森界の賢士~前世の地元作物的な植物系魔法だと転生先で割と苦労する~ 作:oosima
○21世紀当初 日本国 鹿児島県離島 某宿泊施設○
「…ふうぅ、この仕事場は意外と体を使うけど、何とかなれてきたなぁ…」
地球と言われるファンタジー的な要素はせいぜい創作物くらいにしかない星の日本という弧状列島の国土を持った南北に長い島国の、鹿児島県というところに属するその亜熱帯の島にてその青年はある宿泊施設で働いていた。
青年はこの島の兼業農家の家庭で生まれて大学の4年間は本土にある学校に通った後、地元での職場を探してこの生まれ故郷である島に帰った後、求人を出していたこの宿泊施設に就職したのである。
そして、青年はその宿泊施設のスタッフの一人として、書類仕事の他にも色々な肉体作業、特に農家の生まれなのを生かして施設の目玉の一つとなっている、“緑のカーテン”を構成するゴーヤやパッションフルーツにキュウリなど、植物の管理もするようになっていた。
宿泊施設が扱うレストランは、グリーンカーテンで取れる作物も食材の一つとして扱うので、地味だが割と軽くない仕事であったのだ。
「…やっぱり、日差しがきつい夏や冬場は海風が肌を切るように冷たい時期での外の仕事。特に作物の取り扱いはきついなぁ…あ、急な天気雨が…この時期になると晴れと雨の変化が急なんだよなぁ。トンネルを境に天気が変わるなんてのもザラだし…」
そのグリーンカーテンの世話を青年がしていると、急に天気が崩れて勢いのある雨が降ってきたので彼はグリーンカーテンの下へ一時避難することにした。
「うわぁアア!? 車が止まらないよおおおお!!」
「…え!?」
だが、今回の雨は不運を招いてしまい、青年はそれで引き寄せられた大きな衝撃に身を吹き飛ばされてしまう。
「おい! あんた大丈夫か!?」
「うわぁ…ひでぇ…」
「救急車ーー!!」
(…あ、何か…体が熱い…視界が何かー…赤が目立ってー…けどー、凄い痛みがあるけど意識が遠のいて―…あ、あーーー…事故って…それで本当に死ぬ時ってーーー…)
それがこの世界における青年の最後の光景となった。
○新陽暦2562年5月1日昼
「…今のは、また…
次に青年が目を覚ましたのは、白い雲が点在する青い大空の下でのびのびと緑を広げるガジュマルの木陰で、目の前には白い砂浜と澄んだコバルトブルーが広がる南の島の一角であった。
立ち上がって大きく背伸びをした青年の今の姿は、見た目は白人系とアジア系の中間に位置する中性的に整った面貌をしており、肌はうっすらとした小麦色で背丈は150センチほどで小さいが細身だけど均整よく着いた筋骨が付いて見た感じは十代半ばの少年であった。
だが、少年に見える青年はその短いポニーテールにまとめた髪が薄い緑色で、耳の先が短くとがっているという、前世における人間とは異なる人種的な特徴があった。
また、衣服も裾が短い和風のボトムやシャツと簡素なもので、葉っぱなど植物を思わせるデザインのアクセサリーや刺繍が施されていた。
そして、彼がガジュマルの木陰がある小高い丘より見下ろしている海辺の村とそこに住まう人々は戦国時代や江戸辺りの村やその住民達を思わせる意匠をしつつも、何やら別の時代を感じさせるものも多数混じっていた。
