『TOGⅡで戦車道を……?』   作:きのこ大三元

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最近は次回予告を導入してみました。
どうでしょうか?



第27話「チームの印」

サンダース大学付属高校との一回戦を前に、大洗女子学園の戦車道倉庫前には、朝から緊張した空気が漂っていた。

 

 Ⅳ号戦車D型。八九式中戦車甲型。III号突撃砲F型。M3リー中戦車。38(t)戦車。そして、TOGⅡ。

 それぞれの戦車の前に、各チームの生徒たちが並んでいる。

 

 これまで何度も練習してきた。聖グロリアーナと戦った。マジノ女学院とも戦った。サンダースへの偵察もした。味方の戦車の癖も、少しずつ分かってきた。

 

 それでも、全国大会本番はまだ始まっていない。

 

 サンダース戦。

 

 強豪校との一回戦が、すぐそこまで迫っていた。

「全員、整列!」

 

 河嶋桃の声が響く。

 

 その横で、角谷杏はいつものように干し芋をかじっていた。

「いやー、いよいよって感じだねー」

「会長、緊張感を持ってください!」

「持ってるよー。干し芋持ってるし」

「そういう意味ではありません!」

 

 小山柚子が苦笑しながら資料を抱えている。

 西住みほは、あんこうチームの前で少しだけ息を整えていた。

 

 まだ、正式名称は発表されていない。けれど、今日を境に大洗の戦車道チームは、もうただのAチーム、Bチームではなくなる。

 

 そんな気配があった。

 

 武部沙織が隣で小声を出す。

「みほ、今日ってまた教官来るんだよね?」

「うん。蝶野教官が、最終確認をしてくださるって」

「また、あのすごい人が……」

 

 沙織の表情が少し強張る。

 

 五十鈴華は落ち着いた様子で微笑んだ。

「以前よりは、私たちも動けるようになっていると思います」

「そうであります! 聖グロ戦、マジノ戦を経て、我々は確実に成長しているのであります!」

「朝じゃなければもっと成長できる」

「麻子、それ毎回言ってる」

 

 秋山優花里が拳を握り、冷泉麻子が眠そうに言う。

 

 一方、TOGⅡ前では、戸郷灯里が長い車体を見上げていた。

「TOGⅡも、今日は最終確認です」

 

 小走すずが操縦席側のハッチから顔を出す。

「最終確認というか、また一日中走るんですよね」

「はい。TOGⅡ基準では、長距離遠足です」

「人間基準でも長距離です」

 

 火野まどかが砲手席の確認をしながら言う。

 

 呼子かなえは無線機のつまみを回し、通信状態を確認していた。米倉ちとせと早見りんは、装填位置の床に置いた目印を見ながら、砲弾の受け渡し位置を合わせている。

「砲弾の受け渡し、昨日より少し速くなりました」

「でも、焦ると詰まります」

 

 ちとせとりんが真剣に話す。

 

 灯里は深く頷いた。

「焦らず、確実に。TOGⅡは急ぎません」

「急げません、では?」

「言い方の問題です」

 

 すずが小さく笑った、その時。

 

 遠くから、車両の音が聞こえた。

 

 大洗女子学園の倉庫前に、一台の車が止まる。扉が開き、颯爽と降りてきたのは、蝶野亜美だった。

「お待たせ」

 

 その声だけで、場の空気が一段引き締まる。

「今日はサンダース戦前の最終調整よ。覚悟はいい?」

 

 全員が、一斉に返事をした。

「はい!」

 

 蝶野は、並んだ戦車と生徒たちをゆっくり見渡した。

 

 そして、少しだけ目を細める。

「……見違えたわね」

 

 その言葉に、大洗側の何人かが顔を上げた。

 

 蝶野は続ける。

「前に見た時とは、まるで別のチームみたい。まだ未熟だけど、戦車の前に立つ顔になってきているわ」

 

 みほが少し驚いたように目を瞬かせる。

 

