『TOGⅡで戦車道を……?』   作:きのこ大三元

50 / 50
もう7月も終わりですが、2.5章に突入です!
まだ全国大会も長そうです…


第2.5章:これが本当のアンツィオ高校戦です!
第32話「祝勝の朝と、長い台車」


朝の大洗女子学園は、いつもより少しだけ賑やかだった。

 

 サンダース大学付属高校との試合に勝ってから、学園の空気は確かに変わり始めている。廊下や食堂では戦車道チームの話題が増え、掲示板の前には学園新聞の号外を読む生徒の姿があった。

 

 大洗が勝った。

 

 強豪校に勝った。

 

 まだ現実味の薄い言葉だったが、みほの耳には試合の音が残っている。

 

 砲声。無線に重なる仲間たちの声。森を駆ける戦車。最後まで途切れなかった返事。そして、華が放った決着の一撃。

 

 勝てたことは嬉しい。

 

 みんなで繋いだ勝利だと思う。サンダースの生徒たちも試合後には笑い、こちらへ手を差し出してくれた。

 

 けれど、その余韻の奥には、黒森峰で何度も聞いた言葉が残っている。

 

 犠牲なくして、大きな勝利を得ることはできない。

 

 勝つために必要なものを選び、時には切り捨てる。個人の感情よりも隊の勝利を優先し、与えられた持ち場を守る。

 

 家元である母からも、西住流は勝利のためにあると教えられてきた。

 

 その考えを、すべて間違いだとは言えない。黒森峰は実際に、その戦い方で勝ち続けてきた。

 

 だからこそ、みほはまだ、自分が過去に選んだ行動を真正面から肯定できずにいる。

 

「みぽりーん、おはよー!」

 

 後ろから飛んできた明るい声に、みほは足を止めた。

 

 振り返ると、沙織と灯里が並んで歩いている。

 

 二人の間には、紐で引かれた小さな台車。

 

 妙に長く、細長い車体の上には簡易的な砲塔らしき飾りまで付けられている。側面には、パンに挟まれたダックスフンドのようなエンブレム。

 

 そして、その台車の上には冷泉麻子が横たわっていた。

 

「……えっと」

 

 みほは一度瞬きをする。

 

「それは?」

「冷泉さん専用の移動戦車です」

 

 灯里は真顔で答えた。

 

「通称、ミニTOGⅡ麻子輸送型です」

「移動戦車……?」

「毎朝、麻子を起こして連れてくるのが大変だって相談したら、灯里ちゃんが作ってくれたの」

 

 沙織が楽しそうに説明する。

 

 みほは台車へ視線を戻した。

 

 確かに長い。

 

 しかし、戦車ではない。

 

「作ったんだ……」

「はい。タイヤ駆動なので、履帯より校舎に優しい設計です」

 

 台車の上から、麻子の低い声が聞こえた。

 

「私は、まだ起動していない」

「現在、暖機運転中です」

「暖機……?」

 

 みほが困ったように笑う横で、沙織は台車の紐を持ち直す。

 

「でも、これなら遅刻しないんだよ!」

「徒歩ではないが、登校はしている」

「それは大丈夫なのかな」

「おそらく、校門で止められます」

 

 灯里は淡々と言った。

 

「分かっていて来たんですか?」

「実地確認が必要ですので」

 

 その予想は、すぐに現実となった。

 

 校門前には風紀委員の腕章を付けた園みどり子が立ち、朝から鋭い目で登校する生徒を確認している。

 

 長い台車を見つけた瞬間、その眉が跳ね上がった。

 

「冷泉さん! 自分の足で歩きなさい!」

 

 麻子が台車の上で、ゆっくり目を開く。

 

「これは徒歩の延長だ」

「違います!」

「でも、遅刻はしてないよ?」

「遅刻していなければ、台車で登校していいことにはなりません!」

「厳しい」

 

 麻子は小さく呟いた。

 

 灯里が台車の側面を軽く叩く。

 

「タイヤ駆動なので、履帯より校舎への負担は少ないです」

「そういう問題ではありません!」

「風紀委員は、戦車道でいう審判に近いですね」

「何の話をしているの!?」

 

