全国大会一回戦の会場は、朝から熱気に包まれていた。
会場の周囲には、焼きそば、ホットドッグ、飲み物、戦車道グッズ、応援旗の出店が並んでいる。大型モニターの前には観戦席が設けられ、これから始まる試合を見ようと、多くの人が集まっていた。
県立大洗女子学園の戦車道チームは、その会場へ到着した。
あんこうチームのⅣ号戦車D型。アヒルさんチームの八九式中戦車甲型。カバさんチームのIII号突撃砲F型。ウサギさんチームのM3リー中戦車。カメさんチームの38(t)戦車。そして、いぬさんチームのTOGⅡ。
それぞれの戦車には、正式エンブレムが貼られている。
あんこう。アヒル。カバ。ウサギ。カメ。そして、長いダックス犬のホットドッグ。
まだ小さなチーム。まだ未熟なチーム。けれど、もうただ集められただけの戦車ではない。
自分たちの名前と印を背負った、大洗女子学園の戦車道チームだった。
「うわぁ……すごい人」
武部沙織が、観戦席の方を見て声を漏らした。
サンダース大学付属高校側の観戦席は、ほとんど空きがない。生徒たち、応援団、チアリーダー、大きな旗、横断幕。まるで、ひとつの大きなイベント会場のようだった。
「さすがサンダース大学付属高校であります。規模が違いますね」
秋山優花里が、目を輝かせながら言う。
西住みほは、少し緊張した顔でその光景を見ていた。
サンダースは強豪校。車両数も多く、設備も整っている。そして、応援の熱気まで違う。
その差は、会場に着いた瞬間から分かった。
一方、大洗側の観戦席は静かだった。ちらほらと生徒や関係者が座っている。応援旗もある。けれど、サンダース側と比べると、どうしても小さく見えた。
五十鈴華は、その差を見ても穏やかに言った。
「大きな学校なのですね」
冷泉麻子は眠そうに観戦席を見比べる。
「人が多い方が勝つなら、もう帰って寝たい」
「麻子、それはまだ早いよ!」
沙織がすぐに突っ込む。
戸郷灯里は、サンダース側の観戦席と大洗側の観戦席を静かに見比べていた。
「物量の差は、観客席にも出るんですね」
火野まどかが横で頷く。
「設備、応援、規模。全部が違いますね」
「はい」
灯里は、TOGⅡの長い車体に手を添えた。
「ですが、大洗にはTOGⅡがあります」
小走すずが少しだけ苦笑する。
「それ、だいたいの差を埋められる言葉みたいに使いますよね」
「万能ではありません」
灯里は真顔で返す。
「でも、長いです」
「長さで応援席の差は埋まりません」
まどかが冷静に言った。
* * *
各チームは、指定された待機場所で戦車の最終確認を始めた。
あんこうチームは、Ⅳ号の足回り、砲弾、無線を確認している。沙織は無線機の前で、何度も通信確認をしていた。
「こちら、あんこうチーム。聞こえますかー?」
『聞こえているぞ!』
河嶋桃の声が返ってくる。
「カメさんチーム、声大きいです」
『試合前だから当然だ!』
華は砲弾を確認し、優花里は装填位置と資料を何度も見比べている。麻子は操縦席で眠そうにしながらも、計器とペダルまわりを確認していた。
「燃料、問題なし。足回りも大丈夫」
みほは静かに頷く。
「ありがとう、麻子さん」
カメさんチームの38(t)では、桃が張り切っていた。
「会長、フラッグ車なのですから、気を引き締めてください!」
杏はいつもの調子で、のんびりと干し芋を食べている。
「大丈夫大丈夫。河嶋が外しても、車両が残ってれば負けじゃないし」
「会長、それは励ましになっていません!」
小山柚子は苦笑しながら、装備と通信を確認していた。
アヒルさんチームは、車両の前で気合いの声出しをしている。
「アヒルさんチーム、ファイトー!」
「おー!」
カバさんチームは、III号突撃砲の周囲でいつも通り歴史語りを交えながら点検していた。
「今日の我らは伏兵として動くべきである」
「まさに奇襲の時」
