ピンク髪とどうも縁があるらしい   作:詞(みょん)

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ピンク髪はいつだって生意気

 この世界に居ると、吐き気を催す瞬間というのはいくらでもある。

 特に今、目の前の光景なんてそうだ。

 

「これ、すっごく美味しいよ!」

「ちょ、ちょっとシグリカ! そんな押し付けないで!」

「…………」

 

 いつものように昼休みを過ごしていた時だった。

 また今日も誰かが近付いてくる気配を感じたので、エイメスかダーニャかと思ったのだが……実際はシグリカとニヴォラ、そしてダーニャだった。

 購買部で買ったらしい怪しい菓子をニヴォラに押し付けるシグリカと、そんなシグリカに困り顔を向けているニヴォラ……そしてそんな二人よりも俺の方に距離が近いダーニャという構図だ。

 

「…………」

 

 普通ならば小柄な少女たちの微笑ましい光景に見えるだろう。

 しかし、全ての事情を知っている俺からすればこれはあまりにも悍ましい……とは言いすぎかもしれないが、残星組織の長であるニヴォラの仕草は吐き気を催す邪悪さを感じてしまう。

 こういう時、ふと思うのはニヴォラは全てを見透かすような言動は多かったが、心を読めると言った反則技を持っていないことには安心する。

 まあ俺の共鳴能力でもある遮断のおかげで読心も防いではくれるだろうが……それでも油断ならない相手であることに変わりはないため、とっとと漂泊者がやってきて全部解決してくれることを祈るばかりだ。

 

「シオン君、迷惑じゃなかった?」

「何が?」

「ほら、いきなりやってきて騒いじゃってるから……」

 

 申し訳なさそうにシグリカがそう言った。

 どうやら騒いでいることの自覚はあるらしいな……シグリカと似たような表情を浮かべるニヴォラ、興味無さげに見えてチラチラと視線を向けてくるダーニャ。

 俺が何に迷惑しているかなんて話せるわけもないが、取り敢えず言えることはあった。

 

「別に迷惑じゃない。シグリカが買ってきた得体のしれない物を食わせようとしてこない限りはな」

「そっか! じゃあ安心して! ニヴォラちゃんとダーニャちゃんにあげるから!」

「ちょ、ちょっとそれはどうなのシグリカ!?」

「……絶対に止めてくださいねぇ?」

 

 和やかだ……とても和やかな光景だ。

 何も知らなければ美少女三人と一緒に過ごせるという事実に小躍りしそうだけど、事情を知っているだけに心から喜べる状況じゃない。

 そもそも組織長が持つ能力の全貌はまだ見えていない。

 どれだけの戦闘能力を持っているのかも分からないし、どこまでの本筋に対する影響力があるのかも全く分からない……やっぱり転生者が居てどうこうなる世界線じゃないだろソラリス!

 

「……? 電話だ」

 

 シグリカがデバイスを耳に当てて話し始めた。

 

「うん……うん……分かった。じゃあ今からすぐ行くよ、待ってて――ごめんみんな、私ちょっとお手伝いに行ってくるね!」

「またお手伝いなの?」

「うん! 放っておけないから! それじゃあね!」

 

 大きく手を振り、シグリカは走り去っていった。

 みんなの力になりたくて奔走し、失望されることを恐れるというのはストーリーで語られていたけど、もうこの時期からシグリカはこうなんだな……これもとっとと漂泊者がやってきて解決してもらいたい案件だ。

 

「しーちゃん……行っちゃいましたねぇ」

「そうだな……」

 

 残されたのは俺とダーニャ、そしてニヴォラだ。

 心なしかダーニャが更にニヴォラから距離を取ってこっちに近付いてきたように思えたが、俺としてはそれとなくニヴォラの動きを警戒するのに忙しくて気にする余裕は余りない。

 しかしながらこの場には人目が多いため、滅多な行動を起こしはしないという安心感はあった。

 

「ねえシオン君」

 

 ニヴォラが話しかけてきた。

 

「うん?」

「シオン君ってダーニャと仲良いよね? よく一緒に居るのを見かけるよ」

 

 ビクッと、ダーニャの体が小さく震えたのを感じた。

 俺はそれに気付かないフリをしつつ頷いた。

 

「仲が良いのかはともかくよく話はするようになったぞ。俺がダーニャの腹を見て大声を上げて、それで変人じゃないかって興味を持たれたっていう悲しい経緯があるけど」

「えっと……どういうことなの?」

「だから俺がダーニャの腹を見て大声を上げたんだよ。何度も言わせないでくれ悲しくなるから」

「……どうしてダーニャのお腹を見て大声を出すことになるの?」

「ビックリしたんだよ。ダーニャのお腹に」

「??」

 

 ニヴォラは心底理解出来ないと言わんばかりに首を傾げた。

 こうしているとあの組織長をおちょくっている気分になるが、下手なことを言って消されたりするのはごめん被る。

 ……ただ、組織長の力に俺の共鳴能力がどこまで対抗できるのかは少し気になってしまうけれど。

 

「…………」

 

 ちなみにさっきからダーニャは黙りこくったままだ。

 ストーリーを見ればニヴォラに対してダーニャが恐怖を抱いていることは分かっているし、そもそもアレフ1との共鳴さえ望んでいなかったことも……俺に出来ることなんてないに等しいが、それでもダーニャという存在が少しでも幸福の未来を歩めるのだとしたら俺はそれを心から望んでいる。

 

「こほんっ、ダーニャのことは取り敢えず分かったよ」

「そうか」

「じゃあ、少し話を変えてもいい?」

「あぁ」

「シオン君は……鳴式アレフ1のことをどう思ってる?」

「……唐突すぎないか?」

 

 なんでダーニャの腹からアレフ1の話題に方向転換するんだよ。

 しかし……どう答えたものかと頭を悩ませた。

 ラハイロイに生きる者にとってアレフ1は長年の脅威であり、そもそも異変を起こしている黒幕に近しい存在でもあるわけで……そして何より、ダーニャが共鳴した鳴式でもある。

 

「全てを呑み込む虚無……ぶっちゃけ規模が大きすぎて大雑把に怖いなとしか思えないけど」

「……なんか普通すぎる回答だね」

「君は俺にどんな答えを求めてるんだよ」

 

 ええい、頬を膨らませるな組織長の分際で!

