どうでしょうか?
サンダース大学付属高校との一回戦を前に、大洗女子学園の戦車道倉庫前には、朝から緊張した空気が漂っていた。
Ⅳ号戦車D型。八九式中戦車甲型。III号突撃砲F型。M3リー中戦車。38(t)戦車。そして、TOGⅡ。
それぞれの戦車の前に、各チームの生徒たちが並んでいる。
これまで何度も練習してきた。聖グロリアーナと戦った。マジノ女学院とも戦った。サンダースへの偵察もした。味方の戦車の癖も、少しずつ分かってきた。
それでも、全国大会本番はまだ始まっていない。
サンダース戦。
強豪校との一回戦が、すぐそこまで迫っていた。
「全員、整列!」
河嶋桃の声が響く。
その横で、角谷杏はいつものように干し芋をかじっていた。
「いやー、いよいよって感じだねー」
「会長、緊張感を持ってください!」
「持ってるよー。干し芋持ってるし」
「そういう意味ではありません!」
小山柚子が苦笑しながら資料を抱えている。
西住みほは、あんこうチームの前で少しだけ息を整えていた。
まだ、正式名称は発表されていない。けれど、今日を境に大洗の戦車道チームは、もうただのAチーム、Bチームではなくなる。
そんな気配があった。
武部沙織が隣で小声を出す。
「みほ、今日ってまた教官来るんだよね?」
「うん。蝶野教官が、最終確認をしてくださるって」
「また、あのすごい人が……」
沙織の表情が少し強張る。
五十鈴華は落ち着いた様子で微笑んだ。
「以前よりは、私たちも動けるようになっていると思います」
「そうであります! 聖グロ戦、マジノ戦を経て、我々は確実に成長しているのであります!」
「朝じゃなければもっと成長できる」
「麻子、それ毎回言ってる」
秋山優花里が拳を握り、冷泉麻子が眠そうに言う。
一方、TOGⅡ前では、戸郷灯里が長い車体を見上げていた。
「TOGⅡも、今日は最終確認です」
小走すずが操縦席側のハッチから顔を出す。
「最終確認というか、また一日中走るんですよね」
「はい。TOGⅡ基準では、長距離遠足です」
「人間基準でも長距離です」
火野まどかが砲手席の確認をしながら言う。
呼子かなえは無線機のつまみを回し、通信状態を確認していた。米倉ちとせと早見りんは、装填位置の床に置いた目印を見ながら、砲弾の受け渡し位置を合わせている。
「砲弾の受け渡し、昨日より少し速くなりました」
「でも、焦ると詰まります」
ちとせとりんが真剣に話す。
灯里は深く頷いた。
「焦らず、確実に。TOGⅡは急ぎません」
「急げません、では?」
「言い方の問題です」
すずが小さく笑った、その時。
遠くから、車両の音が聞こえた。
大洗女子学園の倉庫前に、一台の車が止まる。扉が開き、颯爽と降りてきたのは、蝶野亜美だった。
「お待たせ」
その声だけで、場の空気が一段引き締まる。
「今日はサンダース戦前の最終調整よ。覚悟はいい?」
全員が、一斉に返事をした。
「はい!」
蝶野は、並んだ戦車と生徒たちをゆっくり見渡した。
そして、少しだけ目を細める。
「……見違えたわね」
その言葉に、大洗側の何人かが顔を上げた。
蝶野は続ける。
「前に見た時とは、まるで別のチームみたい。まだ未熟だけど、戦車の前に立つ顔になってきているわ」
みほが少し驚いたように目を瞬かせる。
沙織は小声で呟いた。
「褒められた……?」
「褒められましたね」
華が穏やかに答える。
優花里は感動していた。
「蝶野教官にそう言っていただけるとは……!」
麻子は短く言う。
「このあとが怖い」
その予想は、すぐに当たった。
蝶野は爽やかに笑った。
「じゃあ、褒めたところで、練習量を増やしましょう」
全員の表情が固まる。
桃が胸を張った。
「当然だ! 全国大会前なのだからな!」
沙織が悲鳴を上げる。
「褒められたのに増えるの!?」
「伸びしろがあるということよ」
蝶野は笑顔のまま言った。
「今日は徹底的にやるわ」
* * *
練習は、基礎走行から始まった。
発進、停止、旋回、後退。次に、隊列移動。前後の距離、左右への展開、進路変更、停止からの射撃姿勢。