「サンダースの物量をどう崩すか、見ものぜよ」
ウサギさんチームは、M3リーの中で少し緊張している。けれど、マジノ戦の前とは違った。怯えて固まっているのではなく、確認しながら不安を抑えようとしている。
「弾薬、確認しました」
「通信、大丈夫です」
「フラッグ車じゃないけど、ちゃんと頑張ろうね」
澤梓がそう言うと、他の一年生たちも頷いた。
そして、いぬさんチーム。
TOGⅡの車内では、灯里が最終確認を行っていた。
「いぬさんチーム、最終確認を始めます」
灯里は、ひとつずつ確認していく。
「小走さん、操縦系統」
「重いけど、いつも通りです」
すずが操縦席から答える。手元では、操縦桿とペダルの位置を確認していた。
「火野さん、照準器」
「問題ありません」
まどかが照準器を確認しながら言う。砲塔の動きは重いが、引っかかりはない。
「呼子さん、無線」
「良好です。今のところ、戸郷さんのTOGⅡ語りも混線していません」
「それは通信内容に含まれます」
灯里が真面目に返す。
早見りんが即座に言った。
「含めないでください」
米倉ちとせは砲弾の配置を確認している。
「砲弾、準備できています」
りんも頷く。
「受け渡し導線も確認済みです」
灯里は満足そうに頷いた。
「BVも確認します」
まどかが少しだけ眉を上げる。
「試合中に使う予定は?」
「ありません」
「では、なぜ確認を」
「TOGⅡの設備なので」
「理由になっているようで、なっていません」
その時、外から桃の号令が響いた。
「各車、試合開始まで待機!」
大洗の戦車道チームは、それぞれの位置で静かに息を整えた。
* * *
待機時間が少し過ぎた頃。
大洗側のエリアへ、二人の少女が近づいてきた。
サンダース大学付属高校の制服。一人は、いかにも自信ありげな表情をしている。もう一人は落ち着いた雰囲気で、歩き方にも無駄がない。
優花里の肩がぴくりと動いた。灯里も気づく。
アリサ。
ナオミ。
前回、サンダース艦へ偵察に行った時に見た二人だった。
「呑気なものね」
アリサが軽く笑いながら言った。
「よくそれで全国大会まで来られたわね」
桃がすぐに前へ出る。
「貴様ら、何用だ!」
アリサは肩をすくめる。
「別に。試合前に様子を見に来ただけよ」
ナオミは落ち着いた声で言う。
「試合前の交流を兼ねて、少し案内に来た」
杏が顔を上げた。
「おー、いいねー」
「会長、軽すぎます!」
「だって、案内してくれるって言ってるし」
桃が慌てる横で、杏はすでに乗り気だった。
アリサは、大洗の戦車を見渡した。
「ふうん。これが大洗の戦車隊ね」
その視線が、TOGⅡで止まる。
「……本当に長いわね」
灯里は一歩前に出た。
「TOGⅡです」
「見れば分かるわよ」
アリサは少し呆れたように返した。
ナオミはTOGⅡを見上げ、静かに言う。
「道を塞がれたら、確かに厄介だな」
灯里は、わずかに表情を動かした。
「分かっている人ですね」
アリサが眉を寄せる。
「なによ、その言い方」
「褒めています」
「分かりにくいのよ」
ナオミの視線が、灯里と優花里の間を一度だけ行き来した。
「……やはり、見覚えがあるな」
優花里の肩がまた跳ねる。
アリサもじろりと二人を見る。
「隊長は気にしてないみたいだけど、私は忘れてないからね。あんたたち、この前の偵察組でしょ」
優花里は目を泳がせた。
「え、ええと……」
灯里は真顔で答える。
「勉強になりました」
「開き直らないで!」
アリサが声を上げる。
杏はにこにこしながら言った。
「じゃ、ちょっと案内してもらおっか」
「会長、今の流れで行くんですか!?」
桃の声が響いた。
* * *
サンダース側の待機エリアは、別世界だった。
まず、広い。そして、設備が多い。
整備車両、救護車、休憩用テント、ドリンクスタンド、軽食の屋台、チアリーダーの控え場所、予備部品を積んだ車両。
