『TOGⅡで戦車道を……?』   作:きのこ大三元

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もう7月も終わりですが、2.5章に突入です!
まだ全国大会も長そうです…よろしくお願いします!


第2.5章:これが本当のアンツィオ高校戦です!
第32話「祝勝の朝と、長い台車」


朝の大洗女子学園は、いつもより少しだけ賑やかだった。

 

 サンダース大学付属高校との試合に勝ってから、学園の空気は確かに変わり始めている。廊下や食堂では戦車道チームの話題が増え、掲示板の前には学園新聞の号外を読む生徒の姿があった。

 

 大洗が勝った。

 

 強豪校に勝った。

 

 まだ現実味の薄い言葉だったが、みほの耳には試合の音が残っている。

 

 砲声。無線に重なる仲間たちの声。森を駆ける戦車。最後まで途切れなかった返事。そして、華が放った決着の一撃。

 

 勝てたことは嬉しい。

 

 みんなで繋いだ勝利だと思う。サンダースの生徒たちも試合後には笑い、こちらへ手を差し出してくれた。

 

 けれど、その余韻の奥には、黒森峰で何度も聞いた言葉が残っている。

 

 犠牲なくして、大きな勝利を得ることはできない。

 

 勝つために必要なものを選び、時には切り捨てる。個人の感情よりも隊の勝利を優先し、与えられた持ち場を守る。

 

 家元である母からも、西住流は勝利のためにあると教えられてきた。

 

 その考えを、すべて間違いだとは言えない。黒森峰は実際に、その戦い方で勝ち続けてきた。

 

 だからこそ、みほはまだ、自分が過去に選んだ行動を真正面から肯定できずにいる。

 

「みぽりーん、おはよー!」

 

 後ろから飛んできた明るい声に、みほは足を止めた。

 

 振り返ると、沙織と灯里が並んで歩いている。

 

 二人の間には、紐で引かれた小さな台車。

 

 妙に長く、細長い車体の上には簡易的な砲塔らしき飾りまで付けられている。側面には、パンに挟まれたダックスフンドのようなエンブレム。

 

 そして、その台車の上には冷泉麻子が横たわっていた。

 

「……えっと」

 

 みほは一度瞬きをする。

 

「それは?」

「冷泉さん専用の移動戦車です」

 

 灯里は真顔で答えた。

 

「通称、ミニTOGⅡ麻子輸送型です」

「移動戦車……?」

「毎朝、麻子を起こして連れてくるのが大変だって相談したら、灯里ちゃんが作ってくれたの」

 

 沙織が楽しそうに説明する。

 

 みほは台車へ視線を戻した。

 

 確かに長い。

 

 しかし、戦車ではない。

 

「作ったんだ……」

「はい。タイヤ駆動なので、履帯より校舎に優しい設計です」

 

 台車の上から、麻子の低い声が聞こえた。

 

「私は、まだ起動していない」

「現在、暖機運転中です」

「暖機……?」

 

 みほが困ったように笑う横で、沙織は台車の紐を持ち直す。

 

「でも、これなら遅刻しないんだよ!」

「徒歩ではないが、登校はしている」

「それは大丈夫なのかな」

「おそらく、校門で止められます」

 

 灯里は淡々と言った。

 

「分かっていて来たんですか?」

「実地確認が必要ですので」

 

 その予想は、すぐに現実となった。

 

 校門前には風紀委員の腕章を付けた園みどり子が立ち、朝から鋭い目で登校する生徒を確認している。

 

 長い台車を見つけた瞬間、その眉が跳ね上がった。

 

「冷泉さん! 自分の足で歩きなさい!」

 

 麻子が台車の上で、ゆっくり目を開く。

 

「これは徒歩の延長だ」

「違います!」

「でも、遅刻はしてないよ?」

「遅刻していなければ、台車で登校していいことにはなりません!」

「厳しい」

 

 麻子は小さく呟いた。

 

 灯里が台車の側面を軽く叩く。

 

「タイヤ駆動なので、履帯より校舎への負担は少ないです」

「そういう問題ではありません!」

「風紀委員は、戦車道でいう審判に近いですね」

「何の話をしているの!?」

 

 みどり子が頭を抱える。

 

