『TOGⅡで戦車道を……?』   作:きのこ大三元

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いよいよ2章突入です!アニメで言うなら5話〜6話辺りです。
今回は風紀委員さん達のお話です!ゴモヨさんは好きな戦車が公式設定でTOGⅡみたいですね…


第2章:全国大会一回戦/サンダース戦編
幕間「風紀委員は見ていた」


マジノ女学院との練習試合から、少し経った日の放課後。

 

 大洗女子学園の廊下に、香ばしい匂いが漂っていた。

 

 焼いたパン。

 温めたソーセージ。

 少し甘いソース。

 それから、給食部専攻の調理スペースで作られたばかりのスープの匂い。

 

 戸郷灯里は、配膳ワゴンの横を歩きながら、真剣な顔でメモを見ていた。

「試合前補給メニュー、試作第二案です」

 

 ワゴンの上には、包み紙に包まれた小さなTOGドッグが並んでいる。

 

 通常のTOGドッグより短く、片手で食べやすい。その横には、練習後用のスープ。さらに、小さな紙箱に入ったTOG型スイーツの改良版。

 

 どれも、戦車道チームの補給を想定したものだった。

「補給は戦力です」

 

 灯里が言うと、火野まどかが隣で頷いた。

「それは正しいです。ただし、廊下で目立ちすぎています」

 

 小走すずは、ワゴンの持ち手を握りながら少しだけ肩をすくめた。

「急がないと、スープ冷めちゃいますよ」

「小走さん」

 

 灯里は真剣な声で言った。

「今のワゴン速度、TOGⅡの旋回より速いです」

「比較対象が遅すぎる」

 

 すずが即答する。

 

 呼子かなえは、注文票のようにメモを確認していた。

「戦車道チーム分、整備班分、試食用。数は合っています」

 

 米倉ちとせは、スープの入った保温容器を確認する。

「こぼれないように気をつけてくださいね」

 

 早見りんも、TOG型スイーツの箱を押さえながら頷いた。

「角を曲がる時は、ゆっくりです。中の砲塔チョコが倒れます」

 

 灯里は深く頷いた。

「TOGⅡも、角を曲がる時は慎重です」

「今はワゴンの話です」

 

 まどかが冷静に返した。

 

 その直後だった。

「廊下を走らない!」

 

 鋭い声が響いた。

 

 全員が足を止める。

 

 廊下の向こうから、三人の生徒が歩いてきた。

 

 風紀委員。

 

 先頭に立つのは、園みどり子。

 

 通称、そど子。

 

 その後ろに、後藤モヨ子。

 

 通称、ゴモヨ。

 

 そして、金春希美。

 

 通称、パゾ美。

 

 みどり子は、腕章をきっちり整え、灯里たちとワゴンを交互に見た。

「廊下で配膳ワゴンを高速走行させるのは禁止です」

 

 灯里は真顔で答えた。

「高速ではありません。TOGⅡ基準では高速ですが、一般基準では小走りです」

「基準をTOGⅡにしない!」

 

 即座に返された。

 

 すずが小声で呟く。

「まともなツッコミだ」

 

 まどかも小さく頷く。

「貴重ですね」

 

 みどり子はさらにワゴンの上を見る。

「それと、これは何ですか」

「試合前補給メニューです」

 

 灯里は胸を張った。

「TOGドッグ軽食版、練習後スープ、戦車道履修者向け栄養補助セット、TOG型スイーツ改良版です」

「増やしすぎです!」

 

 みどり子の声が廊下に響く。

 

 モヨ子は手元のメモに何かを書き込んでいた。

「違反項目、多いね」

 

 希美は、ワゴンの上のTOGドッグをじっと見つめる。

「でも、このTOGドッグ、ちょっと美味しそう……」

「金春さん!」

 

 みどり子が振り返る。

 

 希美は慌てて姿勢を正した。

「い、いえ。風紀委員として確認していただけです」

「食欲で確認しない!」

 

* * *

 

