『TOGⅡで戦車道を……?』   作:きのこ大三元

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第26.5話「乗ってわかる戦車の癖」

 サンダース大学付属高校との一回戦に向けて、大洗女子学園の朝練が始まった。

 

 朝。まだ空気が少し冷たい時間。

 

 戦車道倉庫前には、眠そうな顔、やる気に満ちた顔、不安そうな顔が入り混じっていた。

「朝だ……」

「朝だね」

「敵より朝が怖い」

「麻子、それ昨日も言ってたよ」

「今日も怖い」

 

 冷泉麻子は、Ⅳ号戦車D型の横で静かに呟いた。武部沙織は苦笑しながら、麻子の肩を軽く揺する。

 

 秋山優花里は、サンダース偵察で得た資料を抱え、目を輝かせていた。資料の端には、ブリーフィング会場で確認した出場車両のメモと、格納庫で撮影した映像データの番号が書かれている。

「しかし、朝練は重要であります! サンダースは十両。こちらは六両。普通にぶつかれば、数の差は大きいです!」

「普通にぶつからなければいい」

「それを考えるための朝練であります!」

 

 麻子の眠そうな返事にも、優花里は負けない。

 

 西住みほは、地図と各車両の資料を見比べていた。地図の上には、小さな駒が六つ置かれている。Ⅳ号、八九式、三突、M3リー、38(t)、TOGⅡ。形も大きさも違う駒は、並べるだけで大洗のばらばらさを示していた。

 

 サンダースの戦車は、シャーマン系列が中心。数が多く、車種も比較的そろっている。

 

 一方、大洗は違う。

 

 全部、ばらばらだった。

 

 速さも、装甲も、火力も、運用方法も違う。それは弱みでもある。けれど、使い方次第では強みにもなる。

 

 みほは鉛筆の先で、地図上の駒を一つずつ押さえた。

「今日は、いつもと少し違う練習をしたいと思います」

 

 全員がみほを見る。

「他のチームの戦車に、少しずつ乗ってみましょう」

 

 少しの沈黙。

 

 それから、沙織が目を丸くした。

「えっ、他の戦車に?」

「うん。全部を入れ替えるわけじゃないけど、代表で乗ってみて、その戦車の癖を知っておきたいの」

 

 五十鈴華が穏やかに頷く。

「相手のことを知る前に、味方のことを知るのですね」

「はい。サンダースは数が多いです。だから、大洗は六両全部を上手く使わないといけません」

 

 そこへ、戸郷灯里が静かに頷いた。

「賛成です」

 

 灯里は、TOGⅡの長い車体を見上げる。朝の光が、砲塔の角と長い車体側面に当たっていた。

「TOGⅡは、他の戦車と違いすぎます。皆さんにも、一度乗っていただいた方が良いと思います」

「それは、怖いもの見たさではなく?」

 

 火野まどかが横から聞く。

「理解です」

「怖いもの見たさも少しありそうです」

「否定はしません」

 

 小走すずが苦笑した。

「TOGⅡの苦労、分かってもらえるといいですね」

「はい。TOGⅡは、長いので」

「もう、その一言で全部説明しようとしてない?」

 

 沙織が小さく呟いた。

 

* * *

 

 最初の交換は、みほがTOGⅡに乗ることになった。

 

 Fチームの車内に、みほが入る。

 

 いつものⅣ号より、明らかに広い。そして、長い。前も後ろも遠い。

 

 みほはハッチから車長席へ移り、車内を見渡した。操縦席、無線席、砲手席、装填位置。座席と座席の間に距離があり、視線を動かすだけでも、いつものⅣ号より時間がかかる。

「……これ、曲がり始める前に、もう次の位置を決めておかないといけないんだね」

 

 灯里の目が輝いた。

「西住さん、分かってくださいますか」

「うん。普通の戦車みたいには動けない」

 

 みほはハッチの縁に手を置き、外の練習場を確認しながら言う。

「止まる場所、曲がる場所、砲を向ける場所を、かなり早めに決めないと遅れちゃう」

「そうです。TOGⅡは、未来の自分を信じて早めに曲がる戦車です」

「言い方はかっこいいですけど、要するに小回りが利かないだけです」

 

 操縦席で、すずが冷静に補足した。

「それも含めて、未来です」

「未来って便利ですね」

 