「そど子、これ結構安定してるんだよ。ほら、麻子も落ちてないし」

「落ちなければいいというものでもありません!」

「でも、遅刻は――」

「していなくてもです!」

 

 沙織の援護も通らない。

 

 みどり子がきっぱり言い切ると、麻子は諦めたように息を吐いた。

 

「仕方ない。起動する」

 

 台車からゆっくりと降り、両足で地面に立つ。

 

 そのまま数秒、目を閉じた。

 

「麻子、寝ないで!」

「立ったまま眠るのは危険です」

 

 灯里の指摘に、みどり子が深いため息をつく。

 

「とにかく、台車での登校は禁止です!」

「次回からは、自分で押して歩きます」

「そういう意味でもありません!」

 

 みほは、つい小さく笑ってしまった。

 

 胸の奥に残っていた重さが、少しだけ薄くなる。

 

 大洗の朝は、黒森峰とは違う。

 

 厳しい号令ではなく、遅刻寸前の友達と、長すぎる台車と、それを本気で止める風紀委員がいる。

 

 その騒がしさが、今のみほにはありがたかった。

 

* * *

 

 校舎へ近づくと、壁に掲げられた大きな横断幕が見えてきた。

 

『祝! 戦車道全国大会 一回戦突破!』

 

 白地に書かれた大きな文字の周囲には、可愛らしく描かれたⅣ号、八九式、38(t)、M3リー、III号突撃砲。そして、少し横に長すぎる戦車。

 

 横断幕の隣には、砲塔のような飾りを付けた細長いバルーンまで浮かんでいた。

 

「こんなに大きく……」

 

 みほが目を丸くする。

 

「すごーい! みんな見てくれてるんだね!」

 

 沙織の声が弾む。

 

 少し遅れて合流した華も、横断幕を見上げて微笑んだ。

 

「とても華やかですね」

「目立つな」

 

 麻子は相変わらず眠そうだった。

 

 優花里はすでにカメラを構えている。

 

「全国大会一回戦突破記念横断幕であります! これは記録しておかねば!」

 

 一方、灯里の視線は細長いバルーンへ固定されていた。

 

「TOGⅡバルーンもあります」

「あれ、TOGⅡなんだ」

「長さは正確ではありませんが、努力は感じます」

「そこを採点するんだ」

「本物は、もう少し長いです」

「これ以上長いと、廊下へ入りません」

 

 みどり子が横から口を挟んだ。台車の件を処理するため、まだ近くにいたらしい。

 

「生徒会が勝手に設置したのよ。朝から『戦車道チームの見学はできますか』『TOGⅡとは何ですか』『長い風船はどこで買えますか』って、風紀委員へ問い合わせが来て大変なんだから」

 

 灯里の表情が、わずかに動く。

 

「TOGⅡバルーンには販売需要が」

「ありません!」

「まだ調査が足りません」

「調査しなくていいの!」

 

 みどり子は即座に止めた。

 

 横断幕の前では、何人もの生徒が足を止めている。

 

「西住さんだ」

「サンダース戦、すごかったんでしょ?」

「TOGⅡって、本当に長いらしいよ」

「いぬさんチームって、ホットドッグも売ってるんだっけ?」

 

 以前なら、戦車道は多くの生徒にとって遠い話だった。

 

 けれど、今は違う。

 

 戦車道が、大洗女子学園の話題になっている。

 

 みほは嬉しいような落ち着かないような気持ちで、風に揺れる横断幕を見上げた。

 

* * *

 

 昼休み。

 

 あんこうチームは、自然と戦車倉庫前へ集まっていた。

 

 倉庫の中からは、自動車部が整備を進める音が聞こえる。工具が金属を叩き、履帯が確認され、時折、明るい笑い声が混ざった。

 

 戦車道チームにとって、ここは少しずつ部室のような場所になりつつある。

 

 麻子は、いつの間にかⅣ号の近くへ座っていた。

 

「麻子、いつの間に」

「移動した」

「普通に歩いた?」

「少し」

 

 沙織が苦笑しながら購買の袋を開く。

 

 華が持ってきた大きな包みには、サンドイッチが整然と並んでいた。

 

「華、相変わらず多いね」

「皆さんで食べられるように、少し多めにしました」

「華さんの少しは、普通の人の多めであります」

 

 優花里も弁当箱を広げる。

 

