英雄の誕生まで駆け抜けて   作:アベンチュリン

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二十五話 新しい冒険

 祝賀会から一夜明けた。

 祝賀会で言ったように俺とベルは装備を購入するために『バベル』にある武具の専門店にいた。ベルは『兎鎧(ピョンキチ)Ⅱ』を求めて【へファイストス・ファミリア】へ、俺は適当な店を物色していた。

 

『何でっ……あんなっ……!』

 

 不意に聞こえたのはファンサービスの人の声、頼んだぞベル、ヴェルフ・クロッゾをパーティに引き入れるのはお前に任せた!

 俺は俺で装備を──。

 

「こ、これは‼︎」

 

 二度あることは三度ある。装備の物色に視線を戻した俺の目に映ったのは漆黒のコート、それも2種類。どうやら今度も素材が違うようで『刺突耐性』と『打撃耐性』らしい。ワイヴァーンとの戦いでボロボロになったローブの代わりにちょうどいい、しかも2着セットで買うと24000ヴァリスのところをえ20000ヴァリスに割引してくれるらしい。

 

「……買ったぁ!」

 

 

 ♢

 

 

「やってきたぜ、11階層!」

 

 装備を整えた翌日、俺達はベルと契約を結んだヴェルフ・クロッゾをパーティに加えて11階層に居た。ベルが身につけている新品同然の鎧を見る限り、やはりベルはモノで買収されたらしい。

 

「……新しいお仲間が増えたと聞いてみれば、なーんですか、ただベル様はモノで釣られて買収されただけではありませんか」

 

 不機嫌そうな声を発するのはリリだ。『遠征』でヴァリスに目が眩んで迷宮真珠(アンダー・パール)を採取させる君も人のこと言えないぞ。時系列的にずっと先の話だから言わないけどさ。

 

「別にいいだろリリ、冒険者にとって自分のために武具を作ってくれる鍛治師(スミス)は喉から手が出るほど欲しい存在なんだから。それにほら、2対1だ」

 

 元よりヴェルフがパーティに加わるのを断るつもりは無かった。昨日の夜、拠点(ホーム)でベルに事情を聞いた時点で俺はそれに頷いている。

 

「それでもです!コウスケ様もおっしゃっていたではないですか。前衛のパーティメンバーが欲しい、と。それなのに、この誰とも知らない鍛治師(スミス)の方は『アビリティを獲得するまでの間だけ』の完璧な臨時のパーティ要員じゃないですか⁉︎ 一歩進んですぐ後退してどうするんですか⁉︎全く不毛です! ええっ、全くもってお先が真っ暗です‼︎」

 

 リリがここまで盛大にむくれているのはヘスティアにベルのことを頼まれたから、というのもあるのだろうが、きっとそれ以上に別のモノがある。

 仕方がない。

 

「リリ、ちょっと」

 

 リリの耳元まで口を運び、ベルに聴こえないように囁く。

 

「逆に考えるんだ。これでもうベルの周りに女性の鍛治師が近づく余地が無くなったってな」

「‼︎……それならまあ、仕方ありませんね。……それでベル様、この方は一体どなたなのですか?」

「ああリリ、今更だけど紹介するよ。昨日話したコウスケさんにも改めて。この人はヴェルフ・クロッゾさん。【へファイストス・ファミリア】の鍛治師(スミス)なんだ」

 

「クロッゾっ?」

 

 ヴェルフの名を耳にした瞬間、リリは弾かれるように振り返った。

 

『クロッゾ』それは精霊を助け、その血を分け与えられたとある鍛治師の男が名乗った名であり、その男を初代とする一族が継いできた名前でもある。

 そのクロッゾの一族が初代から連綿と受け継いできた血の副産物こそ『海を焼き払った』とまで伝えられる出鱈目(でたらめ)な威力の魔剣なのである。

 

「……ま、今はそんなこと、どうでもいいだろ? よろしくな、コウスケにチビスケ」

「……ああ、よろしくなヴェルフ」

「チビではありません! リリにはリリルカ・アーデという名前があります!」

「そうか。じゃあよろしくなリリスケ」

「……もういいですっ、構うだけ無駄ですね!」

 

 ほぼ原作通りの流れでリリがベルに鍛治貴族(クロッゾ)についての説明を終えたその時だった。ビキリ、という音が鳴った。既に聴き慣れたそれは、ダンジョンからモンスターが産まれ落ちる際のものだ。

 

