ピンク髪とどうも縁があるらしい   作:詞(みょん)

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ダーニャの真実

「なんだよここ……お化け屋敷かよ」

 

 ダーニャを追って辿り着いたこの場所は、本当にお化け屋敷のように不気味な場所だ。

 まあ言ってしまえばお化け屋敷よりも遥かに異質さを感じさせる研究所ではあるのだが、あまり長居をすると頭がおかしくなりそうな気がしてくる。

 

「ここは……見たことがないな」

 

 少なくとも、エイメスを救い出すまでの過程では見たことがない。

 そもそもこんなエリアがあったことさえ知らなかったが……これは俺の探索不足というよりは、おそらく後になって追加されたエリアなんじゃないか?

 

「……は?」

 

 止まったエスカレーターを昇った先に、ニヴォラが居た。

 どうしてここに……そう思ってビビってしまったが、どうやら人形みたいだな……細部まで精巧に作られていて人と見間違いそうになるけど、関節部分が間違いなく人形だ。

 

「こんな人形が何体も……ったく、趣味悪すぎだろ」

 

 部屋の至る所に……或いは通路の色々な所にニヴォラの人形が存在していた。

 こいつら動き出したりしないよな……? なんてことを思いながら足を進めたその時だった。

 

「ふむ……まさかこんな所まで来るとはな?」

「っ!?」

 

 その声は、今までに聞いたことがない声だった。

 ……いや、俺はこの声を知っている――普段の明るい声とは全く別物……正体を現したニヴォラの声だ。

 まさかと思って振り向いた先には、腕を組んで妖しく笑うニヴォラ――組織長が立っていた。

 

「シオン君、こんな所で何をしているの?」

「……今更取り繕わなくてもいいんだぜ?」

 

 ニヤリと笑った組織長の体が僅かに赤く光った。

 その刹那の間にいくつもの人の顔が見えた気がしたが、これこそが奴の持つ能力……“千の顔”の本質ってやつなんだろう。

 

「休学届を出したはずじゃ?」

「出発は明日なのだ。故にまだ、私がここに残っていても不思議ではあるまい?」

 

 それは……確かに盲点だったな。

 

「それで、お前は何故ここに来た?」

「…………」

「まあ分かっているがな。大方、ダーニャのことが心配になったのだろう?」

「……あぁ」

「ふふっ、お優しいことだ」

 

 組織長はぴょんぴょんとスキップをするかのように、軽やかな動きで隣に並んだ。

 どうやら今すぐ俺のことをどうこうするつもりはないようだけど、背中を流れる嫌な汗が全く止まらない。

 

「ダーニャと仲良くしているお前のことだ。ただ友達が苦しそうにしていたから……そしてこんな不思議な場所に来たから付いてきたという理由がもっともだろう。だがそれだけではない……お前はイレギュラーな存在だ――何を知っているのか非常に気になっているぞ私は」

「イレギュラーだと……?」

「あぁ、イレギュラーだ。何故なら私はお前を解析できないからな」

「……?」

「おっと口が滑ってしまったか……だがこれは褒美だ。全く警戒していなかった所に現れた得体の知れない変数、奴以上に今だけはお前の存在の方が興味深い」

 

 こいつは何を言ってるんだ……?

 奴というのは間違いなく漂泊者のことだろうけど、出来れば俺のことなんか興味を持ってくれない方が助かるんだがな。

 

「お前はダーニャのことを知っているな?」

「友達だからな」

「そういう単純なものではない。ダーニャがどういう存在なのか、どういう境遇なのか……そして私とどういう関係なのかを」

「…………」

「……ふっ、素晴らしい胆力だな。表情に出ない……黙っているだけかと思ったが、相変わらず解析も許さないとは恐れ入るよ」

 

 さっきから組織長が口にしている解析ってのは全然分からないけど、おそらく俺の遮断が効いている証だ。

 組織長が俺に向かって人差し指を向けた――その瞬間、まるで銃弾でも放つかのように閃光が走ったが、俺に届く前にパシンと音を立てて消えた。

 

「解析も許さず攻撃もお前には届かないか……そうなると精神に対する干渉も効かないか……ますますお前のことが気になってしまうな?」

「美少女にそう言われるのは嬉しいはずなんだけど、さっきから怖くて仕方ねえなぁ」

「おや? 私やダーニャのような小柄な女が好みなのか?」

「そういうのじゃねえよ」

 

 それにお前、その体が本物じゃねえんだろ?

