『BLEACH 〜煩悩代行・千堂遥の現世奮闘記〜』   作:トート

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第4話:恋慕断絶(れんぼだんぜつ)

「おいおいおい、嘘だろ……。なんだよ、このふざけた霊圧の量は……!」

一護が、腰を抜かさんばかりの勢いで数歩後ずさり、目の前の光景に絶叫した。

浦原商店の広大な地下荒野。その中心で、僕――千堂 遥(せんどう はる)の全身から噴き出していた青白い霊圧は、すでに「柱」と呼べる領域を超え、地下空間の天井を激しく震わせる津波となって暴れ狂っていた。

白哉に死神の力の源である『鎖結(さけつ)』と『魄睡(はくすい)』を完全に破壊され、本来なら二度と霊力を練ることすらできないはずだった。

だが今、僕の魂の最奥にある「何か」が、人間の姿に戻った夜一さんのあまりの美しさとセクシーさに当てられ、強烈に、狂暴なまでに目を覚ましていた。

『女の子を守りたい』『女の子にモテたらいいな』。

その極限まで純化された僕の煩悩が、へし折られた死神の蛇口を強引にこじ開け、肉体の限界を超えるほどの霊圧を濁流のように引きずり出しているのだ。

「――っ! ハルさん、ちょっと霊圧を抑えてください! 空間が持ちませんよ!」

いつもへらへらしている浦原喜助が、被っていた帽子を風圧で飛ばされながら、初めて本気で焦ったような声を上げた。広げた扇子は強烈な霊圧の風に煽られ、今にも引きちぎられそうになっている。

だが、僕にはもう、自分の霊圧を制御することなんてできなかった。

なぜなら、暴走する青い光の渦の中心で、僕の脳内に「見たこともない、だけど僕の魂が本能的に求めて止ない巨大な知識」が、濁流となって直接流れ込んできていたからだ。

(あたまが……割れる……! なんだ、この知識は……!?)

それは、これから僕らが向かおうとしている死神の世界――『尸魂界(ソウル・ソサエティ)』の記憶だった。

いや、正確に言うなら、尸魂界に存在する『とびきりの美女死神たちの情報』だった。

頭の中に、鮮烈なイメージがフラッシュバックする。

金髪の妖艶な爆乳を揺らす、十番隊副隊長の女性――松本乱菊。

おっとりとした聖母の微笑みを浮かべ、編み込んだ黒髪を胸元に垂らす、四番隊隊長の女性――卯ノ花烈。

地肌に沿った黒髪ショートに、白い布で包まれた2本の長いお下げ髪をなびかせる、二番隊隊長の女性――砕蜂。

(……あ、あぁ……! そうか……! 僕の魂が、僕の刀が、彼女たちの存在を『探知』したんだ……!!)

僕の魂そのものであるこの能力は、僕の歪んだ、しかしどこまでも真っ直ぐな煩悩に呼応し、世界中の美女の霊圧を自動でマッピングする規格外の「美少女センサー」を内蔵していたのだ。

刀が、僕の頭の中でゲラゲラと下品に、しかし豪快に笑っている。

『我が主よ! 最高の戦場が、最高の女たちが、お前を待っているぞ! 蛇口なんて関係ねえ、呼び覚ませ、俺の本当の姿を!』

「待っててね、みんなぁあああああ!!!」

僕は、脳内に響く歓喜の声に合わせて、天に向かって拳を突き上げ、ありったけの声を張り上げた。

次の瞬間、僕の手の中で暴走していた青い霊圧が一気に凝縮され、パチパチと空間を火花が焼き焦がす。

「――『恋慕断絶(れんぼだんぜつ)』!!」

光が爆発した。

ドガアアアアアン! と激しい轟音が地下空間に響き渡り、視界が真っ白に染まる。

やがて、もうもうと立ち込める砂埃の向こうから、僕のシルエットがゆっくりと浮かび上がった。

「……おい、ハル。お前、それ……なんだよ、その姿……」

一護の、呆然とした声が聞こえる。

一護だけじゃない。羽織を器用に巻き付けた夜一さんも、扇子で顔を覆った浦原さんも、目を見開いて僕の手元を凝視していた。

僕の手の中にあったのは、かつて白哉に折られた、あの細身で美しい『直刀』ではなかった。

そこに鎮座していたのは、僕の身長の優に2倍はある、分厚く凶悪な鉄塊。

戦場にあるすべてを叩き潰すためだけに鋳造されたような、『超巨大な斧(バトルアックス)』だった。

鈍い銀色に輝く巨大な刃は、ただそこにあるだけで、周囲の地面を自重によってメキメキと陥没させている。細身の男子高校生である僕が持つには、あまりにもアンバランスで、あまりにも暴力的で、あまりにも重厚な、異形の武器。

「あはは……。出ちゃった。僕の新しい力」

僕は、地面に突き刺さっていたその巨大な斧の柄を片手で握ると、まるでおもちゃのプラスチックでも扱うかのように、片手でひょいと軽々と持ち上げてみせた。 miniature じみた動作で、そのまま肩にドン、と担ぐ。