「う、わっ……!」

「……でけえな」

「『オーク』、ですね」

 

 それぞれが異なる反応をする俺達の視線の先で、ダンジョンの壁が罅割れ、破れる。

 24階層の苗花(プラント)と比べればそこまでではないが、巨体が壁を破る光景は圧巻だった。

 もちろんそれで終わり、ではない。連鎖するように、周囲から同じ様にビキリ、と鳴り響き、四方八方、ルームの壁を一斉にモンスター達が突き破ってきた。

 

「……これがあるから10階層からは怖ぇよな」

 

 10階層以降の階層で発生する『怪物の宴(モンスター・パーティー)』、と言われることもあるこの現象に遭遇してしまえば、普段相手にしている数を大幅に超える数のモンスター達を相手にする事になる。特に、今回のように『ルーム』の中心にいる時に出くわせば、一瞬で包囲されるハメになるのだ。

 

「まぁ、そこまで悲観することはないでしょう。幸いこのルームでは霧は発生しませんし、面積も広いです。すぐに囲まれる心配はありませんし、いざとなれば10階層に引き返せます」

「【我が手に降れ】──【スペルズ・マギナ】」

 

 落ち着いて詠唱(うた)を紡いで万能の召喚魔法を発動する。どうやら俺は何度か死にかけたおかげで、かなり肝が据わってしまったようだ。

 

「よし、オークは俺に任せろ」

「えっ、いいんですか?」

「むしろ大歓迎だろ? 動きはトロイし的はでかい。俺の腕でも楽勝に当てられる」

「よし、リリはヴェルフの援護を任せてもいいか?ベルと俺は自由に動いて身体の調子を確かめたい」

「……分かりました。クロッゾ様の援護はリリにお任せください。正直に言えば、時折こちらを気にかけてくれると助かりますが」

「……その名前で呼ばないでくれ、リリスケ」

 

 パーティの動きを簡単に確認して俺達はそれぞれがモンスターを迎えうつ。さぁて! 景気良く行こうじゃないか!

 

『ヒィエ!』『ヒッギャ!』

 既に集団を作っているインプ達のもとへと草原を駆けるベルを見送りながら、俺は魔法を行使する。目標はインプの先にいる上層最硬のモンスター『ハードアーマード』だ。

 

「【福音(ゴスペル)】──【サタナス・ヴェーリオン】」

 

 魔法円(マジックサークル)が展開され、鳴り響くのは低重音、衝撃波すら生み出すその爆音をその身に受けたハードアーマードは、断末魔をあげることすら許されない。

 

『──、』

 

 爆裂。汚い花火となったハードアーマードに、ほとんどの視線が釘付けになった。

 

『『『『『────ヒェ?』』』』』

「「「…………………えっ」」」

 

 上層で最硬の防御力を誇るモンスターでコレだ。ベル達の反応も無理は無い。

 

「【サタナス・ヴェーリオン】」

 

異界摂理(アカシック・イデア)】の効果を確かめるために、今度は詠唱を破棄して魔法を行使する。

 

『ギゴォッ!?』

 

 次の犠牲者は『シルバーバッグ』。ベルが【怪物祭(モンスターフィリア)】で戦い、苦戦した相手も、Lv.2になった今なら簡単に倒せる。

 よし、威力も射程も落ちていたが問題無い。元々の魔法が強いだけかもしれないが、おそらく中層でも通用する威力だ。

 

「ベル、リリ、ヴェルフ!ボーッとしてると全部俺が倒しちまうぞ!」

 

 弾かれたように動き出したベル達を見て俺も残りのモンスターへ向かって駆ける。まだまだこれからだから。

 

 

「──クシュンッ!」

「聞いていますか⁉︎コウスケ様、魔石の回収はリリがやります。サポーターの仕事を取らないでください!と言うか、ベル様達のように休憩してください。サポーターが魔石を回収している間に身体を休ませるのは冒険者の義務です!」

 

 ──確かに。

 

 Lv.2になって上層に敵は居なくなったとはいえここはダンジョン、何が起きるか分からない世界だ。休息は取れる間に取るのが冒険者の義務というリリの言葉は反論しようの無い正論だった。

 

「二人ともおつかれさま。リリに休めって追い払われちゃった」

 

 話をしているベルとヴェルフに合流する。

 

「あ、コウスケさん。今ちょうどヴェルフさんとコウスケさんの視野が広いって話をしてたんです」

 