「母が作ってくれたお弁当であります!」

 

 みほが普通の弁当箱を取り出す横で、灯里はTOGⅡの近くに座っていた。

 

 いぬさんチームの給食部組は、昼時の食堂や購買の手伝いへ向かっている。灯里だけが、長い車体の横で弁当箱を開こうとしていた。

 

 その弁当箱も、横に長い。

 

 かなり長い。

 

「灯里ちゃん、お弁当まで長い!」

「TOGⅡ弁当です」

 

 蓋を開けると、ご飯で作られた長い車体、海苔の履帯、卵焼きの砲塔、ウインナーの主砲が収められている。

 

 優花里が身を乗り出した。

 

「素晴らしい再現度であります! この長い車体と、海苔による履帯表現!」

「可愛らしいですね」

 

 華も微笑む。

 

 麻子は少しだけ目を開けた。

 

「食べにくそうだ」

「長さと食べやすさの両立は、今後の課題です」

「そこは改良が必要だね」

 

 沙織が笑う。

 

 戦車倉庫の前で、戦車のそばに座って昼食を取る。

 

 少し前のみほなら、考えもしなかった時間だった。

 

 今は、不思議と自然に感じられる。

 

「そういえば、先日の取材が号外になっていたであります!」

 

 優花里が思い出したように言った。

 

「見た見た! みぽりん、すごく大きく載ってたよ!」

「私より、みんなのことを書いてほしかったんだけど……」

「隊長なんだから、ちゃんと載らないと!」

「隊長……」

 

 その呼び方には、まだ少し慣れない。

 

 灯里はTOGⅡ弁当の端を切り分けながら言う。

 

「TOGⅡについても触れられていました」

「少しで済んだのか」

 

 麻子の問いに、灯里が頷いた。

 

「文字数制限がありました」

「なかったら危なかったね」

「TOGⅡの魅力は、紙面の余白だけでは語りきれません」

「絶対に長いやつだ」

「はい」

 

 灯里は否定しなかった。

 

 みほは、みんなのやり取りを聞きながら、少しだけ肩の力を抜く。

 

 勝利。号外。横断幕。自分へ向けられる視線。

 

 まだ少し重い。

 

 それでも、ここにはいつもの仲間がいる。

 

 そのことが、今のみほには支えになっていた。

 

* * *

 

「でもさ」

 

 沙織が購買のパンをかじりながら、ふと口を開いた。

 

「サンダース戦、怖かったけど……なんか、楽しかったよね」

 

 みほは思わず顔を上げる。

 

「楽しかった?」

「うん。もちろん怖かったし、撃たれそうだったし、麻子はいつも通り眠そうだったけど」

「眠かった」

「そこは否定して」

 

 沙織は苦笑した後、少し真面目な表情になる。

 

「でも、みんなで何とかしようって感じがしたんだよね。追いかけられて、逃げて、考えて、最後まで諦めなくて」

「皆さんで力を合わせている感じがしました」

 

 華も静かに頷いた。

 

「サンダース殿も、素晴らしい相手でありました! ケイ殿のフェアプレー精神、ナオミ殿の狙撃、アリサ殿の情報戦。どれも大変勉強になりました!」

「勝ったから、気分よく眠れた」

 

 麻子の一言に、沙織が笑う。

 

「麻子は、そこなんだ」

「勝つと寝つきがいい」

 

 みほは、皆の言葉を聞いていた。

 

 楽しかった。

 

 その言葉が、胸の中で小さく揺れる。

 

 黒森峰にいた頃、戦車道は勝つためのものだった。勝利は当然で、負けは許されない。試合前には勝つための準備を行い、試合中には勝つための判断を下し、試合後には結果によって評価される。

 

 そこに楽しさがなかったわけではない。

 

 けれど、今みんなが口にした「楽しかった」は、みほが黒森峰で知っていたものとは少し違う。

 

「西住さん?」

 

 灯里が変化に気づいた。

 

 みほは少しだけ迷った。

 

 ここには沙織がいる。華がいる。優花里がいる。麻子がいる。灯里もいる。

 

 だから、少しだけ話してもいいと思った。

 

「私、去年の大会で……」

 

 言葉にした瞬間、空気が変わる。

 

