『BLEACH 〜煩悩代行・千堂遥の現世奮闘記〜』 作:トート
地平線の向こうから猛烈な勢いで迫る巨大な土煙。
その中から姿を現したのは、人間とは到底思えないほどの巨体を誇る、巨大な門番――兕丹坊(じたんぼう)だった。
「ひえええええ!? で、でかーーーい!!」
織姫が目を丸くして叫ぶ。
「何だあいつは……! 門番か!?」
一護が『斬月(ざんげつ)』を構え、迎撃の体勢をとる。
だが、兕丹坊の巨大な斧による猛攻を、一護は持ち前の瞬発力と豪快な斬撃で見事に受け止め、逆にその怪力で兕丹坊を圧倒してのけた。戦闘狂の門番は、一護の強さと真っ直ぐな心意気に涙を流して感服し、なんと僕たちのために、瀞霊廷(せいれいてい)へと続く巨大な白道門(はくどうもん)を自らの手で持ち上げてくれたのだ。
「よし! 門が開いたぞ! 行くぞ、みんな!」
一護の掛け声と共に、僕らは開かれた門の向こうへ走り出そうとした。
しかし、そこに現れたのは、白い羽織をなびかせ、不気味な市松人形のような薄笑いを浮かべた男――三番隊隊長、市丸ギン(いちまる ぎん)だった。
「おやおや、困るなぁ。門番が旅禍(りょか)を通してもうたら、僕の仕事がなくなってまうがな」
市丸の放った『神鎗(しんそう)』の一撃は、音をも置き去りにする速度で兕丹坊の腕を切り裂き、僕たちを圧倒的な霊圧の壁ごと門の外へと文字通り押し流した。
ガガガガガアン!! と激しい音を立てて、巨大な白道門が再び閉じられる。
「くそっ……! なんだよあの狐目の死神は……! 隊長格ってのは、白哉の他にもあんなバケモノがゴロゴロいるのかよ!」
一護が地面を叩いて悔しがる。
「カカッ、言ったであろう。今のままで正面から突っ込んでも犬死にするだけじゃとな」
黒猫の姿の夜一さんが、僕らの前で静かに座り直した。
「正面突破が無理なら、裏の手を使うまでじゃ。……ハル、おぬし、先ほどから何をニヤニヤしておる?」
「え? いや、だってさ……」
僕は鼻血を袖で拭いながら、遠くの山を指差した。
「夜一さん、僕の『美少女センサー』が、あの山の麓からものすごーーーく上質で、ワイルドで、なおかつ凶暴なまでにグラマラスな女性の霊圧を感知してるんだよね。……早くそこに行こうよ、ねえ!」
「……やれやれ、相変わらずの男じゃな。だが、行き先としては正解じゃ。あやつなら、瀞霊廷への『別の侵入方法』を知っておる」
夜一さんの先導で、僕たちがたどり着いたのは、広大な荒野にそびえ立つ、奇妙な形をした屋敷だった。屋敷の屋根からは、なぜか巨大な「2本の腕」が空に向かって突き出している。
「何だこの悪趣味な家は……」
石田雨竜が眼鏡を押し上げながらドン引きしている。
「ここが、流魂街屈指の花火師にして最高峰の術者――志波空鶴(しば くうかく)の屋敷じゃ」
夜一さんがそう言った瞬間、屋敷の重い木製の扉がガラガラと勢いよく開いた。
「おい夜一ィ! 久しぶりじゃねえか! 妙なガキどもを連れて、うちの敷地をうろついてんのはどこのどいつだ!?」
煙管(キセル)をくわえ、白いサラシを胸元にきつく巻き付けた、圧倒的にスタイルの良い黒髪の女性が姿を現した。右腕は義手。片目を細め、見るからに勝ち気でワイルドなオーラを全身から放っている。
(キ、キターーーーーーーー!!!)
