『TOGⅡで戦車道を……?』   作:きのこ大三元

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第35話「ドゥーチェ!と秘密兵器」

 アンツィオ高校の広場には、昼前から陽気な声が響いていた。

 

 石畳の通路と階段。その周囲には露店が並び、焼けたパンとトマトソースの匂いが漂っている。鍋をかき混ぜる音や遠くの歌声まで混ざり、戦車道部の集会というより、祭りの準備に近い空気だった。

 

 階段前には、アンツィオ高校戦車道チームの部員たちが集まっている。

 

 その中央に立つのは、マントを羽織ったツインテールの少女。

 

 アンチョビ。

 

 左右には、落ち着いた表情のカルパッチョと、今にも走り出しそうなペパロニが控えていた。

 

「お前たち!」

 

 アンチョビの声が広場へ響く。

 

「次の対戦相手は、きっと私たちをノリと勢いだけのチームだと思っている!」

「おおー!」

「褒められてるっぽい!」

「ノリと勢いなら負けない!」

 

「皆さん、落ち着いてください」

 

 カルパッチョが穏やかに呼びかける。

 

「あくまで姐さんの予測っすよ!」

 

 ペパロニも補足したが、本人も楽しそうだった。

 

「ノリと勢いだけだと思われているということは、つまり私たちは舐められている!」

「何だってー!?」

「許せない!」

「パスタの恨み!」

「パスタは関係ありません」

 

 騒がしく、整列も崩れかけている。

 

 それでも全員の視線はアンチョビへ向いていた。アンツィオの強さは、綺麗に並ぶことではなく、同じ熱へ一斉に走り出せることにある。

 

「だが、自信を持て! 私たちは一回戦で、あのマジノ女学院を破ったのだ!」

「おおおおおお!」

 

 歓声がさらに大きくなる。

 

「かなり苦戦はしましたけどね」

「でも、勝ちは勝ちっす!」

 

 カルパッチョとペパロニの言葉に、アンチョビが力強く頷いた。

 

「そうだ! マジノを破った勢いで、二回戦も突破する!」

「ドゥーチェ!」

「ドゥーチェ!」

「ドゥーチェ!」

 

 アンチョビは広場の奥へ手を向けた。

 

 そこには、大きなカバーを掛けられた一輌の車輌が置かれている。さらに端には、同じように布で覆われた小型車輌が二輌並んでいた。

 

「次の相手は、西住流を知る西住みほが率いる大洗女子学園! さらに、謎の長大戦車TOGⅡまでいるという!」

「長い戦車!」

「ホットドッグのやつ!」

「食べたい!」

「戦車の話だ!」

 

 アンチョビは部員たちを指差す。

 

「この日のために、我々は倹約し、露店で稼ぎ、先輩たちの積立まで合わせて、ついに秘密兵器を手に入れた!」

「秘密兵器!?」

「高そう!」

「食べられる!?」

「食べられない!」

 

 勢いよくカバーへ近づく。

 

「これこそが、我々アンツィオの――」

 

 その瞬間、昼のチャイムが鳴った。

 

 部員たちの顔が、一斉に食堂の方へ向く。

 

「昼だー!」

「食堂へ急げ!」

「今日のメニューは!?」

「パスタ!」

「いつもじゃん!」

「ドゥーチェも早くしないと、なくなりますよー!」

 

 整列は一瞬で崩れ、生徒たちは食堂へ走り出した。

 

「ま、待て! まだ秘密兵器の説明が……!」

 

 アンチョビの声は、部員たちの足音に飲み込まれる。

 

 広場に残ったのは、アンチョビ、カルパッチョ、ペパロニ。そして、カバーを掛けられたままの三輌だけだった。

 

「あー……行っちゃったっすね」

「お昼時ですから」

 

 ペパロニが頭をかき、カルパッチョが苦笑する。

 

 アンチョビは肩を落としかけたが、すぐに顔を上げた。

 

「……腹が減っては、勢いも出ないからな」

「姐さん、さすがっす!」

「では、私たちも行きましょう」

 

 アンチョビは、もう一度カバーの掛かった車輌を見た。

 

 食べて、笑って、働いて、走って、撃って、勝つ。

 

 それがアンツィオだった。

 

* * *

 

