 

 戸郷灯里も、TOGⅡの車体に手を添えながら頷いた。

「フランス戦車は、硬いものは硬いですが、遅い車両も多いです」

 

 沙織が灯里を見る。

「戸郷さん、詳しいね」

「ゲームで……いえ、資料で見ました」

「今、ゲームって言いかけたよね?」

「気のせいです」

 

 冷泉麻子が眠そうに言う。

「いつものやつだ」

 

 灯里は真面目な顔で資料を指差した。

「R35やFT-17は、速度や火力に弱点があります。特にFT-17はかなり古い戦車です。正面から無理に撃ち合うより、動き方で崩す方が良いと思います」

 

 みほも続ける。

「ただ、油断はできません。相手も自分たちの弱点は分かっているはずだから」

「そして、注意すべきはソミュアS35であります!」

 

 優花里が一枚の資料を出した。

「ソミュアS35は騎兵戦車で、他のフランス戦車と比べると足が速いです。四十七ミリ砲も搭載していますし、機動力を活かされるとかなり厄介であります!」

 

 灯里も静かに頷く。

「ソミュアS35は油断できません。TOGⅡにとっても危険です」

 

 小走すずが、Fチームの方から顔を出す。

「TOGⅡより速いからですか?」

「はい。大抵の戦車はTOGⅡより速いですが、S35は特に回り込まれると厳しいです」

「大抵の戦車は、の部分が悲しいですね」

「事実です」

 

 灯里は真顔だった。

 

 さらに優花里は、もう一枚の資料を広げる。

「それから、Char B1 bisも警戒すべき車両であります!」

「びーわん……びす?」

 

 沙織が聞き返す。

「はい! フランスの重戦車で、車体砲と砲塔砲を備えた特徴的な車両です。装甲も厚く、正面から撃ち合うのは危険であります!」

 

 灯里は少しだけ眉を寄せた。

「B1 bisは厄介です。TOGⅡでも正面から雑に撃ち合うのは避けたいです」

「TOGⅡでも?」

 

 華が少し驚いたように言う。

「はい。TOGⅡの主砲は強いですが、こちらも撃たれれば無事では済みません。相手の向きと距離を選ぶ必要があります」

 

 桃が大きく頷く。

「つまり、マジノ女学院は防御主体の学校として知られているが、車両によっては速いものや重いものもいる。油断は禁物ということだ」

 

 杏が干し芋をかじりながら、軽くまとめた。

「まあ、要するに、ちゃんと練習しよーってことだね」

「そういうことです!」

 

 桃がびしっと指を立てた。

 

 灯里は資料に目を落とす。

 

 確認できているのは、あくまで過去資料と一般的な情報。

 

 実際に、今回の練習試合でマジノがどの車両を出してくるか。

 どんな戦い方をしてくるか。

 

 そこまでは、まだ分からない。

 

 だからこそ、準備するしかなかった。

 

* * *

 

 その日から、マジノ戦へ向けた練習が始まった。

 

 まず、みほは各チームの特徴を確認しながら、それぞれに役割を与えていった。

 

「Cチームは、正面から出すぎないでください」

 

 III号突撃砲F型の前で、みほは地図を広げる。

「三突は車高が低いので、物陰や地形を使った待ち伏せに向いています。相手の側面を取れる位置に先に入ってください」

「伏兵であるな!」

「はい。無理に追いかけるより、来る場所を読んで待つ方がいいと思います」

 

 エルヴィンが力強く頷く。

 カエサルも頷いた。

「なるほど。待ち伏せこそ勝機」

「影に潜むぜよ」

「奇襲は兵法の基本!」

 

 おりょうが腕を組み、左衛門佐が真剣な顔で言った。

 

 みほは少しだけ苦笑した。

「ただし、幟は控えめにしてください」

 

 Cチームの全員が、一瞬だけ固まった。

 

 聖グロ戦で、幟が位置を知らせる目印になってしまった記憶が蘇ったのだろう。

「……心得た」

 

 エルヴィンが静かに頷いた。

 

 次は、DチームのM3リー中戦車。

 

 一年生たちは車内から顔を出し、真剣に説明を聞いていた。

「Dチームは、平地に不用意に出ないようにしてください」

「はい!」

 

 澤梓が背筋を伸ばす。

「M3は大きくて目立ちます。だから、建物や地形を使って、相手に撃たれにくい場所から動くのが大事です」

「つまり、隠れる!」

「でも、隠れすぎて味方と離れないように」

「はい!」

 