(…まさか、新たな今の我が身が、この色々な国の中世を基本にしつつも色々な時代が混ざったようなファンタジー世界における武士の父と、その側室の一人である
「た、大変だーーー! 海賊が出たぞー!」
青年が今の我が身の経歴を思い出していると、彼が今いる海辺の村の見張り櫓より警報が発せられた。
「―――お……って、今は何処かに行った仲間達と共に…
青年はその報せで慌ただしくなる村の様子を見て、少し面倒くさそうにしつつも立ち上がった。
「よし! 老いぼれは殺して若い女や働ける男にガキは船に連れ込め!」
「生意気な男は何人か殺して見せしめにしろぉ!」
「偶像崇拝の異教徒共を懲らしめろぉ!」
「きゃー! 助けてー!」
「ギャアァ!?」
数分後、海辺の村の中心部に位置するその港は、中世ヨーロッパやカリブ辺りのものを思わせる意匠や人種の海賊達が、村人たちを襲っていっていた。
「はぁ! はぁ! 助けてぇ!」
「おい! あそこに上玉の娘がいるぜぇ!」
「へへ! 生娘なら高く売れる! そうじゃなかったら値は安くなるが売りが決まるまでの楽しみが増えるなぁ!」
その内の一人である、黒く艶のある長髪を首の後ろ側で纏めた十代半ばと思わしい麗しい十代後半の少女が眼を付けられ、海賊達との間で激しい追いかけっこが始まっていく。
「ああ!?」
「はは! こけやがったよ! やっぱり猿は間抜けだな!」
「さあ、足の間から確認しましょうねー…!?」
そして、倒れた少女を見て海賊たちが嘲笑を浮かべてその身に触れようとした時、その手に複雑な文字が書かれた紙飛行機が飛んできて、それは発火して海賊の手を焼いた。
「ぎゃあ!?」
「何だ!?」
「ちょっとー、久々に
「あ、あなたはー…
それに海賊たちが戸惑って少女が懐かしさと安堵が混じる顔で紙飛行機が取んできた方角を見やると、小高い丘のガジュマルの木陰より海賊の襲撃を発見したエルフの青年である
「!? あいつ…顔立ちは俺達に近いけど…あの耳…
「くそ! 種族のほとんどが先祖である“悪魔”の術を使う連中だ!」
「…その言い方に訛り、こっちが便宜上に付けたのが始まりだけど…あんた達、“魔王軍の残党”だな。まあ、(所々で前の世界…特に前世の日本の価値観が大昔の先輩たちの影響とかで人権関係の妙な分野で色濃く出ている)この世界のエウロパ含めた人達からすればー、中世の異端審問や大航海時代に帝国主義時代の気風丸出しな場合が多いし、
自分の姿を見て憎悪や恐怖を隠せない様子になる海賊たちを一通り睨むと、緑夏は懐からこの世界で生まれた和風文化が強いこの
「うわぁ! 来たぁ!」
「く、くそぉ! この悪魔共めぇ…!?」
それに海賊たちは罵りつつも怯えを隠せない様子で仰け反るが、その札は彼らに触れた所でポポンと白い煙に変わってしまった。
「「「「「……………」」」」」
「…あー、さっきのが割と上手くいけたから次もいけそうだと思ったけど…やっぱり、普通系の陰陽道は何年たっても上手くならないなぁ…」
「「「「「…アハハハハハハハハハハ!!!!」」」」」
周囲は初めそれにポカンとした表情であったが、若干気まずそうな顔で緑夏がぼやくと、海賊たちは自分達の言語丸出しの嘲笑の咆哮を立ち昇らせた。
「何だよ! 姿は悪魔でも中身は詐欺師か手品師だったか!」
「こうなりゃこいつも連れて行こうぜ!