 沙織はパンを持ったまま動きを止め、華は静かにみほを見た。事情を知っている優花里はわずかに目を伏せ、麻子も眠そうな顔のまま視線を上げる。

 

「私は、黒森峰のフラッグ車の車長だったんです」

 

 みほは弁当箱の蓋を見つめたまま、ゆっくりと言葉を続けた。

 

「試合中、川へ落ちた仲間の戦車が見えて……」

 

 増水した川。

 

 流されそうになる車体。開かないハッチ。無線へ届いた焦った声。

 

 あの日の光景は、今もはっきり残っている。

 

「私はフラッグ車の車長でした。絶対に持ち場を離れてはいけなかった」

 

 声が少しだけ硬くなる。

 

「でも、私は戦車を降りて、仲間を助けに行きました」

 

 その間、フラッグ車は車長を失った。

 

 指揮も周囲の確認も不十分になり、敵の砲撃を受けた。

 

「車長だった私が持ち場を離れたから、黒森峰は負けました」

 

 みほは膝の上で手を握る。

 

「十連覇も、そこで終わってしまって……」

 

 誰も、すぐには言葉を返せなかった。

 

 フラッグ車の車長は、最後まで車両と持ち場を守らなければならない。

 

 それは、試合の中では間違いなく正しい。

 

 だからこそ、みほは今も、仲間を助けた自分と、勝利を失わせた自分を切り離せずにいる。

 

「私は、その行動が間違っていたとは思いません」

 

 最初に口を開いたのは、優花里だった。

 

 声はわずかに震えている。

 

 それでも、その目はみほをまっすぐに見ていた。

 

「西住殿が助けに行かなければ、本当に危険だったかもしれません。助けられた方も、きっと感謝しているであります」

 

「でも、私が離れなければ、負けなかったかもしれない」

 

 みほの言葉を、優花里はすぐには否定しなかった。

 

「はい。結果だけを見れば、そうだったのかもしれません」

 

 その上で、はっきりと続ける。

 

「でも、仲間を助けるために動いたことまで、間違いにはならないと思います」

 

 みほは言葉を失った。

 

「私も、秋山さんと同じです」

 

 灯里も静かに口を開く。

 

「フラッグ車の車長として、持ち場を守ることは大切です。西住さんが離れたことで、試合の結果が変わった可能性も否定できません」

 

 結果を軽く扱わず、灯里は言葉を選ぶ。

 

「ですが、戦車道には安全装置があっても、事故が絶対に起きないとは言い切れません。目の前で仲間が危険な状態になっていたなら、助けに向かった判断そのものまで否定しなくていいと思います」

 

 みほは灯里を見る。

 

「試合に負けたことと、人を助けたことは、同じではありません」

 

 あの日の敗北が消えるわけではない。

 

 十連覇が途切れた事実も、自分の責任だと感じる気持ちも、簡単にはなくならない。

 

 それでも、今ここには、あの行動まで間違いにしなくてよいと言ってくれる人がいる。

 

「……ありがとう」

 

 みほは小さく答えた。

 

 優花里は一瞬固まり、顔を赤くして髪をくしゃくしゃとかく。

 

「い、いえ! 私は、本当にそう思っただけであります!」

 

 灯里は、その光景を静かに見ていた。

 

 かつて画面の向こうで知っていた場面。

 

 けれど、今はただ見守る側ではない。自分も大洗の戦車道チームの一員として、みほの隣に座っている。

 

 その事実が、少しだけ不思議だった。

 

「戦車道には、いろいろな道があるのですね」

 

 華が穏やかに言う。

 

「そうそう。勝つだけじゃないっていうか」

 

 沙織も頷いた。

 

「もちろん勝てたら嬉しいけど、それだけじゃないよね」

「負けたら眠れないが、勝つために全部捨てるのも疲れる」

 

 麻子の言葉に、沙織が少し笑う。

 

「麻子らしい」

「事実だ」

 

 みほは、仲間たちの顔を見た。

 

 勝つことだけが、戦車道ではない。

 

 まだ、その考えを自分の言葉として完全に形にできるわけではない。

 

 それでも、この場所には確かに存在していた。

 

 灯里は手元のTOGⅡ弁当へ視線を落とす。

 

 もし、自分が同じ場面にいたら。

 

