『TOGⅡで戦車道を……?』   作:きのこ大三元

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第24話「守るために、動く」

 森の入口で、TOGⅡとARL44が向かい合っていた。

 

 Aチーム、Dチーム、Eチームは北へ離脱していった。残ったのはFチーム。長すぎる重戦車、TOGⅡ。そして、マジノ女学院の切り札、ARL44。

 

 灯里はキューポラから顔を出し、相手の姿を見つめた。

 

 マズルブレーキのない、やや頼りなさそうにも見える主砲。ゲームで言うなら、最終砲ではなく初期砲搭載のARL44。

 

 けれど、油断できる相手ではない。

 

 同じ重戦車。

 

 TOGⅡと同じ階層にいる、重戦車というカテゴリの相手。

 

 だが、性格はまるで違う。ARL44は重戦車としては機動力があり、装甲も主砲もまとまっている。重戦車というより、中戦車寄りの重戦車だった。

 

 対するTOGⅡは、遅く、長く、でかい。そして、重戦車にしては妙に不安になる装甲をしている。

 

「同じ重戦車でも、あまりにも対照的ですね」

「戸郷さん?」

 

 すずが操縦席から聞き返す。

 

 灯里は小さく息を吸った。

「いえ。いざ、こちらでも勝負といこうではありませんか」

 

 その声に、車内の空気が引き締まった。

 

「作戦を伝えます。相手は、その足を活かしてこちらの側面へ回り込もうとするはずです」

 

 まどかが照準器を覗く。

「TOGⅡの正面ではなく、側面を狙うと」

「はい。さらに、TOGⅡの主砲でも、ARL44の正面装甲には有効打が出にくい可能性があります」

 

 ちとせが砲弾を抱えながら言った。

「じゃあ、正面から撃ち合うだけでは難しいんですね」

「難しいです。なので、こちらは側面を晒さないように旋回しながら、相手が側面を見せる瞬間を待ちます」

「相手が回り込もうとする時ですか」

 

 りんが息を呑む。

 

 灯里は頷いた。

「そうです。その時、こちらも撃ちます」

 

 かなえが無線を確認しながら言った。

「白旗覚悟ですね」

「はい。ですが、これ以上ARL44を先へ行かせるわけにはいきません」

 

 まどかが静かに返す。

「つまり、相打ちも想定内」

「TOGⅡの役目は、ここでARL44を止めることです」

 

 車内に一瞬だけ沈黙が落ちた。

 

 それでも、誰も反対しなかった。

 

 すずが操縦桿を握り直す。

「分かりました」

「撃つべき時に撃ちます」

 

 まどかが照準を合わせる。

 

 かなえが無線機に手を添えた。

「Aチームへの連絡、いつでもできます」

「装填、いけます」

「焼き上がり……ではなく、装填、準備できています」

 

 ちとせとりんも頷いた。

 

 灯里は前を見る。

「では、行きます」

 

 ARL44が動いた。

 

 正面からではない。森の入口を回り込むように、TOGⅡの側面へ出ようとしている。

 

「小走さん、車体を右へ。出しすぎないでください」

「了解です!」

 

 TOGⅡの長い車体が、ぎしりと音を立てて向きを変える。遅い。だが、灯里はその遅さを織り込んでいた。

 

「正面を向けすぎない。斜めに受けます」

 

 ARL44の砲が動く。

 

 TOGⅡの砲も、ゆっくりと追う。

 

 砲声。

 ARL44の一撃が、TOGⅡの前方に土煙を上げた。

「外れました!」

 

 かなえが叫ぶ。

 

 まどかの声は冷静だった。

「次、来ます」

 

 灯里はキューポラから身を乗り出し、手で方向を示す。

「小走さん、少し左。まだ側面を見せないでください」

「はい!」

 

 ARL44はさらに距離を詰める。TOGⅡを抜けば、大洗本隊を追える。だからARL44も止まれない。

 

 そして、TOGⅡも下がれない。

 

 互いに、外せない距離へ近づいていく。

 