試合会場というより、移動式の巨大拠点だった。
「え、なにこれ!? 本当に試合会場だよね!?」
沙織が声を上げる。
華は周囲を見回しながら感心していた。
「まるで大きな催し物のようですね」
優花里は整備車両を見て目を輝かせる。
「これがサンダースの支援体制……! 車両数だけでなく、補給力も桁違いであります!」
桃は唖然としていた。
「我々とは規模が違いすぎる……!」
杏は軽い調子で笑う。
「いいなー。うちもああいうの欲しいねー」
灯里は、ホットドッグ屋台の方をじっと見ていた。
「TOGドッグ屋台ならあります」
「じゃあ、まずそこからだね」
「会長」
まどかが静かに言う。
「また商売の話になりました」
アリサは少し得意げだった。
「これくらい普通よ。サンダースは物量で負けないんだから」
ナオミはドリンクスタンドの横で足を止める。
「補給が整っていれば、試合中の集中も切れにくい」
灯里は頷いた。
「補給、整備、休憩、士気向上まで完備。これは強いです」
優花里も真剣な顔で頷く。
「戦車道は戦車だけではないのでありますね……!」
沙織は少しだけ小声で言った。
「なんか、勝てる気がちょっと減ってきたんだけど」
麻子は休憩テントを見ている。
「私は、あそこに勝ちたい」
「寝る場所じゃないよ!」
* * *
そこへ、明るい声が飛んできた。
「Hey!」
振り向くと、金髪の少女が手を振りながら近づいてくる。
サンダース大学付属高校隊長、ケイ。
ケイは大洗の面々を見ると、満面の笑顔で両手を広げた。
「大洗のみんな、ウェルカム! 今日は思いっきり楽しんでいってね。オーケー?」
杏が軽く手を上げる。
「オーケー、オーケー。ケイだけにね」
一瞬、空気が止まった。
桃が硬直する。沙織も目を瞬かせる。
だが、ケイはすぐに大きく笑った。
「ナイスジョーク!」
「通じた……」
桃が呟いた。
ケイは次に、優花里と灯里を見た。
「あっ、この前の二人!」
優花里の肩が跳ねた。灯里も、少しだけ背筋を伸ばす。
「この前は大丈夫だった? またいつでも遊びに来てね!」
優花里は目を丸くした。
「お、怒られないのでありますか……?」
ケイは不思議そうに笑う。
「怒る? どうして?」
優花里は視線を泳がせる。
「その、偵察を……」
「偵察も戦車道のうちでしょ?」
ケイはあっさりと言った。
「それに、楽しそうだったし!」
アリサがすぐに声を上げる。
「隊長、甘すぎます! 普通はもっと警戒するところです!」
ケイは明るく笑った。
「警戒はしてるわよ。でも、試合前にビクビクしてたら楽しくないじゃない」
ナオミは静かに頷く。
「油断しないことと、相手を歓迎することは別だ」
灯里は少しだけ驚いていた。
「器が大きいですね」
ケイは胸を張る。
「ビッグな学校だからね!」
灯里は真剣に頷いた。
「サンダースは、人間性もアメリカンサイズ……」
アリサが眉をひそめる。
「褒めてるの、それ?」
「褒めています」
「やっぱり分かりにくいのよ」
ナオミは少しだけ口元を緩めていた。
ケイは大洗のメンバーを見渡す。
「今日は敵同士だけど、試合が終われば戦車道仲間よ。勝っても負けても、楽しみましょう!」
みほは、その言葉に少しだけ表情を和らげた。
「はい。よろしくお願いします」
「オーケー!」
* * *
試合開始まで、まだ少しだけ時間があった。
ケイの案内で、大洗のメンバーはサンダース側のエリアを少しだけ見て回ることになった。
沙織はチアリーダーや出店を見て、目を輝かせている。
「すごい、文化祭みたい!」
華は、アメリカンサイズの軽食を見て微笑んでいた。
「どれも大きいですね」
優花里は戦車関連の展示と整備車両に釘付けだった。
「工具の種類も、予備部品の量もすごいであります……!」
麻子は休憩テントの椅子を見つめている。