 沙織は小声で呟いた。

「褒められた……?」

「褒められましたね」

 

 華が穏やかに答える。

 

 優花里は感動していた。

「蝶野教官にそう言っていただけるとは……!」

 

 麻子は短く言う。

「このあとが怖い」

 

 その予想は、すぐに当たった。

 

 蝶野は爽やかに笑った。

「じゃあ、褒めたところで、練習量を増やしましょう」

 

 全員の表情が固まる。

 

 桃が胸を張った。

「当然だ! 全国大会前なのだからな!」

 

 沙織が悲鳴を上げる。

「褒められたのに増えるの!?」

「伸びしろがあるということよ」

 

 蝶野は笑顔のまま言った。

「今日は徹底的にやるわ」

 

* * *

 

 練習は、基礎走行から始まった。

 発進、停止、旋回、後退。次に、隊列移動。前後の距離、左右への展開、進路変更、停止からの射撃姿勢。

 

 さらに、小隊単位での移動と模擬接敵。

 

 前回までの練習で、車両ごとの癖は少し見えていた。今日は、それを自分の車両に戻して確認する日だった。

 

 蝶野の指示は的確だった。

「Aチーム、指示への反応は良くなっているわ。でも、通信の整理はもっと早く」

「はい!」

 

 みほが返事をする。

 

 沙織は無線機の前で必死にメモを取っていた。

「Bチーム、根性は認める。でも根性だけで突っ込まない」

「根性で我慢します!」

「そう。それでいいわ」

 

 バレー部は、妙に納得した顔で頷く。

「Cチーム、射撃位置の取り方は上達しているわ。けれど、目立つものは減らしなさい」

「幟のことか……」

「幟のことね」

 

 歴女たちは少しだけしょんぼりした。

「Dチーム、逃げ腰ではなくなってきたわね。怖くても止まらず、指示を聞けるようになっている」

「はい!」

 

 澤梓が背筋を伸ばす。

「Eチーム、癖は強いけれど粘りがあるわ。生徒会らしいわね」

「ほら、褒められたよ桃ちゃん」

「会長、私だけが褒められたわけではありません!」

 

 杏が笑い、桃が慌てる。

 

 そして、TOGⅡ。

 

 蝶野は、長い車体を見て少しだけ腕を組んだ。

「Fチーム。TOGⅡの遅さを前提に、最初から“そこにいる”戦い方ができ始めているわ」

 

 灯里は真剣に頷いた。

「TOGⅡは、急に来るのではありません。最初からいるのです」

「言い方は独特だけれど、考え方は悪くないわ」

 

 すずが小声で言う。

「戸郷さんのTOGⅡ理論が通じた……」

「教官は懐が深いですね」

 

 まどかが冷静に返す。

 その後も練習は続いた。

 

 サンダースを想定した、多数車両からの圧力。味方同士の連絡。フラッグ車を探す動き。囲まれないための移動。TOGⅡによる進路封鎖。

 

 ただし、細かい作戦はまだ固めない。

 今日の目的は、各チームが自分たちの役割を確認することだった。

 昼を過ぎても終わらない。夕方近くになった頃には、全員がほとんど力尽きていた。

 

 沙織はⅣ号の横に座り込み、ぐったりしている。

「もう、無理……無線も体力使う……」

 

 華は上品に息を整えていた。

「ですが、よい練習でした」

 

 優花里は疲れているのに、目だけは輝いている。

「この疲労感……まさに戦車道であります!」

 

 麻子はほぼ眠りかけていた。

「朝からこれは重罪だ……」

 

 TOGⅡの横では、灯里たちも同じように疲れていた。

 

 すずは操縦席から降りるなり、膝に手をつく。

「TOGⅡ、重い……」

 

 かなえは無線記録を抱えたまま、壁にもたれた。

「情報量が多すぎます……」

 

 ちとせとりんも、装填練習の疲れで腕をさすっている。

「砲弾が、夢に出そうです」

「小麦粉袋より、やっぱり重いです」

 

