なにってただ転移魔法で一定距離保ちつつ狙撃してるだけだが? 作:ソゲキ
俺――
ダンジョンタイプは『砂漠』。砂嵐が吹かなければ見通しはいいが、足場はやや悪い。
武器は手に狙撃銃が一丁のみ。
ダンジョンができるまでは日本では銃が規制されていたが、魔力という超パワーの台頭によって銃規制はかなり緩和され、今では所持することは難しくない。
100mほどの距離を空けて、砂色の肌を持った人型の魔獣が10匹ほどこちらに向かってきている。
ゴブリンの近縁種で『砂漠ゴブリン』と呼ばれる魔獣だ。
俺はその先頭を走る鉈のような武器を持ったゴブリンに向かって、スナイパーライフルの引き金を引く。
何故俺がこんなモノローグに浸っているかというと、多分俺は今日死ぬからだ。
現代ダンジョン戦闘において銃は廃れている。
数百年に渡り最強の武器として君臨してきたそれは、【魔力障壁】と呼ばれる魔獣の基礎的な能力に阻まれた。
魔力を持つ肉体は、自然とそれが皮膚に纏われ魔力を持たない攻撃に対して防弾ベスト以上の耐性を持つ。
例えば、最下級と呼ばれる『ゴブリン』を拳銃で殺そうとする場合、最低で5発の銃弾が必要になると言われていた。
数十年前に出現したダンジョンに巣くう魔獣。
魔力という力を得た人類。
どちらに対しても、銃は有効な武器ではなくなった。
銃身に魔力を込めて殴った方が強い。銃なんて撃つくらいなら石でも投げろ。それが現代の銃の立ち位置だ。
昔は銃弾に魔力を付与する研究もされていたようだが、銃弾という小型の物体に魔力障壁に対して有効なほどの量の魔力を付与するのは難しかった。
では、現代ダンジョン戦闘において最有力の力とはなにか?
それは【魔法】である。
魔力によって超自然的な現象を引き起こす技術の総称。
魔力で引き起こされているわけだから、魔力障壁に対する効果は極めて高い。
近接戦闘を主戦場にする者たちに関しても、魔法によって造り出した武器や、それなりの質量がある物品に対して魔法を付与することによって魔力障壁に対する有効性を確保することが可能だった。
では、どうして俺は今、銃なんて産廃武器を持ってダンジョンに来ているかというと、探索者学校での成績が悪すぎて就職できなかったからだ。
探索者学校。そこでは探索者志望のヤツらは魔法を覚え、磨く。
俺は大学まで行った。
けど、俺には攻撃魔法の才能が壊滅的に存在しなかった。
攻撃力のある現象や物質、例えば炎や剣なんかを呼び出す召喚術。
肉体や武器など既存の品に魔力を流し、その性質をグレードアップさせる付与術。
魔法は大まかにこの二つに分類されるが、俺の場合は召喚術のある特定分野以外の才能はほぼなかった。
中学、高校、大学と焦りは増していった。
そして、大学卒業生の中で俺だけがどのギルドにも一切スカウトされなかった時、俺は自分の人生を呪った。
だから俺は今、銃なんて武器を持ってここに立っている。
親父がミリタリー好きで銃の扱いは何度か習ったことがある。
スナイパーライフルの立ち撃ちは結構難しいが、この銃の有効射程は1km弱あるし200m程度の距離の相手に命中させるのは簡単だ。
引き金を引くと同時に、パン、と乾いた破裂音がする。
とはいえ、銃弾じゃゴブリンの魔力障壁を貫通できない。
ゴブリンにとっては軽い投石くらいの威力でしかないはずだ。
証拠に、頭部に命中させたゴブリンは倒れることすらせずに前進してくる。
パン、パン、パン、と乾いた破裂音が一定のリズムで連続する。
しかし、装弾数である8発を撃ち尽くしても、1匹目のゴブリンすら倒せなかった。
逆にゴブリンとの距離はどんどん短くなっていく。
このまま奴らの武器が届く距離まで接近されれば、俺は袋叩きにされて死ぬ。
付与術の基礎、身体強化すら俺は最低辺の成績しかない。