 みどり子が頭を抱える。

 

「そど子、これ結構安定してるんだよ。ほら、麻子も落ちてないし」

「落ちなければいいというものでもありません!」

「でも、遅刻は――」

「していなくてもです!」

 

 沙織の援護も通らない。

 

 みどり子がきっぱり言い切ると、麻子は諦めたように息を吐いた。

 

「仕方ない。起動する」

 

 台車からゆっくりと降り、両足で地面に立つ。

 

 そのまま数秒、目を閉じた。

 

「麻子、寝ないで!」

「立ったまま眠るのは危険です」

 

 灯里の指摘に、みどり子が深いため息をつく。

 

「とにかく、台車での登校は禁止です!」

「次回からは、自分で押して歩きます」

「そういう意味でもありません!」

 

 みほは、つい小さく笑ってしまった。

 

 胸の奥に残っていた重さが、少しだけ薄くなる。

 

 大洗の朝は、黒森峰とは違う。

 

 厳しい号令ではなく、遅刻寸前の友達と、長すぎる台車と、それを本気で止める風紀委員がいる。

 

 その騒がしさが、今のみほにはありがたかった。

 

* * *

 

 校舎へ近づくと、壁に掲げられた大きな横断幕が見えてきた。

 

『祝! 戦車道全国大会 一回戦突破!』

 

 白地に書かれた大きな文字の周囲には、可愛らしく描かれたⅣ号、八九式、38(t)、M3リー、III号突撃砲。そして、少し横に長すぎる戦車。

 

 横断幕の隣には、砲塔のような飾りを付けた細長いバルーンまで浮かんでいた。

 

「こんなに大きく……」

 

 みほが目を丸くする。

 

「すごーい! みんな見てくれてるんだね!」

 

 沙織の声が弾む。

 

 少し遅れて合流した華も、横断幕を見上げて微笑んだ。

 

「とても華やかですね」

「目立つな」

 

 麻子は相変わらず眠そうだった。

 

 優花里はすでにカメラを構えている。

 

「全国大会一回戦突破記念横断幕であります! これは記録しておかねば!」

 

 一方、灯里の視線は細長いバルーンへ固定されていた。

 

「TOGⅡバルーンもあります」

「あれ、TOGⅡなんだ」

「長さは正確ではありませんが、努力は感じます」

「そこを採点するんだ」

「本物は、もう少し長いです」

「これ以上長いと、廊下へ入りません」

 

 みどり子が横から口を挟んだ。台車の件を処理するため、まだ近くにいたらしい。

 

「生徒会が勝手に設置したのよ。朝から『戦車道チームの見学はできますか』『TOGⅡとは何ですか』『長い風船はどこで買えますか』って、風紀委員へ問い合わせが来て大変なんだから」

 

 灯里の表情が、わずかに動く。

 

「TOGⅡバルーンには販売需要が」

「ありません!」

「まだ調査が足りません」

「調査しなくていいの!」

 

 みどり子は即座に止めた。

 

 横断幕の前では、何人もの生徒が足を止めている。

 

「西住さんだ」

「サンダース戦、すごかったんでしょ?」

「TOGⅡって、本当に長いらしいよ」

「いぬさんチームって、ホットドッグも売ってるんだっけ?」

 

 以前なら、戦車道は多くの生徒にとって遠い話だった。

 

 けれど、今は違う。

 

 戦車道が、大洗女子学園の話題になっている。

 

 みほは嬉しいような落ち着かないような気持ちで、風に揺れる横断幕を見上げた。

 

* * *

 

 昼休み。

 

 あんこうチームは、自然と戦車倉庫前へ集まっていた。

 

 倉庫の中からは、自動車部が整備を進める音が聞こえる。工具が金属を叩き、履帯が確認され、時折、明るい笑い声が混ざった。

 

 戦車道チームにとって、ここは少しずつ部室のような場所になりつつある。

 

 麻子は、いつの間にかⅣ号の近くへ座っていた。

 

「麻子、いつの間に」

「移動した」

「普通に歩いた?」

「少し」

 

 沙織が苦笑しながら購買の袋を開く。

 