 灯里はTOGⅡの車体にもたれ、静かに言った。

「TOGⅡは疲れていません」

 

 まどかが横から返す。

「疲れているのは人間です」

「はい」

「戸郷さんも人間です」

 

 灯里は少しだけ間を置いた。

「……そうでした」

「忘れないでください」

 

* * *

 

 全体練習が終わり、蝶野教官と生徒会が今日のまとめをしている間。

 

 Aチームの四人は、Ⅳ号のそばに残っていた。

 

 みほは少し驚いた顔で、沙織たちを見る。

「みんな、まだ帰らないの?」

 

 沙織は少し疲れた顔のまま、それでも笑った。

「もう少しだけ、練習したいなって」

「え?」

 

 みほが目を丸くする。

 

 華が静かに言った。

「みほさんの指示に、もっと正確に応えられるようになりたいのです」

 

 優花里も勢いよく頷く。

「自分も、装填と情報補助をもっと早くしたいであります! 西住殿が判断するための材料を、すぐに出せるようになりたいです!」

 

 麻子は眠そうな目のまま、短く言った。

「操縦は任せろ。朝以外なら」

「麻子、そこは譲らないんだ」

 

 沙織が苦笑する。

 

 それから、少しだけ真面目な顔になった。

「みぽりん一人に、全部背負わせたくないんだ」

 

 みほは、言葉を失った。

 

 沙織は無線機を見た。

「私、通信をもっと上手く整理したい。みぽりんが戦術に集中できるように、他のチームの状況を拾えるようになりたい」

 

 華は砲塔を見上げる。

「私は、撃つべき時に迷わず撃てるようになりたいです」

 

 優花里は砲弾の位置を確認しながら言う。

「自分は、戦車の情報も、敵の情報も、すぐに出せるようになりたいであります」

 

 麻子は操縦席を見た。

「私は、みほの指示より少し早く、意図を読めるようにする」

 

 みほは、少しだけ俯いた。

 

 そして、ゆっくり顔を上げる。

「……ありがとう」

 

 声が少し震えていた。

「でも、無理しないでね」

「それ、みほにも言えるからね」

 

 沙織がすぐに返す。

 みほは困ったように笑った。

 その様子を、少し離れた場所から灯里が見ていた。

 

 TOGⅡの影に立ち、何も言わずに。

 ここで自分が前に出る必要はない。

 西住みほの隣には、Aチームの仲間たちがいる。沙織がいて、華がいて、優花里がいて、麻子がいる。

 

 そのことが、今のみほを支えている。

 

 灯里は小さく呟いた。

「西住さんは、もう一人ではありませんね」

 

 その声に、優花里が振り返った。

「戸郷殿」

「聞こえましたか」

「はい」

 

 優花里はにこりと笑った。

「戸郷殿も、ちゃんと一緒でありますよ」

 

 灯里は、少しだけ目を瞬かせた。

「私も、ですか」

「もちろんであります! 大洗の補佐で、TOGⅡの車長で、私たちの仲間です!」

 

 灯里は、一瞬だけ返事に迷った。

 

 それから、静かに頷いた。

「……ありがとうございます」

 

 TOGⅡの長い影が、夕方の地面に伸びていた。

 

* * *

 

 翌日。

 

 戦車道チームの正式制服のために、採寸が行われることになった。

 会場になった教室には、戦車道チームの生徒たちが集まっている。

 その場を仕切っていたのは、風紀委員の三人だった。

 

 園みどり子。後藤モヨ子。金春希美。

 

 みどり子は、名簿を手にきびきびと指示を出していた。

「戦車道履修者は、順番に採寸を受けてください。列を乱さない。廊下を走らない。採寸中に勝手に戦車の話で盛り上がらない!」

 

 優花里がぴたりと口を閉じる。

 

 灯里も同じタイミングで黙った。

 

 沙織がそれを見て笑う。

「二人とも、今話そうとしてたでしょ」

 