「ハハ……。死神の力の源を壊されて、死神とは全く違う『魂の形』そのものを武器として具現化させましたか。おまけにその質量と霊圧……ハルさん、あなた本当に人間っすか?」

浦原さんが、落ちていた帽子を拾い上げながら、冷や汗交じりに苦笑した。

「失礼な。僕は恋に生きる純情な男子高校生だよ、浦原さん。……なぁ、夜一さん。僕、修行クリアでしょ? こんなにかっこいい武器、出しちゃったし」

ナンパな笑みを浮かべて夜一さんを振り返る。夜一さんはしばらく僕の巨大な斧を見つめていたが、やがてフッと不敵な笑みを漏らした。

「カカッ! 面白い、実に面白い小僧じゃ! 死神の掟で作られた斬魄刀(ざんぱくとう)ではなく、自らの煩悩の霊圧だけでそこまでの異形を形作るとはな。良い、合格じゃハル! その大斧、尸魂界の堅物どもに精々見せつけてやるが良い!」

「よっしゃあ!」

僕は巨大斧『恋慕断絶』を消滅させ、光の粒子として体内に戻すと、ガッツポーズを決めた。隣で一護が「お前、本当に動機がブレねえな……」と頭を抱えていたが、その瞳には、かつてない信頼の光が宿っていた。

数日後。地獄の修行を終えた僕らは、浦原商店の倉庫の地下に集まっていた。

そこには、僕と一護だけでなく、それぞれの方法で力を手に入れたクラスメイトたちの姿もあった。

「ハルくん! すごい、なんだか雰囲気が変わったね!」

井上織姫が、いつものふわふわとした笑顔で駆け寄ってくる。その胸元で、彼女の霊能力である「盾舜六花(しゅんろっか)」の髪ピンが微かに輝いていた。

「いや〜、井上さん! 会いたかったよ! 修行中、井上さんの笑顔だけが僕の心の支えだったんだ。ソウル・ソサエティから帰ったら、僕と結婚して――」

ゴッ!!!

「痛いっ!?」

お約束のように、背後から有沢たつきの鋭い正拳突きが僕のボディーに入……る寸前、僕は本能的に半歩横にズレてそれを完全に回避した。たつきの拳が、むなしく空を切る。

「……あら? あんた、本当に私の拳を避けるようになったわね」

たつきが悔しそうに拳を引く。僕はへらへらと笑った。

「あはは、言ったでしょ。たつきちゃんの愛の鞭のおかげだって。……たつきちゃん、僕、ルキアちゃんを絶対に連れ戻してくるから。井上さんのことも、僕が命に代えても守るよ」

いつになく真剣な目でそう告げると、たつきは一瞬だけ驚いたように目を見開いた後、ふいっと顔を赤くしてそっぽを向いた。

「……当たり前よ。あんたが織姫に怪我でもさせたら、帰ってきたときに今度こそ骨を折るからね」

「ハルさん、そろそろ時間っすよ」

浦原さんの声が響く。彼の後ろには、巨大な木製の門――現世と尸魂界を繋ぐ『穿界門(せん界門)』が、怪しい霊圧を放ちながら鎮座していた。

そこへ、白いマントを羽織った滅却師(クインシー)の生き残り・石田雨竜と、巨大な右腕の力を宿した茶渡泰虎(チャド)も合流する。一護は、死神の衣服である「死覇装(しはくしょう)」を纏い、背中にはあの巨大な大刀『斬月(ざんげつ)』を背負っていた。

「一護さん、ハルさん、織姫さん、茶渡さん、石田さん。門の中は『拘流(こうりゅう)』と呼ばれる霊子の大流が渦巻いています。夜一さんの誘導に従って、4分以内に駆け抜けてください。遅れれば、二度と戻れなくなります」

浦原さんの言葉に、全員の表情が引き締まる。

黒猫の姿に戻った夜一さんが、門の前にひらりと飛び乗った。

「行くぞ、おぬしら! 妾に遅れるなよ!」

ゴゴゴゴゴ……!

激しい音を立てて穿界門が開き、その向こう側に、どこまでも続く真っ白な光の通路――『断界(だんかい)』が姿を現した。

「よし……行くぞ、みんな!」

一護の掛け声と共に、チャド、石田、織姫が次々と光の中へと飛び込んでいく。

僕は最後に一護と視線を交わし、ニヤリと笑ってみせた。

「一護、どっちが先にルキアちゃんにカッコいいところを見せられるか、勝負だからな」

「ハン、負ける気はねえよ。行くぞ、ハル!」

僕らは同時に地面を強く蹴り、真っ白な光の世界へと身体を躍らせた。

背後で穿界門が閉じる音が響く。

失った力を超える、最強最悪の超巨大斧『恋慕断絶』を胸に秘め、千堂遥の、そして僕らの命懸けのルキア救出劇が、いま本当の意味で幕を開けた。

待っててね、ルキアちゃん。そして、僕の脳内に刻まれた、まだ見ぬ麗しの死神さんたち!

 

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