二両のシャーマンに白旗が上がった。
ほんの数秒前までサンダース大学付属高校の側にあったはずの余裕が、確かに削り取られていく。観戦席がどよめき、大洗側からは人数こそ少ないものの、はっきりとした歓声が上がった。サンダース側の大きな観客席にも驚きの波が広がっている。
通信傍受を、逆手に取られた。
その事実を最も強く理解していたのは、アリサだった。
「二両撃破したからって、いい気にならないでよ……!」
サンダースのフラッグ車の中で、アリサは歯噛みしながら受信機へ耳を澄ませる。ここでやめるわけにはいかない。先ほどは相手が偶然うまく立ち回っただけ。次こそはこちらが通信を利用する番だ。
そう自分へ言い聞かせていると、大洗側の声が聞こえてきた。
『こちら、あんこうチーム。これより一〇八高地へ向かいます』
『高地から敵の最大火力、ファイアフライを狙います』
『全車、一〇八高地周辺に集合してください』
アリサの口元がゆっくりと吊り上がる。
「ふふ……ふふふ……! ついに大胆な行動に立たわね!」
大洗は焦っている。ナオミのファイアフライを狙うため、全車を高地へ集めるつもりなのだ。
「隊長、一〇八高地へ向かってください。敵の全車両が集まります」
『それって本当?』
ケイの声は明るいが、わずかに疑問も混じっていた。
「私の情報を信じてください!」
今さら疑われたくない。これ以上、自分の判断に傷をつけられたくなかった。
短い沈黙のあと、ケイの返事が届く。
『オーケー! じゃあ、一〇八高地へ向かいましょう!』
ケイのシャーマン、ナオミのファイアフライ、複数のシャーマン隊が一〇八高地へ向けて進路を変える。ただし、アリサのフラッグ車は後方に残った。
フラッグ車を無闇に前へ出す必要はない。
アリサのその判断が、大洗にとっての隙になる。
* * *
大洗側では、みほと灯里が地形図を見つめていた。
木々の位置。林道。高地。窪地。そして、サンダースが主力を動かした場合、フラッグ車を残しそうな場所。
「サンダースのフラッグ車は、前には出ていないと思います」
みほの指が地図上の一点で止まると、灯里も三つの場所を順に示した。
「主力が動くなら、後方の安全な場所にいるはずです。候補は森の奥、林道の分岐、それから、この窪地ですね」
「サンダース主力らしき通信は、高地側へ移っています。ただ、フラッグ車からの通信は多くありません」
かなえが無線記録を確認する。
「隠しているか、動いていないか。どちらにしても後方にいる可能性が高いですね」
大洗はしばらく前進したが、フラッグ車は見つからない。
「一両、囮に出せれば……」
みほの小さな呟きに、灯里が顔を上げた。
「私たちが囮になりましょう」
「えっ、いぬさんチームが?」
沙織が目を丸くする。
「戸郷さん、TOGⅡで囮を?」
「はい。ただし、逃げる囮ではありません」
灯里は地図上の林道を指した。
「TOGⅡは逃げる囮には向きません。ですが、目立つ囮には向いています。長いです。大きいです。目立ちます。敵から見れば、撃ちたくなります」
「自分で言い切りましたね……」
操縦席から、すずの声が漏れる。
「つまり、無視できない存在だと思わせることはできます」
「灯里ちゃん、それ自分で言ってて悲しくない?」
「TOGⅡの存在感を褒めています」
即答だった。
みほは少し考え、やがて頷く。
「分かりました。指定地点で少しだけ姿を見せてください。ただし、完全には身を出さないで。敵が反応したら、すぐ射線を切ってください」
「了解しました。居座る囮作戦、開始します」
灯里は車内へ指示を出す。
「小走さん、指定地点へ。ただし、退避経路を先に確認してください。TOGⅡは、逃げる時に慌てると曲がれません」
「了解です。逃げる準備をしてから、目立ちます」
「良い返答です」