僕の脳内の美少女センサーが、狂ったように警報を鳴らす。
乱菊さんや卯ノ花さん、砕蜂さんとはまた違う、大人の色気とガキ大将のような男勝りな魅力が同居した極上の美女。それが志波空鶴だった。
「いや〜〜〜〜! 初めまして、空鶴お姉さん! 僕は現世から君を愛しにやってきた千堂遥です! そのサラシを今すぐ解いて僕の愛で包み直してあげたいな!!」
僕は出会い頭に、全力のナンパスマッシュを打ち込んだ。
「……あ?」
空鶴の美しい眉が、ピキリと不穏な音を立てて跳ね上がった。煙管をバサリと地面に投げ捨てる。
「おい、夜一。こいつが噂の『煩悩小僧』か?」
「うむ、見ての通りの大馬鹿者じゃ。精々、躾(しつけ)てやってくれ」
「夜一さん!? 見捨てないでよ! 僕はただ純粋な愛を――」
「――おいガキ、うちの敷地でその不純な口、二度と開けねえようにしてやるよ!!」
空鶴の凄まじい霊圧が爆発した。
彼女は義手の右腕を大きく振りかぶると、人間の限界を超えた速度で僕の顔面に猛烈なストレートを叩き込んできた。
「おっと!?」
僕は無意識に上半身を大きく仰け反らせ、空鶴の拳をわずか数ミリの差で避けた。ドガアン!! と、僕の頭があった背後の岩壁が、空鶴の拳の風圧だけで木っ端微塵に砕け散る。
「ほう……? 今の避けるか。じゃあ、これはどうだァ!」
空鶴の目が獰猛に輝き、今度は鋭い足払いが飛んでくる。
僕は巨大斧『恋慕断絶』を具現化させようとしたが、ここで武器を出したら完全に「夫婦喧嘩(妄想)」になってしまう。僕は身体を反転させ、瞬歩じみた速度で空鶴の猛攻を三度、四度とギリギリのところで回避し続けた。
「ハハハ! 空鶴お姉さん、怒った顔も最高にセクシーだけど、俺の身体能力を舐めないでほしいな!」
「チッ、すばしっこいガキだね! おい岩鷲(がんじゅ)! 手伝え!」
「応よ、姉貴ぃ!!」
屋敷の中から、イノシシに乗った大柄な男――志波岩鷲が突撃してきた。
「旅禍のガキめ! 流魂街の最高に硬い砂に埋めてやるぜ!」
「男はすっこんでろーーー!!!」
僕は担ぎ上げた超巨大な斧『恋慕断絶』を地面へと一気に振り下ろした。
ズガアアアアアアン!!!!
大斧の自重と僕の霊圧が叩きつけられた瞬間、岩鷲の乗ったイノシシの足元の地面が爆発したように陥没し、凄まじい衝撃波が岩鷲を吹き飛ばした。
「ぶべはっ!?」
岩鷲は哀れにも空中で一回転し、砂山へと頭から突き刺さった。
「岩鷲!! ……ふん、チャラチャラしてる割には、とんでもねえ馬鹿力じゃねえか。そのデカい斧、飾りじゃなさそうだな」
空鶴は動きを止め、ふっと不敵に笑って煙管を拾い上げた。
どうやら、僕の実力を最低限は認めてくれたらしい。僕は『恋慕断絶』を消滅させ、肩の力を抜いた。
「いや〜、僕の愛の重さが伝わって嬉しいよ、空鶴お姉さん。で、夜一さん。ここに来たってことは、やっぱり侵入方法があるんだよね?」
僕が話を戻すと、空鶴は煙管の煙をふぅと吐き出し、屋敷の奥を指差した。
「あるね。……うちの特製『花火大砲』を使って、瀞霊廷を覆う遮魂膜(しゃこんまく)の上空から、お前たちを弾丸として直接撃ち込むのさ」
「大砲の弾丸……!?」
一護が顔を引きつらせる。石田雨竜も「正気の沙汰じゃないな……」と頭を抱えた。
「ただし、遮魂膜を突破するには、お前たちの霊圧を一点に集中させて『霊珠核(れいじゅかく)』の結界を維持しなきゃならない。失敗すれば、お前らの身体は結界の摩擦で木っ端微塵だ。……おいハル、お前そのデカい斧の霊圧、ちゃんとコントロールできんだろうね?」
空鶴の鋭い視線が僕を射抜く。
「大丈夫大丈夫! 僕の霊圧は女の子のためにあるからね! 井上さんや空鶴お姉さんのためなら、完璧にコントロールしてみせるよ!」
「フン、言うねえ。気に入ったよ、その不純な度胸。――よしお前ら、処刑の日まで時間はねえ! さっさと大砲の訓練を始めるよ!」
こうして、空鶴の強烈なリーダーシップのもと、僕たちの「大砲強行突入」のための特訓が始まった。
だが、この時はまだ誰も予想していなかった。大砲から放たれた後、結界の空中分解によって、僕が夢にまで見た「あの爆乳の死神」の腕の中へと真っ逆さまに落ちていくことになるなんて。