 華が持ってきた大きな包みには、サンドイッチが整然と並んでいた。

 

「華、相変わらず多いね」

「皆さんで食べられるように、少し多めにしました」

「華さんの少しは、普通の人の多めであります」

 

 優花里も弁当箱を広げる。

 

「母が作ってくれたお弁当であります!」

 

 みほが普通の弁当箱を取り出す横で、灯里はTOGⅡの近くに座っていた。

 

 いぬさんチームの給食部組は、昼時の食堂や購買の手伝いへ向かっている。灯里だけが、長い車体の横で弁当箱を開こうとしていた。

 

 その弁当箱も、横に長い。

 

 かなり長い。

 

「灯里ちゃん、お弁当まで長い!」

「TOGⅡ弁当です」

 

 蓋を開けると、ご飯で作られた長い車体、海苔の履帯、卵焼きの砲塔、ウインナーの主砲が収められている。

 

 優花里が身を乗り出した。

 

「素晴らしい再現度であります! この長い車体と、海苔による履帯表現!」

「可愛らしいですね」

 

 華も微笑む。

 

 麻子は少しだけ目を開けた。

 

「食べにくそうだ」

「長さと食べやすさの両立は、今後の課題です」

「そこは改良が必要だね」

 

 沙織が笑う。

 

 戦車倉庫の前で、戦車のそばに座って昼食を取る。

 

 少し前のみほなら、考えもしなかった時間だった。

 

 今は、不思議と自然に感じられる。

 

「そういえば、先日の取材が号外になっていたであります!」

 

 優花里が思い出したように言った。

 

「見た見た! みぽりん、すごく大きく載ってたよ!」

「私より、みんなのことを書いてほしかったんだけど……」

「隊長なんだから、ちゃんと載らないと!」

「隊長……」

 

 その呼び方には、まだ少し慣れない。

 

 灯里はTOGⅡ弁当の端を切り分けながら言う。

 

「TOGⅡについても触れられていました」

「少しで済んだのか」

 

 麻子の問いに、灯里が頷いた。

 

「文字数制限がありました」

「なかったら危なかったね」

「TOGⅡの魅力は、紙面の余白だけでは語りきれません」

「絶対に長いやつだ」

「はい」

 

 灯里は否定しなかった。

 

 みほは、みんなのやり取りを聞きながら、少しだけ肩の力を抜く。

 

 勝利。号外。横断幕。自分へ向けられる視線。

 

 まだ少し重い。

 

 それでも、ここにはいつもの仲間がいる。

 

 そのことが、今のみほには支えになっていた。

 

* * *

 

「でもさ」

 

 沙織が購買のパンをかじりながら、ふと口を開いた。

 

「サンダース戦、怖かったけど……なんか、楽しかったよね」

 

 みほは思わず顔を上げる。

 

「楽しかった?」

「うん。もちろん怖かったし、撃たれそうだったし、麻子はいつも通り眠そうだったけど」

「眠かった」

「そこは否定して」

 

 沙織は苦笑した後、少し真面目な表情になる。

 

「でも、みんなで何とかしようって感じがしたんだよね。追いかけられて、逃げて、考えて、最後まで諦めなくて」

「皆さんで力を合わせている感じがしました」

 

 華も静かに頷いた。

 

「サンダース殿も、素晴らしい相手でありました! ケイ殿のフェアプレー精神、ナオミ殿の狙撃、アリサ殿の情報戦。どれも大変勉強になりました!」

「勝ったから、気分よく眠れた」

 

 麻子の一言に、沙織が笑う。

 

「麻子は、そこなんだ」

「勝つと寝つきがいい」

 

 みほは、皆の言葉を聞いていた。

 

 楽しかった。

 

 その言葉が、胸の中で小さく揺れる。

 

 黒森峰にいた頃、戦車道は勝つためのものだった。勝利は当然で、負けは許されない。試合前には勝つための準備を行い、試合中には勝つための判断を下し、試合後には結果によって評価される。

 

 そこに楽しさがなかったわけではない。

 

 けれど、今みんなが口にした「楽しかった」は、みほが黒森峰で知っていたものとは少し違う。

 

