『TOGⅡで戦車道を……?』   作:きのこ大三元

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第28話「オーケー、サンダース!」

 全国大会一回戦の会場は、朝から熱気に包まれていた。

 

 会場の周囲には、焼きそば、ホットドッグ、飲み物、戦車道グッズ、応援旗の出店が並んでいる。大型モニターの前には観戦席が設けられ、これから始まる試合を見ようと、多くの人が集まっていた。

 

 県立大洗女子学園の戦車道チームは、その会場へ到着した。

 

 あんこうチームのⅣ号戦車D型。アヒルさんチームの八九式中戦車甲型。カバさんチームのIII号突撃砲F型。ウサギさんチームのM3リー中戦車。カメさんチームの38(t)戦車。そして、いぬさんチームのTOGⅡ。

 

 それぞれの戦車には、正式エンブレムが貼られている。

 

 あんこう。アヒル。カバ。ウサギ。カメ。そして、長いダックス犬のホットドッグ。

 

 まだ小さなチーム。まだ未熟なチーム。けれど、もうただ集められただけの戦車ではない。

 

 自分たちの名前と印を背負った、大洗女子学園の戦車道チームだった。

「うわぁ……すごい人」

 

 武部沙織が、観戦席の方を見て声を漏らした。

 

 サンダース大学付属高校側の観戦席は、ほとんど空きがない。生徒たち、応援団、チアリーダー、大きな旗、横断幕。まるで、ひとつの大きなイベント会場のようだった。

「さすがサンダース大学付属高校であります。規模が違いますね」

 

 秋山優花里が、目を輝かせながら言う。

 

 西住みほは、少し緊張した顔でその光景を見ていた。

 

 サンダースは強豪校。車両数も多く、設備も整っている。そして、応援の熱気まで違う。

 

 その差は、会場に着いた瞬間から分かった。

 

 一方、大洗側の観戦席は静かだった。ちらほらと生徒や関係者が座っている。応援旗もある。けれど、サンダース側と比べると、どうしても小さく見えた。

 

 五十鈴華は、その差を見ても穏やかに言った。

「大きな学校なのですね」

 

 冷泉麻子は眠そうに観戦席を見比べる。

「人が多い方が勝つなら、もう帰って寝たい」

「麻子、それはまだ早いよ!」

 

 沙織がすぐに突っ込む。

 

 戸郷灯里は、サンダース側の観戦席と大洗側の観戦席を静かに見比べていた。

「物量の差は、観客席にも出るんですね」

 

 火野まどかが横で頷く。

「設備、応援、規模。全部が違いますね」

「はい」

 

 灯里は、TOGⅡの長い車体に手を添えた。

「ですが、大洗にはTOGⅡがあります」

 

 小走すずが少しだけ苦笑する。

「それ、だいたいの差を埋められる言葉みたいに使いますよね」

「万能ではありません」

 

 灯里は真顔で返す。

「でも、長いです」

「長さで応援席の差は埋まりません」

 

 まどかが冷静に言った。

 

* * *

 

 各チームは、指定された待機場所で戦車の最終確認を始めた。

 

 あんこうチームは、Ⅳ号の足回り、砲弾、無線を確認している。沙織は無線機の前で、何度も通信確認をしていた。

「こちら、あんこうチーム。聞こえますかー?」

 

『聞こえているぞ!』

 

 河嶋桃の声が返ってくる。

「カメさんチーム、声大きいです」

『試合前だから当然だ!』

 

 華は砲弾を確認し、優花里は装填位置と資料を何度も見比べている。麻子は操縦席で眠そうにしながらも、計器とペダルまわりを確認していた。

「燃料、問題なし。足回りも大丈夫」

 

 みほは静かに頷く。

「ありがとう、麻子さん」

 

 カメさんチームの38(t)では、桃が張り切っていた。

「会長、フラッグ車なのですから、気を引き締めてください!」

 

 杏はいつもの調子で、のんびりと干し芋を食べている。

「大丈夫大丈夫。河嶋が外しても、車両が残ってれば負けじゃないし」

「会長、それは励ましになっていません!」

 

 小山柚子は苦笑しながら、装備と通信を確認していた。

 

 アヒルさんチームは、車両の前で気合いの声出しをしている。

「アヒルさんチーム、ファイトー!」

「おー!」

 

 カバさんチームは、III号突撃砲の周囲でいつも通り歴史語りを交えながら点検していた。

「今日の我らは伏兵として動くべきである」

「まさに奇襲の時」

「サンダースの物量をどう崩すか、見ものぜよ」

 

