『BLEACH 〜煩悩代行・千堂遥の現世奮闘記〜』 作:トート
「うお、おおお、開けゴマぁああああ!!!」
真っ白な光が渦巻く断界(だんかい)を必死の形相で駆け抜け、僕――千堂 遥(せんどう はる)は、一護たちと共に光の出口へと勢いよく飛び出した。
直後、五感を狂わせるような強烈な重力が僕らの全身を襲う。
「ぶはっ!?」
「うわっととと!?」
僕らは派手な悲鳴を上げながら、空から真っ逆さまに地面へと落下した。ドササッと激しい砂埃が舞い上がり、背中と腰に鈍い衝撃が走る。
ゲホゲホと激しく咳き込みながら、僕はなんとか立ち上がり、学ランについた土を払った。
「ってて……。おい一護、生きてるか? 井上さんは無事!?」
「生きてるよハルくん! 茶渡くんが受け止めてくれたの!」
すぐ近くで織姫がいつもの暢気な声で元気に手を振っていた。見ると、茶渡泰虎(チャド)がその頑強な巨体で織姫を綺麗にお姫様抱っこして着地している。さすがチャド、現世の男子高校生とは思えないほどイケメンすぎる。
「おい、お前ら無事か!?」
オレンジ色の髪をクシャクシャにした一護が、背中の巨大な包丁――『斬月(ざんげつ)』を気にしながら立ち上がった。石田雨竜もメガネの位置を直しながら、周囲の環境を鋭い目で見回している。
僕らの前に広がっていたのは、現世の空座町とは全く異なる、江戸時代か何かを彷彿とさせる古い木造の家屋が延々と立ち並ぶ街並みだった。見上げる空は、まるで現世の秋晴れのような澄み切った青。
「ここが……ソウル・ソサエティ」
一護が息を呑む。
僕の胸の奥でも、あの浦原商店の地下で目覚めた『恋慕断絶(れんぼだんぜつ)』が、ドクドクと不気味に、しかし確かな歓喜に震えていた。
浦原商店の地下で覚醒した瞬間に、僕の魂の最奥にある高い美少女センサー……いわば「煩悩」が探知し、脳内に直接流れ込んできた世界の美女死神たちのデータ。
金髪爆乳の松本乱菊。聖母の微笑みを浮かべる卯ノ花烈。そして、黒髪ショートにお下げ髪をなびかせるクールな砕蜂。
(間違いない……。あの素晴らしい女性たちが、この世界のどこかにいる……!)
「よっしゃあああああ! 待っててねソウル・ソサエティの美女たち! 千堂遥、今会いに行きます!!」
僕が両手を天に突き上げて欲望の雄叫びを上げた、まさにその時だった。
「――おいおい。何だァ? 妙な格好のガキどもが空から落ちてきたと思えば、いきなり大声で吠えやがって」
周囲の家屋の屋根の上、そして薄暗い路地裏の影から、ぞろぞろと黒い衣服――『死覇装(しはくしょう)』を纏った男たちが姿を現した。その数、およそ二十数人。
全員が腰の刀をギラつかせ、下品な笑みを浮かべて僕らを完全に包囲している。
「こいつら、死神か……!?」
一護が即座に斬月の柄に手をかける。黒猫の姿に戻った夜一さんが、一護の肩の上で低く唸った。
「気をつけろ一護、遥。衣服の紋様から見るに、あやつらは護廷十三隊の中でも特に戦闘を好む『十一番隊』の下級隊士どもじゃ。旅禍(りょか)であるおぬしらを容赦なく斬る気満々じゃぞ」
「へえ、十一番隊ねぇ……」
僕はがっくりと肩を落としながら、一歩前に出た。男の死神ばかりで、僕が夢にまで見た美女が一人もいないことに、僕のテンションは一気にガタ落ちしていた。
「おいおい、そこのガキ。その薄汚い現世の服を血で染められたくなければ、大人しく首を差し出しな!」
一人の大柄な死神が、下卑た笑いを浮かべながら刀を振りかぶって突進してきた。
「一護、ここは俺がやるよ。美女がいない戦場なんて、一秒でも早く終わらせたいからさ」
「あ? おいハル、無理すんなよ!」
一護の制止を背中で聞き流しながら、僕は腰の何も無い空間へと静かに右手を伸ばした。
「――お前らの血で、戦場を飾りなよ」
僕が解号を口にした瞬間、僕の体内から青白く、凶暴な霊圧が爆発的に噴き出した。
ドオオオオオン!!!