「西住さん?」

 

 灯里が変化に気づいた。

 

 みほは少しだけ迷った。

 

 ここには沙織がいる。華がいる。優花里がいる。麻子がいる。灯里もいる。

 

 だから、少しだけ話してもいいと思った。

 

「私、去年の大会で……」

 

 言葉にした瞬間、空気が変わる。

 

 沙織はパンを持ったまま動きを止め、華は静かにみほを見た。事情を知っている優花里はわずかに目を伏せ、麻子も眠そうな顔のまま視線を上げる。

 

「私は、黒森峰のフラッグ車の車長だったんです」

 

 みほは弁当箱の蓋を見つめたまま、ゆっくりと言葉を続けた。

 

「試合中、川へ落ちた仲間の戦車が見えて……」

 

 増水した川。

 

 流されそうになる車体。開かないハッチ。無線へ届いた焦った声。

 

 あの日の光景は、今もはっきり残っている。

 

「私はフラッグ車の車長でした。絶対に持ち場を離れてはいけなかった」

 

 声が少しだけ硬くなる。

 

「でも、私は戦車を降りて、仲間を助けに行きました」

 

 その間、フラッグ車は車長を失った。

 

 指揮も周囲の確認も不十分になり、敵の砲撃を受けた。

 

「車長だった私が持ち場を離れたから、黒森峰は負けました」

 

 みほは膝の上で手を握る。

 

「十連覇も、そこで終わってしまって……」

 

 誰も、すぐには言葉を返せなかった。

 

 フラッグ車の車長は、最後まで車両と持ち場を守らなければならない。

 

 それは、試合の中では間違いなく正しい。

 

 だからこそ、みほは今も、仲間を助けた自分と、勝利を失わせた自分を切り離せずにいる。

 

「私は、その行動が間違っていたとは思いません」

 

 最初に口を開いたのは、優花里だった。

 

 声はわずかに震えている。

 

 それでも、その目はみほをまっすぐに見ていた。

 

「西住殿が助けに行かなければ、本当に危険だったかもしれません。助けられた方も、きっと感謝しているであります」

 

「でも、私が離れなければ、負けなかったかもしれない」

 

 みほの言葉を、優花里はすぐには否定しなかった。

 

「はい。結果だけを見れば、そうだったのかもしれません」

 

 その上で、はっきりと続ける。

 

「でも、仲間を助けるために動いたことまで、間違いにはならないと思います」

 

 みほは言葉を失った。

 

「私も、秋山さんと同じです」

 

 灯里も静かに口を開く。

 

「フラッグ車の車長として、持ち場を守ることは大切です。西住さんが離れたことで、試合の結果が変わった可能性も否定できません」

 

 結果を軽く扱わず、灯里は言葉を選ぶ。

 

「ですが、戦車道には安全装置があっても、事故が絶対に起きないとは言い切れません。目の前で仲間が危険な状態になっていたなら、助けに向かった判断そのものまで否定しなくていいと思います」

 

 みほは灯里を見る。

 

「試合に負けたことと、人を助けたことは、同じではありません」

 

 あの日の敗北が消えるわけではない。

 

 十連覇が途切れた事実も、自分の責任だと感じる気持ちも、簡単にはなくならない。

 

 それでも、今ここには、あの行動まで間違いにしなくてよいと言ってくれる人がいる。

 

「……ありがとう」

 

 みほは小さく答えた。

 

 優花里は一瞬固まり、顔を赤くして髪をくしゃくしゃとかく。

 

「い、いえ! 私は、本当にそう思っただけであります!」

 

 灯里は、その光景を静かに見ていた。

 

 かつて画面の向こうで知っていた場面。

 

 けれど、今はただ見守る側ではない。自分も大洗の戦車道チームの一員として、みほの隣に座っている。

 

 その事実が、少しだけ不思議だった。

 

「戦車道には、いろいろな道があるのですね」

 

 華が穏やかに言う。

 

「そうそう。勝つだけじゃないっていうか」

 

 沙織も頷いた。

 

「もちろん勝てたら嬉しいけど、それだけじゃないよね」

「負けたら眠れないが、勝つために全部捨てるのも疲れる」

 