さらに、小隊単位での移動と模擬接敵。
前回までの練習で、車両ごとの癖は少し見えていた。今日は、それを自分の車両に戻して確認する日だった。
蝶野の指示は的確だった。
「Aチーム、指示への反応は良くなっているわ。でも、通信の整理はもっと早く」
「はい!」
みほが返事をする。
沙織は無線機の前で必死にメモを取っていた。
「Bチーム、根性は認める。でも根性だけで突っ込まない」
「根性で我慢します!」
「そう。それでいいわ」
バレー部は、妙に納得した顔で頷く。
「Cチーム、射撃位置の取り方は上達しているわ。けれど、目立つものは減らしなさい」
「幟のことか……」
「幟のことね」
歴女たちは少しだけしょんぼりした。
「Dチーム、逃げ腰ではなくなってきたわね。怖くても止まらず、指示を聞けるようになっている」
「はい!」
澤梓が背筋を伸ばす。
「Eチーム、癖は強いけれど粘りがあるわ。生徒会らしいわね」
「ほら、褒められたよ桃ちゃん」
「会長、私だけが褒められたわけではありません!」
杏が笑い、桃が慌てる。
そして、TOGⅡ。
蝶野は、長い車体を見て少しだけ腕を組んだ。
「Fチーム。TOGⅡの遅さを前提に、最初から“そこにいる”戦い方ができ始めているわ」
灯里は真剣に頷いた。
「TOGⅡは、急に来るのではありません。最初からいるのです」
「言い方は独特だけれど、考え方は悪くないわ」
すずが小声で言う。
「戸郷さんのTOGⅡ理論が通じた……」
「教官は懐が深いですね」
まどかが冷静に返す。
その後も練習は続いた。
サンダースを想定した、多数車両からの圧力。味方同士の連絡。フラッグ車を探す動き。囲まれないための移動。TOGⅡによる進路封鎖。
ただし、細かい作戦はまだ固めない。
今日の目的は、各チームが自分たちの役割を確認することだった。
昼を過ぎても終わらない。夕方近くになった頃には、全員がほとんど力尽きていた。
沙織はⅣ号の横に座り込み、ぐったりしている。
「もう、無理……無線も体力使う……」
華は上品に息を整えていた。
「ですが、よい練習でした」
優花里は疲れているのに、目だけは輝いている。
「この疲労感……まさに戦車道であります!」
麻子はほぼ眠りかけていた。
「朝からこれは重罪だ……」
TOGⅡの横では、灯里たちも同じように疲れていた。
すずは操縦席から降りるなり、膝に手をつく。
「TOGⅡ、重い……」
かなえは無線記録を抱えたまま、壁にもたれた。
「情報量が多すぎます……」
ちとせとりんも、装填練習の疲れで腕をさすっている。
「砲弾が、夢に出そうです」
「小麦粉袋より、やっぱり重いです」
灯里はTOGⅡの車体にもたれ、静かに言った。
「TOGⅡは疲れていません」
まどかが横から返す。
「疲れているのは人間です」
「はい」
「戸郷さんも人間です」
灯里は少しだけ間を置いた。
「……そうでした」
「忘れないでください」
* * *
全体練習が終わり、蝶野教官と生徒会が今日のまとめをしている間。
Aチームの四人は、Ⅳ号のそばに残っていた。
みほは少し驚いた顔で、沙織たちを見る。
「みんな、まだ帰らないの?」
沙織は少し疲れた顔のまま、それでも笑った。
「もう少しだけ、練習したいなって」
「え?」
みほが目を丸くする。
華が静かに言った。
「みほさんの指示に、もっと正確に応えられるようになりたいのです」
優花里も勢いよく頷く。
「自分も、装填と情報補助をもっと早くしたいであります! 西住殿が判断するための材料を、すぐに出せるようになりたいです!」
麻子は眠そうな目のまま、短く言った。
「操縦は任せろ。朝以外なら」
「麻子、そこは譲らないんだ」
沙織が苦笑する。
それから、少しだけ真面目な顔になった。
「みぽりん一人に、全部背負わせたくないんだ」
みほは、言葉を失った。
沙織は無線機を見た。
「私、通信をもっと上手く整理したい。みぽりんが戦術に集中できるように、他のチームの状況を拾えるようになりたい」
華は砲塔を見上げる。
「私は、撃つべき時に迷わず撃てるようになりたいです」