 もちろんそれを口にすることはしないが……組織長はこちらを手招きした。

 

「付いてこい。ダーニャの元に辿り着くまでの間、色々と話を聞かせてやろう」

「…………」

「ふふっ、そう警戒するなよ。これは褒美だと言ったろう? まあ私の話を聞けば、お前はここであったことを他者に話すようなことはしないはずだ」

「どうしてそう言える?」

「黙っていることがラハイロイのためだと……世界のためだとお前は知るだろう」

 

 こうして俺は、組織長に連れられて奥へと歩いていく。

 全く歓迎できる事態ではないのだが、俺は随分と組織長に気に入られているらしい……本人から直接そう言われたけど、やっぱり全然嬉しくない。

 

「ダーニャは私たちが作り上げた傑作だ。普通の人間ではなく、虚無を追い求める哀れな少女なのだ」

 

 組織長は、楽しそうにダーニャのことを語った。

 喋り方と内容は決して気分良く聞けるものではないが、大方ゲームをしていた時に語られた内容と全く同じで俺の理解も早かった。

 だが、ここからは俺の知らない内容だった。

 

「さっきも言ったがダーニャは普通の人間ではない。定期的にヴォイドマター培養槽に入って周波数を整える必要があるのだ。そうしなければあの子の体は耐えられない」

「…………」

「しかし、それも無駄になろうとしている」

「どういうことだ?」

「ダーニャはアレフ1と共鳴している故、本質は虚無でなくてはならない。あの子はこの学園に来たことで心と温もりを理解してしまい、虚無から離れてしまった。それがダーニャの体の中の周波数を乱し、徐々に減衰させていく原因になってしまった」

 

 周波数が減衰していく……それはつまり。

 

「分かるだろう? 周波数が減衰するということは、最終的に死ぬということだ」

「…………」

「周波数の減衰と、自分に限界が訪れることをあの子は理解している。そのことを受け入れはしているが、心は悲しみによって悲鳴を上げ……それもまた虚無から離れる要因となっている」

 

 俺は強く握り拳を作った。

 ダーニャの境遇を全て知ったつもりではいたけど、まさかこれほどとは思わなかった……彼女の現状に対する憤りもそうだが、楽しそうに話す組織長の姿に俺はイラついていた。

 組織長の話はまだ続く。

 

「まあ、周波数の減衰に関しては適切な治療をすれば問題はない……あの子がアレフ1から解放されればの話ではあるがな」

「解放……」

「……ふふっ」

「なんで笑ってんだ?」

「あぁいや、ついでにもう一つ教えておこうと思ってな――ダーニャはアレフ1を繋ぎ止めるアンカー……繋がりがある限り、必ずダーニャはアレフ1を求めるのだ。そうして繋がった先にあるのは虚無の爆発……ダーニャを起点とした崩壊の始まりだ」

「つまりこういうことか? ダーニャの周波数の問題を解決しても、いずれアレフ1と繋がることで全てを終わらせてしまう……そうならないようにするにはダーニャが死ぬしかないと?」

「理解が早くて助かるよ。そしてダーニャは優しい子だからそうなる未来を許しはしない……大切な存在を守るために、あの子は自ら命を絶つだろう。仮にそうならなかったとしても、誰かがダーニャを殺さなければならない」

 

 組織長の言っていることが出鱈目の可能性も当然あったが、嘘とは到底思えなかった。

 気付けば部屋とも言えない一室に辿り着いており、そこにはダーニャの私物と思わしき物がいくつも置かれていた。

 

「……あ」

 