 他の一年生たちも声をそろえる。

「頑張ります!」

 

 沙織がその様子を見て、こっそりみほに言った。

「みほ、隊長っぽくなってきたね」

「そ、そうかな」

「かっこいいです、西住殿!」

「そんな……まだまだだよ」

 

 優花里は目を輝かせた。

 

 華が微笑む。

「ですが、皆さん、西住さんの言葉を聞いて動こうとしています」

「板についてきた」

「冷泉さんまで……」

 

 麻子も短く言った。

 

 みほは照れたように笑った。

 

 それでも、指示は止めない。

 

 Bチームには、根性だけで飛び出さず、味方と歩調を合わせること。

 Eチームには、38(t)の機動力を活かして、状況確認と連絡を意識すること。

 Aチームには、自分たちだけで戦おうとせず、全体を動かす中心として振る舞うこと。

 

 そして、Fチーム。

 

 TOGⅡ。

 

* * *

 

 Fチームは、TOGⅡの車内で装填練習をしていた。

 

 灯里。

 まどか。

 すず。

 かなえ。

 ちとせ。

 りん。

 

 六人は、いつもより真剣な顔だった。

 

「TOGⅡの課題は、はっきりしています」

 

 灯里は砲弾を見ながら言った。

「装填が遅いことです」

 

 米倉ちとせが砲弾を抱える。

「重いです」

 

 早見りんが受け取りながら頷く。

「長いです」

「九十五ミリ級の砲弾です。砲弾本体だけでも十キロ前後はあります。薬莢込みならさらに扱いづらいです」

 

 火野まどかが照準器を確認しながら言う。

「装填手が二人いても、連射は苦手ですね」

「はい」

 

 灯里は頷いた。

「だから、一発を大切にします」

 

 かなえがメモを取る。

「一発を外すと、次弾まで時間がかかる」

「その間にS35が回り込んできます」

 

 すずが操縦席で嫌そうな顔をした。

「速い相手に回り込まれるのは困ります」

「非常に困ります。TOGⅡは回り込まれると、すぐには砲塔も車体も追いつけません」

「つまり、回り込まれる前に止める」

「そうです」

 

 灯里は地図を示す。

「TOGⅡは、待ち伏せ位置へ先に着く必要があります。後から追いかけても間に合いません」

 

 すずが頷く。

「先に行く。早く決める。ゆっくり動く」

「完璧です」

「ゆっくり動くは褒め言葉なんですね」

「TOGⅡにとっては」

 

 灯里は真剣だった。

 

 装填練習が始まる。

 

「ちとせさん、砲弾」

「はい」

「りんさん、受け取り」

「はい、次」

 

 重い砲弾を、二人で受け渡す。

 

 厨房で大量の食材を運ぶ手際。

 盛り付けの正確さ。

 流れを止めない動き。

 

 給食部専攻で培ったものが、少しずつ戦車内作業に変わっていく。

 

「装填完了」

 

 まどかが時間を確認する。

「まだ遅いですね」

 

 りんが息を整えながら言う。

「もう少し、受け渡しを短くできます」

「砲弾を置く位置を変えた方がいいです」

 

 ちとせも頷く。

 かなえがメモする。

「配置変更案、記録します」

「もう一度いきます」

 

 灯里が言うと、ちとせが気合を入れた。

「はい!」

「次、焼き上がり……ではなく、装填です!」

 

 りんも続ける。

 

 すずが笑う。

「今、焼き上がりって言いましたね」

「癖で」

 

 りんは少し照れた。

 

 灯里は真面目に言う。

「悪くありません。TOGⅡの一発は、焼き上がりを待つ料理のようなものです」

 

 まどかが即座に返す。

「その例えは、たぶん危険です」

「そうですか」

「はい。外すと焦げます」

「では、焦がさないようにしましょう」

 

 Fチームの車内に、少しだけ笑いが生まれた。

 

* * *

 

 練習は続いた。

 

 Cチームは建物の陰からの狙撃位置を確認する。

 Dチームは、不用意に平地へ出ない練習。

 Bチームは根性で突撃しそうになるたびに、みほに止められる。

 Eチームは周囲確認と連絡。

 Aチームは全体を見る練習。

 

 みほの指示は、少しずつ自然になっていた。

 