 ウサギさんチームは、M3リーの中で少し緊張している。けれど、マジノ戦の前とは違った。怯えて固まっているのではなく、確認しながら不安を抑えようとしている。

「弾薬、確認しました」

「通信、大丈夫です」

「フラッグ車じゃないけど、ちゃんと頑張ろうね」

 

 澤梓がそう言うと、他の一年生たちも頷いた。

 

 そして、いぬさんチーム。

 

 TOGⅡの車内では、灯里が最終確認を行っていた。

「いぬさんチーム、最終確認を始めます」

 

 灯里は、ひとつずつ確認していく。

「小走さん、操縦系統」

「重いけど、いつも通りです」

 

 すずが操縦席から答える。手元では、操縦桿とペダルの位置を確認していた。

「火野さん、照準器」

「問題ありません」

 

 まどかが照準器を確認しながら言う。砲塔の動きは重いが、引っかかりはない。

「呼子さん、無線」

「良好です。今のところ、戸郷さんのTOGⅡ語りも混線していません」

「それは通信内容に含まれます」

 

 灯里が真面目に返す。

 

 早見りんが即座に言った。

「含めないでください」

 

 米倉ちとせは砲弾の配置を確認している。

「砲弾、準備できています」

 

 りんも頷く。

「受け渡し導線も確認済みです」

 

 灯里は満足そうに頷いた。

「BVも確認します」

 

 まどかが少しだけ眉を上げる。

「試合中に使う予定は?」

「ありません」

「では、なぜ確認を」

「TOGⅡの設備なので」

「理由になっているようで、なっていません」

 

 その時、外から桃の号令が響いた。

「各車、試合開始まで待機!」

 

 大洗の戦車道チームは、それぞれの位置で静かに息を整えた。

 

* * *

 

 待機時間が少し過ぎた頃。

 

 大洗側のエリアへ、二人の少女が近づいてきた。

 

 サンダース大学付属高校の制服。一人は、いかにも自信ありげな表情をしている。もう一人は落ち着いた雰囲気で、歩き方にも無駄がない。

 

 優花里の肩がぴくりと動いた。灯里も気づく。

 

 アリサ。

 

 ナオミ。

 

 前回、サンダース艦へ偵察に行った時に見た二人だった。

「呑気なものね」

 

 アリサが軽く笑いながら言った。

「よくそれで全国大会まで来られたわね」

 

 桃がすぐに前へ出る。

「貴様ら、何用だ!」

 

 アリサは肩をすくめる。

「別に。試合前に様子を見に来ただけよ」

 

 ナオミは落ち着いた声で言う。

「試合前の交流を兼ねて、少し案内に来た」

 

 杏が顔を上げた。

「おー、いいねー」

「会長、軽すぎます!」

「だって、案内してくれるって言ってるし」

 

 桃が慌てる横で、杏はすでに乗り気だった。

 

 アリサは、大洗の戦車を見渡した。

「ふうん。これが大洗の戦車隊ね」

 

 その視線が、TOGⅡで止まる。

「……本当に長いわね」

 

 灯里は一歩前に出た。

「TOGⅡです」

「見れば分かるわよ」

 

 アリサは少し呆れたように返した。

 

 ナオミはTOGⅡを見上げ、静かに言う。

「道を塞がれたら、確かに厄介だな」

 

 灯里は、わずかに表情を動かした。

「分かっている人ですね」

 

 アリサが眉を寄せる。

「なによ、その言い方」

「褒めています」

「分かりにくいのよ」

 

 ナオミの視線が、灯里と優花里の間を一度だけ行き来した。

「……やはり、見覚えがあるな」

 

 優花里の肩がまた跳ねる。

 

 アリサもじろりと二人を見る。

「隊長は気にしてないみたいだけど、私は忘れてないからね。あんたたち、この前の偵察組でしょ」

 

 優花里は目を泳がせた。

「え、ええと……」

 

 灯里は真顔で答える。

「勉強になりました」

「開き直らないで!」

 

 アリサが声を上げる。

 

 杏はにこにこしながら言った。

「じゃ、ちょっと案内してもらおっか」

「会長、今の流れで行くんですか!?」

 

 桃の声が響いた。

 

* * *

 

 サンダース側の待機エリアは、別世界だった。

 

 まず、広い。そして、設備が多い。

 

 整備車両、救護車、休憩用テント、ドリンクスタンド、軽食の屋台、チアリーダーの控え場所、予備部品を積んだ車両。

 