「距離、近いです」

「まだ」

 

 灯里はARL44を見る。

 

 相手が側面へ回るため、車体を振る。その一瞬、ARL44の側面が見えた。

「今です!」

 

 灯里の声が響く。

 

 まどかが引き金を引いた。

 

 同時に、ARL44も砲撃した。

 

 森の入口に、二つの砲声が重なった。

 

 外から聞くTOGⅡの主砲は、やはり他の戦車とは違う。重く、長く、腹の底に響く音だった。

 

 衝撃。

 車内が揺れる。

 誰かが小さく息を呑む。

 

 そして、静かになった。

 

「白旗……出ています」

 

 かなえが外部判定を確認する。

 

 TOGⅡの上に、白旗。

 

 そして、ARL44の上にも白旗が上がっていた。

 

「相打ちです」

 

 まどかが静かに告げる。

 

 灯里は、キューポラからARL44を見た。

 

 止めた。

 

 TOGⅡは止まった。だが、ARL44も止めた。

 

 灯里は無線に手を伸ばす。

「Aチーム、Fチームです」

 

『戸郷さん!?』

 

 沙織の声が返る。

 

「Fチーム、ARL44と相打ち。両車行動不能です」

 

 少しの沈黙。

 

 みほの声が、静かに入った。

『……ありがとうございます』

 

 灯里はTOGⅡの車内を見渡した。すず、まどか、かなえ、ちとせ、りん。全員が息を荒くしながらも無事だった。

 

「TOGⅡは、役目を果たしました」

 

 そして、もう一度通信へ言う。

「あとは頼みました、西住さん」

 

* * *

 

 Fチーム撃破の報告は、走行中のDチームとEチームにも届いていた。

 

『Fチーム、ARL44と相打ち! 両車白旗!』

 

 沙織の声が、無線の向こうで震えている。

 

 DチームのM3リー車内では、一年生たちが顔を見合わせた。

「Fチームもいなくなっちゃった……」

「Aチームは別方向だよね?」

「ど、どうしよう……」

 

 澤梓は、操縦席の様子を見ながら手に力を込めた。後ろから、フォンデュのソミュアS35が迫っている。さらに少し離れて、ガレットのB1 bisも追っていた。

 

 砲撃。

 土煙。

 M3リーのすぐ横に着弾する。

「きゃあっ!」

 

 Eチームの38(t)から、杏の声が入った。

『ここ、正念場だからさー』

『会長! そんな軽く言う場面ではありません!』

 

 桃が叫ぶ。

 

 杏は、いつもの調子で続けた。

『西住ちゃん一人の力だけじゃ、大洗は勝てないんだよ』

 

 一年生たちは、はっとする。

 

『つまり、私たちの力も必要ってこと』

 

 梓は、唇を結んだ。

 

 聖グロリアーナとの試合。あの時、自分たちは怖くなって逃げた。でも、今は逃げていない。砲撃を受けても、まだ戦車の中にいる。

 

 なら。

 

「あと少し、頑張ろう」

 

 梓が言った。

「ここで逃げたら、また同じだもん」

 

 一年生たちが息を呑む。

 

 そして、返事が続いた。

「もちろん!」

「あいーっ!」

「や、やるしかないよね!」

 

 桃が無線で言う。

『しかし、38(t)の主砲では、マジノの車両には効果が薄いぞ!』

 

 梓は地図を見た。

 

 斜面。細い道。そして、開けた場所。

 

 追ってくる二両。

 

「……挟めるかもしれません」

『何?』

「Eチームが先に前の斜面を下って、B1 bisを引きつけてください。私たちは少し遅れて下ります」

『一年生が作戦を……?』

「登り切ったところで、前後から挟みます」

 

 杏が楽しそうに言った。

『サンドイッチ作戦?』

「はい。サンドイッチ作戦です!」

 

 桃が息を呑む。

 

 だが、すぐに声を張った。

『よし! その賭けに乗るぞ!』

『じゃ、行こっか』

 

