なにってただ転移魔法で一定距離保ちつつ狙撃してるだけだが?   作:ソゲキ

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 朝起きて冷静になった俺はさすがに日給3000円じゃ生きていけないという現実的な問題に行き詰った。

 

 ゴブリンの魔石が1個300円。倒すのに昨日は2時間近くかかった。

 それに使った弾丸の数を数えれば、収支はむしろマイナスだ。

 

 大学を卒業した以上、奨学金もないし、親からの仕送りに頼ってまで生きる気もない。

 

 探索者になれないなら死んだ方がマシだ。

 そう思えたこと自体が、俺をやる気にさせた。

 俺は今、死ぬ気で生きようとしている。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ダンジョンとは50年ほど昔に発見された異世界の総称だ。

 ある天才科学者の手によって異世界に繋がる扉が開発され、その機械に入力する数値を変化させるとこれまた別の世界に繋がったのだとか。

 

 空間には際限があり、この世界のように無限に続いているわけではない。

 ただ、魔法を含めた法則はどの世界も共通している。

 

 そのダンジョンの扉を造る装置を管理し、『探索者資格』を持つ人間の職場とも呼べる施設、ダンジョンゲートステーション――略してDGSは日本全国に存在する。

 

 俺の家から徒歩10分くらいのところにもあるから、そこにある機械の扉に目的となるダンジョンの番号を入力し扉を潜ればそこはすでにダンジョンの中だった。

 

 

 

 やって来たのはBランクダンジョン『猪人(オーク)の草原』。

 名前の通り、オークと呼ばれる魔獣が出現する草原タイプのダンジョンだ。

 

 俺の転移魔法の発動条件は転移地点の目視だから、開けた場所じゃないと使い難い。

 

 それとオークの魔石はゴブリンの魔石とは桁違いの価値がある。なんとその取引価格は5万円だ。

 まぁゴブリンはEランクモンスターで、オークはその4段階上のBランクだから妥当な価格設定だ。

 俺の使っているライフルの弾丸は1発200円だから、250発以内に倒せれば収支はプラスになる。

 

 昨日の砂漠ゴブリンは仕留めるのに10発ほど必要だったが、オークはどうだろうか。

 まぁ、銃でオークを倒したなんて記録はネットを探してもなかったし、実験してみるしかない。

 

「さて、やってみるか……」

 

 オークはすぐに見つかった。猪のような牙に野獣のような顔つき。浅い緑の肌。豚の体脂肪率は15%程度しかなく、それと近い遺伝子を持つオークの筋肉質な肉体美はボディビルダー並みに迫力がある。

 

 距離は200m弱。単独だ。

 あっちも俺を捕捉したらしい。

 

 斧のような武器を構えてこっちに走ってくる。

 オークの速度の記載はネットにあった。

 武器を捨てて全力疾走した場合、100mは約8秒。

 

 要するに俺の転移範囲である200mを走り切るのに必要な時間は16秒程度。

 転移の再使用までの時間は5秒だから、理論上、俺は攻撃を食らうことはない。

 

 火薬の破裂する音が連続する。硝煙の匂いがどんどん強くなっていく。

 放たれた弾丸はたしかにオークに命中している。

 いかなモンスターであっても音速に匹敵するスナイパーライフルを回避するなんて芸当は不可能だ。

 

 だが、銃弾はその肉体に弾かれていて、内部を抉るには至らない。

 しかし、俺は知っている。この銃弾はゴブリンを倒せたのだから、魔力障壁に対して完全な無力というわけではない。

 

 オークに対してデコピン程度の威力しかなかったとしても、それをずっと繰り返していれば皮膚も裂けるし骨も折れる。最終的には命を奪うに足る。

 

「テレポート」

 

 距離を取り、銃弾を撃つ。

 撃って撃って撃って、転移して、撃って撃って撃って、転移して……繰り返す。何度も、何度でも。

 

「20、21、22」

 

 今回はオークが何発で倒れるのかの計測も含めている。

 数を口に出しながら引き金を引いていく。

 

「23、24、にじゅう……ご……」

 

 そう呟くと同時にオークが倒れ、さらに5発撃ち込むと、オークは魔力となって霧散していく。

 30発か。弾薬費用は6000円だから、単純に計算すれば収益は4万4000円。めちゃくちゃプラスだ。

 

