『BLEACH 〜煩悩代行・千堂遥の現世奮闘記〜』 作:トート
「うおおおおお美人がいるぞソウル・ソサエティィィィィッ!!!」
白い瓦屋根を何枚か突き破り、激しい砂埃と瓦の破片を巻き上げながら、僕――千堂 遥(せんどう はる)は、とある平屋の敷地内へとド派手に墜落した。
背中と腰に強烈な痛みが走る。しかし、それ以上に僕の脳内美少女センサーは、すぐ目の前から漂ってくる甘く妖艶な霊圧を捉えてビンビンに狂い咲いていた。
「……あらあら? 遮魂膜(しゃこんまく)が破れたと思ったら、うちの道場に降ってきたのは現世の迷子かしら?」
砂埃の向こうから、鈴を転がすような、しかしどこか気だるげで色っぽい大人の女性の声が響いた。
ゲホゲホと咳き込みながら視線を上げると、そこには、まさに僕が浦原商店の地下で脳内に焼き付けた通りの『至高の光景』が広がっていた。
波打つ見事な金髪。
衣服の隙間からこぼれ落ちんばかりの、圧倒的な破壊力を秘めた豊かな胸元。
死覇装(しはくしょう)を妖艶に着崩し、縁側に腰掛けて、片手には呑みかけの酒瓶を提げている。
十番隊副隊長、松本乱菊(まつもと らんぎく)。
(本物だ……! 本物の爆乳死神さんだ……!! 画面、じゃなくて脳内イメージの500倍セクシーすぎる……っ!)
僕は一瞬で怪我の痛みなど忘れ去り、地べたに正座した状態から、滑り込むような勢いで彼女の足元へと五体投地(ごたいとうち)を決めた。
「キターーーーーーッ! 初めまして乱菊さん! 僕は現世からあなたをお嫁さんにするために落ちてきた千堂遥です! その豊かな胸に今すぐ僕の顔を埋めさせてください!!」
「……ぶっ!?」
乱菊さんは口に含んでいた酒を派手に吹き出した。
現世の服を着た生意気な旅禍(りょか)が落ちてきたと思えば、命乞いでも襲撃でもなく、出会い頭に全力のセクハラナンパを仕掛けてきたのだ。さすがの彼女もこんな人類は見たことがなかったらしい。
「あはは! あんた面白いわね。旅禍のくせに、あたしの胸に飛び込もうなんて、いい度胸じゃない」
乱菊さんはお腹を抱えてゲラゲラと笑った。豊満な果実がその動きに合わせて不健康なほどに揺れ動く。僕はその光景を網膜に焼き付けながら、心の中で「ソウル・ソサエティ万歳」と涙を流して感謝した。
しかし、乱菊さんの艶やかな瞳の奥に、一瞬で鋭く冷徹な死神の光が宿ったのを、僕の野生の勘は見逃さなかった。
「――でも、ごめんね。あたし、軽すぎる男は嫌いじゃないけど、瀞霊廷(せいれいてい)を脅かす犯罪者を見逃すほど優しくはないのよ」
シュルリ、と心地よい金属音が響く。
乱菊さんは腰の斬魄刀(ざんぱくとう)『灰猫(はいねこ)』をスラリと引き抜き、その切っ先を僕の鼻先に突きつけてきた。衣服から漂う甘い酒の香りが、一瞬でピリピリとした緊迫感のある霊圧の臭いへと塗り替えられる。
「大人しく捕まってくれる? それとも、ここで手足を落とされてから引きずられていく?」
「いや〜、乱菊さんの綺麗な手になら、縛られてどこへ連れて行かれても本望なんだけど……」
僕はへらへらと笑いながら立ち上がり、制服のズボンについた砂をパパッと払った。
「僕、仲間と一緒にルキアちゃんを助けに来たんだ。だから、こんなところで大人しく縄にかかるわけにはいかないんだよね」
「……へえ。言うじゃない」
乱菊さんの霊圧が、さらに一段階跳ね上がる。副隊長格の圧倒的な重圧が周囲の空気を歪ませる。
しかし、僕はもう、あの現世の雨の中で白哉にボコボコにされた無力な高校生ではなかった。
「――お前らの血で、戦場を飾りなよ」
僕が解号を口にした瞬間、僕の体内から青白く、凶暴な霊圧が爆発的に噴き出した。
ドオオオオオン!!!
ただ霊圧を放出しただけだというのに、十番隊道場の頑丈な木製の壁がメリメリと音を立てて軋み、周囲に転がっていた瓦の破片が重力を失ったように宙へと浮かび上がる。
「な……っ!? なによ、この霊圧の量は……!?」
乱菊さんの美しい顔が、驚愕に歪んだ。死神の掟で縛られた斬魄刀ではなく、僕の魂そのもの、つまり極限まで純化された煩悩から生み出される規格外のエネルギー。
「――『恋慕断絶(れんぼだんぜつ)』!!」
眩い光と共に、僕の手の中に現れたのは、細身の刀ではない。
僕の身長の2倍はあろうかという、肉厚で、凶悪なまでの威圧感を放つ『超巨大な斧(バトルアックス)』だった。
鈍い銀色に輝く巨大な刃が、道場の床にドン、と置かれる。その凄まじい自重だけで、十番隊の床板がメキメキと音を立てて粉々に砕け散った。
「な、何そのデカい斧……! あんた、本当に人間なの……!?」
乱菊さんは、僕の細身の体躯と、僕が肩に担ぎ上げた異形の巨大斧を見比べながら、完全に息を呑んでいた。
「あはは! 見た目によらず、俺の愛は重いんだよ、乱菊さん!」
僕はニヤリと笑うと、巨大斧『恋慕断絶』を構え、不敵に足を踏み出した。
憧れの爆乳副隊長との、夢にまで見た最初の逢瀬。しかしそれは、互いの信念とプライドを賭けた、激しい激突の幕開けでもあった。