 杏の声と同時に、Eチームの38(t)が斜面へ向かって進む。

 

 ガレットのB1 bisが、それを追った。

「逃がしませんわ」

 

 重い車体が、斜面へ入る。

 

 それを見て、梓が声を出した。

「Dチーム、行きます!」

 

 M3リーも斜面へ入る。後方からは、フォンデュのソミュアS35。ソミュアはDチームを逃がさないようについてくる。

 

 まず、Eチームが斜面を登り切った。

 

 続いて、B1 bis。

 

 その後ろから、Dチーム。

 

 前にEチーム。

 後ろにDチーム。

 

 B1 bisを挟む形になった。

「サンドイッチ作戦、開始です!」

 

 梓が叫ぶ。

 

 M3リーの75mm砲が、B1 bisの側面を狙う。

 

 砲撃。

 命中。

 

 だが、白旗は上がらない。

「硬い……!」

「想定内……!」

 

 梓は歯を食いしばった。

「このまま、止めます!」

 

 M3リーは速度を緩めない。ぶつける覚悟で、B1 bisへ車体を寄せた。

 

 接触。

 強い衝撃。

 M3リーの車内で悲鳴が上がる。

 

 だが、B1 bisの動きも止まった。

 

 Eチームが砲撃する。

 

 しかし、有効打にはならない。

 

 ガレットのB1 bisが砲を向ける。

 

 狙いは、動きの止まったDチーム。

 

『危ない!』

 

 杏の声。

 

 次の瞬間、38(t)がM3リーの前へ割り込んだ。

 

 砲撃。

 Eチームの38(t)に、白旗が上がる。

『Eチーム、行動不能!』

 

「会長!」

 

 梓が叫ぶ。

 

 通信の向こうで、杏はいつも通りだった。

『側面のダクト、狙いなー』

 

 桃の声も飛ぶ。

『一年生! 撃て! 撃つんだ!』

 

 梓は涙をこらえるように、前を見る。

「側面、狙って!」

 

 砲塔が回る。

 M3リーが車体をずらす。

 近距離。

 B1 bisの側面。

「撃って!」

 

 砲声。

 着弾。

 

 B1 bisに、白旗が上がった。

『マジノ、B1 bis行動不能!』

 

 だが、終わりではない。

 

 フォンデュのソミュアS35が追いついていた。

「ガレットさん……!」

 

 フォンデュは、すぐに砲塔をDチームへ向ける。Dチームは動きが止まりかけている。

 

 梓は叫んだ。

「下がって! でも、砲を向けて!」

「どっち!?」

「両方!」

 

 M3リーが車体を振る。固定砲を向けるためには、車体ごと動かすしかない。危険な動きだった。

 

 でも、逃げればまた同じになる。

 

 フォンデュの砲が向く。

 Dチームの75mm砲も向く。

「撃って!」

 

 砲声。

 ソミュアS35の側面に、砲弾が叩き込まれた。

 

 白旗。

『マジノ、ソミュア一両、行動不能!』

 

 Dチームの車内に、一瞬遅れて歓声が起きた。

「やった……!」

「やったよ、梓!」

「あいーっ!」

 

 梓は、まだ震えていた。

 

 でも、逃げていなかった。

 

 通信の向こうで、杏が笑う。

『ね? 必要だったでしょ。私たちの力も』

 

 梓は、涙声で返した。

「はい!」

 

* * *

 

 一方、Aチームは右手の道へ進んでいた。

 

 追ってくるのは、エクレールのソミュアS35。

 

 速い。

 正確。

 そして、迷いがない。

 

「こちらも、負けていられませんわ!」

 

 エクレールの声が、ソミュアの車内に響く。

 

 胃はまだ痛い。体も万全ではない。それでも、前へ出る。守るために、動く。そのために、この一戦を最後まで走り切る。

 

 AチームのⅣ号車内では、沙織が息を呑んでいた。

「みほ、相手の方が装甲も火力も上なんだよね!?」

 