ただ霊圧を放出しただけだというのに、周囲の空気そのものが重低音を立てて激しく軋み、襲いかかってきていた死神がその圧倒的な圧力だけで「ぶふっ!?」と前のめりに転倒した。
「――『恋慕断絶』!!」
眩い光が収まったとき、死神たちの下品な笑い声が完全に静まり返った。
僕の手の中に現れたのは、刀ではない。
僕の身長の2倍はあろうかという、肉厚で、凶悪なまでの威圧感を放つ『超巨大な斧(バトルアックス)』だった。
細身の男子高校生である僕が持つにはあまりにも不釣り合いな、戦場を破壊するためだけに作られたような鉄の塊。その自重だけで、足元の地面がメキメキと音を立てて蜘蛛の巣状に割れていく。
「な、なんだそのデカい斧は……!?]
「ハハッ、そんな大層なもん、見脅しに決まって――」
「見脅しじゃないんだよね、これが」
僕はニヤリと笑うと、片手でその巨大斧の柄を握り、ひょいと軽々と持ち上げてみせた。そして、そのまま右足を踏み出す。
「おい、お前ら。俺の恋路を邪魔する奴は、全員これで断絶(バラバラ)だ」
巨大な斧を両手で握り直し、思い切り横一文字にフルスイングした。
ズガアアアアアアン!!!!
刃が空気を切り裂いた瞬間、ただの「素振り」によって発生した凄まじい暴風と霊圧の衝撃波が、前方にいた死神たちの身体を紙切れのように虚空へと吹き飛ばした。
「ぎゃあああああ!?」
「な、なんだこの馬鹿力は……っ!?」
それだけではない。衝撃波はそのまま直進し、十一番隊の死神たちの背後にあった古い木造家屋を数軒まとめて粉々に消し飛ばした。
轟音と共に舞い上がる大量の木片と砂埃。
「あはは! 見た目によらず、俺の愛は重いんだよ!」
僕は巨大な斧を何事もなかったかのように肩にドンと担ぎ、意識を失って折り重なるように倒れた死神たちを見下ろした。
これこそが僕の始解『恋慕断絶』。ナンパで軽い僕の性格とは真逆の、すべてを力任せに粉砕する超重量級の破壊兵器だ。
「……は、ハルくん、すごーい! 大迫力だね!」
織姫が目を輝かせながらパチパチと拍手を送ってくれる。
「いや、ハル。お前さすがにやりすぎだろ、家まで壊してんじゃねえよ!」
一護が引きつった顔で猛烈なツッコミを入れてくる。石田雨竜も「やはり野蛮な男の武器は野蛮だな……」と呆れ顔だ。
「カカッ! 大したもんじゃ。死神の訓練も受けておらん人間が、これほどの質量をこれほど自在に振り回すとはな。合格じゃ、ハル!」
夜一さんが満足げに喉を鳴らす。
しかし、僕らが勝利の余韻に浸る暇もなく、遥か前方から、これまでとは比較にならないほど巨大で、重厚な霊圧が地響きを立てて接近してくるのを、僕の霊闎(れいかつ)が捉えた。
地平線の向こう、大きな土煙を上げながら、何かがこちらに向かって猛スピードで走ってくる。
「……ちっ、大物のお出ましみたいだね」
僕は巨大斧を構え直し、不敵に笑った。
美女を求めてやってきた尸魂界。どうやら、本当の歓迎式はここからのようだ。