TOGⅡが林道の端へ進み、木々の隙間から長い車体の一部を見せる。完全に身を晒してはいない。それでも、一度視界へ入れば無視できない存在感があった。
大洗の主力がそこにいる。
そう思わせるだけの圧が、TOGⅡにはある。
* * *
一〇八高地へ到着したケイたちは、そこで足を止めていた。
聞こえるのは鳥のさえずりと、風に揺れる草の音だけ。大洗の戦車は一両もいない。
「……何もないよー!」
「敵影なし」
ナオミが周囲を確認し、短く答える。
「アリサ、本当にここで合ってる?」
『そんなはずは……!』
焦りの混じった声が返った。
その頃、主力から離れたアリサのフラッグ車周辺では、守りが薄くなっていた。そして後方の林道へ、一両の小さな戦車が現れる。
アヒルさんチームの八九式だった。
別ルートで偵察を続けていた彼女たちは、少し開けた林道で一両のシャーマンを発見する。最初はただの敵車両だと思ったが、典子が目を細めた。
「……あれ、フラッグ車じゃない?」
「えっ」
「フラッグ車?」
「本当に?」
「やばくない?」
向こうもこちらへ気づき、アリサの表情が固まる。
「……え?」
一瞬の静止。
「返り討ちにしなさい!」
「フラッグ車発見! フラッグ車発見!」
「撤退ー! 根性で逃げるぞー!」
「おー!」
八九式が急発進し、その後ろをアリサのシャーマンが追った。
本来なら、アリサはすぐにケイへ報告するべきだった。フラッグ車が見つかり、主力は離れ、大洗に逆手に取られている。
しかし報告すれば、自分の失敗もすべて明らかになる。一〇八高地へ主力を向かわせたこと。偽通信へ再び引っかかったこと。フラッグ車を孤立させたこと。そして、通信傍受を完全に利用されたこと。
アリサは、それを認められなかった。
「八九式一両くらい、ここで仕留めればいいのよ! 報告するまでもないわ!」
シャーマンの砲塔が回る。
砲声。
砲弾が八九式のすぐ近くへ着弾した。
「うわー!」
「根性で避けろー!」
「丸山、右!」
「はいっ!」
八九式は小さく、装甲も頼りない。だが、木々が密集する森の中では、その小ささがしぶとさへ変わる。細い林道を抜け、木の陰へ車体を滑り込ませ、シャーマンの照準から外れていった。
「なんで当たらないのよ! 八九式でしょ!? 弱そうな戦車でしょ!?」
典子は揺れる車内で無線機を握る。
「こちらアヒルさんチーム! サンダースのフラッグ車を発見しました! 追われています!」
その通信が、大洗側の空気を変えた。
「アヒルさんチーム、そのままこちらへ引きつけてください。全車、サンダースのフラッグ車を包囲します」
みほが即座に判断し、沙織は携帯端末で各チームへ本当の指示を送っていく。
灯里も地形図へ目を落とした。
「TOGⅡは追いつけません。ですが、逃げ道を塞ぐ位置には行けます」
「お願いします、戸郷さん」
「了解しました。いぬさんチーム、先回りします」
無理に追撃の列へ加わっても、すぐに置いていかれる。それならば、敵が通るであろう逃走経路へ先に向かう。
「アリサさんが逃げるなら、この林道です」
「出口側ですね」
「はい。車体を斜めに置きます」
「斜めに?」
「完全には塞ぎません。ただ、シャーマンが速度を落とさず通れる幅を消します」
TOGⅡが低い音を立てて進み、長い車体を林道の出口へ斜めに置く。
完全な封鎖ではない。
だが、シャーマンが安心して突っ込める幅ではなくなった。
アヒルさんチームが森を抜け、開けた場所へ飛び出す。枝と丸太が地面を削り、土煙が広がった。
その中へ、アリサのシャーマンも突っ込んでくる。
やがて煙が薄れた。
あんこうチーム。カバさんチーム。ウサギさんチーム。カメさんチーム。
そして、出口側に長い車体を斜めに置いた、いぬさんチームのTOGⅡ。
アリサの顔から血の気が引く。
「……え?」
「逃走経路、封鎖します」