「やはり、あそこは良い場所だ」
「麻子、寝ないよ」
灯里はホットドッグ屋台の前で立ち止まっていた。
サンダース式ホットドッグ。大きめのパン。太いソーセージ。たっぷりのソース。
「参考になります」
まどかが横から言う。
「今は試合前です」
「試合前だからこそ、補給の研究です」
かなえが灯里の表情を見て、小さく言った。
「戸郷さん、目が本気です」
りんも頷く。
「帰ったら、試作しそうですね」
ちとせが少し楽しそうに言う。
「サンダース風TOGドッグですか?」
灯里は真顔で答える。
「長く、大きく、補給力のあるTOGドッグ」
まどかは静かに首を振った。
「試合前に新商品を考えないでください」
ケイはその様子を見て、明るく笑った。
「試合が終わったら、みんなで食べよう! 勝っても負けても、お腹は空くものね!」
華が嬉しそうに頷いた。
「それは楽しみです」
麻子も短く言った。
「終わったら寝たい」
「食べてから寝ようね、麻子」
沙織が苦笑する。
サンダースは敵だ。これから戦う相手だ。それでも、嫌な相手ではない。
明るく、大きく、堂々としている。そして、油断していない。
だからこそ、強い。
灯里は、そう感じていた。
* * *
やがて、戦車道連盟の審判が会場中央に現れた。
公式の場の空気に、周囲のざわめきが少しずつ収まっていく。
「これより、全国大会一回戦」
審判の声が響く。
「県立大洗女子学園対、サンダース大学付属高校の試合を行います」
両校の代表が前へ出る。
大洗側からは、角谷杏と西住みほ。サンダース側からは、ケイ。
ケイはみほへ手を差し出した。
「いい試合にしましょう、ミホ」
みほは少しだけ緊張しながら、その手を握る。
「はい。よろしくお願いします」
ケイは笑顔で頷いた。
「オーケー!」
そのやり取りを、灯里は少し後ろから見ていた。
サンダースは強い。明るい。大きい。そして、甘くない。
ケイの笑顔は気さくだが、決して油断できる相手ではない。ナオミの視線は落ち着いていて、アリサは自信を隠していない。
これは、ただの物量校ではない。
灯里は静かに息を吐いた。
「サンダース、強敵ですね」
隣のまどかが頷く。
「はい」
すずは少しだけ肩を回した。
「でも、もう始まります」
かなえが無線機を抱える。
「いぬさんチーム、通信準備できます」
灯里は頷いた。
「行きましょう」
* * *
開始位置へ向かう前に、大洗側で最後の確認が行われた。
今回の試合は、フラッグ戦。大洗側のフラッグ車は、カメさんチームの38(t)。
つまり、生徒会チームが大洗の勝敗を背負う。
桃は明らかに緊張していた。
「我々がフラッグ車か……!」
杏はいつもの調子で言う。
「大丈夫大丈夫。桃ちゃんが外しても、車両が残ってれば負けじゃないし」
「会長、それは励ましになっていません!」
柚子が苦笑しながらも、真剣な顔で通信確認をしていた。
みほは全員の前で地図を広げる。
「今回はフラッグ戦です」
声は落ち着いていた。
「相手のフラッグ車を先に行動不能にした方が勝ちです。全部を倒す必要はありません」
沙織が緊張した声を出す。
「つまり、勝つ方法はあるんだよね」
「うん」
みほは頷いた。
「でも、相手は強いです。車両数も多いので、無理に正面からぶつからないでください」
優花里が資料を抱えながら頷く。
「サンダースの車両数と火力は十分であります。油断は禁物です!」
華が静かに言う。
「こちらの得意な形に持ち込む必要がありますね」
「はい」
みほは地図を閉じた。
「細かい動きは、試合中に状況を見て指示します。各チームは、事前に確認した役割を意識してください」
灯里は静かに手を挙げた。
「西住さん」
「はい」
「TOGⅡには機動性がありません」
少しだけ沈黙が落ちた。
沙織が困ったように笑う。
「自分で言うんだ」
みほも少しだけ困った顔で答えた。