 勝たなければならない試合で、自分がフラッグ車の車長で、目の前の仲間が危険な状態にあり、そこを離れれば負けると分かっていたら。

 

 見捨てられるのか。

 

 たぶん、無理だ。

 

 TOGⅡでは、すぐに助けへ駆けつけられないかもしれない。重く、長く、遅い戦車は、急いで救援することに向いていない。

 

 それでも、できることはある。

 

「TOGⅡは、速く助けへ向かうのは苦手です」

 

 沙織が振り向いた。

 

「灯里ちゃん?」

「ですが、味方が逃げるための道を作ることはできます。敵の進路を塞ぎ、時間を稼ぐこともできます」

 

 灯里は、みほを見る。

 

「速く走ることだけが、助ける方法ではありません」

 

 みほは少しだけ目を見開き、やがて穏やかに笑った。

 

「うん」

 

 短い返事だった。

 

 それだけで十分だった。

 

* * *

 

 昼休みが終わりに近づいた頃、優花里が鞄から次戦の資料を取り出した。

 

「さて、次の相手でありますが」

 

 その一言で、空気が少し変わる。

 

「次戦はアンツィオ高校。イタリア系の学校で、小型で軽快な車両を多数運用しています」

「どんな学校なの?」

 

 沙織が資料を覗き込む。

 

「明るく賑やかで、食文化にも力を入れていると聞きます! 主力はCV33快速戦車を中心とした小型車両で、その機動力を活かした戦いを――」

「TOGⅡとは相性が悪いですね」

 

 灯里が即答した。

 

「即答!」

「追いつけません」

「潔い」

 

 麻子がぼそりと言う。

 

 華も資料を見ながら考える。

 

「小さくて速い相手となると、追いかけるのは難しそうですね」

「うん。追えないなら、追わない方法を考えないといけないね」

 

 みほの言葉に、灯里が頷いた。

 

「最初から、相手が通る場所にいる必要があります」

「TOGⅡ理論だ」

 

 沙織が言う。

 

「今回は、かなり大事な考え方だと思う」

 

 みほは資料へ視線を戻した。

 

 サンダース戦では勝った。

 

 けれど、それで終わりではない。

 

 次の相手は、物量と火力で押してくるサンダースとは違う。速く、小さく、こちらの砲撃を避けながら戦場を走り回る。

 

 大洗の戦車は、まだ寄せ集めだ。

 

 しかし、それぞれの車両には異なる癖と役割がある。

 

 それを知り、組み合わせ、相手に合わせて使い方を変える。

 

 それが、大洗の戦車道なのかもしれない。

 

 みほは倉庫の中に並ぶ車両を見た。

 

 Ⅳ号。八九式。38(t)。M3リー。III号突撃砲。

 

 そして、TOGⅡ。

 

 長い。

 

 本当に長い。

 

 だが、今ではその長さも、大洗の一部だった。

 

「次も、みんなで考えよう」

 

 みほが言う。

 

「うん!」

「もちろんであります!」

「皆さんで、また頑張りましょう」

「眠くない時間なら」

 

 麻子の言葉に、みんなが笑った。

 

 灯里はTOGⅡ弁当の最後の端を食べ、静かに蓋を閉じる。

 

「アンツィオ高校」

 

 小さく呟き、資料のCV33へ視線を向けた。

 

「速い相手には、速さではなく場所で対抗します」

「つまり?」

 

 沙織が尋ねる。

 

 灯里は指を一本ずつ立てた。

 

「待ちます。塞ぎます。そこにいます」

「それ、ほとんど止まってるよね」

「止まることも、戦車道です」

 

 灯里は胸を張った。

 

「眠ることも戦車道ならいいのに」

「それは少し違うと思います」

 

 麻子へ、華がやんわりと返す。

 

 再び笑い声が広がった。

 

 サンダース戦の勝利は、大洗の中へ少しずつ浸透している。

 

 みほの胸の奥にも、まだ小さく、形の定まらない新しい考えが芽生え始めていた。

 

 勝つことだけが、戦車道ではない。

 

 けれど、勝つことを諦めるわけでもない。

 

 仲間を見て、戦車を見て、相手を見る。

 

 その上で、自分たちの進む道を探す。

 

 大洗女子学園の次の相手は、アンツィオ高校。

 

 二回戦へ向けた準備は、もう始まっていた。

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