『BLEACH 〜煩悩代行・千堂遥の現世奮闘記〜』 作:トート
朝焼けの冷たい光が、巨大な処刑場である『双殛(そうきょく)の丘』を逆光の中に浮かび上がらせていた。
そこには、巨大な処刑台の十字架に縛り付けられた、朽木ルキアの小さな姿があった。
丘の周囲を囲むのは、白い羽織を纏った護廷十三隊の隊長、そして副隊長たち。張り詰めた沈黙の中、処刑の開始を告げる重々しい号令が響き渡る。
「――処刑を、執り行う」
ゴゴゴゴゴ……! と地鳴りのような音を立てて、処刑台の真向かいに設置された巨大な矛が、その封印を解かれた。
解き放たれた処刑の矛――『毀鷔王(きぎょうおう)』。
それは、数百万本の斬魄刀の破壊力に匹敵するという、燃え盛る巨大な「炎の鳳凰」の姿へと変貌し、ギシャァアアアア!! と天を衝くほどの咆哮を上げながら、ルキアを焼き尽くさんと大空へと舞い上がった。
「ルキアちゃん……っ!」
丘の麓、死神たちの防衛線を力任せに突破し、息を切らせながら崖を駆け上がってきた僕――千堂 遥(せんどう はる)は、その圧倒的な炎の巨体を仰ぎ見て、歯を食いしばった。
白哉(びゃくや)のお兄さんに斬り刻まれた傷は、四番隊の医療と僕自身の霊圧の自己再生によってなんとか塞がっているものの、肉体はすでに限界を迎えていた。一歩歩くたびに、全身の毛細血管から血が滲み出るような激痛が走る。
「遥! 織姫はアタシが守るから、あんたは自分の目の前の敵に集中しなさい!」
すぐ後ろから、両拳に青白い霊圧をガチガチに纏わせた有沢たつきが、凛とした声を張り上げた。彼女は流魂街からここまで、ハルをナンパの暴走から(物理的に)制裁しつつ、襲いかかる下級隊士たちを空手の正拳突き一発で文字通り肉体ごと吹き飛ばしながら道を切り開いてきてくれた、最高の、そして一番恐ろしい幼馴染みだ。
·r/bleach
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「ハルくん、怪我は大丈夫……!? 盾舜六花(しゅんろっか)、いつでもいけるよ!」
「ああ、ありがとう井上さん、たつきちゃん。……一護(いちご)が来るまで、俺たちの命に代えても、ルキアちゃんをあの炎から守る!」
僕は腰の何も無い空間へと右手を伸ばし、自らの魂のすべて、極限まで純化された煩悩の霊圧を一気に解き放った。
「――お前らの血で、戦場を飾りなよ。――『恋慕断絶(れんぼだんぜつ)』!!」
ドオオオオオン!!!
青白い霊圧の津波が双殛の丘の麓を激しく震わせ、僕の手の中に、僕の身長の2倍はある肉厚の『超巨大な斧(バトルアックス)』がその凶悪な姿を現した。鈍い銀色の刃が、ただそこにあるだけで丘の頑丈な岩盤をメキメキと陥没させていく。
石田雨竜が光の弓を構え、茶渡泰虎(チャド)が巨大な右腕を突き出す。
その瞬間、上空の炎の鳳凰が、その巨大な翼を広げてルキアの細い身体を目がけて真っ直ぐに急降下を始めた。数百万本の斬魄刀の熱量が、丘の上の空気を一瞬で沸騰させる。
「ルキアちゃあああああああっっ!!!」
僕は叫ぶと同時に、巨大斧『恋慕断絶』を両手で硬く握り締め、地面を爆発的な力で蹴り上げた。
傷だらけの肉体が、音速を超える跳躍を見せる。
そして同時に、僕のすぐ真横から、黒い霊圧の衣――『死覇装(しはくしょう)』を激しくなびかせ、背中に巨大な大刀『斬月(ざんげつ)』を背負った男が、全く同じタイミングで大空へと飛び出してきた。
「――待たせたな、ルキアァアアアア!!!」
オレンジ色の髪。地獄の修行を終え、ついにこの決戦の地に間に合った、僕の最高の相棒。
黒崎一護、現る。
大空の真ん中、急降下してくる炎の鳳凰『毀鷔王』の目の前で、僕と一護の身体が交差した。
一護は巨大な大刀『斬月』を両手で振りかぶり、僕は超巨大な斧『恋慕断絶』を限界まで後ろへと引き絞る。
「ハル! 息を合わせろ! あのバカでかい鳥を、正面から叩き潰すぞ!」
「あはは! 言われなくてもそのつもりだよ、一護! 俺の愛の重さ、あの炎の鳥に骨の髄まで教えてやる!」
「――おおおおおおおおお!!!!」
僕らは同時に、全霊の霊圧を込めた一撃を、炎の鳳凰の脳天へと叩きつけた。
ズガァアアアアアアアアアアアアン!!!!!!
広大な双殛の丘全体が、まるで巨大な隕石が直撃したかのように激しく揺れ動いた。
一護の斬月が鳳凰の嘴(くちばし)を受け止め、僕の巨大斧『恋慕断絶』が、その【受けた衝撃を蓄積して倍にして弾き返す】という凶暴なカウンター能力を完全解放し、鳳凰が放つ数百万本の斬魄刀の熱量と衝撃を、そのまま『倍』のエネルギーにしてその巨体へと叩き返したのだ。
バリバリバリバリ、ドガァアアアアアン!!!
「ギ、ギシャァアアアアア……ッ!?」
鳳凰が、自らの放った倍の衝撃波に内部から肉体を完全に破壊され、苦悶の絶叫を上げた。
次の瞬間、あれほど瀞霊廷を恐怖で包んでいた巨大な炎の鳥は、眩い光の粒子となって、大空の中で文字通り木っ端微塵に霧散し、消滅した。
処刑の炎を、正面から完全粉砕。
「……嘘、だろ……」
処刑台の十字架の上で、ルキアちゃんが信じられないものを見る目で僕らを見上げていた。その大きな瞳から、ぽろぽろと涙が溢れ落ちる。
「よっ、ルキアちゃん。久しぶり。相変わらず可愛いね。現世のみんなが待ってるから、さっさとその窮屈な場所から降りなよ」
僕は大空から処刑台の頂上へとひらりと着地し、消滅させた巨大斧の代わりに、いつものチャラついた笑みを浮かべて彼女にウインクしてみせた。
「ハル……、一護……お前たち……どうして……!」
ルキアの声が震える。
「どうしてって、決まってんじゃん。女の子を泣かせるお堅い掟なんて、俺の巨大斧で全部バラバラに粉砕するためだよ」
僕はニヤリと笑うと、一護と共に、処刑台の十字架を力任せに叩き壊した。
しかし、これで処刑が止まったわけではない。丘の周囲に並ぶ、護廷十三隊の隊長格たちの視線が、一斉に僕ら旅禍へと向けられた。その中には、無言のまま、凄まじい桜の霊圧を静かに膨らませている朽木白哉の姿もあった。
「ハル、ルキアを連れて先に行け。……ここは、俺が止める」
一護が斬月を構え、白哉の前に立ち塞がる。
「あはは、分かったよ、一護。カッコいいところは任せた。俺はルキアちゃんをお姫様抱っこして、スマートに脱出させてもらうよ」
僕はルキアの小さな身体を優しく抱き上げると、丘の麓で待つ織姫ちゃん、そして拳を握りしめて僕を見上げるたつきちゃんの方へと向かって、再び大きく跳躍した。
世界の掟を叩き潰した僕らの、本当の反撃が、ここから始まる。