 麻子の言葉に、沙織が少し笑う。

 

「麻子らしい」

「事実だ」

 

 みほは、仲間たちの顔を見た。

 

 勝つことだけが、戦車道ではない。

 

 まだ、その考えを自分の言葉として完全に形にできるわけではない。

 

 それでも、この場所には確かに存在していた。

 

 灯里は手元のTOGⅡ弁当へ視線を落とす。

 

 もし、自分が同じ場面にいたら。

 

 勝たなければならない試合で、自分がフラッグ車の車長で、目の前の仲間が危険な状態にあり、そこを離れれば負けると分かっていたら。

 

 見捨てられるのか。

 

 たぶん、無理だ。

 

 TOGⅡでは、すぐに助けへ駆けつけられないかもしれない。重く、長く、遅い戦車は、急いで救援することに向いていない。

 

 それでも、できることはある。

 

「TOGⅡは、速く助けへ向かうのは苦手です」

 

 沙織が振り向いた。

 

「灯里ちゃん?」

「ですが、味方が逃げるための道を作ることはできます。敵の進路を塞ぎ、時間を稼ぐこともできます」

 

 灯里は、みほを見る。

 

「速く走ることだけが、助ける方法ではありません」

 

 みほは少しだけ目を見開き、やがて穏やかに笑った。

 

「うん」

 

 短い返事だった。

 

 それだけで十分だった。

 

* * *

 

 昼休みが終わりに近づいた頃、優花里が鞄から次戦の資料を取り出した。

 

「さて、次の相手でありますが」

 

 その一言で、空気が少し変わる。

 

「次戦はアンツィオ高校。イタリア系の学校で、小型で軽快な車両を多数運用しています」

「どんな学校なの?」

 

 沙織が資料を覗き込む。

 

「明るく賑やかで、食文化にも力を入れていると聞きます! 主力はCV33快速戦車を中心とした小型車両で、その機動力を活かした戦いを――」

「TOGⅡとは相性が悪いですね」

 

 灯里が即答した。

 

「即答!」

「追いつけません」

「潔い」

 

 麻子がぼそりと言う。

 

 華も資料を見ながら考える。

 

「小さくて速い相手となると、追いかけるのは難しそうですね」

「うん。追えないなら、追わない方法を考えないといけないね」

 

 みほの言葉に、灯里が頷いた。

 

「最初から、相手が通る場所にいる必要があります」

「TOGⅡ理論だ」

 

 沙織が言う。

 

「今回は、かなり大事な考え方だと思う」

 

 みほは資料へ視線を戻した。

 

 サンダース戦では勝った。

 

 けれど、それで終わりではない。

 

 次の相手は、物量と火力で押してくるサンダースとは違う。速く、小さく、こちらの砲撃を避けながら戦場を走り回る。

 

 大洗の戦車は、まだ寄せ集めだ。

 

 しかし、それぞれの車両には異なる癖と役割がある。

 

 それを知り、組み合わせ、相手に合わせて使い方を変える。

 

 それが、大洗の戦車道なのかもしれない。

 

 みほは倉庫の中に並ぶ車両を見た。

 

 Ⅳ号。八九式。38(t)。M3リー。III号突撃砲。

 

 そして、TOGⅡ。

 

 長い。

 

 本当に長い。

 

 だが、今ではその長さも、大洗の一部だった。

 

「次も、みんなで考えよう」

 

 みほが言う。

 

「うん!」

「もちろんであります!」

「皆さんで、また頑張りましょう」

「眠くない時間なら」

 

 麻子の言葉に、みんなが笑った。

 

 灯里はTOGⅡ弁当の最後の端を食べ、静かに蓋を閉じる。

 

「アンツィオ高校」

 

 小さく呟き、資料のCV33へ視線を向けた。

 

「速い相手には、速さではなく場所で対抗します」

「つまり?」

 

 沙織が尋ねる。

 

 灯里は指を一本ずつ立てた。

 

「待ちます。塞ぎます。そこにいます」

「それ、ほとんど止まってるよね」

「止まることも、戦車道です」

 

 灯里は胸を張った。

 