 同じ頃、大洗女子学園では、戦車倉庫横の会議スペースにアンツィオ高校の資料が広げられていた。

 

 ホワイトボードには、カルロ・ベローチェCV33、セモヴェンテM41 da 75/18、P40導入の噂、追加車輌の可能性が書かれている。

 

 中央には、赤い文字で大きな一文。

 

『第2回戦より、最大出場車輌数は十二輌』

 

「十二輌!? 多くない!?」

 

 沙織が声を上げた。

 

「サンダースや黒森峰なら、普通に揃えてきそうだけどねー」

 

 杏は椅子へ浅く座り、干し芋をかじっている。

 

「第2回戦以降、参加校全体に最大十二輌制が適用されます。大洗だけに有利な変更ではありません」

 

 柚子が連盟の通達を読み上げた。

 

 灯里の知る物語とは、細かな部分が変わり始めている。

 

 ただし、今この会議室に灯里はいない。優花里の姿もなかった。

 

 みほは資料を見つめながら、ホワイトボードへCV33の進路を書き足す。

 

「アンツィオ高校が十二輌の枠を使うなら、P40以外にも車輌が増えている可能性があります」

「相手はマジノを破った学校だ。油断するな」

 

 桃が腕を組む。

 

「小型車輌が多い分、複数方向から動かれると厄介です。追いかければ、こちらが分断されるかもしれません」

 

「秘密兵器って、どんなのかな?」

「おいしいものでしょうか」

 

 沙織に続き、華が静かに呟いた。

 

「戦車道の秘密兵器が食べ物のはずはない」

 

 麻子が眠そうに返す。

 

「アンツィオなら、ありそうだけどね」

 

 杏は楽しそうだった。

 

「とにかく情報が足りん。P40が本当に配備されたのか、追加車輌が何なのか、確認できれば――」

 

 桃が言い終える前に、会議スペースの扉が勢いよく開いた。

 

「ただいまであります!」

 

 入ってきたのは、コンビニの制服を着た優花里だった。

 

 その隣には、同じ制服姿の灯里もいる。二人はビデオカメラと紙袋を抱え、どこかやり切った表情をしていた。

 

 口元には、赤いパスタソースの跡が残っている。

 

 みほは二人を見て、一瞬だけ固まった。

 

「もしかして……」

「はい! アンツィオ高校へ偵察に行ってまいりました!」

 

 優花里が胸を張る。

 

「潜入は成功しました」

 

 灯里も真面目に頷いた。

 

「ただし、食事の誘惑が強敵でした」

「二人とも、口にソースが付いてるよ?」

 

 沙織が指摘する。

 

「偽装です」

「食べただけだろう」

 

 麻子が即座に返した。

 

 華は灯里の持つ紙袋へ目を向ける。

 

「何か買ってこられたのですか?」

「資料です」

 

 灯里は紙袋を持ち上げた。

 

「それから、パニーニです」

「食べ物じゃん」

 

 沙織が突っ込む。

 

「ですが、映像もあります! P40らしき車輌と、追加の車輌も確認しました!」

 

 優花里がビデオカメラを掲げた。

 

「じゃ、見てみよっか」

 

 杏が身を乗り出す。

 

 画面が用意され、優花里が再生ボタンを押した。

 

* * *

 

 時間は、同日の昼休み前まで遡る。

 

 優花里は資料を開いては閉じ、再びアンツィオ高校の項目を確認していた。P40の文字へ目を落とすたびに小さく唸り、相手の車輌を直接見たいという気持ちを隠しきれていない。

 

 その様子を、灯里が横から見ていた。

 

「アンツィオですか」

「えっ」

 

 優花里の肩が跳ねる。

 

「偵察へ行きたい顔をしています」

「さ、さすが戸郷殿……!」

「秋山さんは、戦車のことになると分かりやすいです」

「そ、そうでありますか?」

「はい」

 

 灯里は、机の横から畳んだコンビニ制服を取り出した。

 

「私も同行します。アンツィオ高校は、食事や商売も含めて確認する情報が多そうです」

「心強いであります!」

「ただし、車輌偵察の中心は秋山さんです。私は周辺状況と、TOGⅡにとって危険な点を確認します」

「了解であります!」

 