TOGⅡの主砲が、ゆっくりとアリサのシャーマンへ向いた。
「撃たなくても、砲口を向ければ道は塞げます」
アリサは、ここでようやく理解する。
誘導された。
自分が聞いていたはずの通信で。
自分が使っていたはずの手で。
「隊長! 救援を! 大洗に囲まれました!」
一〇八高地のケイが目を見開いた。
「話が違うじゃない!」
「通信傍受を逆手に取られたんだろう」
ナオミは短く言う。
ケイは一瞬黙り、いつもより低い声でアリサを呼んだ。
「アリサ」
『は、はい……』
「それは、サンダースらしくないわ」
アリサは何も答えられない。
「勝つための情報戦は悪くない。でも、相手への敬意は忘れちゃ駄目」
サンダースは、まだ数で勝っている。全車両を動かせば、大洗を押し潰すこともできるかもしれない。
だが、それでは戦車道ではない。
「大洗の残りに合わせるわ。私とナオミ、あと三両だけついてきて。他は待機」
「了解」
ケイ、ナオミのファイアフライ、そして三両のシャーマンが救援へ向かう。
アリサのフラッグ車を含め、サンダース側は六両。
大洗の残存車両と、数を合わせる形になった。
それでも、サンダースの車両性能は高い。ナオミのファイアフライも健在だった。
* * *
大洗はアリサのフラッグ車を追う。
至近弾が地面を叩き、アリサも砲塔を後ろへ向けて撃ち返すが、砲弾は当たらない。
「なんで当たらないのよ! さっきまで全部こっちの思い通りだったのに!」
戦車から顔を出して叫ぶ姿は、大洗側からも見えていた。
「なんかすごく怒ってる!」
「怒っても砲弾は当たらない」
「落ち着いて撃つことが大切ですね」
沙織、麻子、華の声が続く。
一方、TOGⅡは大洗の後方をなんとか追っていた。
「みんな、足が速いです……」
「TOGⅡ基準では、ほぼ高速道路です」
「普通の林道です!」
「では、普通の林道は速いです」
「基準をTOGⅡにしないでください!」
軽いやり取りとは裏腹に、灯里の視線は後方から離れない。サンダース本隊が迫ってくる可能性を警戒していた。
その予感は、すぐに的中する。
後方から、重い砲声。
空気を裂く音。これまでのシャーマンとは違う、重たい一撃。
「ファイアフライであります!」
優花里が叫ぶ。
「見えるシャーマンは五両……全車ではありません」
みほは後方を確認し、ケイの意図を理解した。大洗と同じ条件に近づけるため、戦う車両の数を合わせてきたのだ。
一方、アリサは勢いを取り戻す。
「来たー! これで反撃よ!」
前にはアリサのフラッグ車。後ろにはケイとナオミたち。
大洗は挟まれる形になった。
「ウサギさんチーム、アヒルさんチームは後方を牽制してください。あんこうチームとカバさんチームは、引き続きフラッグ車を追います。カメさんチームは安全距離を保ってください。いぬさんチームは、後方からの射線を確認してください」
『了解!』
ウサギさんチームが後方へ砲を向ける。
「もう逃げるだけじゃないよ!」
「後ろ、見てるから!」
アヒルさんチームも気合を入れた。
「根性で食い止めるぞ!」
カバさんチームはフラッグ車を追う流れを守るように動き、カメさんチームでは桃が砲撃する。
「今だ!」
砲弾は外れた。
「河嶋ー、いつも通りだねー」
「集中できません! 会長!」
TOGⅡは後方からの射線を確認しつつ、カメさんチームの近くへ寄っていく。
「いぬさんチーム、カメさんチームの後方に入ります。撃破は狙いません。射線を塞ぎます」
「ファイアフライに撃たれれば厳しいですね」
「はい。ファイアフライの射線には長く出ません。通常のシャーマン隊には、榴弾で視界を潰します」
ちとせが弾薬庫へ手を伸ばす。
「榴弾ですか?」
「はい。撃破ではなく、目隠しです」
主砲が旋回し、装填手二人が弾種を切り替えた。
「榴弾、装填します!」
「装填完了!」