 だが、そんなことよりも、誰にも必要とされなかった俺がBランクの魔獣を……中堅の探索者が5、6人で討伐するような相手を単独で倒した。

 

 その嬉しさが先に来た。

 大学を卒業して一週間も経たずにBランクを討伐したのなんてそんなにいないはずだ。

 実は、俺って結構すごいんじゃ……

 

 なんて思っていたのも束の間。

 オークの死骸から出た粒子を掻き分けて、別のオークが姿を現す。

 しかも1匹じゃない。30匹くらいいる……

 

 そうか、移動しすぎてるんだ。

 だから周りにいたオークに捕捉された。

 一応転移先に別の魔獣がいないかは確認して跳躍しているが、あれだけオークを走らせれば周りのオークが異変を感じても不思議はない。

 

 昨日の砂漠は、高低差が結構あったから群れが拡大しなかっただけで、平坦な草原でこの戦法を取るとこうなるらしい。

 学びだな。

 

 とはいえ、問題はなにもない。

 草原とはいえ木々も生えている。

 その裏に転移するだけでオークは俺を見失う。

 

 逃げるだけなら転移は最強の魔法だ。

 

 それに、次からは相手の裏に転移したり、円を描くような転移にすれば群れの拡大もある程度抑えられるだろう。

 初見だからミスっただけで、対策は簡単だ。

 

 それから俺はオークの魔石を5個ほど確保してから、ダンジョンから出た。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 DGSに戻って来て、銃を施設内のロッカーに預けた俺はその足で買取所に向かおうとしたが、DGSのエントランスで一人の女探索者と目が合った。

 

「あれ、鳴海(なるみ)くんじゃん」

「おぉ、真白か……」

 

 金髪のショートヘアに中学生に間違えられそうな華奢な体躯。彼女は篠崎真白(しのざきましろ)。高校大学と一緒に通っていた友人だ。

 まぁ、同じ大学の卒業生なんだから同じDGSを使ってるのは当然か。

 

「鳴海くんなにしてるの? ギルド決まったの?」

「いや、結局どこにも入れなかったからソロで活動することにしたんだ」

「ソロ……? え、なにそれウケる」

 

 そう言った真白の近くには、他に4人の男女が立っている。

 多分同じギルドのパーティーメンバーなんだろう。

 

「ソロなんて安全性皆無でしょ? そこまでして探索者になる必要なんてある? 私が鳴海くんくらい才能なかったらすぐ辞めちゃうけどなぁ~」

 

 妥当な判断だ。責める余地もない。そうするべきだ。

 でも、俺はそれより死んだ方がマシだったってだけ。おかしいのは俺の方だ。

 

 だから言い返す言葉はなかった。

 

「おい真白、学友と言っても少しは言葉を選べ」

「だって、本当のことじゃないですか。それに私は心配してるんですよ」

「だとしてもだ。鳴海くんと言ったか、うちのが失礼した」

 

 そう言って真白を抑えてくれたのは、30歳くらいの男性だった。

 偉丈夫という言葉が相応しい体付きで、威圧感がある。1m80cmくらいありそうだ。

 

「いえ、別にいいですよ」

「ほら、鳴海くんだってきっと辞める理由探してるところなんですよ。だから誰かが言ってあげないと」

「真白も気遣いどうも。けど俺は今のところ探索者をやめる気はないから」

「……へぇ。じゃあ死なないように気を付けてね。この歳で同級生のお葬式なんて行きたくないし」

「わかってるよ」

 

 安全性に気を遣っている。本当に気を遣い過ぎなくらい。

 

「私たちは今日Cランクの魔獣12匹と、Bランクの魔獣を2匹倒した。5等分しても1人当たりの日給は多分3~4万くらいはいくんじゃないかな」

 

 俺以外にもBランクを倒してるヤツが同級生にいるのは素直に驚きだ。

 まぁ、真白は学生時代から探索の成績はぶっちぎりのトップだったから不思議はない。

 

「すごいな」

「すごいとかじゃなくてさ、ちゃんと自分と比べて続けるかどうか考えた方がいいよって言ってるんだよ」

「あぁ、俺は続けるよ。ありがとう」

「……話噛み合わないね。もういいや、じゃあまたね」

「おう」

 

 

 真白と別れた俺は換金所に行き、オークの魔石5つ分の代金、25万の報酬を受け取った。

 使った弾薬分を差し引いても、22万の利益だった。

 

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