 みほは少し笑った。

「でも、道を塞ぐにはすごく向いてる」

「はい。TOGⅡは、動く壁です」

「動きは遅いけど、置ければ強い」

「その通りです」

 

 まどかが砲手席から静かに言った。

「西住さん、理解が早いですね」

「戸郷さんが、いつもどれだけ先を考えて動かしているか、少し分かった気がします」

 

 灯里は真剣な顔で答えた。

「TOGⅡへの理解者が増えました」

「布教成功ですね」

 

 かなえが無線席で笑う。

「理解です」

「今は布教で良いと思います」

 

* * *

 

 一方、灯里はⅣ号戦車D型に乗っていた。

 

 Aチームの車内。いつものTOGⅡと比べると、何もかもが違う。

 

 短い。近い。軽い。

 

 灯里は車長席から外を見て、第一声を放った。

「短い……」

「感想そこ!?」

「はい。車体が短いです。視界が軽いです。旋回が早いです。これは……ずるいですね」

「ずるいって言われた!」

 

 沙織がすぐに突っ込む。

 

 優花里は、なぜか誇らしげだった。

「普通はこちらが標準であります!」

「標準というものは、こんなに動きやすいのですね」

 

 麻子が操縦席から言う。

「動かすぞ」

「お願いします」

 

 Ⅳ号が発進した。

 

 履帯が地面を刻み、車体がすぐ前へ出る。

 

 灯里は、思わず少し身構えた。

 

 反応が早い。

 

 操縦指示を出せば、すぐ動く。車体がすぐ向く。止まる。曲がる。TOGⅡなら、考えて、待って、ようやく動きが返ってくる。しかし、Ⅳ号は違う。判断がすぐ車体に出る。

「速い戦車は、自由に動ける分、迷う時間がありませんね」

 

 灯里が言うと、みほの代わりに通信席へ残った沙織が首を傾げた。

「速いって言っても、普通くらいだよ?」

「TOGⅡ基準では高速です」

「基準が独特すぎる……」

 

 華が砲手席で微笑む。

「戸郷さん、Ⅳ号はいかがですか?」

「素直です。ですが、素直すぎて怖いです」

「怖い?」

「はい。自分の判断がすぐ車体に出ます。ごまかせません」

 

 麻子が少しだけ口元を緩めた。

「分かってるな」

「冷泉さんの操縦も、とても速いです」

「眠いけどな」

「眠いのに速いのですね」

「朝だから、早く終わらせたい」

「理由!」

 

 沙織が叫んだ。

 

* * *

 

 その後は、代表者を入れ替えながら、いくつかの車両体験が行われた。

 

 まず、優花里がTOGⅡに乗った。

 

 ハッチをくぐった瞬間、目が輝く。

「戸郷殿! TOGⅡの中です! TOGⅡの中であります!」

「秋山さん、落ち着いてください。ここは神殿ではありません」

 

 まどかが小さく呟く。

「神殿扱いは否定するんですね」

「TOGⅡは戦車です」

「たまに概念とも言っています」

「それはそれです」

 

 優花里は車内を見回し、砲弾、座席、装填位置、車内動線を次々と確認していく。無線席の位置を見て、砲手席の足元を覗き、装填手が砲弾を受け渡す場所で何度も頷いた。

「長い車体に合わせて、乗員配置も独特でありますね! 装填動線もかなり工夫されております!」

「はい。厨房の動きに似ています」

「厨房?」

 

 優花里が瞬きをする。

 

 ちとせが頷いた。

「重いものを運ぶ、次の人へ渡す、詰まらせない」

 

 りんも続ける。

「盛り付けと装填、少し似てます」

「なるほど……給食部専攻の連携が、TOGⅡの装填に活かされているのでありますね!」

 

 優花里は感動していた。

「素晴らしいであります!」

 

 灯里は満足そうに頷く。

「TOGⅡは、人と厨房を繋ぎます」

「それは言いすぎだと思います」

 

 まどかが冷静に止めた。

 

* * *

 

 次に、すずが八九式中戦車甲型に乗った。

 

 操縦席に座ったすずは、ペダルと操縦桿の位置を確認し、少しだけ車体を動かした。

 

 すぐに目を丸くする。

「軽い! 曲がる! でも軽すぎて怖い!」

「根性で曲がるんだ!」

「根性で操縦しないでください!」

「根性は大事だぞ!」

「大事でも、操縦桿は物理です!」

 