 試合会場というより、移動式の巨大拠点だった。

「え、なにこれ!? 本当に試合会場だよね!?」

 

 沙織が声を上げる。

 

 華は周囲を見回しながら感心していた。

「まるで大きな催し物のようですね」

 

 優花里は整備車両を見て目を輝かせる。

「これがサンダースの支援体制……! 車両数だけでなく、補給力も桁違いであります!」

 

 桃は唖然としていた。

「我々とは規模が違いすぎる……!」

 

 杏は軽い調子で笑う。

「いいなー。うちもああいうの欲しいねー」

 

 灯里は、ホットドッグ屋台の方をじっと見ていた。

「TOGドッグ屋台ならあります」

「じゃあ、まずそこからだね」

「会長」

 

 まどかが静かに言う。

「また商売の話になりました」

 

 アリサは少し得意げだった。

「これくらい普通よ。サンダースは物量で負けないんだから」

 

 ナオミはドリンクスタンドの横で足を止める。

「補給が整っていれば、試合中の集中も切れにくい」

 

 灯里は頷いた。

「補給、整備、休憩、士気向上まで完備。これは強いです」

 

 優花里も真剣な顔で頷く。

「戦車道は戦車だけではないのでありますね……!」

 

 沙織は少しだけ小声で言った。

「なんか、勝てる気がちょっと減ってきたんだけど」

 

 麻子は休憩テントを見ている。

「私は、あそこに勝ちたい」

「寝る場所じゃないよ!」

 

* * *

 

 そこへ、明るい声が飛んできた。

「Hey!」

 

 振り向くと、金髪の少女が手を振りながら近づいてくる。

 

 サンダース大学付属高校隊長、ケイ。

 

 ケイは大洗の面々を見ると、満面の笑顔で両手を広げた。

「大洗のみんな、ウェルカム! 今日は思いっきり楽しんでいってね。オーケー?」

 

 杏が軽く手を上げる。

「オーケー、オーケー。ケイだけにね」

 

 一瞬、空気が止まった。

 

 桃が硬直する。沙織も目を瞬かせる。

 

 だが、ケイはすぐに大きく笑った。

「ナイスジョーク!」

「通じた……」

 

 桃が呟いた。

 

 ケイは次に、優花里と灯里を見た。

「あっ、この前の二人!」

 

 優花里の肩が跳ねた。灯里も、少しだけ背筋を伸ばす。

「この前は大丈夫だった? またいつでも遊びに来てね!」

 

 優花里は目を丸くした。

「お、怒られないのでありますか……?」

 

 ケイは不思議そうに笑う。

「怒る? どうして?」

 

 優花里は視線を泳がせる。

「その、偵察を……」

「偵察も戦車道のうちでしょ?」

 

 ケイはあっさりと言った。

「それに、楽しそうだったし!」

 

 アリサがすぐに声を上げる。

「隊長、甘すぎます! 普通はもっと警戒するところです!」

 

 ケイは明るく笑った。

「警戒はしてるわよ。でも、試合前にビクビクしてたら楽しくないじゃない」

 

 ナオミは静かに頷く。

「油断しないことと、相手を歓迎することは別だ」

 

 灯里は少しだけ驚いていた。

「器が大きいですね」

 

 ケイは胸を張る。

「ビッグな学校だからね!」

 

 灯里は真剣に頷いた。

「サンダースは、人間性もアメリカンサイズ……」

 

 アリサが眉をひそめる。

「褒めてるの、それ?」

「褒めています」

「やっぱり分かりにくいのよ」

 

 ナオミは少しだけ口元を緩めていた。

 

 ケイは大洗のメンバーを見渡す。

「今日は敵同士だけど、試合が終われば戦車道仲間よ。勝っても負けても、楽しみましょう!」

 

 みほは、その言葉に少しだけ表情を和らげた。

「はい。よろしくお願いします」

「オーケー!」

 

* * *

 

 試合開始まで、まだ少しだけ時間があった。

 

 ケイの案内で、大洗のメンバーはサンダース側のエリアを少しだけ見て回ることになった。

 

 沙織はチアリーダーや出店を見て、目を輝かせている。

「すごい、文化祭みたい!」

 

 華は、アメリカンサイズの軽食を見て微笑んでいた。

「どれも大きいですね」

 

 優花里は戦車関連の展示と整備車両に釘付けだった。

「工具の種類も、予備部品の量もすごいであります……!」

 

 麻子は休憩テントの椅子を見つめている。

「やはり、あそこは良い場所だ」

「麻子、寝ないよ」

 