 沙織が無線で情報を整理する。

「Bチーム、左の通路へ移動中。Cチーム、建物の陰で待機。Dチーム、ちょっと前に出すぎかも!」

 

 みほがすぐに指示する。

「Dチーム、そこで止まってください。右側の建物に隠れられます」

『了解です!』

 

 澤の声が返る。

「Cチーム、目標が見えたら正面ではなく側面を狙ってください」

『心得た!』

「Fチームは、そのまま待機。S35役のEチームが回り込んでくる想定です」

 

 灯里が通信で返す。

『Fチーム、了解しました。TOGⅡは動かず、待ちます』

 

 すずの小さな声も乗る。

『動いても遅いですしね』

『正解です』

 

 みほは思わず笑いそうになった。

 けれど、すぐに前を見る。

 

 マジノは、聖グロとは違う。

 

 聖グロは崩れない隊列で押してきた。

 マジノは、防御主体の学校として知られている。

 

 ならば、こちらから無理に崩しに行けば、逆に相手の得意な形に入ってしまうかもしれない。

 

 みほは地図を見る。

 

 守る学校を、どう動かすか。

 

 それが、次の試合の課題だった。

 

* * *

 

 一方その頃。

 

 マジノ女学院の作戦室では、フォンデュが大洗女子学園の資料をまとめていた。

 

 エクレールは机の前に座り、胃薬を手元に置きながら、その資料を受け取る。

 

「大洗女子学園のデータです」

 

 フォンデュは一枚ずつ説明していく。

「車両は、Ⅳ号戦車D型、八九式中戦車甲型、III号突撃砲F型、M3リー中戦車、38(t)戦車。そして、TOGⅡ」

 

 エクレールは資料の一枚を見て、目を細めた。

「TOGⅡ……本当にいるのですね」

「はい。聖グロリアーナ戦でも確認されています。主砲火力が高く、道を塞ぐ運用も行ったようです」

「厄介ですわね」

「さらに、乗員の練度も上がっている可能性があります」

 

 エクレールはTOGⅡの写真を見た。

 

 長い。

 あまりにも長い。

 

「……長いですわね」

「長いです」

「本当に戦車ですの?」

「戦車です」

「そう……」

 

 エクレールは胃薬に手を伸ばしかけて、耐えた。

 

 フォンデュは次の資料を出す。

「それから、隊長についてです」

「大洗の隊長?」

「はい。西住みほ」

 

 その名を聞いた瞬間、エクレールの手が止まった。

「……西住?」

「はい」

 

 フォンデュは資料をめくる。

「昨年まで、黒森峰女学園で副隊長を務めていたようです。西住まほの妹でもあります」

 

 エクレールは、ゆっくりと椅子に座り直した。

「西住流……」

 

 戦車道に関わる者なら、その名を知らない者は少ない。

 

 厳格で、強く、正面から相手を打ち破る戦車道。

 その頂点にいる流派。

 

 エクレールにとっても、西住流は特別だった。

 

 幼い頃。

 

 初めて見た西住しほの試合。

 

 無駄のない指揮。

 迷いのない前進。

 相手を圧倒する強さ。

 

 そして、戦車道家元としての凛とした佇まい。

 

 その姿に、憧れた。

 

 あれほど強く、美しい戦車道があるのだと、幼いエクレールは胸を打たれた。

 

 フォンデュが、少しだけ含みのある声で言う。

「隊長が、昔から気にされていた流派ですね」

 

 エクレールは小さく咳払いした。

「……その話は、今しなくてよろしいですわ」

「西住しほ様の、迷いのない戦い方と凛とした佇まいに心を打たれた、と以前おっしゃっていました」

「フォンデュ」

「はい。ここまでにしておきます」

 

 しかし、エクレールの表情は真剣だった。

「西住まほは、西住流の素質を強く受け継いでいると聞いています」

「はい」

「そして、西住みほはその妹」

 

 なぜ、そんな人物が大洗にいるのか。

 なぜ、無名校で隊長をしているのか。

 

 エクレールの胃が、きゅっと痛んだ。

 

 今度は耐えきれず、胃薬を一包取り出す。

「……また胃が」

 

 フォンデュは水を差し出した。

「どうぞ」

「ありがとう」

 

 薬を飲みながら、エクレールは資料を見る。

 

 大洗女子学園。

 

 無名校。

 戦車道復活直後。

 

 だが、隊長は西住みほ。

 補佐にはTOGⅡを操る戸郷灯里。

 

 未完成で、読みにくい。

 