優花里は砲弾の位置を確認しながら言う。
「自分は、戦車の情報も、敵の情報も、すぐに出せるようになりたいであります」
麻子は操縦席を見た。
「私は、みほの指示より少し早く、意図を読めるようにする」
みほは、少しだけ俯いた。
そして、ゆっくり顔を上げる。
「……ありがとう」
声が少し震えていた。
「でも、無理しないでね」
「それ、みほにも言えるからね」
沙織がすぐに返す。
みほは困ったように笑った。
その様子を、少し離れた場所から灯里が見ていた。
TOGⅡの影に立ち、何も言わずに。
ここで自分が前に出る必要はない。
西住みほの隣には、Aチームの仲間たちがいる。沙織がいて、華がいて、優花里がいて、麻子がいる。
そのことが、今のみほを支えている。
灯里は小さく呟いた。
「西住さんは、もう一人ではありませんね」
その声に、優花里が振り返った。
「戸郷殿」
「聞こえましたか」
「はい」
優花里はにこりと笑った。
「戸郷殿も、ちゃんと一緒でありますよ」
灯里は、少しだけ目を瞬かせた。
「私も、ですか」
「もちろんであります! 大洗の補佐で、TOGⅡの車長で、私たちの仲間です!」
灯里は、一瞬だけ返事に迷った。
それから、静かに頷いた。
「……ありがとうございます」
TOGⅡの長い影が、夕方の地面に伸びていた。
* * *
翌日。
戦車道チームの正式制服のために、採寸が行われることになった。
会場になった教室には、戦車道チームの生徒たちが集まっている。
その場を仕切っていたのは、風紀委員の三人だった。
園みどり子。後藤モヨ子。金春希美。
みどり子は、名簿を手にきびきびと指示を出していた。
「戦車道履修者は、順番に採寸を受けてください。列を乱さない。廊下を走らない。採寸中に勝手に戦車の話で盛り上がらない!」
優花里がぴたりと口を閉じる。
灯里も同じタイミングで黙った。
沙織がそれを見て笑う。
「二人とも、今話そうとしてたでしょ」
優花里は小さく咳払いする。
「い、いえ。制服の構造と戦車道における機能性について、少し」
灯里も真顔で続ける。
「TOGⅡの車内作業に適した袖口について、少し」
「それが戦車の話です!」
みどり子の注意が飛ぶ。
採寸は順番に進んでいった。
Aチーム、Bチーム、Cチーム、Dチーム、Eチーム。そしてFチーム。
灯里が採寸場所へ向かおうとした瞬間、みどり子は鋭い視線を向けた。
「戸郷さん」
「はい」
「採寸会場でTOGドッグを配布しないでください」
灯里は真顔で答える。
「まだ配布していません」
「まだ、という言い方をやめなさい!」
モヨ子が横でメモを取りながら呟く。
「注意事項、追加だね」
希美は少しだけ笑った。
「でも、採寸終わった後なら食べたいかも」
「金春さん!」
みどり子が振り返る。
Fチームの採寸は、少し時間がかかった。
単にサイズを測るだけではなく、五人が実用性について次々に意見を出したからだ。
まどかが袖口を見ながら言う。
「袖口が広いと、車内作業で引っかかりますね」
すずも続ける。
「操縦席は足元が狭いので、動きやすい方がいいです」
かなえは肩まわりを確認する。
「無線機に引っかからない位置にしたいです」
ちとせは腕を回した。
「装填の時、肩が動きやすい方が助かります」
りんは布地を少しつまむ。
「汚れが落ちやすい素材がいいです。厨房でも戦車でも汚れます」
みどり子は、その意見を聞いて少しだけ目を丸くした。
「……意外と、ちゃんと考えているのね」
灯里は頷いた。
「戦車道は危険を先に潰す競技です」
みどり子の方を見る。
「風紀委員の皆さんの視点も、かなり向いていると思います」
「私たちは風紀委員です。戦車道に入る予定はありません!」
即答だった。
モヨ子と希美が、少しだけ顔を見合わせる。
みどり子はそれに気づき、さらに強く言った。
「ありませんからね!」
灯里は真面目に頷いた。
「今は、ですね」
「今も今後もです!」
まどかが横で静かに言う。
「戸郷さん、あまり追い詰めない方が」
「勧誘ではありません。適性評価です」