「敵車両の手前を狙ってください。直撃ではなく、土煙を上げます」
「照準、完了」
「撃ってください」
TOGⅡの主砲が火を噴いた。
砲弾がシャーマン隊の手前へ着弾し、地面を大きく抉る。土と煙が一気に舞い上がり、敵の視界を塞いだ。
「カメさんチーム、今のうちに!」
『助かったぞ、戸郷!』
『いやー、長い戦車って便利だねー』
「長いことは、正義です」
だが、サンダースの追撃は緩まない。
ナオミのファイアフライは土煙の外側から冷静に射線を探し、再び重い砲声を響かせた。
砲弾が八九式の近くへ着弾し、車体を大きく揺らす。
「まだまだー!」
「根性ー!」
次の一撃。
白旗。
アヒルさんチーム、行動不能。
続いてウサギさんチームも、後方を牽制しながら動き続ける。
「まだ見えてる!」
「右から来ます!」
「撃たれる!」
最後まで報告は途切れなかった。
だが、次の砲撃がM3リーを捉える。
白旗。
ウサギさんチーム、行動不能。
大洗側の無線が、一瞬静かになった。
残るのは、あんこうチーム、カバさんチーム、カメさんチーム、いぬさんチーム。
かなり不利だった。
「カメさんチームを守る! ここで抜かせるわけにはいかん!」
カバさんチームが38(t)の後方へ回る。
サンダースの砲撃。
カメさんチームへ向かうはずだった一撃を、III号突撃砲が割り込んで受けた。
白旗。
「あとは任せたぜよー!」
おりょうの声が無線へ残る。
灯里は短く息を吸った。
「引き継ぎました。いぬさんチーム、カメさんチームの後方へ入ります。長い車体を斜めに置き、TOGⅡを盾にします」
TOGⅡが38(t)の後方へ回り、射線を遮る。
砲弾が周囲へ落ち始め、一発が車体後部を叩いた。衝撃が長い車体を通して車内まで伝わる。
「白旗は!?」
「上がっていません!」
「なら、まだ守れます」
さらに一発。
側面へ黒い跡が増え、外装が傷だらけになっていく。
「まだいけますか」
「いけます。TOGⅡは、まだ動いています」
灯里の視線は前方から離れない。
あんこうチームが丘へ向かっていた。
その進路を見て、みほの狙いに気づく。
「……西住さん」
「戸郷さん?」
「あの丘からなら、サンダースのフラッグ車を狙えます。ただし、撃つためには停止しなければいけません」
「止まれば、ファイアフライに狙われます」
まどかが息を呑む。
「はい。一発勝負です。なら、私たちの役目は決まりました」
灯里は後方を確認する。
「カメさんチームを守り、あんこうチームが撃つまで後方を持たせます」
「了解です」
「榴弾、もう一発。敵の前方地面へ。視界を塞ぎます」
「榴弾、装填!」
TOGⅡの主砲が再び火を噴く。
土煙が巻き上がり、その隙にカメさんチームが前へ逃げた。
『戸郷ちゃん、頼りになるねー』
「頼られるTOGⅡは、良いTOGⅡです」
しかし、ナオミのファイアフライは止まらない。土煙の向こうでも、その狙いは鋭かった。
「……あれは止めきれません。でも、全部は通しません」
TOGⅡは傷だらけになりながらも、カメさんチームへの射線を遮り続ける。
* * *
一方、あんこうチームは丘へ向かっていた。
「冷泉さん、この先にある丘の上へお願いします。そして、一発で決めてみせます」
華の穏やかな声の奥には、確かな覚悟がある。
「あの丘の上から狙います。他のチームは、そのままフラッグ車を追ってください」
「みぽりん……」
「大丈夫。フラッグ車に当てれば、まだチャンスはあります」
大洗は、まだ諦めていない。
灯里も無線越しに、その言葉を聞いていた。
「どこかで聞いた言葉ですが、諦めたら、そこで全部終わりです」
『灯里ちゃん、今それ言うんだ!?』
「今だからこそです」
「急ぐぞ」
麻子の低い声とともに、Ⅳ号が丘を登る。
その後方から、ナオミのファイアフライが照準を合わせていた。
重い砲声。