 優花里は小さく咳払いする。

「い、いえ。制服の構造と戦車道における機能性について、少し」

 

 灯里も真顔で続ける。

「TOGⅡの車内作業に適した袖口について、少し」

「それが戦車の話です!」

 

 みどり子の注意が飛ぶ。

 採寸は順番に進んでいった。

 

 Aチーム、Bチーム、Cチーム、Dチーム、Eチーム。そしてFチーム。

 

 灯里が採寸場所へ向かおうとした瞬間、みどり子は鋭い視線を向けた。

「戸郷さん」

「はい」

「採寸会場でTOGドッグを配布しないでください」

 

 灯里は真顔で答える。

「まだ配布していません」

「まだ、という言い方をやめなさい!」

 

 モヨ子が横でメモを取りながら呟く。

「注意事項、追加だね」

 

 希美は少しだけ笑った。

「でも、採寸終わった後なら食べたいかも」

「金春さん!」

 

 みどり子が振り返る。

 Fチームの採寸は、少し時間がかかった。

 単にサイズを測るだけではなく、五人が実用性について次々に意見を出したからだ。

 

 まどかが袖口を見ながら言う。

「袖口が広いと、車内作業で引っかかりますね」

 

 すずも続ける。

「操縦席は足元が狭いので、動きやすい方がいいです」

 

 かなえは肩まわりを確認する。

「無線機に引っかからない位置にしたいです」

 

 ちとせは腕を回した。

「装填の時、肩が動きやすい方が助かります」

 

 りんは布地を少しつまむ。

「汚れが落ちやすい素材がいいです。厨房でも戦車でも汚れます」

 

 みどり子は、その意見を聞いて少しだけ目を丸くした。

「……意外と、ちゃんと考えているのね」

 

 灯里は頷いた。

「戦車道は危険を先に潰す競技です」

 

 みどり子の方を見る。

「風紀委員の皆さんの視点も、かなり向いていると思います」

「私たちは風紀委員です。戦車道に入る予定はありません!」

 

 即答だった。

 

 モヨ子と希美が、少しだけ顔を見合わせる。

 

 みどり子はそれに気づき、さらに強く言った。

「ありませんからね!」

 

 灯里は真面目に頷いた。

「今は、ですね」

「今も今後もです!」

 

 まどかが横で静かに言う。

「戸郷さん、あまり追い詰めない方が」

「勧誘ではありません。適性評価です」

「それを勧誘と言うのでは」

 

* * *

 

 採寸と同じ日。

 

 戦車道チームの正式呼称とエンブレムも発表された。

 これまで、便宜上Aチーム、Bチーム、Cチーム、Dチーム、Eチーム、Fチームと呼ばれていた各チーム。

 しかし、全国大会本番に向けて、正式な動物名チーム呼称へ移行することになったのだ。

 

 杏は黒板の前に立ち、いつもの調子で言った。

「じゃ、正式にこれでいこっか」

 

 黒板には、チーム名が書かれている。

 

 Aチーム――あんこうチーム。

 

 Bチーム――アヒルさんチーム。

 

 Cチーム――カバさんチーム。

 

 Dチーム――ウサギさんチーム。

 

 Eチーム――カメさんチーム。

 

 Fチーム――いぬさんチーム。

「動物名の方が覚えやすいし、グッズにもできるし」

「会長、また商売の話ですか!」

 

 桃が反応する。

 

 杏はにこにこと笑った。

「大事だよー。戦車道はお金かかるし」

「否定できないところが困りますね」

 

 柚子が苦笑した。

 

 沙織は黒板を見て、ぱっと顔を明るくする。

「あんこうチームかあ。なんか可愛いかも」

 

 華も微笑む。

「大洗らしいですね」

 

 優花里は感動していた。

「チーム名が正式に決まると、いよいよ全国大会という感じがします!」

 

 麻子は短く言った。

「朝じゃなければ、もっといい」

 

