『BLEACH 〜煩悩代行・千堂遥の現世奮闘記〜』 作:トート
「おい一護、生きてるかー? 死んでたら織姫ちゃんは俺がもらうからなー!」
「死ねハル……! 誰が死ぬかよ……っ!」
浦原商店の地下、見渡す限り荒野が広がる広大な空間。
僕――千堂 遥(せんどう はる)は、全身傷だらけになりながら、同じくボロボロの一護と並んで地面に倒れ込んでいた。
白哉に死神の力の源である『鎖結(さけつ)』と『魄睡(はくすい)』を破壊されてから、数日。
僕らはルキアを救うため、浦原さんの用意した地獄の特訓に身を投じていた。一護が死神の力を取り戻すための決死の修行「絶望の坑(シャッタード・シャフト)」に挑む横で、僕は僕で、浦原さんの容赦ない猛攻を素手で受け流すという、頭のネジが外れたような戦闘訓練を課されていた。
「いや〜、お二人とも素晴らしい根性っすね。ですが、今のままでは瀞霊廷(せいれいてい)の門をくぐる前に塵(ちり)になっちゃいますよ?」
木刀を肩に担いだ浦原さんが、相変わらずへらへらとした笑みを浮かべて見下ろしてくる。
「うるさいな、浦原さん……。こっちはモチベーションだけで動いてんだよ。ソウル・ソサエティには、爆乳の死神さんとか、クールな女性死神さんが山ほどいるんだろ? 行かない理由がないじゃん」
「ハハ、相変わらず動機が最悪っすね。でも、その不純さがハルさんの霊圧を繋ぎ止めてるんだから面白い」
僕は寝転がったまま、浦原さんの足元にいる黒猫の夜一(よるいち)さんを見つめた。
「それよりさ、夜一さん。約束、覚えてるよね? 僕がこの修行を乗り越えたら、元の姿を拝ませてくれるってやつ」
黒猫の夜一さんは、琥珀(こはく)色の瞳を細めてクククと笑った。
「カカッ! 忘れてはおらんよ。瀕死のくせに女子(おなご)の心配とは、大した器じゃ。良い、おぬしがそこまで言うのなら、今ここで見せてやっても構わんぞ」
「え、マジで!?」
次の瞬間、黒猫の身体が激しい霊圧の光に包まれた。
光の中から現れたのは、しなやかな肢体を持った、褐色の肌に紫色の長い髪を揺らす、息を呑むほどに美しいとびきりのグラマラスな美女だった。しかも、なぜか服を一切着ていない。
「ぶふっーーーーーーー!!!(大量の鼻血)」
僕は文字通り、噴水のように鼻血を噴き出して後ろに吹っ飛んだ。
「なっ……! テメエ何脱いでんだよ夜一さん!!」
一護が顔を真っ赤にして叫び、慌てて目を背ける。
「カカッ! 減るもんじゃなし、何を慌てておる。ほれハル、約束通り妾(わらわ)の真の姿じゃ。じっくり拝むが良い」
夜一さんは悪戯っぽく笑いながら、堂々と僕の前にしゃがみ込んだ。鼻血を垂らしながら、僕は両手を合わせて拝む。
「神様仏様夜一様……! 美人だとは思ってたけど、想像の5億倍セクシーです……! よし、俺の嫁になれ――」
ドガッ!!!!
「あがはっ!?」
夜一さんの美しい生足から放たれた強烈なローキックが、僕の脇腹にクリーンヒットした。僕は荒野の岩石を3個ほど粉砕しながら転がっていく。
「ふん、口の減らん小僧じゃ。嫁になりたくば、妾を力でねじ伏せてみせよ」
夜一さんは浦原から手渡された上着を羽織り、不敵にニヤリと笑った。
痛い。骨にヒビが入った気がする。だけど、僕の胸の奥で、白哉にへし折られたはずの「何か」が、今までにないほど熱く、激しく脈打ち始めた。
(……そうだ。これだよ。俺の力は、女の子を守るため、そして女の子にモテるためにあるんだ……!)
白哉に壊された『鎖結』や『魄睡』なんて関係ない。
僕の魂そのものが、夜一さんの美しさに当てられて、強烈に叫んでいる。
『――フハハハ! くだらん、実にくだらん動機だ。だが……それでこそ我が主よ!』
頭の中に、地響きのような男の笑い声が響いた。
直後、僕の全身から、地面の岩を消し飛ばすほどの、青白く凶暴な霊圧が爆発的に噴き出した。あまりの霊圧の重さに、浦原さんの帽子が吹き飛び、夜一さんの目が見開かれる。
「ほう……? 折れた蛇口から、直接海を引きずり出してきたか」
浦原さんが扇子を広げ、初めて真剣な目を向けた。
「待っててね、ルキアちゃん、乱菊さん、卯ノ花さん、そして夜一さん……! 千堂遥、今ここで生まれ変わります!」
暴走する青い霊圧が、僕の手の中で急速に巨大な形を作り始めていく。
それは、かつての細身の直刀などではなかった。