「止まって!」
麻子が即座に反応し、Ⅳ号が急停止する。ファイアフライの砲弾は車体のすぐ前を通過した。
「今の、当たってたら……!」
「次の装填までがチャンスです」
Ⅳ号が丘の稜線へ出る。
華の照準器には、遠くを逃げるサンダースのフラッグ車。
アリサのシャーマン。
同時に、ナオミのファイアフライもⅣ号を狙っている。
戦場が、一瞬だけ静かになった。
TOGⅡの車内から、その光景を見つめる灯里。
「西住さん。華さん」
短い息。
「お願いします」
二発の砲撃音が響いた。
一発は、Ⅳ号に命中する。
あんこうチームに白旗。
もう一発は、サンダースのフラッグ車を捉えた。
アリサのシャーマンにも、白旗が上がる。
一瞬、誰も声を出さなかった。
『サンダース大学付属高校、フラッグ車行動不能』
『大洗女子学園の勝利です!』
審判の声が戦場へ響き、沈黙の後、大洗側から歓声が爆発した。
「勝った……?」
「勝ったであります!」
「寝る前に勝ててよかった」
「当たりました……」
TOGⅡの車内でも、全員がしばらく声を出せなかった。
灯里は傷だらけになった車体の計器を確認する。
白旗は上がっていない。
エンジンも、まだ動いている。
「TOGⅡは、守り切りました」
「はい。守り切りました」
「ボロボロですけどね」
「ボロボロのTOGⅡも、尊いです」
「そこでそれを言いますか」
* * *
試合後、撃破されたアヒルさんチームとウサギさんチームも、戦車を牽引されながら集まってきた。カバさんチームもIII号突撃砲から降りてくる。
全員、くたくただった。
それでも、その顔には笑みがある。
「河嶋、顔すごいよー」
「う、うるさい……!」
緊張から解放された桃の表情を見て、杏が笑う。
各車の車長たちが観客席の前へ並んだ。
みほ。杏。典子。エルヴィン。梓。灯里。
「一同、礼!」
みほの声に合わせ、大洗女子学園の戦車道チームが頭を下げる。観客席から大きな拍手と歓声が起こり、サンダース側からも惜しみない拍手が送られた。
強豪校相手の勝利。
全国大会一回戦突破。
大洗は、勝ったのだ。
その後、ケイがみほの前へやってきた。
「あなたがキャプテン?」
「は、はい」
次の瞬間、満面の笑顔でみほを抱きしめる。
「エキサイティング!」
「あ、あの……」
ケイは笑いながら腕を離した。
「あの……どうして、追ってきた車両が減っていたんですか?」
みほが尋ねると、ケイの表情が少しだけ真面目になる。
「これは戦車道だから。戦争じゃないもの」
みほは黙って、その言葉を聞いた。
「盗み聞きのことは、ごめんなさい。全車両で行っていたら、あなたたちは負けていたかもしれない。でも、勝ったのはあなたたちよ」
ケイが手を差し出す。
「グッドゲーム」
「ありがとうございました」
みほも、その手を握り返した。
少し離れたところで、灯里は二人の姿を見ている。
「強い人ですね」
「はい。サンダースの隊長にふさわしい方であります」
優花里の言葉に頷き、灯里はサンダースの車列へ視線を移した。アリサのシャーマンも、白旗を上げたまま戻ってきている。
「……アリサさんは、反省会でしょうか」
「たぶん、かなり長い反省会ですね」
「では、試合後に甘いものとTOGドッグが必要かもしれません。反省にも、補給は必要です」
「そこで商売につなげないでください」
遠くから聞きつけた杏が、にやりと笑う。
「いいねー、試合後交流。サンダース相手なら、ホットドッグは合うし」
灯里は静かに、しかし力強く頷いた。
「TOGドッグ、出番ですね」
傷だらけのTOGⅡの横で、いぬさんチームの面々が顔を見合わせる。
大洗は、サンダースに勝った。
けれど、戦車道は勝って終わりではない。戦った相手と笑い合うこともまた、戦車道なのだ。
夕方の空の下、会場にはまだ、歓声と拍手の余韻が残っていた。