『TOGⅡで戦車道を……?』   作:きのこ大三元

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短いですが、幕間回です


第43.5話「増える戦車、増える仲間」

 合同訓練から数日後、灯里はいつものように戦車倉庫へ顔を出していた。

 

 TOGⅡの整備状況を確認し、必要ならいぬさんチームにも連絡する。その程度のつもりだったのだが、倉庫の奥へ近づいたところで、金属同士がぶつかる鈍い音が響いた。

 

 ガンッ。

 

 少し間を置いて、何かが軋む。

 

 ギィィィ……。

 

 さらに、バチッ、と何かが弾ける音。

 

 灯里は足を止めた。

 

「……まだやっていますね」

 

 音の正体は、考えるまでもなかった。

 

 整備区画の奥では、回収されたポルシェティーガーを囲むように自動車部の四人が動き回っていた。車体の一部はすでに清掃され、外見だけなら発見時よりずっと戦車らしさを取り戻している。だが、中身は別だった。

 

 長く放置されていた機関、足回り、電装、配線、駆動系。戦車道競技用の安全装置まで含めれば、確認すべき箇所はいくらでもある。一ヶ所を直せば終わり、ではなく、その先でまた別の不具合が見つかる。

 

 要するに、とても面倒な戦車だった。

 

「そこ、もう一回見てみよう」

「配線こっちじゃない?」

「その前に外さないと無理だよ」

「じゃあ持ち上げる?」

 

 疲れているはずなのに、自動車部の四人は妙に楽しそうだった。

 

 灯里はしばらくその様子を眺め、少し首を傾げる。

 

「……楽しそうですね」

 

 ナカジマが振り返った。

 

「いやー、面白いねこれ」

「面白い……ですか?」

「普通の戦車と違うところ多いし」

 

 スズキも工具を持ったまま頷く。

 

「直して動いたら気持ちよさそう」

 

 ホシノがそう言うと、ツチヤは車体の下から顔を出した。

 

「問題が一個直ると、また別の問題出るけどね」

「それでも、面白いんですね」

「それがいいんじゃない?」

 

 灯里は少しだけ考えた。

 

 TOGⅡも十分に整備泣かせだと思っていた。けれど自動車部にとっては、壊れていることすら遊び場の一部なのかもしれない。

 

「TOGⅡより大変かもね」

 

 ナカジマの一言に、灯里がすぐ反応する。

 

「TOGⅡは素直なところもあります」

 

 四人が揃って灯里を見る。

 

「そうかなあ?」

「あります」

 

 少し間を置いて、灯里はもう一度言った。

 

「あります」

 

 誰も強く否定しなかった。

 

 ◇

 

 もっとも、ポルシェティーガーはまだ走らせられる状態ではない。

 

「とりあえず動くようにするところまでは行きたいんだけどね」

 

 ナカジマは車体を見上げながら言う。

 

「そこから実際に走らせて、また問題出ると思う」

「走って初めて分かるところも多いし」

「止まるかもしれないしね」

 

 灯里も頷いた。

 

「直して終わりではないんですね」

「そうそう」

 

 直して、動かして、不具合を見つけたらまた直す。しばらくは、その繰り返しになる。

 

 準決勝までに実戦投入するのは、どう考えても現実的ではなかった。

 

 灯里はポルシェティーガーを見上げたまま、ふと尋ねる。

 

「修理が終わったら、誰が乗るのでしょう」

 

 四人が少しだけ黙った。

 

 その中で、ナカジマが先に口を開く。

 

「私たちがいいな」

 

 灯里が顔を上げる。

 

「自動車部が?」

「ここまで直してるし」

 

 スズキが車体を軽く叩いた。

 

「自分たちで動かしてみたいよね」

「どんな癖あるかも気になるし」

「ここまで来たら乗りたい」

 

 理由は単純だった。

 

 戦車道そのものに入りたいからではない。自分たちで直した機械を、自分たちで動かしてみたい。ただ、それだけだった。

 

 けれど、その動機は自動車部らしくて、十分だった。

 