 さっきのくしゃみはそれか。

 俺の視野が広い、と言うのは実際その通りだ。『戦いの野(フォールクヴァング)』でリンチされ続けた俺の身体は過酷な戦場に慣れるように、あるいは対応できるように知覚できる範囲が広くなっている。

 

「あれ、そうなの? ところで、他の人達も増えてきたし、狩り場を移そうか?」

「うーん、そうですね………………………………どうせなら、ここで昼食取りましょうか? 沢山の人達がいるから、モンスターを警戒することも無いでしょうし」

「なるほどな、ただ場を譲るのも癪だし、利用させてもらうか。いいぞ、俺は賛成だ」

「俺も賛成。リリが戻ってきたら少し早い昼食にしよう」

 

 少し考える様子を見せたベルが出した答えは少し強かなものだった。まあ、冒険者たるものこれぐらいずうずうしくないとやってられないよネ。

 

 ……たった今ルームに視線を巡らせているベルは自分のスキルについて思い出しただろうか?

英雄願望(アルゴノゥト)】。英雄に憧れた少年が、英雄になるための切符。

 正直ちょっとうらやましい。【英雄願望(アルゴノゥト)】みたいな()()()でこっ恥ずかしい名前はいらないが、チャージ実行権にどうしようもなく浪漫を感じてしまうのだ。

 

「……おい、ベル。それ、何だ?」

「「!」」

 

 気づけばベルの右手で白い光の粒が明滅していた。

 

「「「……」」」

 

 リン、リン、と高くか細い音が鳴る中で、俺たちは顔を見合わせる。

 

「……ベル、それがお前のスキルなんじゃないか?」

「え?」

 

 ベルが戸惑いの声を上げた──その直後だった。

 

「────オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎」

 

 耳を(ろう)するほどの、凄まじい猛り声が轟いたのは。

 

「「っ⁉︎」」

 

 ルームにいる冒険者達全員が驚愕の眼差しをその方向一点──他の地帯(エリア)へと繋がる通路口の一つ──に差し向けた。

 

「『インファント・ドラゴン』……⁉︎」

 

 名も知らぬ冒険者の声が響く。

 それは11、12階層に出現する絶対数の少ない稀少種(レアモンスター)

 そして『迷宮の孤王(モンスターレックス)』が存在しない上層における事実上の階層主だ。

 

「ベル、ベルッ‼︎」

 

 茫然自失としているベルを再起動させて走らせる。

 

「ベル!そのまま魔法を使え!」

「ッ【ファイアボルト】‼︎」

 

 次の瞬間。

 全ての音が消えた。

 

「──────」

 

 ベルの右手で光輝が弾け、チャージによって増幅された炎の(いかづち)が、巨獣のような激音と共にインファント・ドラゴンへと爆進する。

 小竜は炎雷を認識する間も無く、撃ち抜かれて倒れ伏す。

 

「…………」

 

 静寂がルームを支配した。

 俺を除く全ての冒険者達の視線が、ベルのもとへと集まる。驚愕と戦慄と……敵意。ちょっと待て、驚愕と戦慄は分かるが、敵意はなんだ? ケンカ売ってるのか?

 

 

 ダンジョン探索が長引いた事で生じた遅れを取り戻すように、準備に集中し、ほどなくして食卓を囲んだ。

 

「へ〜、じゃあその鍛治師(スミス)君はいい子そうじゃないか」

「はい。すごい気さくで何だか頼りがいがあるんです。まるでコウスケさんが二人になったみたいで……」

「はははっ、確かにコウスケ君が二人もいれば安心だね。でも、厄介ごとに巻き込まれる数も2倍になりそうだ」

「それはどういう意味だ?」

 

 別に俺だって好きで巻き込まれておるわけではないのだ。え?【ロキ・ファミリア】の前で原作知識を使った意味深ムーブしてたのが悪い? ……ごもっとも。

 

「うんそんなに人が良くて、男の子なら何も問題無いな。ボクも諸手を上げて歓迎するよ。ベル君、コウスケ君、その子を逃しちゃダメだぜ?」

「ああ、今のパーティは三人一組(スリーマンセル)を組めて、バランスが良いからな」

「それにっ、何て言ったってヴェルフさんは鍛治師(スミス)ですし! できればずっと居て欲しいんですけど……」

「そうだね、何としてでも捕まえておくんだ」

 

 にこりと清々しいくらいのアルカイックスマイルを浮かべるヘスティアに、ベルが興奮気味に頷いた。

 