 灯里はホットドッグ屋台の前で立ち止まっていた。

 

 サンダース式ホットドッグ。大きめのパン。太いソーセージ。たっぷりのソース。

「参考になります」

 

 まどかが横から言う。

「今は試合前です」

「試合前だからこそ、補給の研究です」

 

 かなえが灯里の表情を見て、小さく言った。

「戸郷さん、目が本気です」

 

 りんも頷く。

「帰ったら、試作しそうですね」

 

 ちとせが少し楽しそうに言う。

「サンダース風TOGドッグですか?」

 

 灯里は真顔で答える。

「長く、大きく、補給力のあるTOGドッグ」

 

 まどかは静かに首を振った。

「試合前に新商品を考えないでください」

 

 ケイはその様子を見て、明るく笑った。

「試合が終わったら、みんなで食べよう! 勝っても負けても、お腹は空くものね!」

 

 華が嬉しそうに頷いた。

「それは楽しみです」

 

 麻子も短く言った。

「終わったら寝たい」

「食べてから寝ようね、麻子」

 

 沙織が苦笑する。

 

 サンダースは敵だ。これから戦う相手だ。それでも、嫌な相手ではない。

 

 明るく、大きく、堂々としている。そして、油断していない。

 

 だからこそ、強い。

 

 灯里は、そう感じていた。

 

* * *

 

 やがて、戦車道連盟の審判が会場中央に現れた。

 

 公式の場の空気に、周囲のざわめきが少しずつ収まっていく。

「これより、全国大会一回戦」

 

 審判の声が響く。

「県立大洗女子学園対、サンダース大学付属高校の試合を行います」

 

 両校の代表が前へ出る。

 

 大洗側からは、角谷杏と西住みほ。サンダース側からは、ケイ。

 

 ケイはみほへ手を差し出した。

「いい試合にしましょう、ミホ」

 

 みほは少しだけ緊張しながら、その手を握る。

「はい。よろしくお願いします」

 

 ケイは笑顔で頷いた。

「オーケー!」

 

 そのやり取りを、灯里は少し後ろから見ていた。

 

 サンダースは強い。明るい。大きい。そして、甘くない。

 

 ケイの笑顔は気さくだが、決して油断できる相手ではない。ナオミの視線は落ち着いていて、アリサは自信を隠していない。

 

 これは、ただの物量校ではない。

 

 灯里は静かに息を吐いた。

「サンダース、強敵ですね」

 

 隣のまどかが頷く。

「はい」

 

 すずは少しだけ肩を回した。

「でも、もう始まります」

 

 かなえが無線機を抱える。

「いぬさんチーム、通信準備できます」

 

 灯里は頷いた。

「行きましょう」

 

* * *

 

 開始位置へ向かう前に、大洗側で最後の確認が行われた。

 

 今回の試合は、フラッグ戦。大洗側のフラッグ車は、カメさんチームの38(t)。

 

 つまり、生徒会チームが大洗の勝敗を背負う。

 

 桃は明らかに緊張していた。

「我々がフラッグ車か……!」

 

 杏はいつもの調子で言う。

「大丈夫大丈夫。桃ちゃんが外しても、車両が残ってれば負けじゃないし」

「会長、それは励ましになっていません!」

 

 柚子が苦笑しながらも、真剣な顔で通信確認をしていた。

 

 みほは全員の前で地図を広げる。

「今回はフラッグ戦です」

 

 声は落ち着いていた。

「相手のフラッグ車を先に行動不能にした方が勝ちです。全部を倒す必要はありません」

 

 沙織が緊張した声を出す。

「つまり、勝つ方法はあるんだよね」

「うん」

 

 みほは頷いた。

「でも、相手は強いです。車両数も多いので、無理に正面からぶつからないでください」

 

 優花里が資料を抱えながら頷く。

「サンダースの車両数と火力は十分であります。油断は禁物です!」

 

 華が静かに言う。

「こちらの得意な形に持ち込む必要がありますね」

「はい」

 

 みほは地図を閉じた。

「細かい動きは、試合中に状況を見て指示します。各チームは、事前に確認した役割を意識してください」

 

 灯里は静かに手を挙げた。

「西住さん」

「はい」

「TOGⅡには機動性がありません」

 

 少しだけ沈黙が落ちた。

 

 沙織が困ったように笑う。

「自分で言うんだ」

 

 みほも少しだけ困った顔で答えた。

「えっと……TOGⅡには、位置取りと火力があります」

「はい」

 