 二人はビデオカメラを持ち、連絡船でアンツィオ高校へ向かった。

 

 灯里にとってアンツィオは、知っている学校であり、まだ知らない学校でもある。明るく、賑やかで、食べ物が強いという印象は変わらない。

 

 けれど、この世界ではP40だけでなく、追加車輌の噂まであった。

 

 原作を知っているだけでは足りない。

 

 灯里は、最近そのことを強く感じていた。

 

* * *

 

 アンツィオ高校の学園艦へ降りると、最初に漂ってきたのは料理の匂いだった。

 

 焼けたパン、トマトソース、オリーブオイル。鉄板で具材を炒める音が響き、石畳の通りにはいくつもの露店が並んでいる。

 

 制服姿の生徒が調理と客引きを行い、生徒たちがその料理を買っている。学園というより、商店街と祭りを一つにしたような光景だった。

 

「すごいであります……! これがアンツィオ高校!」

「学校と商店街と祭りの境界がありませんね」

 

 優花里が感動し、灯里は周囲を見回す。

 

 戦車を模した看板。戦車道部応援メニューと書かれた黒板。露店の隅には、燃料缶の空箱まで積まれていた。

 

 食事、商売、部活動が、ひとつの生活として混ざっている。

 

 二人は、ミラノ風ジェラートと書かれた露店へ近づいた。

 

「最近転校してきたばかりなんですが、今日はお祭りですか?」

 

 優花里が自然な顔で尋ねる。

 

 店番の生徒は笑った。

 

「いつも通りだよー。いろんな部活が露店を出してるの。戦車道部もよくやってるよ」

「戦車道部も、でありますか?」

「戦車はお金がかかるからね。食べて応援、買って応援ってやつ」

 

 灯里はジェラートを受け取りながら、周囲の生徒を確認する。戦車道部らしい生徒も調理や接客を行い、食材や燃料らしき箱を運んでいた。

 

「露店の売上を、部費や維持費へ回しているようですね」

「独自の部費調達でありますな!」

 

 アンツィオは、単に資金の乏しい学校ではない。

 

 足りないなら稼ぐ。稼ぐなら得意な料理を使う。働くなら、皆で楽しく行う。

 

 その考え方が、学園艦全体へ染みついているようだった。

 

 通りを進むと、『戦車道部』と書かれた露店が見えてきた。

 

 鉄板の前に立っていたのは、ペパロニだった。

 

「そこの二人、食べていきなー! うちのナポリタンは、安くて多くてうまいっすよ!」

 

 優花里と灯里は一度顔を見合わせ、自然な流れで席へ座った。

 

 鉄板の上で麺が跳ね、トマトソースの香りが広がる。ペパロニの手つきは大雑把に見えるが、動きに迷いはなく、食べる側を待たせなかった。

 

「熱いうちに食べるっす! 三百リラっすよ!」

 

 皿には、かなりの量のナポリタンが盛られている。

 

「この量で三百リラ……」

 

 灯里は硬貨を置きながら、採算を少し心配した。

 

 優花里は一口食べ、目を見開く。

 

「お、おいしいであります……!」

「でしょー!」

 

 ペパロニが嬉しそうに胸を張った。

 

 優花里は食事を続けながら、自然に質問を挟む。

 

「あの、アンツィオ高校に新型戦車が入ったと聞いたのですが……」

「お客さん、通っすねー!」

 

 ペパロニは疑う様子もなく笑った。

 

「今頃、アンチョビ姐さんがコロッセオの辺りでP40を乗り回してると思うっす!」

「P40、ですか」

 

 灯里も顔を上げる。

 

「あれはすごいっすよ。姐さんたちが露店で稼いで、先輩たちの積立も合わせて、ようやく買った秘密兵器っす」

「皆さんの努力の結晶でありますな」

 

 優花里が感心していると、ペパロニはさらに続けた。

 

「端の方には、くじで当たった車輌もあるっすよ」

「くじ?」

「戦車道連盟の車輌維持振興くじっす! 姐さんはオリーブオイル狙いだったんすけど、戦車が当たったっす!」

「景品の振れ幅が大きいですね」

 

 灯里は真顔だった。

 

 そこへ、カルパッチョが通りかかる。

 

「あら、遠くから来たんですか?」

「あ、はい。最近こちらへ来たばかりであります」

 