「そうですか」

 

 灯里は少しだけ笑う。

 

「似合うと思います」

「本当?」

「はい。かなり」

 

 ◇

 

 そこへ、整備状況を確認しにみほもやってきた。

 

「こんにちは」

「西住さん」

 

 ナカジマたちは簡単に今の状態を説明し、その流れで、自分たちが乗ってみたいという話まで伝えた。

 

 みほは少し驚いたあと、すぐに笑う。

 

「自動車部のみんなが乗ってくれるなら、心強いと思う」

 

「じゃあ、次の試合から?」

 

 ツチヤが冗談めかして聞く。

 

 みほは首を振った。

 

「まずはちゃんと動くようにして、それから練習かな」

「だよねー」

 

 誰も残念そうにはしなかった。むしろ四人とも、すでに次に直す場所へ視線を戻している。

 

 まだ正式なチームではないし、戦える状態でもない。それでも、乗る人だけは決まり始めていた。

 

 灯里は少し離れた場所に置かれているTOGⅡへ目を向ける。

 

 TOGⅡだって、最初から今のように動いたわけではない。修理と調整を繰り返し、乗員が集まり、失敗も重ねながら、少しずついぬさんチームの戦車になっていった。

 

 ポルシェティーガーも、きっと同じなのだろう。

 

 ただし、そこには時間が必要だった。

 

 ◇

 

 整備場を離れたところで、灯里のスマートフォンが震えた。

 

 画面に表示された名前は、猫田舞。

 

 ねこにゃーだった。

 

『ネットの友達に話してみたにゃ』

 

 その下に、もう一件。

 

『いつも小隊組んでる二人に声かけたら、ちょっと興味あるみたいにゃ』

 

 灯里は立ち止まった。

 

 そうなる未来を知っていた。いつか、ねこにゃーが仲間を連れてくることも。

 

 けれど、知っていることと、実際に本人が自分から動き始めるところを見るのは、少し違う。

 

 灯里は短く返信した。

 

『良かったですね』

 

 少し考えて、もう一文。

 

『興味があるなら、まず見学に来てもらうのも良いと思います』

 

 すぐに返事が来た。

 

『でも二人ともネットでしか会ったことないにゃ』

『どこの学校かも知らないにゃ』

 

 灯里は画面を見ながら、ゆっくり文字を打つ。

 

『焦らなくて大丈夫です』

 

 数秒後。

 

『分かったにゃ』

 

 さらに続く。

 

『その間に筋トレするにゃ!』

 

 灯里は少し目を細めた。その直後、もう一件届く。

 

『昨日三回で筋肉痛になったにゃ』

 

「……少しずつで大丈夫です」

 

 今度は声に出してから、そのまま同じ文章を送った。

 

 ◇

 

 戦車倉庫の奥からは、まだ金属音が聞こえていた。

 

 ガンッ。

 

 ギィィ……。

 

 ポルシェティーガーは修理の途中。少し離れた練習場では、風紀委員の三人がB1 bisを使って基礎訓練を続けている。そしてスマートフォンの画面には、ねこにゃーから届いたメッセージが残っていた。

 

 どれも、大洗の新しい戦力になろうとしている。

 

 ただし、その進み方は全部違う。

 

 すでに実車訓練へ入った三人。戦車を直しながら、自分たちで乗りたいと思い始めた四人。そして、まだ仲間へ声を掛けたばかりの一人。

 

 戦車を見つければ、それだけで戦力が増えるわけではない。乗る人が必要で、練習が必要で、整備が必要で、何より時間が必要だった。

 

 少し前まで、あれだけ人が足りなかったのに。

 

 今は少しずつ、人が増えている。

 

 けれど、まだ全員が戦えるわけではない。

 

 灯里はスマートフォンをしまい、もう一度戦車倉庫を振り返った。

 

 準決勝に間に合いそうなのは、今のところB1 bisと風紀委員の三人くらい。

 

 ポルシェティーガーも、猫田さんたちも、もう少し先。

 

 それでも、確実に動き始めていた。

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