 俺が()わえた髪が機嫌良さそうに揺らめいている。どうやら俺がいても泥棒猫に兎が攫われないか心配だったらしい。

 

 いつもの習慣で、ベルはヘスティアに今日あったことを話していた。

 

「それにしてもへファイストスのところの子とパーティを組むなんて……ふふっ、これも君達がボクの【ファミリア】に入った何かの縁かな?」

 

 ヘスティアと神へファイストスは共にオリンポスの神で天界の頃から付き合いがある。

 下界に降りてからは色々あったり、【ファミリア】の主神ということもあって、以前のように気軽に接することはできにくくなったそうだが……。

 

「……あの、神様? ヴェルフさんの『クロッゾ』っていう家名について、何か聞き覚えはありますか?」

「『クロッゾの魔剣』か……。ボクもそれくらいの話なら小耳に挟んだことはあるけど……多分、ベル君の知っていることとあまり大差ないと思うなぁ。コウスケ君は何か知ってるかい?」

「ん? 知ってることはあるが、ベル、お前はそれを聞いてヴェルフへの対応を変えるのか?」

「そ、そんなことしませんよ!」

「じゃあ、知らなくていいだろ。ヴェルフもその家名は嫌ってたしな」

「そう、ですね……」 

「……まあ、ヴェルフ個人の評判なら、ヘスティアが知ってると思うよ。ヘファイストスファミリアでバイトしているみたいだしな」

「神様⁉」

 

 ベルにまだ精霊関係の話は早い。いや、外伝の方で精霊アリアについて聞かれるんだったか。

「どうだベル君!」と言わんばかりのヘスティアと苦笑を浮かべたベルをよそに、皿に盛りつけられた料理をつまむ。冷めてきている、ここが豊穣の女主人だったらミアさんに怒られてるな。

 

「ベル君、隠し事の一つや二つ、笑って受け入れてあげなきゃダメだぜ? 神にだってやましいことが一杯あるんだから。ぜひ懐が深い男になってくれよ」

 

 その言葉は暗に俺が隠していることも含まれているような気がした。

 

 

 翌朝、リリがダンジョン探索に付き合えなくなったり、ベルとヴェルフが装備の新調をすることになったりで、一人暇になった俺は……久しぶりに『戦いの野(フォールクヴァング)』を訪れた。

 

「──【スペルズ・マギナ】」

 

 万能の召喚魔法を発動し、詠唱を全癒魔法へと繋ぐ。

 攻撃を刀でそらし、そのまま斬り上げる。

 

「【──癒しの滴、光の涙、永久の聖域。薬奏(やくそう)をここに。三百と六十と五の調べ】」

 

 目指すのはリューの『並行詠唱』、『魔導』の発展アビリティで狂った感覚を取り戻すように魔力を練り、詠唱(うた)を紡ぐ。

 

「【癒しの(おと)万物(なんじ)を救う。そして至れ、破邪となれ。】」

「Lv.2になったからって、余裕見せてんじゃねぇえええ」

 

『戦闘』7、『詠唱』3程度の割合を維持できているかと言われると、割と怪しい。それだけ『戦いの野(フォールクヴァング)』の『洗礼』は過酷だ。

 

「【傷の埋葬、病の操斂(そうれん)。呪いは彼方に、光の枢機へ。】」

()めろ!」

 

 周囲から俺の詠唱を破棄させようとする6人の勇士(てき)の攻撃を、躱し、往なし、受ける。

 手数が足りずに、いくらか攻撃を受けてしまったが、この程度で俺の詠唱は止まらない。

 

「【聖想(かみ)の名をもって——私が癒す】──【ディア・フラーテル】」

 

 魔法円(マジックサークル)が広がり、俺を中心に5M(メドル)の距離にいる勇士達の傷が全て癒えていく。

 

「アレンさん見ました? 俺の『並行詠唱』」

「チッ、うるせぇ」

「ヘイズさーん、他に治療が必要な人はいますか? まとめてやっちゃいますよ」

「ありがとうございます。この人達もお願いしますね~」

 

 ヘイズの瞳に僅かに光が戻ったような気がした。

 

「墜ちたか?」

「無いな」

「あのヘイズだぞ?」

「だが少なくとも、何もしないオッタルよりは上だろう」

「「「それな!」」」

 

 

「……」

 

 俺とベルの【ステイタス】のアビリティ評価を聞いたエイナは、その小振りな唇を開きかけ、噤む。

 Lv.2になってまだ十日間。にもかかわらず、最高アビリティ評価がEとF。Iから3・4段階の上昇。このような反応も無理はないだろう。

 