 優花里が少し緊張しながら答えた。

 

「楽しんでいってくださいね。アンツィオは食べ物だけでなく、戦車道も面白いですから」

「はい!」

 

 カルパッチョは去り際に小さく手を振る。

 

「アリーヴェデルチ」

「さよナランチャ」

 

 灯里が静かに返した。

 

「戸郷殿?」

「挨拶です」

「そうでありますか……?」

 

 優花里は首を傾げたが、それ以上は追及しなかった。

 

* * *

 

 二人がコロッセオ方面へ向かうと、すでに多くの生徒が集まっていた。

 

 広場の中央には、P40に乗ったアンチョビがいる。カバーを外された車体は陽光を受け、集まった部員たちの前で堂々と姿を見せていた。

 

 アンツィオにとって、P40は単なる新戦力ではない。

 

 倹約、積立、露店での労働。

 

 学校全体の努力が形になった戦車だった。

 

「見よ! これが我々アンツィオの秘密兵器、P40である!」

「ドゥーチェ!」

「ドゥーチェ!」

「ドゥーチェ!」

 

 優花里はビデオカメラを構え、車体を追った。

 

「P40であります……! アンツィオにとっては、火力と装甲を担う非常に大きな戦力です!」

 

 灯里も静かに観察する。

 

 大洗の現在の戦力で、正面から受けるには厄介な相手だった。特に八九式やM3リーのような装甲の薄い車輌にとっては、正面へ出ること自体が危険になる。

 

「正面から受けると、今の大洗では厳しいですね」

「はい。P40を中心に据えられるなら、対策が必要であります」

 

 その時、灯里は広場の端へ目を向けた。

 

 カバーを半分だけ外された、小型車輌が二輌並んでいる。

 

 低い車高。小さな車体。正面に伸びた47mm砲。上部には、戦車道公式仕様らしい安全カバーが追加されていた。

 

「……あちらにも車輌があります」

「えっ?」

 

 優花里がカメラを向ける。

 

「あれは……Semovente L40 da 47/32であります!」

「かなり小さいですね」

「L6/40軽戦車の車体を利用した対戦車自走砲です。P40ほどの火力や装甲はありませんが、小さくて隠れやすく、待ち伏せに向いています」

 

 灯里は二輌の車高と砲身の位置を確認した。

 

「TOGⅡにとっては、嫌な相手です」

「P40よりも、ですか?」

「P40は正面からの脅威です。ですがL40は、隠れた場所から履帯を狙ってくる可能性があります」

 

 優花里の表情が引き締まる。

 

「TOGⅡの履帯を切られれば、通路封鎖も後方支援もできなくなるでありますな」

「はい。遅いことと、動けないことは違います」

 

 TOGⅡは速くない。

 

 だが、必要な場所まで動き、車体を置くことには意味がある。その前に足を止められれば、盾にも壁にもなれない。

 

 L40は試合の中心になる車輌ではないかもしれない。それでも、TOGⅡにとっては十分に警戒すべき相手だった。

 

 広場では、アンチョビの演説が続いている。

 

「P40は、我々が倹約し、露店で稼ぎ、先輩たちの積立まで合わせて手に入れた誇りだ!」

「おおー!」

 

「そして、残った端数で買った戦車道連盟・車輌維持振興くじ! 一等は新型整備機材一式! 二等は中古戦車道車輌引取権と整備補助券! 三等は一年分の燃料補助券! 四等は高級オリーブオイル詰め合わせ!」

「姐さんは四等狙いだったっす!」

 

 ペパロニが声を上げる。

 

「だが、当たったのは二等!」

「戦車が当たったー!」

「すごーい!」

「食べられないけどすごい!」

 

 アンチョビは一瞬、遠い目をした。

 

「……オリーブオイルではなかったがな!」

「でも、戦力は増えました」

 

 カルパッチョが穏やかに微笑む。

 

「そうだ! ならば使う! それがアンツィオだ!」

 

 再び歓声が上がった。

 

 努力で手に入れたP40。

 

 偶然手に入った二輌のL40。

 

 どちらも笑いながら、自分たちの戦力へ変えていく。

 

 灯里は、アンツィオへの認識を少し改めた。

 