 しかも、要所に厄介な駒がある。

 

「これは……想像以上に難しい相手ですわね」

 

 フォンデュが頷く。

「油断はできません」

「当然です」

 

 エクレールは資料を机に置いた。

「作戦会議を開きます」

 

* * *

 

 マジノ女学院の作戦室に、主要メンバーが集められた。

 

 フォンデュが大洗の車両データを読み上げる。

「Aチーム、Ⅳ号戦車D型。隊長は西住みほ。柔軟な指揮を行う可能性があります」

 

 エクレールは頷く。

「最優先で警戒します」

「Bチーム、八九式中戦車甲型。火力は低めですが、積極的に動く傾向があります」

「軽視は禁物ですわ。油断したところを突かれる可能性があります」

「Cチーム、III号突撃砲F型。待ち伏せに注意」

「特に側面を見せないように」

「Dチーム、M3リー中戦車。火力は複数ありますが、練度に不安」

「だからこそ、予想外の動きをするかもしれません」

「Eチーム、38(t)戦車。軽快な動きに注意」

「追わせすぎないこと」

 

 フォンデュは最後の資料を持ち上げた。

「そして、Fチーム。TOGⅡ」

 

 作戦室の空気が少し変わる。

「主砲火力が高く、車体が長大。機動力は低いものの、進路封鎖や待ち伏せで大きな効果を発揮する可能性があります」

 

 エクレールは静かに言った。

「あの車両は、動かなくても戦場を変えます」

 

 ガレットが腕を組む。

「長いだけではなく?」

「ええ。長いからこそ、ですわ」

 

 エクレールは地図に線を引く。

「TOGⅡが先に位置を取れば、こちらの動きは制限されます。特にS35の進路を塞がれると厄介です」

 

 フォンデュが補足する。

「では、TOGⅡをどう避けるかが重要ですね」

「避けるだけでは不十分です」

 

 エクレールは作戦図を見る。

「TOGⅡばかりを見れば、西住みほに崩されます。西住みほばかりを見れば、TOGⅡに道を塞がれます」

 

 作戦室が静かになる。

 

「我々は、変わらなければなりません。けれど、焦って崩れては意味がない」

 

 エクレールは、マジノの隊員たちを見渡した。

 

「変革したマジノ女学院が、どこまで通用するか」

 

 その声には、胃痛を押し込めた覚悟があった。

「腕試しといきましょう」

 

* * *

 

 その日の夕方。

 

 大洗女子学園の戦車道倉庫では、まだ練習が続いていた。

 

 TOGⅡの車内では、装填練習の掛け声が響く。

 

「砲弾、渡します!」

「受け取りました!」

「装填完了!」

 

 まどかが時間を読み上げる。

「前回より少し短縮しました」

 

 灯里は頷いた。

「良いです。焦らず、確実に」

 

 すずが操縦席で言う。

「S35役、また来ます」

 

 かなえが無線を拾う。

「Eチーム、右側から回り込み想定!」

 

 灯里は地図を見る。

「Fチーム、動きません。ここで待ちます」

「動かないんですか?」

 

 ちとせが驚く。

「来るなら、ここです」

「では、焼き上がりを待ちます」

「装填です」

「はい、装填です」

 

 りんが砲弾を抱え直し、灯里は小さく頷いた。

 

 外では、みほの声が響いていた。

「Cチーム、そこで待機してください。Dチームは前に出すぎないで。Bチームは一度下がってください」

 

 その指示は、以前よりずっと自然だった。

 

 沙織が通信で笑う。

『みほ、すっかり隊長だね』

『そ、そうかな』

『西住殿、かっこいいであります!』

『照れると指示が遅れるぞ』

『あ、ごめん』

 

 優花里の声も弾み、麻子が短く言う。

 華が静かに笑った。

 

 大洗は、大洗なりに進んでいる。

 

 マジノも、マジノなりに動き始めている。

 

 防御を主体とする、伝統ある学校。

 そして、戦車道を復活させたばかりの、未完成な大洗女子学園。

 

 練習試合の日は、少しずつ近づいていた。

 

 大洗はまだ知らない。

 

 マジノ女学院が、ただ守るだけの学校ではなくなろうとしていることを。

 

 そしてマジノもまた、まだ知らない。

 

 未完成な大洗が、試合の中でどれだけ形を変えていくのかを。

 

 その二つの戦車道が、まもなくぶつかろうとしていた。

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