 優花里が装填しながら答える。

「はい! 正面から撃ち合うのは危険であります!」

 

 華は照準器を覗いたまま、落ち着いていた。

「ですが、砲撃のタイミングは少しずつ見えてきました」

「操縦は任せろ」

 

 麻子は操縦席で短く言う。

 

 沙織も、無線機に手を添えた。

「みほ、他のチームの状況はこっちで見るから」

 

 一拍。

 

「戦いに集中して」

 

 みほは、みんなの声を聞いた。

 

 優花里は脇目も振らずに次の砲弾を準備している。華は撃つべき瞬間を待っている。沙織は無線と状況を整理している。麻子は何も言わなくても、車体を思った通りに動かしてくれる。

 

 聖グロ戦の時よりも、ずっと、みんなが頼もしい。

 

「みんな……ありがとう」

 

 みほは前を見た。

 

 右手に斜面。その先に、少し開けた場所。

 

「麻子さん、右の斜面を登って」

「了解」

「上でターンします」

 

 麻子は迷わず、Ⅳ号を斜面へ向けた。

 

 エクレールもそれを見る。

「斜面を使うつもりですのね」

 

 ソミュアS35が、Ⅳ号を追って斜面へ向かう。

「望むところですわ!」

 

 エクレールは、動くことをやめなかった。

 

 逃げる相手を追う。

 

 守るために、前へ出る。

 

 Ⅳ号が斜面を登り切る。

 麻子がターン。

 ソミュアS35も正面へ迫る。

 

 正面同士。

 

 撃ち合えば、Ⅳ号が不利。

 

 みほは短く言った。

「沙織さん、機銃」

「機銃!?」

「足元を撃って!」

「分かった!」

 

 沙織が機銃を撃つ。弾が地面を叩き、乾いた土が跳ね、土埃が上がった。

 

 エクレールの視界が、一瞬ぼやける。

「目くらまし……!」

 

 エクレールは、それでも撃った。

 

 砲声。

 土煙の中へ砲弾が飛ぶ。

 

 だが、晴れた時。

 

 Ⅳ号は、正面にはいなかった。

 

 麻子の操縦で、車体は斜面を使って横へ抜けていた。

 

 ソミュアの側面。

 

 そこに、Ⅳ号の砲が向いている。

「撃て!」

 

 みほの声。

 

 華が引き金を引いた。

 

 砲声。

 ソミュアS35の側面に、砲弾が叩き込まれる。

 

 白旗。

 

 エクレールの車両が、静かに止まった。

 

 そして、演習場のスピーカーから声が響く。

 

『マジノ女学院、全車行動不能』

 

 一拍。

 

『大洗女子学園の勝利です!』

 

 Aチーム車内に、息を呑む音が重なった。

 

 そして、歓声。

 

「勝った……」

 

 みほは、ようやく息を吐いた。

 

 沙織が抱きつくように声を上げる。

「勝ったよ、みほ!」

「西住殿、見事であります!」

「皆さんで掴んだ勝利ですね」

 

 優花里は目を輝かせ、華が静かに微笑む。

 

 麻子は、少しだけ口元を緩めた。

「朝早かった分の価値はあった」

 

* * *

 

 白旗を上げたTOGⅡの車内にも、勝利の報告が届いた。

 

『大洗女子学園の勝利です!』

 

 かなえが最初に顔を上げる。

「勝ちました」

 

 ちとせがほっと息を吐いた。

「勝ったんですね」

 

 りんが砲弾から手を離す。

「焼き上がり……じゃなくて、試合終了です」

 

 まどかが灯里を見る。

「戸郷さん」

 

 灯里は、キューポラから遠くの森を見ていた。

 

 Aチームが勝った。

 

 Dチームも、Eチームも、役目を果たした。

 

 そしてTOGⅡも、ARL44を止めた。

 

「西住さん、やっぱりすごいです」

「戸郷さんも、ARL44を止めました」

 

 まどかの言葉に、灯里は少しだけ目を伏せる。

「TOGⅡは、役目を果たしました」

 