 ノリと勢いは、確かにある。

 

 けれど、それは軽さではない。足りないものを自分たちで補い、失敗も偶然も楽しみながら前へ進む力だった。

 

 この相手は、油断できない。

 

* * *

 

 映像が止まると、大洗側の会議スペースはしばらく静かだった。

 

「P40に、追加の小型自走砲二輌かー」

 

 最初に口を開いたのは杏だった。

 

「くじで戦車が当たるとは、どういうことだ!」

 

 桃が叫ぶ。

 

「戦車道連盟・車輌維持振興くじです。二等が中古戦車道車輌引取権と整備補助券でした」

 

 灯里が説明する。

 

「そんなくじ、あるんだ……」

 

 沙織は複雑そうだった。

 

「四等のオリーブオイルが欲しかったんだろうな」

 

 麻子が呟く。

 

「高級オリーブオイル……良いですね」

 

 華は少し興味を示した。

 

 優花里は映像を一時停止し、確認できた車輌を指で示す。

 

「P40が一輌、セモヴェンテM41 da 75/18が二輌、CV33が七輌、Semovente L40 da 47/32が二輌。確認した範囲では、合計十二輌になります」

「本当に枠いっぱいだね……」

 

 沙織がホワイトボードを見る。

 

 みほは映像と資料を見比べながら、相手の動きを組み立てていた。

 

「CV33でこちらを撹乱し、セモヴェンテとP40で撃破を狙う。L40が加わるなら、待ち伏せや履帯狙いにも注意が必要だね」

「TOGⅡは通路を塞げます」

 

 灯里も続ける。

 

「ですが、配置へ入る前や、横道を警戒している時に履帯を狙われると、その場から動けなくなる可能性があります」

「いつも遅いのに、動けなくなると違うの?」

 

 沙織が首を傾げた。

 

「遅いのと、動けないのは違います」

「名言っぽい」

 

 麻子が言う。

 

「TOGⅡにとっては重要です」

 

 灯里は真剣だった。

 

 みほはホワイトボードへ、P40、M41、CV33、L40の名前を書き足していく。

 

 相手は賑やかで、食べ物がおいしく、少し締まらない。

 

 けれど、マジノ女学院を破り、努力してP40を購入し、偶然手に入れた車輌まで戦力へ組み込んでいる。

 

 ノリと勢いだけではなかった。

 

「まず、P40の火力と装甲をもう少し調べよう」

 

 みほが言った。

 

「CV33は追いかけず、動ける範囲を狭める練習をする。L40がいるなら、待ち伏せと履帯狙いへの警戒も必要だね」

「TOGⅡはCV33を追えませんが、相手が通りたい場所を塞ぐことはできます」

 

 灯里はホワイトボードの地図を指す。

 

「問題は、その位置をL40に読まれた場合です」

「じゃ、足回りを守る練習も必要だねー」

 

 杏が言った。

 

 桃はホワイトボードを軽く叩く。

 

「気を抜くな! 相手はマジノを破り、最大十二輌で来る可能性がある!」

「ノリと勢いだけじゃないんだね」

 

 沙織が、映像の中で笑うアンツィオの生徒たちを見る。

 

「はい。かなり侮れない相手であります!」

 

 優花里は力強く頷いた。

 

「それに、お料理も強そうです」

 

 華が静かに付け足す。

 

「そこも戦力なのか」

「士気には関わります」

 

 麻子の問いに、灯里が即答した。

 

 みほは、もう一度画面の中のP40を見た。

 

 車上で誇らしげに笑うアンチョビ。大きく手を振るペパロニ。部員たちを穏やかに見守るカルパッチョ。

 

 その後ろには、P40と二輌のL40。そして、数多くのCV33が並んでいる。

 

 賑やかで、明るく、食べ物の匂いがする。

 

 それでも、確かに強い相手だった。

 

 TOGⅡはCV33を追えない。

 

 P40と正面から撃ち合うのも危険が大きい。

 

 さらに、二輌のL40は、隠れた場所から履帯を狙うことができる。

 

 大洗は、もう一度作戦を組み直さなければならない。

 

 次の相手は、アンツィオ高校。

 

 ノリと勢い、積み重ねた努力、そして少しの幸運まで戦力に変える、油断のできない学校だった。

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