 廊下の端にワゴンを寄せ、風紀委員による確認が始まった。

 

 みどり子は、周囲の通行量、ワゴンの位置、匂いに集まってきそうな生徒の流れまで見ていた。

「この時間帯は、船舶科の実習帰りの生徒が増えます。ここで販売物を広げると、通路が詰まります」

「販売ではなく、試食と補給です」

「同じです」

 

 みどり子は言い切った。

「食堂前ならまだしも、この廊下は導線が重なります。戦車道履修者、自動車部、給食部専攻、見物に来る生徒。全部がここを通るんです」

 

 かなえが目を瞬かせた。

「かなり正確ですね」

「風紀委員ですから当然です」

 

 みどり子はすぐに返す。

「最近、戦車道関係の人の流れが増えています。TOGドッグ販売、TOG型スイーツの試作、整備班への差し入れ、倉庫前の見学者。全部把握しています」

 

 灯里は静かにみどり子を見た。

「園さん」

「何ですか」

「周囲の動きが、よく見えていますね」

「風紀委員ですから当然です」

「戦車道でも、周囲を見て危険を先に止める役は重要です」

 

 みどり子の眉が動いた。

「……なぜ、戦車道の話になるんですか」

 

 灯里は真面目に答える。

「向いていると思いまして」

「向いていません!」

 

 みどり子は即答した。

「私たちは風紀委員です。戦車道で校内をさらに騒がしくする側には回りません」

 

 モヨ子が小さく呟く。

「でも、みどり子、戦車道の試合結果はいつも確認してるよね」

 

 希美も続ける。

「マジノ戦のあとも、廊下で『戦車の移動経路を決めるべき』って言ってた」

「それは風紀委員として必要な情報管理です!」

 

 みどり子は二人を振り返って言った。

 

 灯里は、少しだけ目を細める。

「やはり、作戦参謀の視点です」

「風紀委員の視点です!」

 

 まどかが横で静かに言う。

「会話が平行線ですね」

 

 すずは小声で言った。

「でも、相性は良さそう」

 

* * *

 

 みどり子は、ワゴンの位置を壁際へずらすよう指示した。

 

 さらに、配布先までの経路を確認する。

「食堂横の通路を使ってください。ここを直進すると、放課後の教室移動と重なります」

 

 かなえがすぐにメモを取る。

「食堂横通路、了解です」

 

 ちとせは保温容器を持ち直す。

「スープを運ぶなら、揺れが少ない方がいいですね」

 

 りんも頷いた。

「TOG型スイーツも崩れにくいです」

 

 みどり子は、少し呆れたようにため息をついた。

「そもそも、なぜ戦車道の補給にここまでお菓子が必要なんですか」

 

 灯里は即答した。

「士気が上がります」

「真面目な顔で言われると反論しづらいですね」

 

 希美が、こっそりTOG型スイーツの箱を見る。

「これ、どんな味なんですか?」

「金春さん」

 

 みどり子の声が飛ぶ。

 

 希美は少しだけ肩をすくめた。

「確認です。風紀委員として、食品の中身を確認しないと」

 

 モヨ子も小さく笑う。

「じゃあ、私も記録用に」

「後藤さんまで!」

 

 灯里は、すぐに小さな包みを三つ取り出した。

「試食用です」

 

 みどり子が固まる。

「用意がいいですね」

「補給担当なので」

 

 まどかが横から補足した。

「なお、これは買収ではありません。試作品の品質確認です」

「ますます言い方が怪しいです」

 

 みどり子はそう言いながらも、最終的に三人で試食することになった。

 

 TOGドッグ軽食版。

 

 短めのパンに、小さなソーセージ。

 

 こぼれにくいソース。

 

 片手で持てる包み紙。

 

 風紀委員としての表情を保ったまま、みどり子はひと口食べた。

 

 沈黙。

 

 モヨ子が先に言う。

「おいしい」

 

 希美も頷く。

「うん。これ、人気出ると思う」

 