自分達の有利を覚えた海賊達は緑夏もまた捕らえようとするが、その手や剣など凶器を向けようとしたところで彼らの身は
「な、何だこの蔓はぁ!?」
「お、お前ぇ何をぉ!?」
「やっぱ普通の魔術とかは上手くいかないので、普通に持ち味を生かします(僕って、普通の魔術は凄く不得意なんだけど…植物、特に前世の実家や宿泊施設で扱っていたものとかを魔術で操るのは、周りが“もう
再び混乱と恐怖を露にした海賊たちを見上げる緑夏の足元には大きく盛り上がった亀裂が生じており、そこから何本もの太く強靭な蔓が生えでていた。
緑夏の足元から生じているその蔓は、彼が前世においてよく世話をしていたゴーヤやパッションフルーツにキュウリと言った蔓性植物のもので、彼の魔術で生じて操られているそれらは蔓の特性を持ちつつも樹木のような巨大さや屈強さを持っていた。
『…ぅ…ううぅぅ…苦しい…』
『…た、助け…』
「代官所…もとい役所から警察が来るように連絡するからこれ以上迷惑かけないように身の自由と意識を奪うだけだから安心してい…!?」
そうした巨大な蔓に締め上げられて苦悶の声を上げながら意識が薄れていく海賊達に緑夏は
「うわぁ!?」
「な、何だぁ!?」
「地面が吹き飛んで次々と家が吹き飛ばされてるううぅ!?」
「お、おい! 海の方を見ろ!」
緑夏に海賊達が捕らえられたのを見て安堵が戻っていた村人たちは再び恐慌を起こして逃げ惑うが、その一人が海原にその原因があることに気付いた。
「…はーはっはっは!! いくら悪魔の術を使う連中がいてもこれだけ離れていれば何もできまい!!」
「…あれは!? (見た目は中世ヨーロッパの大型ガレオン船に装備もそれ相応…速度の方からしてこっちの技術をこっそり使っている連中がいるだろうけどー…あの距離だと、ゴーヤやパッションとかだと効く攻撃を伸ばすのも大変だし。他のにはあそこまで有効打を届けられるものがあるけど、
「あ、は、はい!」
その前世の歴史的な知識を刺激する大型海賊船がその見た目相応の時代のものを感じさせる幾つもの大砲の火を拭かせて村を破壊していくのを見て、緑夏は警戒して今の自分に出来る打開策を打とうと周囲を見渡すが、そこであるものを思い出すと周囲の人々を避難させながらそこへ向かう。
『ハハハ! 異教徒共めもう逃げるしかありませんな!』
『ああ! 我らが
数分後、海辺の町に艦砲射撃を浴びせている海賊船の者達は、先に上陸していた者たちなど忘れたような顔で更に攻撃を浴びせようとしていたが、そこであるものに気付いて急速に身が冷たくなっていく。
「…よーし、この力強さに樹齢と地脈…あそこにホールインワンするには十分すぎるな…」
その顔を青ざめさせていく海賊達の視線の先には、小高い丘に登った緑夏とその彼の手に触れられて、急な猛成長をして巨大な手のようになって、近くの大きな石碑を掴んでこちらに向けてきているガジュマルの姿があった。
「…よーし、いっけーーーーー!! アームストロンガジュマル砲ーーーー!!」
そして、緑夏が海賊船を勢いよく指さすとガジュマルの手は豪速で石碑をそれ目掛けてぶん投げた。
『…あ、あいつはまさか…“樹海の緑災”では…!?』
『『『『『ウワアアァアアアアァアアアァアアアアアァ!!??』』』』』
当然、ガレオン船型の海賊船は木造なので耐えられるわけがなく、水面と触れている辺りに石碑を投げ当てられるとあっけなく粉砕され、海賊船は一人がそれを成したものの正体に気付きつつも、破片と船員をまき散らしつつも穴から海水が流れ込んできて沈んでいった。
「…よし、成功したな…他に増援とかの気配はなさそうだしー…」
「ああ、よかったー…ありがとうございます…」
それを見て緑夏はようやく安堵の声を上げ、先ほど助けた少女が駆けつけてきて感謝してきた。
「…ただー、先ほど投げた石碑ってー、“先の大戦”でこの村の海岸に流れてついていた無縁仏さん達の慰霊碑も兼ねてましてー…それとーそのガジュマルも、この村のケンムンさんも住んでいますから元に戻してくださいねー…」