「眠ることも戦車道ならいいのに」

「それは少し違うと思います」

 

 麻子へ、華がやんわりと返す。

 

 再び笑い声が広がった。

 

 サンダース戦の勝利は、大洗の中へ少しずつ浸透している。

 

 みほの胸の奥にも、まだ小さく、形の定まらない新しい考えが芽生え始めていた。

 

 勝つことだけが、戦車道ではない。

 

 けれど、勝つことを諦めるわけでもない。

 

 仲間を見て、戦車を見て、相手を見る。

 

 その上で、自分たちの進む道を探す。

 

 大洗女子学園の次の相手は、アンツィオ高校。

 

 二回戦へ向けた準備は、もう始まっていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

愛と勇気と正義にかけて、市民をお守りいたします!(作者:イングラマン)(原作:機動警察パトレイバー)

某巡査の娘が特車二課第二小隊に配属される、原作再構成二次小説です。▼自分が読みたいがために投稿しました。▼・TVアニメ版を軸にOVA、漫画版や小説版をミックスしています。▼・転生オリ主最強です。▼・一部キャラクターの生年と経歴を変更しています。▼・作者は警察組織や軍事関係、コンピュータについてはネットで調べた程度の知識しかありません。▼以上の点を踏まえて、本…


総合評価:3404/評価:9.04/連載:19話/更新日時:2026年07月24日(金) 18:00 小説情報

マブラヴ・インサート 〜白き少佐の因果強化計画〜 (作者:きのこ大三元)(原作:Muv-Luv)

2026年7月15日▼skebで依頼していたイラストが届きました!!▼描いてくださったのは、『マブラヴ オルタネイティヴ』本編コミカライズの作画を担当された蒔島梓先生にお願いしました。▼主人公の神宮寺真白と不知火▼【挿絵表示】▼⸻▼BETAによって、人類が滅びへ追い詰められた世界。▼2001年10月22日。▼廃墟となった自室に、ひとりの青年が現れる。▼――本…


総合評価:248/評価:6.5/連載:41話/更新日時:2026年07月25日(土) 19:00 小説情報

白狼救済録(作者:らんらん出荷マン)(原作:ブルーアーカイブ)

戦場で仲間を失い、自らも命を落としたPMC隊長・斉藤ユウイチ。▼次に目覚めたとき、彼は白い狼耳を持つ少女となり、砂に沈みゆくアビドスで梔子ユメと小鳥遊ホシノに拾われていた。▼時は、原作本編よりおよそ二年前。▼まだ失われていない命と、これから訪れる悲劇が待つ時代――。▼これは、救われ方を知らない一匹の白狼が、少女たちとともに戦い、傷つき、それでも、もう一度「生…


総合評価:1313/評価:8.48/連載:62話/更新日時:2026年07月28日(火) 07:00 小説情報

進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……(作者:感謝君)(原作:進撃の巨人)

信じられないと思うが聞いてくれ ▼俺は昨日までしがない大学生としてベッドに転がりながらいつも通り動画を見て惰眠を貪っていたんだ▼別にトラックに轢かれたとか、手違いで殺しちゃったから転生させるね!おじいさんにあった訳でもない▼気付けば俺はだだっ広い平原の真ん中で全裸で突っ立っていて▼鋼のような肉体に転生していたんだ▼……進撃の巨人の世界に……▼


総合評価:5839/評価:7.27/連載:218話/更新日時:2026年07月27日(月) 18:00 小説情報

心を閉ざした少女からの激重感情(作者:あさまらたゆかあわ)(原作:東方Project)

人里で甘味処を営む家の娘、雨宮澄。▼少しぼんやりしていて、妙に勘のいい少女である彼女には、“見えないものを見つける”不思議な力があった。▼ある朝、休憩中に食べていた団子が一本消えたことから、誰にも気づかれない少女――古明地こいしと出会う。▼「なんで、貴方には私が見えるの?」▼気まぐれで自由奔放なこいしに振り回されながら、澄のいつも通りの日常は少しずつ変わって…


総合評価:1827/評価:8.79/連載:17話/更新日時:2026年05月16日(土) 20:39 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>