 みどり子は、少しだけ目を逸らした。

「……味は、悪くありません」

 

 灯里の目が輝く。

「では、戦車道補給メニューとして認可を」

「しません」

「なぜ」

「今は風紀確認中です」

 

 みどり子は包み紙をきちんと畳む。

「ただし、通路を塞がず、販売場所と配布時間を守るなら、風紀委員として強く止める理由はありません」

 

 かなえがすぐにメモを取った。

「販売場所、配布時間、導線管理」

 

 みどり子は頷く。

「それと、呼び込みで廊下に人を集めすぎないこと」

「TOGⅡの魅力を語るのは」

「禁止ではありませんが、短く」

 

 灯里は少し難しい顔をした。

「短く語れるでしょうか」

 

 すずが即答する。

「無理ですね」

 

 まどかも頷く。

「無理です」

 

 灯里は真剣に考え込んだ。

「TOGⅡは長いので、説明も長くなります」

「説明まで長くしない!」

 

 みどり子の声がまた廊下に響いた。

 

* * *

 

 確認が終わる頃には、風紀委員の三人も少しだけ空気が柔らかくなっていた。

 

 ただし、みどり子だけは最後まで姿勢を崩さない。

「とにかく、戦車道が始まってから校内が騒がしくなっています」

 

 みどり子は腕を組んだ。

「倉庫前に人が集まる。廊下で配膳ワゴンが通る。TOGドッグだのTOGスイーツだの、販売物が増える。生徒会も止めない。むしろ乗っている」

 

 灯里は少し考えた。

「生徒会は、大洗の可能性を広げようとしているのだと思います」

「広げすぎです」

 

 みどり子は即答した。

「戦車道をやるなら、まず校内移動経路をきちんと決めるべきです。整備場への通路、食堂前、船舶科の実習区画、全部導線が重なっています」

 

 灯里は静かに頷いた。

「完全に作戦参謀の視点ですね」

「だから、風紀委員の視点です!」

 

 モヨ子が小さく笑う。

「でも、戦車道のルート管理にも使えそうだよね」

 

 希美も頷く。

「危ない場所、みどり子すぐ気づくし」

「二人とも、余計なことを言わない!」

 

 みどり子は慌てて止める。

 

 灯里は、少しだけ真面目な顔になった。

「規則を守らせる人は、危険な場所を見つけるのが上手いです」

 

 みどり子が灯里を見る。

「戦車道では、それはとても大事です」

「褒めても違反は消えません」

「消えなくても、覚えておきます」

「何をですか」

「園さんたちが、戦車道に向いていることを」

「向いていません!」

 

 みどり子は、はっきりと言い切った。

「私たちは風紀委員です。戦車道で校内の騒ぎを増やす側には回りません」

 

 灯里は、ほんの少しだけ笑った。

「では、いつか風紀委員として、戦車道の中から校内の秩序を守る日が来るかもしれませんね」

「来ません!」

 

 即答だった。

 

 モヨ子が小声で言う。

「でも、もし乗るなら、みどり子は車長っぽいね」

 

 希美も頷く。

「すぐ注意できるし」

「あなたたちまで何を言っているの!」

 

 みどり子は顔を赤くして振り返った。

 

* * *

 

 風紀委員たちは、最終的に通路使用の注意点を書いたメモを灯里たちへ渡した。

 

 配布場所。

 

 通行量の多い時間帯。

 

 匂いで人が集まりやすい場所。

 

 ワゴンを止めてよい位置。

 

 止めてはいけない位置。

 

 かなえは、そのメモを見て感心していた。

「すごいです。ほとんど補給路の管理表です」

 

 みどり子は胸を張る。

「風紀委員ですから」

 

 灯里は丁寧に頭を下げた。

「ありがとうございます。これで、安全に補給できます」

「安全にしてください」

 

 みどり子は強く言った。

「戦車道が盛り上がるのは結構です。でも、校内の秩序を乱していい理由にはなりません」

「はい」

 