「えっと……TOGⅡには、位置取りと火力があります」
「はい」
灯里は頷く。
「TOGⅡは動くのではなく、そこにいることで仕事をします」
麻子がぼそりと言った。
「つまり遅い」
「はい」
灯里は否定しなかった。
すずがため息をつく。
「そこはもう少し飾ってもいいと思います」
「事実は大事です」
まどかが頷く。
「事実を前提にした方が、作戦は立てやすいです」
みほは、改めて全員を見た。
「あんこうチームは、全体を見て動きます。カメさんチームはフラッグ車として、無理に前へ出ないでください」
「任せろ!」
桃が胸を張る。
杏は軽く手を振った。
「逃げるのは得意だよー」
「会長、逃げるだけではありません!」
みほは続ける。
「各チーム、準備通りお願いします」
全員が頷いた。
「はい!」
灯里も頷く。
「いぬさんチーム、了解しました。TOGⅡ基準で早めに動きます」
すずが小声で補足する。
「普通の戦車基準では、早くありません」
「ですが、TOGⅡ基準では重要です」
みほは少しだけ笑った。
「みんな、お願いします」
* * *
各車両が開始位置へ向かう。
サンダース側の車両も展開していた。
シャーマン。シャーマン。またシャーマン。
数が多い。同じように見えて、装備や砲の違う車両が並んでいる。その規模だけで、圧力があった。
優花里は双眼鏡を覗きながら、やはり興奮を隠せない。
「す、すごいであります……! あれがサンダースのシャーマン部隊……!」
沙織は少し青ざめている。
「多い……本当に多い……」
麻子は短く言った。
「寝ている間に増えそうだ」
一方、大洗の戦車は少ない。けれど、並ぶ戦車たちには、それぞれの印があった。
あんこう。カメ。アヒル。カバ。ウサギ。いぬさん。
灯里はTOGⅡの車内で、インカムを整えた。
「いぬさんチーム、発進準備」
まどかが照準器を確認する。
「砲手、準備できています」
すずが操縦桿を握る。
「操縦、いけます」
かなえが無線機に手を添える。
「無線、良好です」
ちとせが砲弾の位置を確認した。
「装填準備、できています」
りんも頷く。
「いつでもいけます」
灯里は、TOGⅡの長い車体の中にいる五人の気配を感じた。
給食部専攻の五人。いぬさんチーム。もう、Fチームという仮の名前ではない。
自分たちの印を背負った、正式なチームだ。
「TOGⅡ、全国大会初戦です」
灯里は静かに言う。
「長く、堂々と行きましょう」
信号弾が上がった。
空に音が響く。
そして、みほの声が全車に届いた。
『パンツァー・フォー!』
大洗女子学園の戦車たちが、一斉に動き出す。
Ⅳ号が前へ。38(t)が続く。八九式、三突、M3リーもそれぞれの進路へ。
そして、TOGⅡは少し遅れて、ゆっくりと動き出した。
長く。重く。堂々と。
全国大会一回戦。
大洗女子学園対、サンダース大学付属高校。
その戦いが、始まった。
* * *
観戦席の一角。
黒森峰女学園の制服を着た二人が、モニターを見つめていた。
西住まほ。
そして、逸見エリカ。
モニターには、大洗のⅣ号と、長いTOGⅡが映っている。
「始まりましたね、隊長」
エリカが静かに言った。
まほは画面を見たまま、短く答える。
「ああ」
エリカの視線が、TOGⅡへ移る。
「あんな戦車までいるとは思いませんでした」
その声には、少しだけ複雑な響きがあった。
まほは、Ⅳ号を見ていた。
その中にいる、妹を。
「西住みほが、どう使うかだ」
エリカは少しだけ眉を動かす。
モニターの中で、大洗の戦車たちが森へ入っていく。
小さな学校。少ない車両。寄せ集めの戦車。
けれど、もうただの寄せ集めではない。
それぞれの印を背負った大洗女子学園が、強豪サンダースへ向かって進んでいく。
まほは、静かに画面を見つめ続けた。
全国大会一回戦。
大洗の戦いは、ここから本当に始まる。