『BLEACH 〜煩悩代行・千堂遥の現世奮闘記〜』 作:トート
「――そこを動くなよ、白哉のお兄さん!!」
全身の傷口から鮮血を噴き出しながら、僕――千堂 遥(せんどう はる)は、双殛(そうきょく)の丘の赤く染まった大地を強く踏み締めた。
僕の手にある超巨大な斧『恋慕断絶(れんぼだんぜつ)』の刃は、先ほど白哉の『千本桜景厳』が放った億単位の刃の衝撃を全てその身に蓄積し、今にも自壊しそうなほど眩く、禍々しいまでの青白い霊圧の光をバチバチと放ち、周囲の空気を物理的に焼き焦がしていた。
前方にいる白哉は、懐に完璧に侵入してきた一護(いちご)の『天鎖斬月(てんさざんげつ)』による超高速の漆黒の斬撃を、手元に集めたわずかな桜の盾で防ぐのが精一杯だった。
「――『恋慕断絶』、最大倍加(さいだいばいか)ァアアア!!!」
僕は、これまでの人生で女の子たちに拒絶され、ドツかれ、それでも決して折れることのなかった不屈の煩悩と全霊圧のすべてを大斧へと上乗せし、白哉の無防備な背中に向けて全力で振り下ろした。
斧の刃から解き放たれたのは、先ほどの『千本桜』の全熱量をさらに『倍』に膨らませた、丘の半分を文字通り消し飛ばすほどの超巨大な青白い衝撃波。
ズガァアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!
「何……っ!? 背後から、千本桜以上の質量だと……っ!」
白哉が驚愕の声を上げ、初めてその冷徹な顔を戦慄に染めた。彼は一護との競り合いを強引に中断し、瞬歩(しゅんぽ)で上空へと間一髪で逃れようとした。
だが、その移動速度を、一護の漆黒の卍解が見逃すはずがなかった。
「逃がさねえって言ってんだろ、朽木白哉ァアア!!」
上空へ跳躍した白哉の頭上に、一護はすでに先回りしていた。一護は天鎖斬月の刀身に黒い霊圧を限界まで収束させ、白哉の脳天に向けて、容赦なくその凶暴な斬撃を振り下ろした。
「――『月牙天衝(げつがてんしょう)』!!!」
どす黒い漆黒の斬撃が、上空から白哉を真っ逆さまに叩き落とす。そして地上からは、僕の放ったすべてを粉砕する青白い『倍返し』の衝撃波が、猛烈な勢いで突き上がっていく。
上空からの黒い雷、地上からの青い濁流。
二人の相棒による、完璧な調和(協奏曲)を奏でる挟撃が、朽木白哉の身体を真ん中から完全に挟み込んだ。
ドゴォオオオオオオオオオオン!!!!
双殛の丘の上が、真っ黒な爆炎と青白い光の乱舞によって完全に埋め尽くされた。巻き上がった凄まじい土煙と風圧が、麓にいたたつきちゃんや織姫ちゃんたちの衣服を激しくなびかせる。
やがて、もうもうと立ち込める煙の向こうから、一人の男の影がよろめきながら姿を現した。
長い黒髪は乱れ、貴族の証である『牽星箝(けんせいかん)』は木っ端微塵に砕け散っている。白い隊長羽織はボロボロに引きちぎられ、全身から血を流しながらも、彼は自らの誇りだけでその場に真っ直ぐに立っていた。
朽木白哉、満身創痍。しかし、その瞳にある王者の威厳は、まだ死んでいなかった。
「……見事だ、旅禍ども。私の『千本桜景厳』をここまで完璧に崩し、この私にこれほどの傷を負わせた者は、歴史上片手で数えるほどしかいない」
白哉は静かに、しかし重々しく刀の柄を握り直した。彼の周囲に、残されたすべての桜の刃が集まり、一本の巨大な、神々しいまでの白い翼の形へと姿を変えていく。
「だが、これが最後だ。朽木家の誇りに懸けて、お前たちのその異形の力を、私の最大最後の一撃で葬り去ってくれよう」
「――『終景(しゅうけい)・白帝剣(はくていけん)』」
白哉の全身が、まばゆい白銀の光に包まれる。丘の上のすべての霊子が彼の刀の一点へと集束し、一触即発の、世界を滅ぼすかのような絶対的な一撃の構えが完成した。
「……ハル。お前、もう武器を出す霊圧、残ってねえだろ」
一護が僕の横に並び、肩で息をしながら漆黒の刀を構えた。
「あはは……。確かに、大斧を出す力はもう一滴も残ってないや。……でもさ、一護。俺の魂(恋慕断絶)は、お前の中にまだ残ってるよ」
僕は消滅した『恋慕断絶』の最後の残り香のような青い霊圧を、僕の左手から、一護の背中へとそっと流し込んだ。
「お前のその黒い刀に、俺の『倍返しの愛』を全部乗せた。……行け、一護。あのお堅いお兄さんの目を、完全に覚ましてやりなよ」
「……応よ! テメエの最悪な動機の霊圧、確かに受け取ったぜ、ハル!」
一護の天鎖斬月の周りに、黒い霊圧だけでなく、僕の青白い『恋慕断絶』のカウンターの光が混ざり合い、美しくも禍々しい「黒と青の二色」の炎となって激しく燃え盛った。
「――おおおおおおおおお!!!!」
「――朽木白哉ァアアアアア!!!!」
白哉が白銀の光の塊となって突撃し、一護が黒と青の炎を纏って地を蹴った。
二人の王者が、双殛の丘の真ん中で、文字通り閃光となって真っ正面から激突した。
キィィィィィィィィィィィィン!!!!!
音のない世界が、一瞬だけ訪れた。
次の瞬間、丘の上のすべての空気が爆発し、光の奔流が天を衝いた。
互いのすべてを懸けた、最後の一閃。
光が収まったとき、二人は背中合わせの状態で、静かに立ち尽くしていた。
一護の刀から、黒と青の炎がサラサラと消えていく。
そして白哉の背後で、あの巨大な白い翼『白帝剣』の光が、ガラスが割れるように美しく、粉々に砕け散った。
「……私の……負けだ……」
白哉の口から、静かな、しかし確かな敗北の言葉が漏れた。
彼は刀を鞘へと収めると、そのまま静かにその場に膝をついた。死神の掟を何よりも重んじていた男のプライドが、現世の二人の高校生の、真っ直ぐで不純な「想いの力」の前に、ついに完璧に打ち破られた瞬間だった。
「ルキアの処刑は……撤回させる……。お前たちの、勝ちだ……」
白哉のその言葉を聞いた瞬間、僕は緊張の糸が完全に切れ、仰向けにドサリと地面にひっくり返った。全身の痛みが一度に押し寄せてきて意識が飛びそうになる。
だけど、見上げた尸魂界の空は、現世の放課後と同じように、最高に綺麗な茜色に染まっていた。
「あはは……。やった、な……一護……」
「ああ……。やったぜ、ハル……」
隣で一護もドサリと倒れ込み、僕らはボロボロの体で、夕焼けの空に向かって拳を小さく突き出し、互いに不敵に笑い合うのだった。
しかし、この時の僕らはまだ知らなかった。ルキア救出という大目的を果たした直後、この瀞霊廷の歴史を根底から覆す、あの「眼鏡の隊長」による最悪の反逆劇が幕を開けようとしているなんて。