「…まー、あっちの海原で船から投げ出されている海賊達が腐臭を放つ前に引き上げて縛らなくちゃいけないからどの道は海に向かわないといけないしー…痛い!」
「ケムケムケム!」
その少女に小言で注意されると緑夏は苦笑し、この世界では人前に姿を見せられる半霊体的な生命の一種となっている妖怪の一種で、この島ではガジュマルに住んでいて河童によく似たケンムンの一人に怒られて蹴られつつ、ガジュマルの手を海に伸ばした。
○新陽暦2562年5月1日夜
『…昼間に我が
「…僕が捕まえったって言うのは報じられてないなー。多分ー…
海賊を返り討ちにして数時間後、その集落と幾つかの山を挟んだ位置にあるその港町で自分が借りているエウロパ風(前の世界で言う明治時代辺りの洋風と現代日本ビルディングの混ざったもの)の旅館である“
「…しかし、何百キロと離れた所と連絡したり、そこの報せもすぐ知れるようになったんだから…技術の進歩って本当に凄いなー…」
緑夏にそのニュースを見せているのは、見た目は掛け軸に似ているがその下側に魔術の力と術式を刻み込まれた水晶玉がついて、遠方の映像や音声を映し出すことのできるこの世界のテレビというべき“映遠機”という最新の道具であった。
「あら、これも緑夏さんの
「…まあ、僕と違って
「いや、緑夏さんも私達から見ればれっきとした天才ですよ」
「僕のは偶々持っていた一芸と前世の知識や技能が上手くかみ合って後は想像力と運で何とかなってきただけだよ。それをリーダーに面白がられて偶々そのパーティーには入れ…というか無理やり入れられた後で、周りがすごすぎてそのおこぼれでこっちの
その緑夏が借りている部屋の天井には、どういうわけか昼間に助けた少女がまるでそこにヤモリであるかの如く正座でさかさまに座っており、彼女はスッと彼の真横に降り立つとその身を触れ合わせてきた。
「…それでも、私みたいに救われたって人もあなたが考えている以上に大勢います。それで私みたいに貴方たちに追いつきたくて修行をしたって人もあなたが考えているよりも…」
そして、少女は緑夏の頬を手に取るとお互いの顔を近づけ合わせ、ある1点を重ね合わせる。
「…ぷは、海賊達に村を襲われていたあの場では別任務の都合で術はそこまで使えませんでしたけど、使える術でも十分に身が火照ってきましたので…あなたも今の身ではそこまでここには長居できませんから、今の内にお礼してもいいですか? 旅の恥は掻き捨てと言いますし…」
「…まあ、ここで断って拗ねられて向こうに何かチクられても困るし…僕も君みたいな可愛い子は好きだし…じゃあ、
数秒後、その触れ合わせ合っていた箇所を離して半透明状の糸の橋が互いの顔を繋ぎ合うと、言葉を少し交し合った後に緑夏と少女銘奈は再び顔を近づけ合った。
「…ふう、明日に何が起きるかのニュースでも流れてないかなー…?」
数時間後、銘奈が求めていたものに答えて眠りについた彼女を寝室に移して布団をかぶせると、緑夏は居間に戻って映遠機を付けた。
『…さて! 今晩の世界奇天烈大発見! 今回はここ
「…あーうん、色々と明日の予定以前に自分にも関わることばかりで…」
そうして映し出された番組で紹介された今の自分の地元でもあるこの島のコバルトブルーの海の下に広がるその海底遺跡とそれを背景に司会が述べていく内容に、緑夏は複雑な既視感を覚えてすぐさま映遠機のスイッチを切った。
なぜなら、番組で出ていた映像に映し出された海底遺跡は、何千年も経った後なのがわかるレベルで欠損が目立ってサンゴや海藻に覆われてはいたが、緑夏が嘗て暮らしていた故郷の町の今の姿であったためだ。
それが意味するところは、かつては緑夏が転生した先の異世界だと思っていたこの世界は、自分が多分死んで去っただろう後の地球から見て未来のそれだということである。
そして、この世界での緑夏は別の名だが、嘗てこの世界を
次回は、世界観のいくらかの紹介が混じる予定です。