 磯辺典子の言葉に、バレー部の四人は全員がなぜか頷いた。

「物理も根性!」

「違います!」

 

 すずは、TOGⅡとはまるで違う反応の軽さに戸惑いながらも、少し楽しそうだった。

「でも、これはこれで難しいですね」

「お、分かるか!」

「はい。軽い分、すぐ動くので、雑に動かすと姿勢が崩れます」

 

 典子が感心したように腕を組む。

「やるな、操縦手」

「TOGⅡが重すぎるだけかもしれません」

「それも根性だ!」

「だから根性でまとめないでください!」

 

* * *

 

 まどかは、CチームのIII号突撃砲に乗った。

 

 砲手として座って、すぐに理解する。

「砲塔がない……つまり、狙うには車体ごと向ける必要があるんですね」

 

 エルヴィンが腕を組む。

「まさに一撃必殺の構え!」

「動かぬ砲台にして、動く伏兵である!」

「狙撃には忍耐が必要ぜよ」

 

 おりょうが真剣に頷く。

 

 まどかは照準器を覗きながら、少し考えた。

「料理で言えば、盛り付け台ごと動かすようなものですね」

 

 歴女たちが一瞬止まった。

 

 灯里も少し首を傾げる。

「分かりやすいようで、分かりにくいです」

「ですが、感覚としては近いです。自分だけで狙うのではなく、操縦手と一体で狙う必要があります」

 

 エルヴィンは満足そうに頷いた。

「うむ。分かっているではないか」

 

 まどかは照準器から目を離し、砲の向きと車体の向きを確認した。

「砲塔がない分、撃つ前の準備がすべてですね」

 

 それは、TOGⅡの砲撃にも近い考え方だった。

 

 一発を大事にする。撃つ前に位置を決める。外せない状況を作る。

 

 まどかは、少しだけ表情を引き締めた。

 

* * *

 

 かなえは、Aチームの通信席に座った。

 

 隣では沙織が、いつもの通信機を指差しながら説明している。

「ここで全体の連絡を拾って、ここでみほに伝えて、必要なら他チームに返す感じ」

「情報量が多いですね」

「でしょ? みんな一斉に喋るし、桃ちゃんも叫ぶし」

「注文処理に近いです」

「注文処理!?」

 

 かなえは真面目に頷いた。

「厨房でも、同時にいろいろな注文が入ります。誰が何を頼んだか、どの料理が先か、どこで詰まっているかを整理する必要があります」

「なるほど……って、私、厨房だったの?」

「通信席は、情報の厨房です」

「なんか分かるような、分からないような!」

 

 沙織は苦笑した。

 

 だが、かなえが実際に模擬通信を拾い始めると、沙織は少し驚いた。

「Bチーム、左へ移動。Cチーム、待機。Dチーム、少し前に出すぎ。Eチームから砲撃位置確認。Fチームは……長いので移動中」

「最後の説明だけ雑じゃない?」

「事実です」

 

 沙織は笑った。

「かなえちゃん、通信上手いね」

「沙織さんの席、すごく大変です」

「分かってもらえた……!」

 

* * *

 

 華も、TOGⅡの砲手席を体験した。

 

 まどかに代わって照準器を覗き、ゆっくりと砲を向ける。

「とても重みのある砲ですね」

 

 灯里は誇らしげに頷いた。

「はい。TOGⅡの主砲は、愛と質量があります」

「撃ちごたえがありそうです」

 

 まどかが静かに言う。

「五十鈴さん、妙に適性がありますね」

「そうでしょうか」

「落ち着いています。砲の重さに振り回されていません」

 

 華は柔らかく微笑んだ。

「大きなものを扱う時ほど、静かに構えた方がよい気がします」

 

 灯里は、少し感動したように言った。

「五十鈴さん、TOGⅡを理解しています」

「布教が進んでいるであります!」

 

 優花里が横で興奮する。

 

 まどかは小さくため息をついた。

「今日は、TOGⅡ理解者が増えすぎています」

 

* * *

 

 一方、河嶋桃はM3リーに乗っていた。

 

 そして、すぐに混乱した。

「砲が多い! どの砲で撃てばいいんだ!」

 

 澤梓が慌てて説明する。

「そこは状況に応じて……」

「状況に応じるな! 指示を一本化しろ!」

 