「それを勧誘と言うのでは」
* * *
採寸と同じ日。
戦車道チームの正式呼称とエンブレムも発表された。
これまで、便宜上Aチーム、Bチーム、Cチーム、Dチーム、Eチーム、Fチームと呼ばれていた各チーム。
しかし、全国大会本番に向けて、正式な動物名チーム呼称へ移行することになったのだ。
杏は黒板の前に立ち、いつもの調子で言った。
「じゃ、正式にこれでいこっか」
黒板には、チーム名が書かれている。
Aチーム――あんこうチーム。
Bチーム――アヒルさんチーム。
Cチーム――カバさんチーム。
Dチーム――ウサギさんチーム。
Eチーム――カメさんチーム。
Fチーム――いぬさんチーム。
「動物名の方が覚えやすいし、グッズにもできるし」
「会長、また商売の話ですか!」
桃が反応する。
杏はにこにこと笑った。
「大事だよー。戦車道はお金かかるし」
「否定できないところが困りますね」
柚子が苦笑した。
沙織は黒板を見て、ぱっと顔を明るくする。
「あんこうチームかあ。なんか可愛いかも」
華も微笑む。
「大洗らしいですね」
優花里は感動していた。
「チーム名が正式に決まると、いよいよ全国大会という感じがします!」
麻子は短く言った。
「朝じゃなければ、もっといい」
Bチームのバレー部は、自分たちの名前にすぐ納得した。
「アヒルさんチーム!」
「いいですね!」
「根性のアヒル!」
Cチームは、少しだけ議論していた。
「カバか」
「重厚でよい」
「古代よりカバは強い」
「水陸両用の気配もあるぜよ」
Dチームの一年生たちは、ウサギさんチームという名前に盛り上がっている。
「可愛い!」
「でも、かわいいだけじゃなくて強くならないとね」
Eチームの生徒会は、カメさんチーム。
「会長、カメですか」
「いいじゃん。しぶとそうで」
「縁起は良さそうですね」
そして、Fチームは…いぬさんチーム。
灯里は、配られたエンブレム案を見つめていた。
長いダックス犬。パンに挟まれたホットドッグ風の姿。どこか間の抜けた顔。けれど、愛嬌がある。
TOGⅡの長い車体にもよく似合う。
「いぬさんチーム……正式採用ですか」
まどかが横で言う。
「仮名がそのまま通りましたね」
すずは少し笑った。
「ホットドッグ由来だからね」
かなえはすでに販売展開を考えている顔だった。
「覚えやすいですし、包み紙とも相性がいいです」
ちとせも頷く。
「可愛いと思います」
りんがエンブレムを見ながら言う。
「厨房にも貼りたいですね」
灯里は少しだけ胸を張った。
「TOGⅡは犬ではありませんが、いぬさんチームは良い名前です」
すずが言う。
「TOGⅡが犬じゃないのは分かってます」
「ですが、長いところは似ています」
「そこは否定できないですね」
* * *
その日の午後、各チームの戦車に正式エンブレムが貼られた。
Ⅳ号戦車には、あんこう。
沙織が嬉しそうに写真を撮る。
「これ、可愛い! みほ、見て見て!」
「うん。なんだか、ちゃんと私たちの戦車って感じがするね」
八九式には、アヒル。
バレー部の面々は、なぜか円陣を組んでいた。
「アヒルさんチーム、ファイトー!」
「おー!」
III号突撃砲には、カバ。
歴女たちは重々しく頷く。
「これぞ我らの旗印」
「新たなる軍団名である」
M3リーには、ウサギ。
一年生チームは、貼られたエンブレムを囲んで歓声を上げている。
「かわいい!」
「でも、かわいいだけじゃなくて強くならないとね」
38(t)には、カメ。
杏は満足そうに頷いた。
「いいねー。長生きしそう」
「会長、そういう意味ではありません」
「いや、大事だよー」
そして、TOGⅡ。
長い車体の側面に、いぬさんチームのエンブレムが貼られる。
ダックス犬のホットドッグ。
長い。可愛い。そして、どこかTOGⅡに似ている。
灯里は、そのエンブレムをしばらく無言で見つめていた。
すずが少し心配そうに声をかける。
「戸郷さん?」
灯里は真顔で言った。
「TOGⅡが、さらに可愛くなりました」
まどかがすぐに言う。
「泣かないでください」