 灯里は素直に頷いた。

「気をつけます」

 

 その反応が意外だったのか、みどり子は少しだけ瞬きをした。

 

 灯里は続ける。

「戦車道は、支える人がいて成り立ちます。補給も、整備も、通路も、校内の秩序も」

 

 一拍。

「全部、必要です」

 

 みどり子は、少しだけ言葉に詰まった。

 

 そして、ふいっと視線を逸らす。

「……分かっているなら結構です」

 

 モヨ子と希美が顔を見合わせ、少しだけ笑った。

 

 みどり子は咳払いをする。

「それでは、私たちは巡回に戻ります」

「ありがとうございました」

 

 灯里たちが頭を下げる。

 

 風紀委員の三人は、廊下を歩いて去っていった。

 

 その背中を見送りながら、すずが言う。

「厳しかったですね」

 

 かなえはメモを見ながら頷いた。

「でも、すごく助かりました。導線、かなり見直せます」

 

 ちとせも保温容器を持ち直す。

「スープをこぼさず運ぶには、大事ですね」

 

 りんはTOGスイーツの箱を確認しながら言った。

「砲塔チョコも守れます」

 

 まどかが灯里を見る。

「戸郷さん」

「はい」

「今の流れで、本当に戦車道に向いていると思ったんですか」

「思いました」

 

 即答だった。

「園さんは周囲の危険を見るのが早いです。後藤さんは記録と整理が丁寧です。金春さんは空気を柔らかくできます」

 

 灯里は、風紀委員たちが去っていった廊下を見る。

「戦車の中でも、必要な力です」

 

 まどかは少しだけ考えた。

「確かに、車内に一人いると助かるかもしれません」

 

 すずが苦笑する。

「でも、今の感じだと絶対乗らないって言ってましたよ」

 

 灯里は静かに頷いた。

「大丈夫です」

「大丈夫なんですか?」

「大洗ですから」

 

 その一言に、五人は妙に納得してしまった。

 

* * *

 

 一方、少し離れた廊下。

 

 巡回に戻った風紀委員たちは、先ほどのワゴンの匂いがまだ少し残る通路を歩いていた。

 

 みどり子は前を向いたまま、ぼそりと言う。

「まったく……戦車道が始まってから、本当に騒がしい」

 

 モヨ子が横から言った。

「でも、少し楽しそうに見えたよ」

「見えません」

 

 即答。

 

 希美も続ける。

「みどり子、戦車道の話になると、最近けっこう詳しいよね」

「風紀委員として把握しているだけです」

「TOGⅡの旋回が遅いことも?」

「廊下の安全管理に関係する可能性があります」

「関係あるかな」

 

 モヨ子が笑う。

 

 みどり子は少しだけ頬を赤くした。

「とにかく、校内の秩序を守るのが私たちの役目です」

 

 希美が小さく頷く。

「うん」

 

 モヨ子も頷いた。

「でも、もし戦車道の方からも秩序を守れたら、それはそれで風紀委員っぽいかもね」

 

 みどり子は立ち止まった。

 

 そして、ゆっくり振り返る。

「後藤さん」

「はい」

「その発想は危険です」

「そうかな」

「そうです」

 

 みどり子はきっぱりと言い、再び歩き出した。

 

 けれど、その足取りは、さっきより少しだけ迷っているようにも見えた。

 

 校内の廊下。

 

 配膳ワゴン。

 

 戦車道チーム。

 

 TOGドッグ。

 

 そして、戦車道に向いていると言った戸郷灯里の言葉。

 

 みどり子は、小さく首を振った。

「ありえません」

 

 そう呟く。

 

 だが、廊下の窓から見える戦車道倉庫の方へ、ほんの一瞬だけ視線が向いた。

 

 そこには、長いTOGⅡの車体が見えていた。

 

 風紀委員は、今日も校内の秩序を守っている。

 

 けれど、その目はもう、少しだけ戦車道を見始めていた。

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