 近くで見ていた杏が笑った。

「桃ちゃん、いつもの自分に言ってるみたいだねー」

「会長!」

 

 M3リーの車内では、一年生たちが苦笑している。

「河嶋先輩、こっちの砲は車体ごと向けます」

「こっちは砲塔です」

「で、どっちも使えます」

「だから多いのだ!」

 

 桃は頭を抱えた。

 

 梓は少し照れながら言う。

「私たちも、最初はすごく混乱しました」

 

 桃は、その言葉に一瞬だけ黙った。

 

 そして、少しだけ咳払いする。

「……よくやっているな、お前たち」

 

 梓たちは目を丸くした。

「え?」

「な、何でもない! 次の説明をしろ!」

 

 杏がにやにやしている。

「桃ちゃん、ちょっと分かったんだ」

「会長!」

 

* * *

 

 最後に、短い車両交換模擬戦が行われることになった。

 

 勝敗よりも、車両の癖を知ることが目的だった。

 

 訓練弾。短時間。代表者交換あり。

 

 紅組は、みほ車長のTOGⅡ、梓が指揮する38(t)、バレー部が乗るⅣ号。

 

 白組は、灯里車長のⅣ号、桃が乗るM3リー、まどかが補助に入ったIII号突撃砲。

 

 沙織は通信役として全体を見ながら、少し不安そうに呟く。

「これ、誰がどの戦車に乗ってるか分からなくなりそう……」

「記録します」

 

 かなえが隣でメモを取る。

 

 模擬戦が始まった。

 

 みほのTOGⅡは、予想以上に早く道を塞ぎに来た。

 

 速度は遅い。だが、位置取りが早い。

 

 すずが操縦桿を握り、長い車体を練習場の通路へ斜めに入れる。履帯が地面を重く刻み、TOGⅡの側面が灯里のⅣ号の進路を狭めた。

「TOGⅡ、もうそこにいるの!?」

 

 灯里がⅣ号の車長席で目を細める。

「西住さん、TOGⅡの置き方が上手いです」

 

 麻子が操縦席で言う。

「突破するか?」

「いえ、正面からは避けます。速い戦車は、別の道を使えます」

 

 灯里は少しだけ迷う。

 

 TOGⅡなら、その場に居座って相手を待つ。だが、Ⅳ号は違う。動ける。だから、動く選択肢が増える。

「速い戦車は、自由ですね」

「迷ってると撃たれるぞ」

「はい。動きます」

 

 Ⅳ号は素早く回り込み、TOGⅡの側面を狙おうとした。

 

 だが、みほもそれを読んでいた。

「小走さん、車体を少し左へ。砲は無理に追わないで、道を塞ぐことを優先してください」

 

 TOGⅡの長い車体が、ずしりと動く。

 

 灯里のⅣ号の進路が、さらに狭くなった。

「……これは厄介です」

 

 灯里は小さく笑った。

「TOGⅡは、相手にすると長いですね」

「今さら!?」

 

 沙織が通信席で叫んだ。

 

 その頃、桃のM3リーはまだ砲の選択で混乱していた。

「こっちか!? こっちの砲か!?」

「河嶋先輩、今は車体を向けてください!」

「だから車体を向ける砲とは何だ!」

 

 梓が乗る38(t)は、その隙を突いて側面へ回り込む。

「小さい車体だと、こんなに動きやすいんだ……!」

 

 梓は驚きながらも、冷静に進路を選ぶ。

 

 38(t)は軽快だった。だが、装甲は薄い。当たらないように動かなければならない。

 

 梓はハッチから進路を確認し、操縦手へ短く指示を出した。

「もう少し右。建物の影に入って」

 

 一方、まどかが補助に入ったIII号突撃砲は、建物の陰で静かに待っていた。

「やはり、待つ車両ですね」

 

 エルヴィンが満足そうに頷く。

「そうだ。撃つ時まで動かぬ。それが伏兵!」

「ただし、撃つ時には車体ごと向ける」

「うむ!」

 

 まどかは照準器を覗き、車体の向きと標的の進路を合わせる。

「分かりやすいです。TOGⅡより短いですが、撃つ前の準備は似ています」

 

 模擬戦は、短時間で終わった。

 

 勝敗は、ほぼ引き分け。

 

 というより、途中で全員が自分の乗っている車両の癖に戸惑い、作戦よりも学びの方が多くなってしまった。

 