「泣いていません」
灯里は瞬きもせずに答える。
「これは、TOGⅡの歴史的瞬間を目にした者の反応です」
優花里が横で力強く頷いた。
「分かります、戸郷殿! 戦車にチームの印が入る瞬間は、まさに魂が宿る瞬間であります!」
沙織が少し離れたところから写真を撮る。
「いぬさんチームも可愛いね!」
華も微笑んだ。
「皆さんの戦車に、それぞれの印が入るのは素敵ですね」
みほは、並んだ戦車たちを見渡した。
あんこう。アヒル。カバ。ウサギ。カメ。いぬさん。
車両も、チームも、みんな違う。けれど、名前がついた。印がついた。
ただ集められた戦車ではなくなっていく。
それぞれが、自分たちのチームとして立ち始めている。
みほは小さく言った。
「これで、本当に大洗のチームになったんだね」
沙織が明るく頷く。
「うん!」
優花里は目を輝かせる。
「全国大会が、ますます楽しみであります!」
麻子は眠そうに、でも少しだけ口元を緩めた。
「朝じゃなければな」
* * *
夕方。
採寸を終え、エンブレムを貼り終えた大洗女子学園戦車道チームは、倉庫前に集まっていた。
まだ制服そのものは完成していない。けれど、サンプルとして届いた戦車道ジャケットには、チームごとのエンブレム位置が確認できるようになっていた。
背中、袖、胸元。
それぞれの印が、これから大洗の戦車道を背負っていく。
蝶野教官は少し離れた場所で、その様子を見ていた。
「まだまだ未熟」
そう言ってから、少しだけ笑う。
「でも、良いチームになってきたじゃない」
みほは、全員の前に立った。まだ少し緊張している。
それでも、声はまっすぐだった。
「次は、サンダース大学付属高校です」
全員が静かになる。
「相手は強いです。車両数も多くて、練度も高いです」
みほは一度、みんなの顔を見る。
あんこうチーム。アヒルさんチーム。カバさんチーム。ウサギさんチーム。カメさんチーム。いぬさんチーム。
「でも、私たちも、できることを増やしてきました」
沙織が頷く。
華も、優花里も、麻子も。
各チームの生徒たちも、それぞれの戦車の前で真剣な顔をしている。
「みんなで、頑張りましょう」
その言葉に、全員が返事をした。
「はい!」
灯里も、いぬさんチームの前で頷いた。
「いぬさんチーム、出撃準備できます」
まどかが静かに続ける。
「装填、確認済みです」
すずが操縦席を見た。
「TOGⅡ基準で早めに動けます」
かなえが無線機を持ち上げる。
「通信、拾えます」
ちとせとりんも声をそろえた。
「詰まらせません」
「流れ、作ります」
灯里は、TOGⅡの長い車体を見上げた。
側面には、いぬさんチームのエンブレム。
長いダックス犬のホットドッグ。
それは少し不思議で、少し可愛くて、そしてとても大洗らしかった。
「TOGⅡも、正式に大洗の一員です」
風が吹いた。
倉庫前に並ぶ戦車たちのエンブレムが、夕方の光を受けて静かに輝く。
寄せ集めだったチーム。まだまだ未熟なチーム。けれど、それぞれの印を背負うチーム。
大洗女子学園戦車道チームは、全国大会一回戦へ向けて、静かに準備を整えていた。
次の相手は、サンダース大学付属高校。
強豪校との戦いが、もうすぐ始まる。
ナレーター:
正式なチーム名とエンブレムを得た、大洗女子学園戦車道チーム。
沙織:
「あんこうチーム、なんか可愛いよね!」
優花里:
「正式名称が決まると、いよいよ全国大会という感じであります!」
灯里:
「いぬさんチームの印も、TOGⅡによく似合っています」
まどか:
「泣かないでください」
灯里:
「泣いていません。歴史的瞬間です」
桃:
「だから大げさだ!」
ナレーター:
けれど、浮かれてばかりはいられない。
次の相手は、強豪サンダース大学付属高校。
みほ:
「相手は十両。私たちは六両。でも、大洗の戦い方があります」
杏:
「じゃあ、いよいよ作戦会議だねー」
ナレーター:
数で勝てないなら、考えて戦うしかない。
大洗の作戦が、静かに動き出す。
次回。
第28話「会場へ」
TOGⅡで戦車道を……?
まだまだ続きます。