 灯里は頷く。

「TOGⅡは動くのではなく、そこにいることで仕事をします」

 

 麻子がぼそりと言った。

「つまり遅い」

「はい」

 

 灯里は否定しなかった。

 

 すずがため息をつく。

「そこはもう少し飾ってもいいと思います」

「事実は大事です」

 

 まどかが頷く。

「事実を前提にした方が、作戦は立てやすいです」

 

 みほは、改めて全員を見た。

「あんこうチームは、全体を見て動きます。カメさんチームはフラッグ車として、無理に前へ出ないでください」

「任せろ!」

 

 桃が胸を張る。

 

 杏は軽く手を振った。

「逃げるのは得意だよー」

「会長、逃げるだけではありません!」

 

 みほは続ける。

「各チーム、準備通りお願いします」

 

 全員が頷いた。

「はい!」

 

 灯里も頷く。

「いぬさんチーム、了解しました。TOGⅡ基準で早めに動きます」

 

 すずが小声で補足する。

「普通の戦車基準では、早くありません」

「ですが、TOGⅡ基準では重要です」

 

 みほは少しだけ笑った。

「みんな、お願いします」

 

* * *

 

 各車両が開始位置へ向かう。

 

 サンダース側の車両も展開していた。

 

 シャーマン。シャーマン。またシャーマン。

 

 数が多い。同じように見えて、装備や砲の違う車両が並んでいる。その規模だけで、圧力があった。

 

 優花里は双眼鏡を覗きながら、やはり興奮を隠せない。

「す、すごいであります……! あれがサンダースのシャーマン部隊……!」

 

 沙織は少し青ざめている。

「多い……本当に多い……」

 

 麻子は短く言った。

「寝ている間に増えそうだ」

 

 一方、大洗の戦車は少ない。けれど、並ぶ戦車たちには、それぞれの印があった。

 

 あんこう。カメ。アヒル。カバ。ウサギ。いぬさん。

 

 灯里はTOGⅡの車内で、インカムを整えた。

「いぬさんチーム、発進準備」

 

 まどかが照準器を確認する。

「砲手、準備できています」

 

 すずが操縦桿を握る。

「操縦、いけます」

 

 かなえが無線機に手を添える。

「無線、良好です」

 

 ちとせが砲弾の位置を確認した。

「装填準備、できています」

 

 りんも頷く。

「いつでもいけます」

 

 灯里は、TOGⅡの長い車体の中にいる五人の気配を感じた。

 

 給食部専攻の五人。いぬさんチーム。もう、Fチームという仮の名前ではない。

 

 自分たちの印を背負った、正式なチームだ。

「TOGⅡ、全国大会初戦です」

 

 灯里は静かに言う。

「長く、堂々と行きましょう」

 

 信号弾が上がった。

 

 空に音が響く。

 

 そして、みほの声が全車に届いた。

『パンツァー・フォー!』

 

 大洗女子学園の戦車たちが、一斉に動き出す。

 

 Ⅳ号が前へ。38(t)が続く。八九式、三突、M3リーもそれぞれの進路へ。

 

 そして、TOGⅡは少し遅れて、ゆっくりと動き出した。

 

 長く。重く。堂々と。

 

 全国大会一回戦。

 

 大洗女子学園対、サンダース大学付属高校。

 

 その戦いが、始まった。

 

* * *

 

 観戦席の一角。

 

 黒森峰女学園の制服を着た二人が、モニターを見つめていた。

 

 西住まほ。

 

 そして、逸見エリカ。

 

 モニターには、大洗のⅣ号と、長いTOGⅡが映っている。

「始まりましたね、隊長」

 

 エリカが静かに言った。

 

 まほは画面を見たまま、短く答える。

「ああ」

 

 エリカの視線が、TOGⅡへ移る。

「あんな戦車までいるとは思いませんでした」

 

 その声には、少しだけ複雑な響きがあった。

 

 まほは、Ⅳ号を見ていた。

 

 その中にいる、妹を。

「西住みほが、どう使うかだ」

 

 エリカは少しだけ眉を動かす。

 

 モニターの中で、大洗の戦車たちが森へ入っていく。

 

 小さな学校。少ない車両。寄せ集めの戦車。

 

 けれど、もうただの寄せ集めではない。

 

 それぞれの印を背負った大洗女子学園が、強豪サンダースへ向かって進んでいく。

 

 まほは、静かに画面を見つめ続けた。

 

 全国大会一回戦。

 

 大洗の戦いは、ここから本当に始まる。

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