 ニヴォラはしばらくそんな表情を浮かべたが、次に彼女はこう言葉を続けた。

 

「ニヴォラ、少し思うことがあるんだよね。歳主には共鳴者が居るって有名な話でしょ? なら鳴式にも共鳴者って居るのかなぁ?」

「っ……」

 

 またダーニャが体を僅かに震わせた。

 一応リナシータのカルテジアが歳主と鳴式両方の共鳴者っていう設定だったけど、あれはあくまで特別な繋がり方をしていたに過ぎない。

 そもそも歳主の共鳴者は一般的に知られているが、鳴式の共鳴者というのは全く情報として存在しないはずだ。

 原作知識をひけらかす馬鹿だったら居るんじゃないかって答えるだろうけど、流石に俺はそれに対して頷くわけにもいかず、う~んと考える素振りをして分かんねえと告げた。

 ニヴォラはそれもそっかと笑い、こう続けた。

 

「じゃあシオン君は、もしも鳴式の共鳴者と出会ったら倒す? 存在してはいけない存在だからって」

「さあ、分かんねえ」

 

 ニヴォラが何を言いたいのか分からないが、俺の答えは変わらない。

 ……ただ、もう少しだけ言いたいことがあった。

 

「もしも鳴式の共鳴者が居たとして、そいつが悪い奴じゃないなら倒す必要はないんじゃないか? 周りにどういう影響を及ぼすかどうかは一旦置いておくとして、そいつが話が出来て良い奴なら別に倒す必要はないとは思うけどな」

「ふ~ん? でもそれって鳴式に大切な存在を奪われた人たちにとっては酷い考えじゃないかな?」

「かもしれないなぁ……でも俺はそう思うよ。鳴式が悪いのであってその共鳴者も悪いとは限らない……自分で望んだ場合はアレだけど、望まざる状況でそうなったのなら話し合いの余地は十分にあるはずだ」

「……優しい考えだね?」

「優しいとかじゃなく、平和的な考えだと言ってくれ」

 

 そこまで話してニヴォラは興味を失ったらしく、立ち上がった。

 

「それじゃあニヴォラは次の授業の準備に行くね。ダーニャはどうするの?」

「……私はもう少しここに居ますよ。まだ全部食べれてないですしねぇ」

「分かった。それじゃあまたね」

 

 スキップをしながらニヴォラは姿を消し……って足を段差に引っ掛けてやがる。

 あざとい仕草に見えてワザとではなさそうだし、ニヴォラの体は疲れると言っていたから単純に小柄な体に慣れてないだけなのかもしれない。

 さてと……どうするか。

 すぐ隣のダーニャは相変わらず動かないし、黙ったままだから少し気まずい。

 そう思った直後に、ダーニャが口を開いた。

 

「さっきの話、随分お人好しだなと思いましたよ?」

「そうか……ま、俺もそう思う」

「自覚はあったんですねぇ……でも実際どうなんですかぁ? 鳴式の共鳴者が居たとして、それが大いなる災いを呼び起こしてしまったとしても……助けてと言ったらシオン君はどうするんです?」

「時と場合による……でも」

「でも?」

「そいつがどうしても助けたい存在だったとしたら、俺は絶対に手を差し伸べると思う……自分に何が出来るか分からないけど、そうしたいとは思うよ」

「…………」

「願いだけなら口にするだけタダだしな……だからこれも言える」

「え?」

 

 俺はダーニャを見据えた。

 

「こうして仲良くなったからこそ、もしもダーニャが助けてって言ったら俺はやれることをやるさ」

「…………」

 

 ダーニャは目を丸くしたが、すぐにふんと鼻を鳴らした。

 

「勝手に仲良くなったって言わないでもらえますかぁ? 自意識過剰ですよぉ?」

「……ほんと生意気だよな君って」

 

 俺はやれやれと首を振り、バイク乗り場に向かうため歩き出した。

 するとダーニャもすぐ隣に並び、歩幅を合わせて歩き始めた。

 

「シオン君はこれからどちらへ?」

「今日はもう授業ないからバイクでドライブにでも行こうかと」

「ふ~ん……じゃあ私も一緒にいいですかぁ? ニヴォラちゃんにはああ言いましたけど、私も今日はもう授業がないんです」

「サボりじゃないんだよな?」

「シオン君じゃありませんからねぇ、変なこと言わないでくださいね?」

「……ほんとに生意気だ」

「ふふっ♪ ですので私も気楽にドライブにお付き合いします――後ろに乗せてくれますかぁ?」

「もう付いてくる気満々じゃねえか……あいよ」

 

 後ろに乗るとなると乱暴な運転は控えないとか……まあでも、一人でドライブするよりは寂しくないか。

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