 だが、それでよかった。

 

 今日の目的は、勝つことではない。

 

 知ることだった。

 

* * *

 

 訓練が終わると、全員が倉庫前に集まった。

 

 朝練のはずだったのに、気づけばかなり時間が経っている。

 

 麻子は壁にもたれていた。

「朝から濃い」

「麻子、よく頑張ったね」

「寝たい」

 

 沙織が苦笑する。

 

 みほは、皆を見渡した。

「今日乗ってみて、分かったことがあります」

 

 全員が静かになる。

「大洗の戦車は、全部違います」

 

 みほは一両ずつ見る。

 

 Ⅳ号。八九式。三突。M3リー。38(t)。TOGⅡ。

「だから、同じ動きはできません」

 

 優花里が真剣に頷く。

「性能も、役割も、得意な距離も、全て違うであります」

「うん。でも、それぞれにできることがあります」

 

 みほは続けた。

「それを知っていれば、もっと助け合えると思います」

 

 灯里も静かに頷いた。

「TOGⅡは遅いです」

「そこから入るんだ」

 

 沙織が小さく突っ込む。

 

 灯里は真剣だった。

「でも、誰かがTOGⅡの遅さを知っていてくれれば、待ってもらえます」

「ちょっと良い話っぽいけど、待つ前提なんだね」

「TOGⅡなので」

 

 すずが頷く。

「TOGⅡは、先に言っておかないと間に合いません」

 

 かなえも続ける。

「情報共有が大事ですね」

 

 まどかが言った。

「他の車両に乗ると、自分たちの車両の意味も分かります」

 

 ちとせとりんも頷く。

「TOGⅡの中って、やっぱり厨房に似てますね」

「役割が決まっていて、流れを止めないのが大事です」

 

 灯里は、少し嬉しそうにした。

「Fチームも、さらにTOGⅡになってきました」

「人間がTOGⅡになるのは少し怖いです」

 

 まどかが冷静に言う。

 

 その場に笑いが起きた。

 

 みほも、少しだけ笑う。

「サンダースは強いです。数も多いです」

 

 そこで、表情を引き締める。

「でも、大洗には大洗の戦い方があります」

 

 全員が頷いた。

 

 寄せ集め。ばらばら。統一されていない。

 

 それは弱みだ。けれど、互いの違いを知れば、違うからこそ助け合える。違うからこそ、相手の予想を外せる。

 

 大洗女子学園の戦車道は、少しずつ形になり始めていた。

「次は、サンダース戦です」

 

 みほが言う。

「みんなで、勝ちに行きましょう」

「はい!」

 

 声が揃う。

 

 その中で、灯里はTOGⅡを見上げた。

 

 長く、重く、遅い。

 

 けれど、今日その長さを、少しだけ皆が知ってくれた。

 

 それだけで、次の戦いは少し変わる。

「TOGⅡ」

 

 灯里は小さく呟いた。

「少し、味方が増えましたね」

 

 隣で沙織が聞き返す。

「今、TOGⅡに話しかけた?」

「はい」

「返事は?」

「心で」

「やっぱりそうなんだ……」

 

 朝の練習場に、笑い声が広がった。

 

 全国大会一回戦。

 

 相手はサンダース大学付属高校。

 

 数で勝てない大洗女子学園は、まず、自分たちの違いを知るところから始めていた。




ナレーター:
車両交換訓練で、それぞれの戦車の癖を知った大洗女子学園。

沙織:
「TOGⅡって、乗ってみると本当に長いんだね……」

灯里:
「はい。長いです」

桃:
「説明が短すぎる!」

みほ:
「でも、長さも使い方次第で強みになると思います」

優花里:
「そして次はいよいよ、サンダース戦に向けた準備であります!」

ナレーター:
相手は十両。
大洗は六両。
数で勝てないなら、戦い方を変えるしかない。

杏:
「じゃあ、西住ちゃん。次はチームの目印、決めとかないとねー」

みほ:
「目印……ですか?」

灯里:
「TOGⅡには、すでにいぬさんチームの印があります」

桃:
「いや、あれは目立ちすぎだ!」

ナレーター:
戦う前に必要なのは、作戦だけじゃない。
自分たちが何者なのかを示す、小さな印。

次回。
第27話「チームの印」

TOGⅡで戦車道を……?
まだまだ続きます。
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