 机に置かれていたのはダーニャのアルバムだ。

 まだ買ったばかりなのか新しめのアルバムだけど、シグリカや他の生徒との写真……そして俺との写真も何枚か飾られていた。

 その一枚一枚がどういう時の物だったか全部俺も覚えている。

 

「ダーニャが心を知ったことで調子が悪くなったと伝えたな? それは同時にアレフ1に続くヴォイドスペースの縮小という影響を及ぼすのだ。ダーニャの心の獲得にもっとも響いているのはシグリカや友人たち、そして何よりシオン……お前の存在があまりにも大きすぎる」

「っ……」

「このラハイロイは、脆すぎる台の上でかろうじて耐えている状態だ。だがラハイロイはおろか、ソラリスは決して滅んではいない……さてさて、一体何があってこの状態が維持されているのだろうな?」

 

 組織長はひょこっと俺の顔を覗き込んだ。

 

「シグリカたち以上に、俺の存在がダーニャを苦しめていると?」

「私が知らない何かがあるのだろう。シグリカたち以上に、あの子はお前に安心を感じるようだ」

 

 なんというか……随分と大変な立ち位置に立たされているようだ。

 組織長の言い方だとこのダーニャの状態が続いてしまうと、エイメスが過去に飛ぶことに影響が出る可能性もある……それがエイメスにとって長い苦痛だと分かっていても、そうしてもらわなければ全てが終わる。

 ……記憶を持っていることがこうも歯痒くて、自分が嫌になるとは思わなかった。

 

「さあ、この奥にダーニャは居るぞ」

 

 俺たちは一つの扉の前に立った。

 ダーニャの寝室だから入らないでという紙が貼られており、どうやら組織長はこの奥に俺を連れて行くことを躊躇わないらしい。

 

「……ふぅ」

 

 俺は元々、深く関わるつもりはなかった。

 その気持ちは今も変わってないけど、こうしてステージに上がってしまった以上はそんな生温いことも言ってられない。

 俺はどうしたいか……俺は助けたいと思った。

 結局の所、鳴潮プレイヤーってのはキャラクターのことが大好きで、キャラ発表から実装まで待ち遠しい瞬間を過ごし、実装されたらガチャを回して手に入れて……そしてストーリーでそのキャラをもっと好きになる。

 楽しい話ばかりじゃない……辛い話も受け入れていかなければならない。

 でもここはもうゲームの世界ではなく、俺にとっての現実だ。

 

「俺はアンタの話を聞いてもダーニャが恐ろしい存在とは思わない」

「ほう?」

「俺にとってのダーニャはクソ生意気な所が多いけど、同時に一緒に居て楽しい友達だ。虚無という性質に染まることなく、心を持つことでそれを塗り替えたのなら……ダーニャは立派な人間だ」

「…………」

 

 口を閉じた組織長に対し、俺はこう言った。

 

「組織長、俺とゲームをしよう」

「ゲームだと?」

 

 組織長が顕著な反応を示した。

 そうだよな……アンタは遊びが大好きで、退屈なことは嫌いなんだろう?

 だからきっと俺の提案にアンタは頷くはずだ。

 

「全てが終わった時、もしも俺がダーニャの死ぬ運命を覆せたなら彼女を自由にさせてくれ」

「……ふむ、不可能だと笑う場面か?」

「好きにすればいい、それで……どうする?」

 

 組織長は数秒考えた後に頷いた。

 

「決まった運命を覆すというのか……それはとても面白いゲームになりそうだ。いいだろう――もしもダーニャの定められた運命を超克することが出来たならば、我らはダーニャに一切手出しをせん。私の名を持ってそれは約束しよう」

「決まりだ」

「あぁ……ふふっ、楽しみが増えて私は嬉しいよ。しかし、その定められた運命の手前まではダーニャにはしっかり働いてもらう。そのことに文句はないな? まあ、文句を言えるわけもないのだが」

「……分かってる」

 

 さて、これで組織長との話は一旦終わりだ。

 これからダーニャと会う……どういう顔をして会えばいいのか、少し迷うな。

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