 Bチームのバレー部は、自分たちの名前にすぐ納得した。

「アヒルさんチーム!」

「いいですね!」

「根性のアヒル!」

 

 Cチームは、少しだけ議論していた。

「カバか」

「重厚でよい」

「古代よりカバは強い」

「水陸両用の気配もあるぜよ」

 

 Dチームの一年生たちは、ウサギさんチームという名前に盛り上がっている。

「可愛い!」

「でも、かわいいだけじゃなくて強くならないとね」

 

 Eチームの生徒会は、カメさんチーム。

「会長、カメですか」

「いいじゃん。しぶとそうで」

「縁起は良さそうですね」

 

 そして、Fチームは…いぬさんチーム。

 灯里は、配られたエンブレム案を見つめていた。

 長いダックス犬。パンに挟まれたホットドッグ風の姿。どこか間の抜けた顔。けれど、愛嬌がある。

 

 TOGⅡの長い車体にもよく似合う。

「いぬさんチーム……正式採用ですか」

 

 まどかが横で言う。

「仮名がそのまま通りましたね」

 

 すずは少し笑った。

「ホットドッグ由来だからね」

 

 かなえはすでに販売展開を考えている顔だった。

「覚えやすいですし、包み紙とも相性がいいです」

 

 ちとせも頷く。

「可愛いと思います」

 

 りんがエンブレムを見ながら言う。

「厨房にも貼りたいですね」

 

 灯里は少しだけ胸を張った。

「TOGⅡは犬ではありませんが、いぬさんチームは良い名前です」

 

 すずが言う。

「TOGⅡが犬じゃないのは分かってます」

「ですが、長いところは似ています」

「そこは否定できないですね」

 

* * *

 

 その日の午後、各チームの戦車に正式エンブレムが貼られた。

 

 Ⅳ号戦車には、あんこう。

 

 沙織が嬉しそうに写真を撮る。

「これ、可愛い! みほ、見て見て!」

「うん。なんだか、ちゃんと私たちの戦車って感じがするね」

 

 八九式には、アヒル。

 

 バレー部の面々は、なぜか円陣を組んでいた。

「アヒルさんチーム、ファイトー!」

「おー!」

 

 III号突撃砲には、カバ。

 

 歴女たちは重々しく頷く。

「これぞ我らの旗印」

「新たなる軍団名である」

 

 M3リーには、ウサギ。

 

 一年生チームは、貼られたエンブレムを囲んで歓声を上げている。

「かわいい!」

「でも、かわいいだけじゃなくて強くならないとね」

 

 38(t)には、カメ。

 

 杏は満足そうに頷いた。

「いいねー。長生きしそう」

「会長、そういう意味ではありません」

「いや、大事だよー」

 

 そして、TOGⅡ。

 

 長い車体の側面に、いぬさんチームのエンブレムが貼られる。

 ダックス犬のホットドッグ。

 長い。可愛い。そして、どこかTOGⅡに似ている。

 

 灯里は、そのエンブレムをしばらく無言で見つめていた。

 

 すずが少し心配そうに声をかける。

「戸郷さん?」

 

 灯里は真顔で言った。

「TOGⅡが、さらに可愛くなりました」

 

 まどかがすぐに言う。

「泣かないでください」

「泣いていません」

 

 灯里は瞬きもせずに答える。

「これは、TOGⅡの歴史的瞬間を目にした者の反応です」

 

 優花里が横で力強く頷いた。

「分かります、戸郷殿! 戦車にチームの印が入る瞬間は、まさに魂が宿る瞬間であります!」

 

 沙織が少し離れたところから写真を撮る。

「いぬさんチームも可愛いね!」

 

 華も微笑んだ。

「皆さんの戦車に、それぞれの印が入るのは素敵ですね」

 

 みほは、並んだ戦車たちを見渡した。

 あんこう。アヒル。カバ。ウサギ。カメ。いぬさん。

 

 車両も、チームも、みんな違う。けれど、名前がついた。印がついた。

 ただ集められた戦車ではなくなっていく。

 