だから俺は、俺の使える唯一の魔法を使う。
「テレポート」
簡易詠唱と共に視界が一瞬で切り替わる。とは言っても砂漠の景色に代わりないが、ゴブリンとの距離はまた100mほど開いていた。
俺が使える唯一の魔法……それは自分自身を別の場所に呼び出す召喚術。いわゆる、【転移魔法】である。
とはいえ、この魔法にはいくつか制約がある。
まず距離の制約。俺の場合は200m以上の転移を行うと魔力消費量が激増する。だから長距離の移動には使えない。
次に連続発動の制約。転移は1度行ってから5秒の再使用不可能時間がある。
だから、目まぐるしく状況が変化するような高速戦闘中に使用するのは不可能だ。
遠距離戦でも近距離戦でも、この5秒のラグは致命的と言える。
それでも転移魔法をこの練度で使える人間はそんなにいない。
俺にも一応才能はあったってことだろう。
だが惜しむべくは、それをどれだけ極めたとしても現代ダンジョン戦闘において、転移魔法使いの居場所はないってことくらいか。
そんなことをずっと考えていた人生だった。
自分の価値。評価。居場所。藻掻いて探して足掻いた。
面接も実技試験も受けまくった。
けど、結局、俺を雇ってくれるギルドは存在しなかった。
何者かになりたい。
そんな思いだけの空っぽが残った。
もうどうでもいい。
どうせうだつの上がらない人生を歩むしかないのなら、ここで全部を使ってやろう。
探索者として死んでやろう。
そう思ったから俺はここにいて、今銃を撃っている。
銃弾を撃ち、転移で距離を取り、リロードする。
それを繰り返す内は無心になれた気がした。
子供の頃の夢を裏切った俺を、なにも成し遂げられない俺を、才能を持たなかった俺を……今は忘れられた。
「テレポート」
パン、パン……
銃弾を10発ほど使ったところで、先頭の砂漠ゴブリンが倒れる。
「おぉ、俺でも一匹くらいは仕留められるもんなんだな……」
軽い投石くらいのダメージだとしても、多少のダメージはあるのなら撃ち続ければ殺せるのは道理か。
まぁしかし、ライフルで撃ってるのにゴブリン一匹殺すのに10発もかかるんじゃ誰も銃を使わなくなるのは納得だな。
俺と同じ新卒でも、ゴブリンくらいなら一撃で仕留められるヤツばっかりだったし。
あぁ、もう考えるのはよそう。
俺はスナイパーライフルの引き金を引き続ける……
「テレポート」
パン、パン、パン、パン、パン……
「テレポート」
パン、パン、パン、パン、パン……
「テレポート」
パン、パン、パン、パン、パン……
「テレポート」
パン、パン、パン、パン、パン……
「テレポート」
パン、パン、パン、パン、パン……
銃弾は死ぬほど大量に持ってきた。
尽きることはないだろう。
転移魔法は得意中の得意、というかそれ以外の魔法がすべて苦手だ。
200m以内の転移なら消費魔力はほとんどないみたいなもの。このペースなら10時間くらいはぶっ通しでいける。
俺はここでどうせ死ぬ。
だったら最後くらいちょっとでも探索者らしく……
パタリ――と、2匹目のゴブリンが倒れた。
あれ……
3匹目が死ぬ。
ん……?
4匹目が絶命。
なんか……
5匹目……6匹目……7匹目……
倒せてるくね?
「8……9……」
最後のゴブリンが地に伏せ、その絶命を知らせるように体が魔力の粒子になって霧散する。
それはダンジョンから発生した魔獣の魔力がダンジョンに再吸収される現象だ。
「10」
その場には発生の核となった魔石だけが残る。
俺は10匹分の魔石を回収し……そのまま帰宅した……
途中、買取所によって魔石を売却すると3000円程度の報酬が得られた。
独り暮らしのアパートに帰り、コンビニで買った弁当を食い、ゴールデンのお笑い番組を見て、布団に入り……俺は思った。
「あれ、なんか……思ったよりやれるくね?」