「パーティも三人一組(スリーマンセル)、サポーターのリリを含めれば四人一組(フォーマンセル)を組めます。これなら、中層に行けますか?」

 

 ベルのその言葉に、エイナはゆっくりと瞼を閉じ「……ちょっと待ってて」と言って、一度ボックスを出た後、『サラマンダーウール』のクーポン券を手に戻ってきた。

 

「はい、これ」

「これは……」

「『サラマンダー・ウール』のクーポン券。これを持ってバベルに行けば、少しは割引されるから」

 

 状況がつかめていない顔のベルに、エイナが説明する。

 

「中層へ進むのは許可するよ。ただし、条件付き。パーティ分の『サラマンダー・ウール』を用意すること」

「さ、サラマンダー・ウール?」

「精霊の護符だよ。中層には放火魔(パスカビル)の異名を持つモンスターが火炎放射をしてくるから、その対策だな」

「そういうことだから。いい、これを装備しなかったら、ぜっっったいに行っちゃダメだからね! わかった⁉」

「「は、はいっ⁉」」

 

 指を一本立ち上げ、机から身を乗り出してくるエイナの迫力に、俺たちは慌てて返事をした。

 細い柳眉(りゅうび)を吊り上げていたエイナは、ふぅと脱力し、椅子に腰を戻した。

 

「二人共、無理は禁物だからね。危なくなったらすぐに引き返すこと。約束だよ?」

「「……はいっ」」

「頑張ってね」

 

 

「では、最後の打ち合わせをします」

 

 場所はダンジョン12階層における目的地、つまり13階層に繋がる階層間のルーム。その場にいたモンスターを蹂躙したコウスケ達は、床に膝をついて小さな円を作っていた。

 

「中層からは定石通り、隊列を組みます。まず、前衛はヴェルフ様」

「俺でいいのか?」

「むしろここ以外、ヴェルフ様の務まる場所がありません。いえ、リリが偉そうに言えたことではないのですが……すいません、続けます」

「ベル様は中衛を。ヴェルフ様の支援です。攻守を両方こなしてもらうことになります。負担は一番大きくなってしまいますが……よろしいですか?」

「うん、大丈夫」

「じゃあ、俺とリリは消去法で後衛だな。……それとも、俺も中衛の方がいいか? リリ」

 

 リリは僅かに思考を巡らせ「いえ、コウスケ様は後衛をお願いします」と、コウスケのポジションを指定した。

 

「了解」

「正直言って、コウスケ様がこのパーティの心臓です。コウスケ様が倒れるようなことがあれば、立て直しは利かないと思ってください」

「こりゃ責任重大だな……よし、行くか。準備はできてるか?」

「ええ、リリはバッチリです」

「俺も問題ない。行こうぜ」

「うんっ」

 

 立ち上がり四人並んだコウスケ達は、穴の開いた岩壁に近付いていく。

 

「コウスケさん」

「ん?」

「リリ、ヴェルフ」

「何でしょうかベル様」

「どうした、ベル」

「なんだかワクワクしてこない? みんなで力を合わせて、冒険をしようって」

 

 中層を前にベルは、頬を赤らめ、興奮したように小さく一笑した。

 

「分かる」

「……くっ、ははははははっ! そうだよな、こういうの、ワクワクするよな! ワクワクしなきゃ、男じゃないもんな!」

「リリは少し賛同しかねますが……でも、ベル様のお気持ちはわかります」

 

(何気に、ベルと一緒に未知を冒険するのって初めてじゃないか?)

 

 この世界に迷い込んで、約二ヶ月、『最後の英雄(ラストヒーロー)』の誕生を見届ける。そして、それまでの道程を共に駆け抜ける。

 

 そんな誓いの第一歩を、中層への一歩と共に、タチバナ・コウスケは踏み出した。




原作と内容が被る部分はできるだけ省いています。原作も読んでね。

タチバナ・コウスケ
Lv.2
力:G289 耐久:E404 器用:G293 敏捷:G217 魔力:F300
魔導:I

ベル・クラネル
Lv.2
力:G267 耐久:H144 器用:G288 敏捷:F375 魔力:H189
幸運:I

コウスケさんがロキに手紙を出した事でロキはフレイヤがベルをロックオンしている事に気づくのが遅くなります。
もしかしたらそのまま派閥大戦まで気づかないかも。
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