 それぞれが、自分たちのチームとして立ち始めている。

 

 みほは小さく言った。

「これで、本当に大洗のチームになったんだね」

 

 沙織が明るく頷く。

「うん!」

 

 優花里は目を輝かせる。

「全国大会が、ますます楽しみであります!」

 

 麻子は眠そうに、でも少しだけ口元を緩めた。

「朝じゃなければな」

 

* * *

 

 夕方。

 

 採寸を終え、エンブレムを貼り終えた大洗女子学園戦車道チームは、倉庫前に集まっていた。

 まだ制服そのものは完成していない。けれど、サンプルとして届いた戦車道ジャケットには、チームごとのエンブレム位置が確認できるようになっていた。

 

 背中、袖、胸元。

 それぞれの印が、これから大洗の戦車道を背負っていく。

 

 蝶野教官は少し離れた場所で、その様子を見ていた。

「まだまだ未熟」

 

 そう言ってから、少しだけ笑う。

「でも、良いチームになってきたじゃない」

 

 みほは、全員の前に立った。まだ少し緊張している。

 

 それでも、声はまっすぐだった。

「次は、サンダース大学付属高校です」

 

 全員が静かになる。

「相手は強いです。車両数も多くて、練度も高いです」

 

 みほは一度、みんなの顔を見る。

 

 あんこうチーム。アヒルさんチーム。カバさんチーム。ウサギさんチーム。カメさんチーム。いぬさんチーム。

「でも、私たちも、できることを増やしてきました」

 

 沙織が頷く。

 華も、優花里も、麻子も。

 

 各チームの生徒たちも、それぞれの戦車の前で真剣な顔をしている。

「みんなで、頑張りましょう」

 

 その言葉に、全員が返事をした。

「はい!」

 

 灯里も、いぬさんチームの前で頷いた。

「いぬさんチーム、出撃準備できます」

 

 まどかが静かに続ける。

「装填、確認済みです」

 

 すずが操縦席を見た。

「TOGⅡ基準で早めに動けます」

 

 かなえが無線機を持ち上げる。

「通信、拾えます」

 

 ちとせとりんも声をそろえた。

「詰まらせません」

「流れ、作ります」

 

 灯里は、TOGⅡの長い車体を見上げた。

 

 側面には、いぬさんチームのエンブレム。

 

 長いダックス犬のホットドッグ。

 

 それは少し不思議で、少し可愛くて、そしてとても大洗らしかった。

「TOGⅡも、正式に大洗の一員です」

 

 風が吹いた。

 

 倉庫前に並ぶ戦車たちのエンブレムが、夕方の光を受けて静かに輝く。

 

 寄せ集めだったチーム。まだまだ未熟なチーム。けれど、それぞれの印を背負うチーム。

 

 大洗女子学園戦車道チームは、全国大会一回戦へ向けて、静かに準備を整えていた。

 

 次の相手は、サンダース大学付属高校。

 

 強豪校との戦いが、もうすぐ始まる。




ナレーター:
正式なチーム名とエンブレムを得た、大洗女子学園戦車道チーム。

沙織:
「あんこうチーム、なんか可愛いよね!」

優花里:
「正式名称が決まると、いよいよ全国大会という感じであります!」

灯里:
「いぬさんチームの印も、TOGⅡによく似合っています」

まどか:
「泣かないでください」

灯里:
「泣いていません。歴史的瞬間です」

桃:
「だから大げさだ!」

ナレーター:
けれど、浮かれてばかりはいられない。
次の相手は、強豪サンダース大学付属高校。

みほ:
「相手は十両。私たちは六両。でも、大洗の戦い方があります」

杏:
「じゃあ、いよいよ作戦会議だねー」

ナレーター:
数で勝てないなら、考えて戦うしかない。
大洗の作戦が、静かに動き出す。

次回。
第28話「会場へ」

TOGⅡで戦車道を……?
まだまだ続きます。
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