 その声は、どこか誇らしそうだった。

 

* * *

 

 試合後。

 

 マジノ女学院の車両も、大洗女子学園の車両も、演習場の集合地点へ戻ってきた。

 

 エクレールは、ソミュアの搭乗員から予備のジャケットを受け取り、汚れた上着を替えていた。顔色はまだ悪い。けれど、表情は暗くなかった。

 

 彼女は、大洗のメンバーの前へ歩いてくる。

「まさか、ここまで接戦になるとは思いませんでしたわ」

 

 みほが少し緊張した顔で頭を下げる。

「こちらこそ、ありがとうございました」

 

 エクレールは微笑み、みほへ近づいた。

 

 そして、頬を軽く合わせる。

 

 ビズ。

 

 みほの顔が一気に赤くなった。

「えっ……!?」

 

 沙織が叫ぶ。

「ええっ!?」

 

 華も目を丸くする。

「まあ……」

 

 優花里はなぜか感動していた。

「国際交流であります!」

 

 麻子は眠そうに言う。

「戦車道は広いな」

 

 エクレールは次に、灯里の前へ来た。

「TOGⅡ、見事でしたわ」

「ありがとうございます」

 

 灯里が丁寧に頭を下げた瞬間、エクレールは同じように頬を軽く合わせた。

 

 灯里は固まった。

「……これは、マジノ式の白旗判定ですか?」

「違います」

 

 まどかが横から冷静に言った。

 

 フォンデュが少し笑う。

「挨拶です」

「なるほど」

 

 灯里は真剣に頷いた。

「マジノ女学院、奥が深いですね」

 

 フォンデュはTOGⅡを見上げる。

「あなたのTOGⅡも、奥が深そうです」

「はい。長さも深さもあります」

「深さは、今後理解していきます」

「ぜひ」

 

 エクレールは、みほと灯里を見て、柔らかく笑った。

「久しぶりに、楽しい試合でしたわ」

 

 その言葉に、ガレットが少しだけ目を逸らす。

 

 フォンデュは静かに微笑んでいた。

 

 エクレールは続ける。

「また次にお会いするのを、楽しみにしています」

 

 みほは、しっかり頷いた。

「はい。私たちもです」

 

* * *

 

 少し離れた観戦地点。

 

 マドレーヌは、モニターに映るエクレールを見つめていた。

 

 負けた。

 

 マジノ女学院は敗れた。

 

 けれど、マドレーヌの表情は静かだった。

「負けましたわね、エクレール」

 

 紅茶のカップに指を添える。

 

 モニターの中の後輩は、悔しそうで、それでも楽しそうに笑っていた。

「けれど、前へ出た」

 

 マドレーヌは、少しだけ微笑む。

「それでいいのよ」

 

 守るために、動く。

 

 エクレールは、その意味を知り始めている。

 

* * *

 

 聖グロリアーナの観戦地点では、ダージリンが紅茶を口にしていた。

 

 オレンジペコが、静かに言う。

「良い試合でしたね」

「ええ」

 

 ダージリンは穏やかに微笑む。

「大洗女子学園も、マジノ女学院も、最後まで動き続けたわ」

 

 オレンジペコは頷いた。

「マジノ女学院は、負けても何かを掴んだように見えました」

 

 ダージリンはカップを置く。

「伝統とは、灰を崇めることではなく、火を受け継ぐこと」

 

 その視線は、モニターの中のマジノ女学院へ向けられていた。

「今日のマジノは、その火を少しだけ見せてくれたわ」

 

 そして、別の画面に映るTOGⅡを見る。

「それに」

 

 ダージリンは楽しそうに笑った。

「ルイボスも、ちゃんと自分の役目を果たしたようね」

 

 遠くの演習場で、長い重戦車は白旗を掲げたまま止まっている。けれど、その姿はどこか誇らしげだった。

 

 守るために、動く。

 

 止まることで、守る。

 

 それぞれの戦車道が、今日の高原に確かに残っていた。

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